24話 新しい技が欲しい
俺とビルカートさんの模擬試合を、最高のタイミングで横合いから殴り付けてくれた巫女さんは、困ったように笑っていた。
「あらあら~、そんな怖い顔で睨まれるとぉ、お話しできなくなっちゃうわ~」
「なぜ邪魔をしたんだ?」
「だってぇ、二人とも熱くなっちゃって模擬試合ってこと忘れてるんだものぉ」
……まぁね、それについては否定できない。
殴り合ってる内にハイになっちゃうのが格闘家のサガですから。
ましてや相手は強い。
盛り上がらなきゃ嘘でしょ!
あー、でも戦い方が少し雑だったかなぁ、もうちょっと楽しめるようにしても良かったかなぁ。
うーん、でも試合とはいえ油断してアバラぶち抜かれるところだったんだし、遊びすぎないで正解だよなぁ。
そうか、模擬試合だったからいけないんだ。
今度は修行を前提とした組手をお願いしようそうしよう。
「まだやるつもりぃ?」
「いや。模擬試合はもう結構だ」
今度から組手にするからね。
組手ならオールオッケー。うふふ。
「まだやりそうな雰囲気ね~」
や、やらないってば!
たぶん、おそらく、きっと、ね!
〈 行動経験が一定の値を越えました。
スキル『練気』を獲得しました 〉
〈 行動経験が一定の値を越えました。
スキル『渾身』を獲得しました 〉
〈 獲得経験値が一定の値を越えました
個体名:カサンドラ/菅野 照彦はLv.1からLv.2へ上がりました 〉
《ステータス》
名前:カサンドラ・ヴォルテッラ/菅野 照彦
種族:ブラックスケルトン
Lv.2
HP:420/420
MP:1200/1200
SP:550/550
攻撃力:460+92
防御力:230
素早さ:2390
◇スキル
『不死属性』『魔力自在』『思考加速』『骨融合』『無手の天才』『足掻く』『中級鑑定』『言語理解』『覗き見』『威圧』『呪術』『邪気』『練気』『渾身』
『幸運』『根性』『無茶』『剽悍無比』『豪腕』『物理抵抗(小)』『HP自動回復(微)』『念話』『指導者』
『闇魔法』
『闇吸収』『恐怖耐性』『毒無効』『麻痺無効』『睡眠無効』『光耐性弱化』
『進化条件解放』
◇称号
【転生者】【重度修行中毒】【融合魔獣】【ユニークファイター】【教え導く者】【恐怖の体現者】【お客様はクレーマー】
「まぁそれでもぉ、あなたの実力を見られて良かったわ~。じぃと互角以上に戦えるならぁ、指導者として充分ね~」
ふむ。
お眼鏡に適ったようでなにより。
じゃあこれから本格的にゼクト族さん達を鍛えていくとするかね。
「分かった。修行場所なのだが」
「エルカの集落でいいわぁ、私たちの里は木々が多くて修行には向かないものぉ」
木々が多いか。
それはそれでできる修行が有るんですぜ?
最近は殆ど隠密と化してきているエルカ少年少女隊はよく木々の間を飛び回って特訓している。
以前、特訓という名の俺対全子供の耐久組手をした時は『隠蔽』という体色や肌の質感を触れた物質に酷似させるスキルを使い、ものの見事に全員隠れて見せた。
まぁ、『魔力自在』の感知能力ですぐにバレたんですけどね。
もしも魔力の感知を誤魔化すようなスキルを取得したらそれも難しくなるだろう。
あの子達ならその内取得する気がする。いや、もう取得してるかもしれない。
ゼクト族さん達がどのような戦闘スタイルを獲得していくかに応じて、エルカ族の人達に協力を依頼してもいいかもな。
レベルが上がって依頼も達成。
『指導者』スキルで俺も強くなってウハウハ。
エルカもゼクトも強くなってモンスターにより対抗できるようになる。
みんな良いこと尽く目! 誰も損しなーい。
「ここで修行出来るのであれば有り難いな。希望者はいつ頃来るんだ?」
「私たちが里に帰ってから~、希望者を募ってぇ、え~とぉ、だから~、半月はかかるわねぇ」
「そうか。分かった」
半月ね。
約二週間は個人の修行に当てられる訳だ。
ふふふ、久しぶりにガチで修行に没頭してみようじゃないの!
「それじゃ~、私たちは行くわ~。そこのまだ頭を地面にめり込ませてる護衛はどうしようかそらねぇ」
あ、忘れてた。
ビルカートさん動かなくなってるじゃねぇか!
息できてないんだよ、死ぬ死ぬ死んじゃうコレ!
やっべ、自分が息しないもんだからすっかりそこら辺のこと忘れてたわ、失敗失敗。
ビルカートさんを地面から掘り出すのは大変でした。
むさいおっさんを蘇生するのはもっと大変でした。
何せ呼吸をしていない。
もう三途の川で半身浴している勢いで顔に死相が浮かんでいた。
折角の好敵手をこんな下らない理由で失う訳には行かないが、脳筋な修行を繰り返してきた俺に相手を殴り倒すスキルはあれど、回復させるスキルは皆無である。
巫女さんも巫女さんのくせに回復魔法は使えないとのこと。
巫女さんって回復魔法唱えるイメージがあったから意外だったわ。
じゃあこういうときは人工呼吸が良いんじゃないかと思い、巫女さんに伝えたところ、断固として拒否された。
おい、助けてやれよ。
ビルカートさんェ……。
結局、エルカのおばばを呼んで回復魔法でなんとかしてもらいました。
さて、巫女さんとビルカートさんのゼクト族組は自分の里に修行の希望者を募りに帰ったので、なんだか久しぶりな感じのする一人修行タイムです。
『思考加速』の世界でイメトレを重ねてもいいんだけど、そうするとどうしても実戦の時に僅かな齟齬が出てきてしまう。
ビルカートさんとの模擬試合でもその齟齬の所為で戸惑うことがあった。
やはり修行は自分の体を動かしてこそだな。
修行したい内容は随分と溜まっている。
ちょっと一回整理してみる?
