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プロローグ、あるいは鬼と犬の寓話

 むかしむかし、わるいことばかりをするわるい鬼がいました。

 わるい鬼は、ほかにもいっぱいいて、わるい鬼同士で争ったり仲良くなったりしながら、鬼はだんだんだんだん大きく、そして強くなっていったのです。

 ひとりのわるい鬼が特別に大きくて強くなると、争おうとする鬼よりも仲良くなろうとする鬼の方が多くなっていきました。

 だって、単独でいると他の鬼に襲われてしまうかもしれないから。

 彼らの住む世界は、鬼同士が喰らい合う地獄のような場所なのだから。

 だったら、大きくて強い鬼と友達になればいい。

 そんな風に弱い鬼たちは考えたのでした。


「ぼくはお金をもっているよ、だから仲良くしてね」


「私は、こういう商売が上手だよ。だから仲良くしてくださいね」


 こうして、わるい鬼のもとには、財宝が集まるようになったのです。

 そんな鬼たちも、誰か悪いことをしていないかと、国に命じられてくんくんと嗅ぎまわる仕事をしている犬が苦手でした。

 一匹の犬はとても弱いのですが、犬はいっぱいいて、執拗にあとをつけたり、ずっとずっと監視したり、ある時は一斉にとびかかって噛みついたりするからです。

 わるい鬼は考えました。


「そうだ、よわい鬼たちが俺にしてきたように、俺が犬と友達になってしまえばいい」


 わるい鬼は、集めた財宝の一部を犬の首領である偉い犬に差し出しました。

 偉い犬は、はあはあと赤い舌を出して喜びます。

 こうして、わるい鬼は犬と友達になりました。そして長い間悪さをしても犬に付け回されたりすることなく、いっぱい財宝を貯めていったのです。


 ある日の事、年を取ってきたわるい鬼の友達の一人が、


「ひょっとして『怖い』と思っていたわるい鬼は、老いぼれてしまって、本当は怖くないかもしれない」


 と、思いました。


「だったら、いっぱいある財宝の一部を私のものにしても大丈夫かもしれない」


 こんなことも考えてしまったのです。

 わるい鬼は友達がいっぱいいましたが、誰ひとりとして信用していなかったので、その弱い鬼が財宝を持ち逃げしたことにはすぐに気が付きました。

 財宝を盗んだ鬼は、わるい鬼の長年の友達でしたが、決して警戒を怠らなかったので、わるい鬼が財宝を盗まれていることに気付いていることを察知しました。

 だから、弱い鬼は財宝をもって逃げました。

 それはそれは素早く逃げたのでした。

 わるい鬼が舌を巻くほどの見事な逃げっぷりだったのです。

 弱い鬼を取り逃がしてしまったわるい鬼は激怒していましたが、内心は泣きたくなるほど怖かったのです。

 なぜなら、財宝を持って逃げた弱い鬼を捕まえないと、他にも同じ考えをもつ友達が出てきて、中には自分を殺そうとする鬼が出てくるかもしれないからです。

 だれも信用していないわるい鬼は、犬をけしかけます。

 犬は追跡がとっても上手です。

 そして、財宝を与え続けている限り裏切りません。

 ここで問題が起きたのは、犬たちは自分の所属する群れに対してのみ忠誠を誓う習性があり、わるい鬼と友達関係にある偉い犬は、いくつかある群れ首領の一人にすぎなかったことです。

 とある群れの首領は、常々わるい鬼と友達だった首領がうらやましくて、仲間に加わりたくてしかたありませんでした。

 また、別の群れの首領は、本来は敵である悪い鬼と友達であることはよくない事だと考えていました。

 互いに密偵を各々の群れの中に潜ませていたいくつかの犬の群れは、わるい鬼と長年友達でいた偉い犬が、財宝を持ち逃げした鬼を追跡していることに気が付きました。

 こうして、わるい鬼の友達だった犬は、これまでどおりのつながりを保つため、別の犬は、わるい鬼の友達の輪に加わるため、また他の犬は、犬全体がわるい鬼との交流を断つための切り札とするため、それぞれが思惑をもって、勝手に財宝を持ち逃げした弱い鬼を追跡し始めてしまったのです。

 驚いたのはわるい鬼です。

 わるい鬼は長年犬と関わってきたのに、犬の群れの成り立ちの複雑さを理解していなかったのです。

 財宝を持ち逃げした鬼を、自分で捕まえたほうが安全だと考えたわるい鬼は、とても高い報酬をとるかわりに必ず相手を突き止めるという評判の、群れに属していない野良犬を、仕方なしに雇います。

 かくして、財宝を持ち逃げした鬼をめぐって、多くの犬が追跡を開始したのです。

 財宝を盗んだ鬼は、もう逃げ切れないとあきらめて、財宝を隠しました。

 犬は互いに噛みつきあい、時に殺し合いにまでなりながら必死に捜索しましたが、財宝はなかなか見つかりません。

 やがて、年老いたわるい鬼は、自分が予想したとおり、友達の一人に殺され、財宝を持ち逃げした鬼は、疲れ果ててしまって、誰にも財宝の隠し場所を教えないまま、ひっそりと首を吊ってしまいました。

 目的がなくなってしまった犬は、何事もなかったかのように普段の生活に戻り、野良犬も残り半分の報酬を受け取り損ねて、がふがふと文句を言いながら闇の中に消えました。


 不意打ちでわるい鬼を殺した狡猾な鬼は、自分が殺したわるい鬼よりもっと強いことを示さないと、自分がしたように誰かに殺されてしまうのはないかと悩んでいました。

 狡猾なだけでちっとも強くない鬼なのですから。

 いっぱい考えた末に狡猾な鬼が出した結論は『粛清』でした。

 自分に取って代わろうと考えているかもしれない他の鬼を始末してしまえば安心です。そして、前の悪い鬼と友達だった犬を殺してしまえばもっと安心だと考えたのです。

 狡猾な鬼は、前のわるい鬼の友達だった偉い犬を殺します。

 そして、その犬が持っていた追跡にかかわった犬のリストを基にその末端の犬を次々と殺して回りました。それは、各々の犬の群れの首領に対する狡猾な鬼からの警告でした。

 鬼の仲間は、この狡猾な鬼はたいしたものだと感心し、次々に友達になろうとしました。

 こうして、新しい「わるい鬼」が生まれたのでした。


 一方、犬たちは、群れの一つがなくなれば、あぶれた犬を取り込むことで自分の群れが大きくなるので、新しいわるい鬼の粛清を見て見ぬふりをしました。

 犬は犬で、自分の権力の拡大にしか興味がないのです。

 そして、犬たちは新しいわるい鬼を警戒しました。

 今では、犬と鬼は昔のように、にらみ合いを続けています。

 でも、いつかは、友達になる日が来るかもしれません。

 鬼と友達になりたがっている犬は、今も昔も変わらず、いっぱいいっぱいいるのですから。


 めでたし、めでたし……


このお話だけでは、なんのこっちゃ? だと思いますので、第二話を13時頃に投稿致します。

「めでたし、めでたし」と書いてありますけど、終わりではありません。

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