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お昼休みは異世界で  作者: 未羅ねらと
始まりの召喚
12/89

命懸け

 折れた4つの翼、ひらりと儚く地に落ちる定めの哀れな羽。しかし、不思と折れたあともその場に浮かんでいた。その事にスフラは気が付き『聖剣』を引き抜ゆくと即座に距離を取った。


 あの翼は……。


 スフラは注意深く翼を刮目する。その直後、翼の1つ1つの羽がバラバラに宙に舞い鮮やかに輝き始めた。その神々しい光の強さを保ったまま目の前のスフラに襲いかかる。


 素早く空操石を取り出し『練術』を発動する。


 スフラが一瞬前までいた場所を羽の群れが過ぎ去った。


「体制を整えなさい」


 健一の所まで移動したスフラは指示を飛ばす。3人も指示をするまでもなく『練術』を構えている。


 肌に伝わる力圧力に4人とも息を飲み。その感覚は『白光砲』にも劣らない。それもあの羽1つ1つに。この人数でもあれを処理することは厳しい。戦闘経験が皆無な健一でもそう考えたのは人間の僅かに残った本能が警告していたからだ。今、この場にいたら死ぬと。


 一歩、イリリが前に出る。


「スフラ王女、世界を救うのは貴方以外にありません。ケンイチさんはそれを支えて下さい。ガルバはもしもの事態に備えて『青瞬』を発動する構えを。皆さんが撤退する間も狙われるかもしれません」


「おい! それってどういう意味だ!」


 健一の叫び声にイリリは反応することなく足を進める。


「おい! 聞いているのか!」


 イリリは足を緩めると口を開く。


「私がおとりを務めます。今、全員でこの天使を相手にするのは危険なので。心配しないで下さい。ケンイチさん、あなたならきっとまた召喚されます。この世界の救世主となる人ですから」


「イリリ!」


 健一の呼ぶ声にもう反応することなくイリリは天使に向かって走り出す。


「いいのかよ! 王女さま。このままじゃイリリが……」


 横を振り向くと自然と目に止まる。スフラは涙に溢れていた。


「いっ……今は、天使を倒す方法が見つかりません。私の『聖剣』ではあの数の羽を対処出来ませんから。天使の攻撃から避ける方法も。イリリが『無限刃』で庇う以外には」


「そんなこと、何かあるはずだろ。イリリが死ぬぞ!」


「…………」


「イリリは命懸けで戦うつもりだろ。いいのか、もし平和になった世界にあいつがいなくても」


 ずっと固まっていたスフラの顔がはっとする。涙で溢れた目を拭い元の凛々しい顔に戻る。


「イリリ戻りなさい!」


 だが、イリリは足を止めない。スフラの命令に反したのはこれが始めてだった。そして、光の羽は一つ残らずイリリに舞い放つ。


「イリリ!!!!」


 スフラの叫び声、それを遮る声がした。


「ったっく。世話をかけやがって」


 ガルバが片手で持っているのは透明な手のひらサイズの石。


「『避雷針』」


 光の羽は指標を変えた。イリリに襲い掛かる方向から大きくズレ、全てがガルバに襲った。


「ガルバ!」


 イリリは驚きながら振り向く。そこにはガルバが光の羽の攻撃をまともに喰ってボロボロになっていた。


「なっ……なにしているのですか!」


 イリリは足を急ぎ泣きながら話す。


「はっ……。お前……が雑魚だから…………だろ。お前……程度が、王女……様の……盾になれるかよ」


 ふらっと倒れたガルバ。イリリは思わず座り込み手を掴む。


「イリリ、立ちなさい」


 スフラが清廉な声を掛けた。だが、イリリは反応を見せず抜け殻のようだ。


「天使を倒しますよ」


 ガルバを撃ち倒した光の羽は天使の元に戻っていく。


「倒すって、どうするつもりですか?」


「無理だと思いますか。ただここで泣いていますか。私達はそんなことは許されない。ケンイチさんの思い出してもらいました」


「ケンイチさんが……」


「はい、私達は世界の平和にしなければなりません。まだ、何も前進していないのは私達が死ぬことは許されません」


「王女様……」


「わかったら立ち上がりなさい。まだ、仕事が残っています」


「はい」


 イリリは涙を拭き素早く立ち上がった。


 天使は光の羽が手元に戻ると今度こそ3人の息の根を止めるため再び羽を放とうとしたそのとき。


「『無限刃』」


 無数の刃が光の羽を撃ち落とすべく直進する。天使は光の羽で応戦する。刃が羽に直撃した。しかし、弾かれ勢いは失われ地面に落ちた。


「『スモークフィールド』『煙回砲』」


 煙の霧の中から煙の塊が高速回転しながら天使に近づく。光の羽で応戦するが余り数を出せない。『無限刃』を防御しなければならないことに加えて、煙の中に隠れたスフラ。姿が見えないため警戒をしなければならない。また、瞬時に懐に入られ刃を突きつけられるかもしれない。


