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50話 混沌たる和解と宴会

祝五十話





 魔力義肢を数本分展開して、気絶したままの不甲斐ない弟子共を担ぎ上げる。

 “濡れ銀”の精神世界で使ったお陰か、多数展開がすごく楽になったのよ。

 数を増やすと、どうしても強度が犠牲になっちゃうんだけどねぇ。戦闘の衝撃に耐えられない脆い骨ばっかりでは、完成にはほど遠いね。


 しかしまったくこのバカ弟子ども、未だ目を覚まさないとはどういう神経をしてるんだか。

 俺って一応師匠よ? 師匠に抱っこしてもらってるとか恥ずかしくないのか?

 それでもエルカ族の畑に沈ませておく訳にはいかないからなぁ。

 慈愛の精神でもって集落に連れて帰ってやるとしよう。俺は師匠よりかは優しいからね。

 おぉ、面倒面倒。


「待てッ!」


 そういやインユゥちゃんの食事について村長に言ったっけ?

 あの子めちゃくちゃ食べるってこと。

 うーん、伝えた記憶がないなぁ。あの子与えたら与えた分だけ食べてしまうぞ。

 彼女の中の“濡れ銀”は全て滅ぼした筈なんだけど、恐らく体が妖怪化した影響というか、“濡れ銀”の下位互換である化け鯨とかいうのになってしまったからだろうね。


「おい待て!」


 む、考えたら不安になってきた。

 村長も人が良いからインユゥちゃんが求めたら求めただけ食事を与えかねん!

 このままではエルカ族の食料庫が空になってしまう! 急いで戻らねば!


「待てと言っているだろうが!」

「さっきから何だ? 勝敗は決しただろう」


 あえて無視しているのに、ウォマの部下の一人が血走った目で俺のことを睨んでくる。

 あれは恐怖を無理矢理誤魔化している目だな。カサンドラ師匠の目の中に映る俺がよくしていたよフフフ……。


 う、いかんいかん、暗黒の記憶に囚われる所だった。


「ウォマ様が負けるなんて有り得ねぇ! この人はネビ族の英雄だぞ! お前みたいな訳の分からんスケルトンなんぞに―――――」


 もう鬱陶しいな。

 ちょいと『王の威圧』で黙ってもらおうか。


 あ、でもちょっと使っただけでビビって硬直するのかい。

 じゃあ喧嘩を売るんじゃないというに。

 相手を見くびらないと自分を戒めている俺だけど、恐怖でガチガチになっている相手にゃ負けんよ。


「ネビ族というのは随分女々しい種族なのだな」

「な、んだと、この……」


 文句があるならかかってくればいい。

 魔力義肢を多数展開していて腕が使えないけども、足でなら相手できるぞ?


「そんな状態で、な、舐めやがって……、や、やってやる! ウォマ様は使わなかったけどな、俺は使ってやる! 霊薬を飲んで人間に――――」

「止めんか、このバカ者が」


 お、ウォマさんの目が覚めたか。

 テンパってた部下を殴って止めてくれた。


 良かった良かった。加減はちゃんと上手くいってたみたいだな。

 超振動と浸透勁の合わせ技なんてぶっつけ本番でやるもんじゃないよ、ホント。

 俺の技って訓練で使えないアホみたいな技しかないから仕方がないんだけどさ。

 多分師匠が見てたら嬉々として取り入れただろうな。

 そして俺の体が爆砕しただろうな。

 どうせ死なんし良かろう、とか言って……。


 ヒギィ! おげげげげ! 師匠、もう止めてぇ!


