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35話 更に向こうへ




 《ステータス》の圧倒的な開きを前にガクブルのスケルトンでございますが、“ 濡れ銀 ”さんはまったくそんなことお構い無しの様子です。


 進路上にぽつねんと立つ俺をどうやら捕捉した様だな。

 明らかに動きが変わった。

 アフリカゾウでも軽くひと飲みに出来そうな巨大な口をガバッと開けて、体をうねらせて迫って来る。

 歯ぁ恐ッ!

 鮫のように歯茎剥き出しで刀剣のような鋭い歯がぞろりと並んでいる。

 噛みつかれたらひと溜まりもないな。


 いやー、どうしようかね。

 防御特化を貫く方法は幾つか思い浮かぶんだけどなぁ。

 こっちの攻撃を吸収しちゃうとなると、攻略法って限られるよね。



 ① 吸収に対応していない攻撃を加える。

 ② 吸収量、回復量を超える攻撃を加える。

 ③ 吸収出来ない箇所に攻撃を加える。

 ④ 吸収スキルを無効化する。



 こんな感じだろうか?

 まぁ、④は俺がスキル無効化スキルを持っていないので無理なのだが。

 『勇猛無比』による性質付与もあまりブッ飛んだのは出来ないので、①も難しいかもな。


 取り敢えず迫って来る大口を躱さなければならんね。

 魔力筋を足に纏い上方へ跳躍。

 素早さには自信があるのさ。『千思万考』で動きも遅く見える。回避は問題ないぜ!


 だけど、見てからジャンプ回避余裕でした、とはいかないようだ。

 “ 濡れ銀 ”はこちらを捕捉したままだ。

 ぐるりと方向を変え、飛び掛かってくる。

 動きが早い!

 ゲームじゃないんだし、回避したら即モンスターに隙が出来る、とはいかないよな!

 こちらもそう簡単に食らわないけどな!


 『剽悍無比』で空中を蹴る。

 少々のMPを消費するが、問題はない。許容範囲だ。

 流石に二段ジャンプは想定していなかったのだろう、“ 濡れ銀 ”の動きが一瞬鈍る。

 チャンス!

 よし、とにもかくにも、まずは殴ってみるか!


「づェアッ!」


 すれ違いざまに顎に一発、アッパーカットをぶちこんでみる。

 ずどむ、と拳が“ 濡れ銀 ”の分厚い皮にめり込む。

 だが、“ 濡れ銀 ”は呻き声一つ上げない。

 いや、攻撃されていることに気付いているのか?

 威力が皮の表面を滑って拡散してしまっている。

 なるほど、この全身を覆う高粘質の体液と分厚い皮がどんなエネルギーも受け流してしまうんだな。


「ボォアアアア!」


 “ 濡れ銀 ”が吼える。

 船の汽笛みたいな声だな。赤角熊といい“ 濡れ銀 ”といい、デカイ奴は叫び声一つでも強力な武器だよな。

 こちらも『王の咆哮』でお返しだ!


「ガァアアアア!」


 音の衝撃波がぶつかり合い、周囲の木々を薙ぎ倒す。

 受け流した俺はまだしも、直撃を受けた“ 濡れ銀 ”も無事か。

 ホントその皮と体液高性能ですね。

 打撃も衝撃も受け流す、じゃあ次は斬撃だ!


「受けよ我が拳! “聖剣エクスカリバー”!」


 目の前のがら空きのボディに手刀を突き出す。


 魔力を高圧縮するのにも慣れたものだ。

 薄く硬く鋭い魔力に覆われた貫手は、『勇猛無比』にて防御貫通の効果も付与されている。

 正しく、切れないものなど無い聖剣と化しているのだ。

 組手じゃ危なすぎて使えないから、防御貫通付きはこれが初使用だけどね!


 肉を断つ感触。

 “ 濡れ銀 ”の巨体からしてみれば爪楊枝みたいなもんだが、通ったぞ!


「ボォオオオオ!」


 滅多に感じることの無いだろう痛みに“ 濡れ銀 ”が暴れまわる。

 だけどせっかく攻撃が通ったんだから、まだまだやらせてもらうぞ!


「シャアアアアア!」


 突き刺さったエクスカリバーに更に魔力を注ぎ込み、刀身を伸ばす。

 そしてそのまま、空中を駆け抜ける!

 ふふふ、こういう表面が頑丈な奴は中身が脆いよな。

 輪切りにしちゃるぜぃ!


