29話 Y.M.C.A.作戦
Y.M.C.A.作戦。
それはヤディカちゃんたち子供が子供らしく遊べるような娯楽を作ろうという試みである。
体を動かす系は、様子を見てリリースしていくとして、取り敢えずインドアな遊びを広げていこうかしら。
「村長。娯楽・遊戯と言えば何がある?」
「そうですのぉ、人間はなかなか多様な遊技をしておりましたな。儂も大陸にいた頃はよく憧れたものですわい」
「ふむ。人間は遊技をするのか。亜人族はしないのか?」
「我々亜人族ははあまり遊戯の類いを好まなかったのですわい。その日を暮らすので精一杯でしたからのぉ、人間が使うような物は持っておりませんな」
うーむ。中世ヨーロッパ的な世界観なら、チェスなんかのボードゲームはあると思うんだけどなぁ。
日本で暮らしていた頃は、パソコンでゲーム三昧だったが、ボードゲームも少々嗜んだ。
いや、もちろんディスプレイ上でだけどね。
直ぐにルールが理解できて、尚且つ頭を使い、戦略に幅があるものが良いだろうね。
やっぱチェスかね?
それとも将棋?
トランプやウノ、花札なんかを避けているのは、作るのが面倒だからです。
スキル『骨融合』の能力の一部である『骨加工』によって骨ならば自在に加工することが出来るので、駒やゲーム盤を作るのは簡単なんだけど、カードのように薄いものは作っても直ぐに割れてしまうんだよね。
『魔力自在』で“ 硬化 ”を付与しても、込めた魔力が切れたら同じだ。
正直、効率が悪い。
なので、ボードゲーム系を考えているのです。
「しかし、子供たちは喜んでくれるでしょうのぉ。修行も楽しいようですが、こういった物もこれからは必用ですわい」
「うむ。考える力とはこういうもので養うのが一番いい。」
「考える力、ですか」
「あぁ、物事を多角的に見る力だ。一つの考えに縛られず、柔軟に思考する力というものは、大人になってから養うことが難しいからな」
「ほぅ、つまりカサンドラ殿は子供たちを行く行くは参謀や将として教育するおつもりなのですな」
いやいや、なんでそうなる?
子供たちが楽しめるものを作るんだって言ってるでしょ。
だいたい、例え親が武士だろうと商人だろうと農民だろうと、子供に考える力は必用だよ。
柔軟な発想が出来るのは、子供の大きな強みの一つなんだから。
子供たちの中で参謀や将軍になりたいって子が出てくるならそれは自由だけどね。
これは教育でも修行でもない。
遊びなのです。
「村長。楽しめればいいんだ。教育を押し付けるつもりはない」
「ふぅむ、自ら学びとる姿勢が重要ということですな?」
「……まぁ。そういうことだ」
もうその解釈でいいです。
取り敢えず試作を作りたいから骨持って来んかい骨!
「うむ、儂は感服致しましたぞ! 流石はカサンドラ殿じゃ! すぐさま材料を用意致しますゆえ、お待ちを!」
そう言うと、村長は数人の村人を連れ、森へと跳んで行ってしまった。
おいおい、まさか今から材料を狩ってくるつもりか?