 い、いかんいかん、またトラウマの蓋が開きかけてやがる。

 そろそろパッキンを新しいのに交換しないと、トラウマが最近漏れぎみだな。


「カサンドラ殿、で良かったかな? 貴方の拳が俺に正気を取り戻させてくれた。礼を言わせてくれ」

「礼などいい。向かってきたから迎え撃った。格闘家としてはそれだけでいい」

「ふっ、潔い男だな」


 女です。骨格は。

 まぁややこしいから言わないけど。

 一応ボイスも師匠のものの筈なんだけど、やはりというか、安定のというか、師匠の声は女性にしては低い。合唱で男性パートしか歌えないレベル。


 だからもう男ということでいいかなと最近は思ってます。

 だってもはや女性要素どこにも無いんだもん。

 この体の何処にオンナニウムがあるというんだ。


「だがこの件は貴方が言うように単純ではないんだよ。俺たちネビ族を裏から操っている奴がいる、と言ったら信じてくれるかな?」

「信じよう」

「あぁ、そうだな、俺も最初から――――え?」

「え?」

「え?」


 ん? なんか俺おかしいこと言ったっけ?

 思い出してみよう。

 信じてくれと言われたから信じると言った。

 オーケー何もおかしいところはない。


「何故そう簡単に信じると言えるのだ? さっきまで戦っていた相手だぞ?」

「さっきまで戦っていたからだろう。拳を交えた。つまり、もう友だ」

「友、だと……」


 ふふ、殴り愛、そしてユウジョウ!

 これこそ格闘家のコミュニケーションだよね!

 なんの為にボディラングエージがあるの? この為さ!


「なんと単純か……、いや、だが、それが心地いいのも事実だな」


 おぅ、なんか良い笑顔するじゃないかウォマさん。

 さっきの操られているって本当だったんだな、戦ってた時のウォマさんはこんな清々しい笑顔してなかったからな。


 この人となら、またやり合いてぇな……。


「おいおい、俺は怪我人だぞ? そう分かりやすく戦意をぶつけてくれるなよ」

「すまん。ついな」

「“風拳”はまだ全てを見せてはいない。怪我を治したらまたやり合おう」

「くくくっ、そちらも馬鹿者か」

「そうだな、おまえも馬鹿者か」


 今日は良い日だ。

 俺と同じ最強に憧れたバカ野郎と知り合えたぞ。

 ヤディカちゃん、俺、友達ができました。





 ウォマを含めたネビ族と、まだ気絶している阿呆たちでエルカ族の集落に到着。

 したんだけど……。

 なんじゃこれ。


 辺り一面焼け野はらなってるんだけど……。


「すまない、伝えるのを忘れていた。ここには俺と同じ四将の“炎刃”ククロバが来ている。この燃え痕は、あいつが大技を放ったのだろう」

「そうか。だが戦ったにしては気配が多い」


 俺の『魔力自在』による感知には結構な人数が引っ掛かってますよ。

 村長ならまだしも、インユゥちゃんが戦ったとしたら相手の命が残っているのが不思議なんだけど……。


 もしかして、村長もインユゥちゃんも負けて、感知に引っ掛かっているのは敵だけ、とか?


 いや無い無い。

 村長はエルカ族の中ではヤディカちゃんの毒を除けば最強だし、インユゥちゃんは元濡れ銀製のボディですよ?

 強者が二人揃ってるんだから余程油断しなければ負けない、と思うんだけど。


 じゃあ勝ったのに反応が残っているとしたら?

 襲ってきたネビ族を無力化して捕虜にした?


 まさか、手加減したのか?

 化け鯨として生まれ変わってから初めての戦闘で?

 もしそうだとしたら、とんでもないセンスだな。


 気配の場所は、村長の家か。

 敵意は感じないし、大丈夫かな?

 取り合えず弟子どもは庭先にでも放り投げておこう。

 目が覚めたら適当に移動するべ。

 問題はそこではない。

 この気配なのだ。


「開けるぞ……」


 意を決してドアを開けると、そこには想像もしなかった光景が広がっていた。




「バカ野郎! アタシの肉を取るんじゃねぇよ意地汚ぇな!」

「意地汚いのはどっちであーるか! その骨付き肉は既に八本目であーる! 我輩はまだ三本しか食べてないのであーるぞ!」

「数えてんじゃねぇよ気持ち悪ぃ!」

「数えざるをえんのであーる! 我輩の分を確保する為であーる!」


「あ、村長さん、洗った皿は何処に運ぶんですかね?」

「そこの布巾で拭いて、そちらのネビの人に渡しとくれ、直ぐに盛り付けねばならん」

「芋煮、上がりました! 大皿お願いします!」


「おーい、調理班、交代だ、飯食ってこい」

「サンキュウ! これ揚げたら代わってくれ!」


「村長さんも休んでください、後は俺らで回しますんで」

「ほっほっほ、ネビ族の方に気を遣われるとはのぉ。長生きはするもんじゃ。だが、まだまだ儂の筋肉は温まってすらおらんぞ!」

「いやいや、蒸気吹き出してるし」




 改めて、なんじゃこれ……?