 と、いう感じで走り回ったんですがね。

 いやぁ、“ 濡れ銀 ”をまだ甘く見てましたわ。

 ザクザク切ってるのに、その端から治っていきやがる。

 どうもこちらが与えたダメージをエネルギーに変換し回復している様子です。

 阿呆か。ダメージがMPやSPに変換できるって無敵じゃねぇか。


 何より不味いのが、“ 濡れ銀 ”の野郎、俺の動きに慣れてきてやがるってことだよ。


「チぃッ!」


 俺が通りすぎた一瞬後に、銀色の尾が振るわれる。

 まるで壁が迫って来るような巨大さ。

 回避も簡単じゃない。

 それが段々と精度を増してきているのだ。


 駄目だ、“聖剣エクスカリバー”じゃ火力不足だ。

 このままじゃあ倒しきる前に倒されてしまう。


 かといってここまで巨大かつ回復力が桁外れている怪物を、どう打倒する?

 俺の持つ他の技では、この分厚い外皮を貫けない。

 高粘質の体液も厄介だ。時に滑り、時に粘つき、俺の動きを阻害してくる。


「カァッ!」


 “聖剣エクスカリバー”を回転させ、ドリルのように“ 濡れ銀 ”の肉を抉る。

 皮も体液も飛び散り、辺りが“ 濡れ銀 ”の血で染まる。

 更におまけで魔力爆発!

 高圧縮された魔力が解放され、食い込んだ“聖剣エクスカリバー”はミサイルのように爆発する。

 “ 濡れ銀 ”の巨体が、半ば千切れ飛び、吸収しきれなかった衝撃で大きく揺らいだ。

 普通のモンスターなら、これで終わりだ。

 だと言うのに……。


「ボォオオ」

「くっ、これでもか……!」


 体が分断される勢いで吹っ飛んだというのに、まるで逆再生でもしているかのように治っていってしまう。

 うわぁ、これで決めるつもりだったんだけどなー。

 ダメージを回復するのに、受けたダメージを利用しているという永久機関。

 ここまで強力か。

 ちょーっと突破する手が浮かばないぞ?

 ていうかコレ、もしも分断してたらプラナリアみたいに二匹になって再生とかしてたんじゃないの?

 そうなったら流石に絶望しちゃうな。


 “ 濡れ銀 ”がその巨大な体を絡め、丸めていく。

 さながら銀色の握り拳。

 俺は大岩を背に追い詰められていた。

 『千思万考』で体感速度を遅くしても、逃げる場所が無ければ意味が無い。

 ドリルで地面を掘ろうにも、“聖剣エクスカリバー”の魔力爆発の影響で、大きなドリルを練り上げることが出来ない。

 やべ、詰んだ?


「ボォアアアア!」


 全身を絡ませ合い固めた“ 濡れ銀 ”が突っ込んで来る。

 た、耐えられるか!?


 全身がガタガタになるほどの衝撃。

 背後の大岩を砕いて尚止まらない圧倒的な突破力。

 自身の巨体と重量を余すところなく乗せた破城鎚のような一撃だった。


「ぐほ……ッ!?」


 防御に使った両腕と右足が壊れかかってるな、砕けそうだ。

 ていうか全身がヒビだらけなんですけど。

 肋骨が何本か行方不明です。今度から一本一本に名前と住所書いとこう。誰か拾ったら教えてください。


 “ 濡れ銀 ”は絡んだ体をほどき、こちらを窺っている。


 今の体当たりが連続で来なくて良かった。

 ジャブ的なノリでポンポン打たれたら死ぬ。冗談抜きで骨が粉になってしまう。


 やばいな、マジで突破口が掴めん。

 くそっ、こんな時、主人公って奴はどうやって苦境を突破するんだ?

 師匠なら?

 師匠だったらどうするだろう?


 そういや、修行の時に、何か、言ってたな……。





◇◇◇





「囚われすぎだ。馬鹿者」


 回し受けからの手刀両手打ちを防がれ、師匠のカウンターの蹴りが決まる。

 ごぇ!?

 し、師匠、一撃でアバラが何本か持ってかれてるんですけど……。

 本当にもう、この精神世界では死ぬことがないからって無茶するわぁ。


「何故いつも同じ手で攻めるのだ。お前は自分の言う“セオリー”とやらに拘り過ぎる」

「い、いや、ですが師匠……、いきなり自分の技を考えろって言ったって無理があると思うんですよ……」


 痛みと理不尽さを堪えながら必死に抗弁するけども、師匠はまったく聞いてくれません。

 眉間のシワが深くなってますよ?