余ってる骨で良かったんだけど。
仕方ない、村長達が帰ってくるまでに『千思万考』の中で魔力骨を使ったイメトレでもしてようかな。
ついでにもう幾つかアイディアを捻り出しておこう。
取り敢えずチェスと将棋を作るけど、内容がちょっと似てるもんねぇ。
本格的に作るのは村長達にテストプレイしてもらってより楽しめた方にしておこう。
それともう二、三種類ほど作ることが出来ればカンペキだぜ。
ふふふ、実はもうアイディアはあるんだけどね。
俺がパソコンでやったことがあるゲームの再現になるんだけど。
まず一つが、1~5枚程度で様々な形にくっついた正方形のタイルを、決められた陣地内に置き、相手が上手く置けないように妨害しつつ、最終的にどれだけタイルを使用できたかを競う陣取りゲーム。ただし置けるのは自分のタイルの各辺の頂点のみからというもの。
次に、一から七までの数字と、その数と同じだけの駒があり、合計28個の駒を相手に見えるように設置、自分の駒の数字は見えない状態で、相手の駒の数字と、場に残った数字、もしくは駒の山などから自分の手持ちの駒の数字を当てるゲーム。
うーむ、こう見ると案外地味だが、盛り上がる時は盛り上がるのよ、本当。
とにかく、ルールは簡単だけど頭を使うって感じのボードゲームだ。
早速作って村長やヤディカちゃんにテストプレイしてもらおうじゃないか。
俺が『千思万考』の中のイメトレで、各ボードゲームを200個ほどで作り終わった頃、村長達が戻ってきた。
村長は、その肩にいまやエルカ族の獲物としてお馴染みになったチャージボアの巨体を担いでいる。
他のエルカ族の男衆も似たようなもんだ。
自分の胴体よりも太い蛇のモンスターを肩に引っ掛けて誇らしげに笑う者。
迷彩柄の毛皮を持った大虎を片手で持ち上げ自慢する者。
三人がかりで運んでいるのは、牙が四本もある
毛深いゾウだ。
どれだけ本格的に狩ってきてるの、君たち。
素材が多いことは良いことなんだけどさ。
さて、じゃあ『骨融合』でモンスター達の骨を引っこ抜いていくかね。
スキルを使えば血もでないから便利だね。
それでも生臭い気はするし、骨の内部に髄液とか残ってるから洗って乾燥させないといけないけど。
まぁ、お楽しみはそれからだ。
今日のところは獲物の解体を手伝うとしましょう。
◆◆◆
そんなわけで数日後にはボードゲームが各種出来ましたよ。
『骨加工』でちょちょいのちょいやで!
会場は以前ゼクト族と話し合いを行った巨大な木の洞。エルカ族の集会所です。
テーブルに並んだボードゲームは四種。
将棋。チェス。ブロック繋ぎ、数字当て。
一個一個、ルール説明をしながら楽しんでいこう。
テストプレイとかメンドイから、もう子供たち全員呼んであるぜ!
みんな興味津々でボードゲーム達を見ている。
ふふふ、楽しそうだろ?
あと、仕事が上手いこと空いていた大人もここにいます。
村長は来られませんでした。歯軋りして悔しがっていたけど、自分で自分を今日の畑仕事チームに配属したのだから、文句は言えない。
肩を落として畑へ向かっていった。
さて、最初は恐らく大人の方が強いと思うけど、子供たちはどうかな?
諦めずに投げ出さずに付いてこられるかな?
「……というのがこのゲームのルールだ。やってみるか?」
将棋とチェスは少し難しいので、まずはブロック繋ぎと数字当てから説明しました。
ふむ。大人たちは若干理解が遅いな。
子供たちは早速テーブルに着いて取り組み始めている。
ブロック繋ぎの参加率が多いな。ヤディカちゃんも其処にいる。
後で様子を見に行こう。
数字は、不人気だな。
一応数字はこの世界の文字で彫ったんだけどな。そういえばエルカ族の集落には学校が無いし、識字率が低いのかもしれない。
大人たちは……、ありゃ、誰もやってない。
戸惑ってるのか?
あ、それともこれじゃあ簡単すぎてやる気が起きないのかい?
よーしじゃあチェスと将棋でもやろうか。
「では君たちもやってみようか」
「カサンドラ殿はやらないのですか?」
おおぅ? もしかして俺に遠慮してたの?
俺は全体を見ながら質問に答えたりアドバイスをしていこうと思っているから、今回はやらないよ。
「私はいい。助言役に回ろう」
「ですが、我々だけでやっていいものなのですか?」
「構わないぞ。何を心配している?」
「いや、心配というものではありません。ただ、やはりよく分からないので、手本を見せてもらえれば……」
「手本か……」
見せたいのは山々だけども、出来る相手がいないなら無理だろう。
村長がある程度自分で出来ていたから、みんな知ってるものだと思っていたよ。
「あたし、やろうか?」
ん?
おや? さっきまでブロック繋ぎをしていたヤディカちゃんが何故後ろに?
ヤディカちゃんが座っていた席を見ると、一緒に遊んでいた子供たちが声もなく固まっていた。
まさか、たった1度目にしてブロックを全部使いきったのか!?
あのブロックはなかなか全部使えず、結局置き切れなくなってからの判定決着の形がもっとも多いのだが……。
うわぉ、圧勝していらっしゃる。
俺、作っといてなんですが、ブロック使いきったことないぜ……。
俺が座っている席は将棋。ヤディカちゃんがその対面に座った。
「ルールは分かるか?」
「さっき、説明してるの、聞いた」
「それだけで大丈夫か? 少し練習をしようか」
「ううん、いい」
何この自信。
俺は、眠れる獅子を起こしてしまったというのか?