 ネビ族とエルカ族って仲悪いんじゃないの?

 なんで仲良く料理して飯食ってんだ?

 戦ったんじゃないのか?


 いや、あそこの鎧着たおっさん、殴られた痕があるから戦いはしたんだろうな。

 じゃあマジで村長とインユゥちゃんで敵対したネビ族全員無力化したのか……!


「く、ククロバ! 貴様何をやっているんだ!」

「おぉ! ウォマ殿ではないであーるか! 貴殿も元気そうで安心したであーる! 我輩はこの少女に負けたので食事に付き合っているのであーるよ」

「意味が分からん……」


 ウォマさん、そこで助けを求めるように俺を見ないでくれ、俺もちょっと付いていけてないから。


「いや話してみればエルカ族の村長殿も何ともできた御仁! ネビとエルカの確執を乗り越えれば亜人はより強くなれると、そう言ってくれたのであーる! おぉ! 我輩は感涙止めやらず、ふ、ふぐぅ、こうして共に戦うことを誓ったのであーるぅ! ぬふぅん!」


 あ、この人お酒入ってますわ。べろんべろんですわ。

 ネビ族はウワバミだと勝手に思っていたけど、エルカ族以上にゲコなんだな。


「カサンドラ殿、俺には何がなんだか……、だが、戦いは終わったということで良いんだろう、な……」

「あぁ。これは戦いが終わった後の宴会だな」


 訳わからないカオスな状況だけど、意味不明で理化しがたい光景だけど……。

 すげぇや。エルカ族とネビ族が、同じ場所で笑ってやがる。

 亜人の中で一番嫌い合ってた一族同士が、こんなにも簡単に……。

 俺がやりたかったこと、村長とインユゥちゃんに先越されてしまったな。


「あーッ! カサンドラ来てるじゃん! おいオッサン、あの骨がオッサンの剣直してくれるって!」

「なぁにぃ!? 我輩の家宝であるこの剣、剣……!? ふぎぃ、折れているのであーるぅうう! うぉおおおん!」

「うるせーッ!」


 ずどん、とすごい音がしてククロバなる鎧のネビ族の顔面がインユゥちゃんによって打ち抜かれた。

 うわぁ、凄まじい右ストレート。

 その拳が決まった場所って、なんか同じ痣があったような……。


「あーあ、また隊長殴られてやんの」

「酒癖悪いのに飲むから……」

「大丈夫だって、どうせ何事も無かったように復活するって、ほら」


「ぬっはぁ! 効かん! 効かんのであーる! 我輩の鎧は先祖代々伝わる由緒正しき魔法の鎧! その伝説はネビ族の先々代族長の時代まで遡り人間の侵略に抵抗――――」

「顔面に鎧貼ってんのかテメェは!」


 は。


 は、はは……。


 ちょっとこのカオス収集付けられない。

 俺には無理だ。


「カサンドラ殿……」

「ウォマ。私は己を鍛えれば出来ぬことなど何もないと思っていた……。どんな困難も鍛えた肉体を以て立ち向かえば乗り越えられる、と」

「えぇ、俺もです。俺もそう思っていた時期がありました……」


 お互いの視線が合う。

 言いたいことが伝わった。そうだ、俺もあんたも同じ気持ちだ。同じ答えに行き着いたんだ。


「「逃げよう」」


 がちゃり、と俺の後ろでドアが開いた。


「何、これ……」


 あ、ヤディカちゃんだ。おかえり。

 うん、そうだよね、意味分かんないよね、この光景。

 俺もそうだよ、まったく理解できないし、あそこで暴れている彼らも意味なんか残ってないよ。

 あれはケダモノの宴だ。

 子供にはまだ早い。

 インユゥちゃん? あの子はオーケー。一応百歳以上は生きてるでしょ。セーフセーフ。

 あのカオスに飲み込まれたら助けられないし、そもそもカオスの中心がインユゥちゃんだから。


 そんなことよりも俺は俺でやるべきことがある!