・ ライダー技の習得。
・ 魔力筋の熟練度アップ。
・ 防御貫通攻撃の習得。
・『邪気』『呪術』をより把握する。
・ 新たなスキルの取得を目指す。
整理するとこんなもんか?
忘れてることもあるかな?
まぁ体を動かしていれば思い出すでしょう。
上三つの内容は同時に行えると思う。
魔力筋を纏い動きを最適化しながらライダーの技を練習し、その中で防御貫通技を探せばいいのだ。
上手く行けば新たなスキルも手に入るかもしれない。
うん、これで行こう。
そういえばレベルアップで新しく獲得したスキルはどんな感じかな?
『練気』
SPを消費し、その分だけ攻撃力・防御力・素早さのいずれかを上昇させる。
『渾身』
攻撃を必ずクリティカル(ダメージ2倍)にする。一度使用するとHPが最大時の半分消費され、各ステータスにペナルティが付く。
ほうほう、攻撃が更なる浪漫性を秘めましたな。
スキルのコンボ的には『練気』で全SPを攻撃力に突っ込んだ後『根性』でSP回復。
もしくは『渾身』で体力を三分の一以下に減らし『足掻く』を発動。
って感じだろうか?
全部重ねられたら幾つになるんだ?
えーっと、元の攻撃力が460
『無手の天才』の効果で+92
ここに『練気』が乗れば+550
『根性』で回復した分もギリギリまで乗っけて+500
で、『渾身』を発動でHPが三分の一以下になったとして『足掻く』で×3
『渾身』でクリティカルが出ると×2
順番としては『足掻く』で3倍になってから『渾身』の一撃が入るので、3倍した値に更に2を掛けることになる。
暗算は出来ないので筆算で……。
=(460+92+550+500)×3
=4860
→4860×2=9612
うわーぉ。
ダメージ一万近いとかどんなもんだよ。
実際には相手の防御力とかスキルが関わってくるからこのままの数字が相手に入る訳じゃないだろうけど、かなり高い数字なんじゃないのこれ!
しかも、最悪死ななければ『思考加速』の中でHPその他を回復出来るはずだから、そこまでリスクが高いわけでもない。
これで防御貫通攻撃やスキル無効攻撃でも放とうもんなら……ぐふふ。
まぁ、スキルが全部同時発動出来ると決まった訳じゃないんだけど。
今後も攻撃力が上昇するスキルを獲得する可能性はあるのです。
めざせ一万超えだな。
しかし今はライダー技の習得を目指しましょう!
お師匠! 見ていてくれ! 俺はやるぜ!
先ずは赤○少林拳の基本の型から修行していくことにしよう!
最終的には魔法を習得してファ○ブハンドを再現したいものだ。
師匠に教わった戦闘スタイル的にはア○ゾンが一番ピッタリなんだけどね。
チェーンジ、エ○キハンド!
とかね。言っちゃったりしてね!
エレキ行けるならス○ロンガーもありだな!
超電○ドリルキックはマスターせねばなるまい。
そして切り札にするのだ。
やばい、今すぐにでも雷系の魔法を習得したい。
どこで魔法を覚えられるんだろう?
師匠の記憶はまったく当てにならないからなぁ。
下手したらもう俺の方がこの世界の常識に詳しいんじゃないの?
やはりライダーは素晴らしい。
昭和と平成は和解したけど、私はやっぱり昭和が好きです。機械の定められた限界を努力で超えようとする泥臭さがいいのです。
だいたい修行は完成しないまんま敵が攻めてきて、そんで実戦の中で努力が実を結び新しい技で敵をやっつけるんだよね。
くはぁー! 俺もそれやりたい!
これ分かんない人まったく分からんな。
幸か不幸かこの世界にはライダーのことわかる人は一人もいないんだけどさ。
うーむ。ヤディカちゃんに布教することを視野に入れるか?
あ、だめだ此処にはDVDもVHSも無い。ブルーレイなんてもう……。くぅ、せめて俺の思考を読み取ってくれればいいのに!
いっそ俺がもうス○ルライダーとして……。
いやこの世界にバイクねーから。
そもそも免許持ってないし、乗ったとして○カルライダーっていうよりもゴース○ライダーになっちゃうから。
くそぅ、せめて生身だったらがっつり変身、というかヒーロースーツ着れたかもしれないのに!
スケルトンじゃガリガリ過ぎてヒーロースーツ着ても絶対似合わないよ!
俺は今、猛烈に悲しんでいる!
ぐぅう、変身は男の浪漫じゃろうが!
隙だらけの変身ポーズはヒーローのたしなみじゃろうが!
俺は負けん! 負けんぞぉ!
絶対にライダー技を習得し、血が滾るようなバトルを繰り広げてやるぜ!
……浪漫技ばかり追い求めて実用性皆無の技を抱え落ちしないように気を付けよう。