俺ってボードゲームは好きなくせに頭使うの苦手だから、弱いのよ。
体鍛えて殴った方が早いよね! という思考になっちゃってるしなぁ。
ぱちり、ぱちり、とお互い手を進めていって、僅か10分。
俺は全身冷や汗まみれだった。
スケルトンだから汗はかかないんだけど。
心象的にね。
初めて将棋を始めた少女に、俺が押されている、だと……っ!?
くっ、仮にも経験者としてはここで負けるわけにはいかない!
なんとか食らい付く。
一つ取られては一つ取り返し、を繰り返す。
実はこっそり『千思万考』を使って長考してます。
ふふふ、バレなきゃあイカサマじゃあないんだぜ。
そして、今俺が追い詰められているのは、あえて……だ。
決してヤディカちゃんに実力で押し負けている訳ではない。
ほんともう、自軍が成金に思う様蹂躙されているけど、あえて、なんですぅ!
この攻撃がヤディカちゃんのベストというなら、この“ 金 ”は差し出してやるのもいいだろう…………あえてな。
“ 厳しい道を行く ”か……。
厳しいな。
ただし……。
俺は俺の作戦で行く。
その作戦には滞るものは何もなく……、なめらかに回転するような……。
俺の作戦はこれでいい。
その先に“ 光 ”があるはずだ。
“ 光 ”を探せ!
“ 光 ”の中へ!
よし! 見えた! 勝利への道筋!
俺は栄光の道を走る……!
「あ、王手……? でいいの?」
「なっ、しまった、いつの間に!?」
やべぇええ、焦りすぎて全体を見ていなかった。
ちょっと頭の中が奇妙な冒険の鉄球競争なネタでいっぱいだった。
おおおちつけおとつちけっおちちつけつけ!
えーと、えーと、こういう時はプランBだ!
あぁ? ねぇよンなもん!
じゃあ、プランC!
いわゆる、ピンチです。
「……参りました」
おおおおおおお……
いつの間にか観戦していたエルカ族達の、静かな感嘆の声が漏れる。
へ、へへ……、盛り上がったかい?
なら良かったよ。
これが目的だったからね。
うん、俺がボードゲームで勝つことが目的じゃあ無いから。
ゲームを通じて娯楽の楽しさを体験して、心の豊かさと柔軟な思考を持つのが目的だったから。
なんだか学校の目標みたいになったけど、結局は楽しめればいいってことです。
だから、俺は負けたが負けてない。
むしろ勝利である!
圧倒的な大勝利!
ふぅーははははは! エルカ族よ、ボードゲームの楽しさに酔うがいいわ!
「カサンドラ、楽しい、ね」
ヤディカちゃんが俺を見上げていた。
皆に勝利を誉められて、照れた頬が赤い。
嬉しそうにはにかみ、ちょっと興奮している。
「そうか。ヤディカ。楽しんでくれているか」
「うん、今までで、一番楽しい」
「おーい、ヤディカぁ、こっち遊ぼうぜー!」
「うん……! カサンドラ……、ありがとう」
「あぁ。楽しんでおいで」
……良かった。
これでもう俺は救われたわ。
ヤディカちゃんが年相応に楽しんで笑顔になってくれるなら、何百という骨をちまちま加工するのも苦じゃないぜ!
友達と数字当てゲームをしながら笑うヤディカちゃんを見て、俺は自分の考えが間違っていなかったことを確信した。
この世界で生きて行く以上、力は必用だ。
そのための修行が好きならば、言うことはないだろう。
でもやっぱり、子供は遊ばないとな。
「カサンドラ殿に勝つとは、ヤディカもやるもんだ!」
「筋肉ばかり鍛えていたが、こういうのも面白いな」
「どうです、やってみませんか?」
「いいですが、負けてもテーブルをひっくり返さないで下さいよ?」
「ははは、抜かしよる」
勿論、大人も。
これだけ楽しんでくれると製作者冥利に尽きるね。
さぁ、次はどんなのを作ってやろう?