 俺がヤディカちゃんと出会うのは濡れ銀を目指してネビ族の集落に行って以来。


 そう、俺の至らなさからヤディカちゃんを傷付け、喧嘩別れのようになってしまったあの時以来なのだ!


 今まで待ち続けた謝罪のチャンス!

 罪悪感を抱えて過ごす時間のなんと長かったことか。

 ヤディカちゃんのいない時間のなんと色褪せていたことか!

 募り募った思いを、この気持ちを伝えなければ!


 ヤディカちゃん、あの時君を傷付けた不甲斐なく愚鈍な俺だが、もう君を過保護に囲って飼い殺したりしない!

 そんな自己満足で君を縛ったりしない!


 完全に無駄の無い、空気さえ動かさぬほど洗練された、精緻を極めた動きで土下座を決める。


 今こそ万感の意を込めて言わせていただこう!


「ヤディカ! 愛している!」


 あ、間違えた。


 いや、間違えてないけど、今言うべき言葉じゃない。

 あとこの愛は親が娘に向けるような愛であって異性に向けるものではないということをここに明記しておく。


「神はいないのか……」


 ウォマさんがなんか呟いているけど、知らん。

 神は死んだ。スイーツ。


「……? 何、言ってるの、カサンドラ」


 そういう反応になるよねー。

 いや、間違っただけだから。ちょっとヤディカニウムが足りなくて禁断症状が出ただけだから。


 よし、落ち着いた。

 膝立ちになり、ヤディカと視線を合わせる。


「ヤディカ、私は私のエゴで君を縛っていた。君の強さを信じることができなかった。それに気付けなかった。すまない。君を傷付けた」


「……あの時のことは、あたしも、悪かった、から。言葉が足りなくて、なのに、分かってもらおうと、してた。ごめんなさい」


 ヤディカちゃん、俺が馬鹿だったのに、自分で自分の反省点を見つけて、謝ってくれるなんて……。

 俺なんてカレオちゃんに指摘されてやっと気づいたというのに……。


 おぉ、俺の馬鹿野郎。

 もう離すまい俺の天使マイエンジェル!

 この子本当にいい子! 自慢の娘です!


 思わず抱き締めてしまった。

 ヤディカちゃんは少し驚いたようだけど、おずおずと抱き返してくれた。


「さみし、かった……」

「私もだ」



「あー! 師匠とヤディカが抱き合ってる! ラブラブだ! ラブラブ!」

「ケッ、エミナ、うるさいんだよ!」

「ジッカ、涙拭けよ」

「るせぇ! サノマトのアホ! りあじゅう!」

「羨ましいか?」

「てめぇの血は何色だぁーッ!」


 うるさいガキどもも帰ってきたか。

 他のエルカ族も続々と帰ってきているみたいだな。


 ネビ族の捕虜を連れている。かなりの数だが、ウォマの言葉を信じるならば、こいつら洗脳されているんだよな。

 殴れば直るかな?

 こう……、ななめ四十五度から叩くのがコツ、的な。


「カサンドラ、この人たち、悪くない、みんな、操られてる、だけ」

「あぁ。分かっている。黒幕は別にいる」

「カサンドラなら、倒せる」

「任せろ」


 いつの間にか、馬鹿騒ぎしていた連中も、その相手にてんてこ舞いだった奴等も、帰ってきたばっかりのエルカ族も、連れてこられていたネビ族も、気絶していた不甲斐ない弟子どもまで集まっていた。


 あぁ、そうだな。

 この戦いもそろそろ終わりにしよう。


 簡単な話だ。

 ネビ族を操っている奴を殴ってぶっ飛ばして、それで解決。

 実に俺向きの話。


 ヤディカちゃん、見ていてくれ。

 勝利の栄光を君に!


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