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プロローグ
石造の牢屋、隅に掛けられた2つの蝋燭は小部屋を照らし、埃が舞う。乏しい明かりに照らされるのは1人の男。手足を手錠、足枷で拘束され、体は石壁に貼り付けだ。更には喉元に刃を突き付けられる。だが、男の顔は怯むことなく鋭い眼光を放つ。
「やめろ! こんなことをしてあとでどうなるのかわかっているのか!」
男の怒号は虚しく部屋に響く。言葉を返そうともしない。男の目の前の人物は右手に何かを握り締め男の顔に近づく。その行動に男の顔はより険しくなるが、右手が頬に触ると。吊り上がった目を元に戻し優しい目に変わった。
「どうして……何故そこまでしてしまう。お前は……」
男の口は閉ざされた。閉じた目を開くと手に握りしめられたものを覗き見る。覚悟を決めたのだろうか。男は再び口を開く。
呟いたのは一言、耳を澄まさないと聞こえないぐらいの声だったが。目の前の人物はその一言を噛み締めた。