 そんな警戒心、『厄気』でありながら高い知能をも擁する天使。


 そのことをスフラは読んでいた。


 白い煙と光の羽は衝突すると思われた。光の羽が当たる瞬間、煙の中から剣が飛び出した。


「無茶苦茶だよ。お姫様」


 『聖剣』は白い羽を撃ち落としたあとも煙の中に入り続け天使に飛んでいく。天使はそれに対処するべく光の羽を集め盾とする。


 『聖剣』を振れるのはあと2回、ここで決着を着ける。スフラは歯を食い縛り豆が今すぐ出来るぐらい力強く『聖剣』を握った。


「いっけぇぇぇぇ――!」


 降り下ろされる『聖剣』それは厚く光る羽の盾にぶつかる。『聖剣』、この世界で一番の剣、何にでも斬ることができる剣。門番である天使の最大の攻撃であり防御であろう光の羽。だが、そんなことも『聖剣』の名の前では意味を持たない。


 綺麗に2つに割れた盾。『聖剣』の勢い、スフラの勢いはまだ衰えず。天使に斬り掛かる。


 『聖剣』が銀の皮膚を捉えた。天使もこの状態では何もできない。あとは『聖剣』を振り下ろすのみだった。


「嘘っ……」


 カランと地に響く金属音。『聖剣』はスフラの手から離れた。


「もたなかった。あと少しだったのにもたなかった!」


 顔を下げ肩で息をするスフラ。


「ぎゃ!」


 光の羽がスフラの腹を貫く。


 天使は残りの光の羽を一箇所に集めると光の矢に形を変えた。その矢は目の前のスフラを狙う。確実に息の根を止めるために。


 私は、弱い。どうして、異世界から力を借りてまで『厄気』を滅ぼすと決めたのに、誓ったのに。


 どうして……


「王女様! どうやら俺も命を掛けて戦うみたいだ。王女様のために」


 後ろから健一の声、振り向くと。健一は宙に浮きながらこちらに突き進んでいる。健一は『フリースモーク』に背を任せバランスを取るために煙を背に密着させている。もちろん、それでは前に進めない。今はただ『フリースモーク』にもたれ掛かっている状況だ。エンジンとなっているのはまた別のもの。後ろからイリリの『ギガンテス』で押しているのだ。それは当然、少しのミスがあれば『ギガンテス』に背を貫かれる。


――数秒前――


「加勢に行くぞ!」


 『煙回砲』を放ってすぐ健一は行動に出た。


「加勢って、あの中に入る気ですか。『フリースモーク』は」


「それは分かっているよ。これが最後の戦いになる。だからこれを使う」


 健一はポケットからフェバルと左手だけの軍手を出した。


「確かにそれならでもどうやってあそこまで行きますか? 光の羽に刺されますよ!」


「でも、あんな美女が命賭けで戦っている。みんなもそうだ。俺だけ黙っているのはごめんだ。それにいい考えがある」


 無事、健一の作戦といえない作戦が成功した。


「どうして私の周りはとんでもないことばかりする人ばっかり」


 イリリは横たわっているガルバに目を移した。


「王女様を助けて下さい。ケンイチさん」


 天使の目の前に現れたもう一人の敵。もう一人と比べまだピンピンしている。当然、光の矢は健一に狙いを変更する。


「ダメです。ケンイチさん。早く逃げて!」


 必死に声を出すスフラ。しかし、健一は聞く耳を持たず目を輝かせる。


「そんな怪我をしているのはそっちだろ。もう十分戦っただろ。逃げたらいいだろ」


 喉を枯らすほどの大声で話す。


「私は……私は! この世界を統べる国の王女です。この世界を救う義務が私にはあります。ケンイチさんこそ、何も関係ないこの世界でここまで戦うことはないですよ!」


「何言っているの? お姫様、俺は救世主になってもう一度召喚されてウキウキの異世界ライフを送る!」


 頭を狙う光の矢、健一は左手を前に向けた。『練術』も発動していない左手、スフラは涙ぐみながら見るが、健一はどこ吹く顔だ。


「『ミラーハンド』」


 光の矢が左手を貫通する寸前、鏡のように軍手が変化した。光の矢は鏡の軍手に反射され。天使の標的を変える。


 一瞬の出来事だが健一とスフラには時が止まったと感じる。空気が変わった。天使の纏っていた威圧的で、神秘的なオーラが消えたからだ。光の矢は天使の額を貫いた。


 天使の周りに漂っていた残りの光の矢は消え、天使はゆっくりと後ろに倒れる。


 天使が倒れたことで『コア』が丸見えだ。ピッキっと強大な赤い球の中央にヒビが入った。


 白い光、今度はただ天に昇っているだけだ。天使の姿が完全に消滅した。それに呼吸するように『コア』のヒビも大きくなりやがて球体全域に及んだ。


「スフラこれって!」


 笑顔を浮かべながらスフラを見る。


一方、スフラの方は。


「や……っつ」


 巨大な炸裂音。『コア』が破壊された。


「やりました~。ケンイチさん」


 思わずスフラは健一に抱き着く。泣きじゃくるスフラだが、健一はニヤケが止まらない。


 うわぁ~、やべっ! 俺、美女に抱き締められている。異世界来てよかった~。


 やがて黒い霧は晴れていき全ての『厄気』が消滅。『王都厄気エリア』は異世界からきた一人の男によって消えて無くなった。




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