 シワが取れなくなっちゃいますよ?

 ギブミースマァイル?


「真面目に考えろ。お前は自分の持つ力が通用しない相手が現れた時どうするのだ」

「どうする、ッスか……。そりゃまぁ、逃げます」

「逃げられない戦いもある」

「えーっと、じゃあ、死ぬ気で頑張る、とか?」

「馬鹿者」


 痛い!

 師匠の拳骨は痛いんですよ!

 その石みたいになった拳ダコ尖ってるんですって! 組手の時は我慢しますが、それ以外の時はノーサンキューです!


「私が言いたいのは、柔軟に考えろということだ。技を考えろとはその練習でもある」

「柔軟に考えてる、つもりなんですけど……」


 師匠の動きに応じてしっかり対応は変えている。

 格闘漫画やSF漫画の知識だけども、何百冊と読み込んでいる分、手段は多い。

 中には実用性皆無のトンデモ理論のアホ武術もあるが、師匠との修行で有効な技術もそれなりにある。

 慣れるためにも沢山練習したいし、満遍なく使っているから、手段が一辺倒で片寄っているとは思わないんだけど……。


「お前の動きは型に嵌まりすぎているのだ。“こう動いたら次はこう”とまるで踊りのようだぞ」


「ですが、型って大事なんじゃ無いんですか? 型が出来ていない内から型から外れようとしても“型破り”にはならない。ただの“形無し”だ、と本にも書いてありましたし……」


「型とは基礎のことだろう。基礎ならやらせているではないか。その上で動いてみろと言っているんだ」


 ぬぅ、師匠の言わんとすることがいまいち伝わって来ないぞ?

 結局、俺はどうしたらいいんだ?


「……まだ理解し難いかもしれんな。仕方がない。今は良いだろう。だが、今後自分の力が通用しない敵が現れた時、この言葉を思い出しなさい」


 まぁ、でも、師匠動きは確かに変則的だ。

 あ、なんかこの動き見たことあるな、と思っても、次の動きが同じとは限らない。

 同じように見えても僅かに踏み込みや重心の位置を変えて、こちらの意識が向かない攻撃を仕掛けてくる。


 つまりはそれが出来るようになれってことだと思うんだけど、それって達人クラスの技術ですよね?

 今の俺がさらっと出来ることじゃあないッスよ、師匠。


 目標にはしますけどね。

 いつか出来るようになるために、修行を続けますよ。

 俺の個人的な目標は、カサンドラ師匠の技術を習得しつつ、魔力と魔法を使って漫画や小説の技を再現すること。

 だけどそれ、に囚われ過ぎないように気をつけてやってみることにしよう。


 せっかく異世界で生まれ変わるんだし、オリジナル技の一つや二つや十や二十は欲しいものね。


「……分かりました。師匠!」


 でも、拘らない、囚われないって難しいぜ……。





◇◇◇





 ……そうだな。

 俺は囚われていたのかもしれない。

 考えが凝り固まっていた。

 異世界ファンタジー。格闘家。師匠への思い。スケルトンとしての体。その他色々なものに。


 囚われたままだから、俺の動きも発想も狭まり、結果として自縄自縛に陥っていたんだ。


 そうやって俺は俺の限界を決めてしまっている。


 このままでは勝てない。

 今までの俺が死ななくちゃならない。


 それが限界を超えるということだ。


 “ 濡れ銀 ”がもう一度体を絡ませ始めた。

 俺の体を半壊させたあの体当たりをする気だ。

 良いだろう。

 こっちも覚悟は出来てる。

 俺が、俺としての全部を出しきって、空っぽになって死のう。


「ボォオオォオ!!」


 “ 濡れ銀 ”が吠え、俺に突っ込んできた。

 崩れそうな体奮い立たせ、使えるだけのスキルを全てオン。

 だが、それでも足りない。

 “ 濡れ銀 ”の《ステータス》には遠く及ばないし、体力やスタミナ、魔力も減少したままだ。


 だが前に踏み出す。駆ける。迎え撃つ。

 この間合い。タイミング。

 全てが及ばない。


 この瞬間、俺は死んだ。



 余すところ無く死んで――……



 更に――


 向こうへ――!!



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