◆◆◆
ゼクト族。
ジュリアマリア島に住む亜人族の一つであり、昆虫に似た特徴が体に表れている種族である。
エルカ族の集落のある森の更に奥、北の海岸に近い森の中が彼らの住まいだ。
北に近いと言っても、それほど寒さが厳しいわけではない。
いや、土地の気候としては極寒でもおかしくないのだが、この島周囲だけは何故か一年間を通して温暖であり、過ごしやすいのだ。
ジュリアマリア島の何処かに住む魔王の張った結界のお陰であるらしいが、詳しいことは分かっていない。
ただ、寒さには極端に弱いゼクト族にとっては、北方地域で唯一、ジュリアマリア島だけが安息の地なのだった。
昆虫の持つ強靭な力を人間大の体で発揮する強力な種族であるが、彼らもこのジュリアマリア島という魔境では特別強くはない。
故に、やすやすと周辺の魔物を狩ってみせ、自らの得た力を誇示したエルカ族には驚愕した。
あのモンスターの非常食とまで言われ馬鹿にされたエルカ族が、どうしてここまで強化されたのか、是非とも秘密を暴く必用があった。
もしも、エルカ族がその力を振るい侵略に乗り出せば、ゼクト族は一溜りもないだろう。
ゼクトの戦士が10人がかりで漸く討伐できるようなモンスターを、エルカ族の男は一人であっさりと狩ってしまうのだから。
エルカ族の長老がゼクト族と同盟を結びたいと申し出て来たときは、罠かと思ったものだ。
こちらを油断させて攻め滅ぼすつもりなのではないか、と。
しかし、エルカ族の長老が言うには、彼らの新しい指導者が全亜人の平和を望み行動しているのだという。
それでも不信は拭えないが、とにもかくにも会ってみることになったのだった。
巫女とその世話役であり護衛隊長でもある男は、ゼクト族の集落に戻ると精力的に動き始めた。
エルカ族が異様に強化された理由があのスケルトンの修行であるというのはどうも胡散臭いが、スケルトンの実力は本物だった。
ならばこちらが友好的であることを示すためにも行動は早い方がいい。
「ではぁ、最初にエルカ族の所に行ってもらうのはぁ、30人でいいかしらね~?」
「それで問題ないでしょうな、姫様」
「も~、今は巫女様、でしょ~」
「ぬはは、すみませぬな、ついつい昔の癖でして。まぁ、お嬢様と呼ばなくなっただけ良いでしょう?」
「じゃ~、あたしもじぃってぇ呼ぶからね~?」
「う、うむむ、ひ、巫女様、それでは巫女様の威厳が損なわれますぞ」
「威厳なんかぁ無いし~」
「巫女様、それでは困るのです。こう、もっとピシッと背を伸ばしなされ」
「や~よ~」
緊張感の無い会話だが、周囲の側近たちは誰も突っ込まない。
巫女を小さい頃から育て、実の孫のように慈しんでいる老人と、育ての親に唯一気を抜いた表情を見せる巫女のやり取りを邪魔する無粋者は、いつの間にか閑職に飛ばされるという噂があるからである。
実際、そんなことは一度も起こっていないのだが、気の休まる一時を邪魔されたくない巫女自身が噂を流布してるので、誰も逆らわないのだった。
巫女も仕事をサボっているわけではない。
疲れると数分だけ、こうして育ての親に甘えるだけである。
周りもそれが分かるので、むしろほっこりとしながら見詰めているのだ。
しかし、今この時だけはその無粋を敢えて起こさなければならない事態だった。
ドタドタと荒々しい足音と共に、巫女と護衛と側近たちが集まり仕事をしている執務室の扉が開かれる。
「巫女様! 緊急でございます! ネビ族の使者殿がお越しになられております! 至急、巫女様にお伝えせねばならぬことがあると!」
それを聞いた巫女は弛緩していた顔を一瞬で拭い去り、厳格な巫女姫としての顔になる。
「そろそろとは思ったけれどぉ……。案内してちょうだいね~」
護衛の男も好好爺の表情から一転、鋭い闘気を纏った戦士の顔をしている。
「予想よりも遅かったですな」
「向こうもプライドがあるんでしょうよ~。こちらとしてはぁ、ネビ族が滅ぼうが衰退しようがど~でもいいしね~」
「助けますか?」
「いやよぉ、面倒臭いし~、高慢ちきなネビ族の為にゼクト族から犠牲を出したくないわ~」
「では、どうされます?」
「分かってるくせにぃ」
護衛はにやりと悪い笑みを浮かべていた。
巫女も同じような、そっくりの笑みを浮かべている。
「我々は交渉し、ネビ族に巨大な恩を売る。国庫も潤してもらうとしましょう。ですが……」
「そうね~。後は“ お友達 ”に任せるわ~」
作中に出てきたボードゲームは、商品名は伏せますが、実際にある物です。
私はボードゲーム喫茶に行く程度にはボードゲームが好きです。




