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19話 只今進化中

本日、幕間01も投稿しております。



 いつのまにか、俺はあの真っ白い世界に居た。

 カサンドラ師匠に修行を付けてもらった、あのスピリチュアルでタイムな部屋みたいな空間に。


 俺って眠ってしまうと此処に来やすいのかね?

 進化待ちしているだけだから暇で仕方がなかった。その間にここで修行できるのは有り難い。


 だが、そうそう自分の好きなことばかりは出来ないようだ。


『ようこそ! 潜在的お客様! ワタクシ、ベンダーと申します! よろしくお願いしますね!』


 早速修行に入ろうとしたら、目の前に変な奴が現れた。

 まったく鬱陶しい。

 ピンク色のポニーテールに零れそうな銀色の瞳。あざとい営業スマイル。

 ん? あれ? なんかコイツ知ってる気がする。

 何処かで見たような……?


『本日は異世界転生斡旋事務所のご利用、ありがとうございました! これにて異世界転生Bコースの体験版は終了となります! またのご利用をお願い致します!』



 は?



 はぁ?




 はぁあああああああ!?



 いやいやいやいやちょっと待てぇい!

 おい! 何が体験版じゃ!

 ここまでやらせておいて、いきなり終了かよ!?

 あり得ん!!


『はい! ここまでが体験版でございます! この先をお楽しみになりたい場合は本製品をご購入下さい!』


 俺はまた悪い夢でも見てんのか?

 今まで俺が体験してきた世界は、体験版とか本製品とか、そんなゲームみたいな話じゃなかっただろうが。

 まだゲーム感覚が残ってんのかな?

 最近、トントン拍子で強くなってたからなぁ。

 ちょっと浮かれてたかもしれない。


『お客様、本製品をご購入なさいますか?』


 ピンク髪のベンダーとやらが俺を覗き込む。

 この仕草で思い出した。

 こいつ、俺が転生する前にふざけて入力したサイトの案内キャラか。


 ってことは、俺はやっぱりあの『異世界転生斡旋事務所』とやらに此処に連れて来られたということなのか?


 いや、だとしても今の俺には、連れて来られた理由や方法はあまり関係ないな。

 このベンダーが来た理由。

 俺にこの世界で続けて生きるか否かを問いに来たのか。


『その通りです! 分かっていただけて嬉しいです!』


 さらりと心を読むな。

 ここが夢というか、俺の心の世界だからか。

 まぁ、それはいいや。

 問題は、異世界で生きるかどうか、か。

 自力で帰るもんだとばかり思っていたからな。そもそも体験版とかそういう意識無かったし。

 この世界って、もしかしてゲームなの? 最近二次元で流行りのバーチャルでリアリティーなゲームだったりするの?

 日本は俺が引きこもっている間にどれだけ進歩したんだ?


『ところがどっこい、これが現実でございます! お客様は正しく異世界にいるのですよ!』


 まぁ、バーチャルリアリティーにせよ、異世界転生にせよ、今の俺には原理も理解できないファンタジーだってことに変わりはないな。

 で、もしここで俺が“ 本製品 ”とやらを購入しなかった場合、俺はどうなる?


『お客様がご購入を見送る場合は、今回の記憶を全て消去させて頂いた上で、元の世界に戻させて頂きます!』


 ……つまり、本当に体験だけさせてノーリスクで帰すってことか。

 記憶はまぁ、仕方ないのかもしれないな。

 こんなことして、そちらにはなんのメリットが有るんだよ?


『ワタクシども異世界転生斡旋事務所は、その世界の管理者の要請によって様々な魂の転生を請け負っております! 納得の実績! 安心の保証! 皆様に愛される転生の老舗でございます!』


 あー、つまりはそういう人材派遣会社ってことね。

 要は、俺は異世界の管理者のとやらによって注文された品みたいなもんだと?

 なんの説明もなしにいきなり連れて来られたんですけど?

 それで商品やれってか?

 人権無視して拉致っておいて?


『お客様、どのようなシステムで異世界転生が行われるか事前にサイトの方で説明が為されていますが……』


 いつの話だよそれは?

 聞いた覚え無いわ。


『あぁ、お客様はその際にお眠りになっていましたね! その場合の責任は負いかねます!』


 マジか。

 それまったく安心の保証が為されていないんですけど。

 いや、過ぎたことだ。最早言うまい。

 むしろ今ちゃんと分かって良かった。分からないままでいる可能性だってあったんだから。


『おぉ、お客様は心が広いですね! 惚れそうです!』


 リップサービスは良いから。

 次に、俺が帰らなかった場合。

 “ 本製品 ”を購入した場合はどうなるんだ?

 その後に帰ることは出来るのか?


『当然の疑問ですね! えーとお客様が転生した世界の管理者様のご注文が、“ 生命の平均存在値を底上げし、納品できる人物。存在値50以上が望ましい ”となっていますので、これを達成したら望みを叶えて貰えますね!』


 すまん、色々分かんないことが多すぎる。

 注文内容明かして良いのか、とか存在値って何ぞや、とか底上げってどうすんだよ意味わからん、とか色々あるけど。全体的に理解できんわ。


 それと、購入ってことは何か支払うんだよな?

 金じゃないんだろ? 存在値ってのを払うのか?


『注文内容が分からなければ達成しようがありませんから、これについて守秘義務は無いのです! 存在値とは分かりやすく言えばその者の魂のレベルですね! お客様が転生した世界ですと、レベルがそのまま存在値を表していますよ!』


 つまり単純にレベルをあげて物理で殴れば良いってことか。

 この条件で選ばれたということは、俺は存在値が50以上あったのか!

 うわぁ、俺って地球ではレベル50超えだったのかよ。どこでそんな経験値稼いだんだ?

 くそー、なんか勿体無いことしたな……。


『お客様がもと居た世界での存在値は、今までの前世なども含めました“ 徳 ”で表されていますね! 残念ですが、お客様が稼いだ徳は殆ど無いようですが! 前世は素晴らしい好人物だったようですよ!』


「…………」


 ……それはどうでもいいんだ。

 そんな話は重要じゃない。

 もっと建設的な話をしよう。


『ちなみに本製品をご購入頂く際にお支払頂くのはその“ 徳 ”となります!』


 まぁそれが減ったからってどうなるってもんでも無いんだろうし、どうせ俺が貯めた訳じゃないからね。

 宵越しの銭は持たねぇって気分で使ってしまっても良いんだが……。


『まだ何かご質問がございますか?』


 あと二つくらいな。

 まぁ、これが一番重要なんだけどよ。


 俺は、地球では今どうなってるんだ?

 居ないことになってたりするのか?

 それとも、俺はコピーなのか?


『ご安心下さい! 異世界転生斡旋事務所はアフターケアもバッチリです! 簡単に言えば、現在は存在値を二等分している状態です。つまり! お客様は地球と異世界で同時に存在しているのです!』


 地球にもしっかり元の俺が居てちゃんと生活してる、それでいて此処にいる俺も本物。そういうことか?


『その通りでございます! ですから、自分は偽物かもしれないと気に病む必要はまったくございません!』


 ……そうか。ありがとう、気が楽になったよ。

 やっぱり、自分がしっかり自分であると思えるのは良いもんだ。


 最後にひとつ。

 俺がこのまま地球に帰った場合。この世界はどうなる?


『ワタクシは管理者ではないので、この世界については確たることは申し上げられませんが、ワタクシどもは取り敢えず新しい商品を見繕い配送するでしょうね!』


 なるほど、つまり俺は本当にお試しをされただけなんだな。

 この世界で生きていけるかどうか、やっていく気があるのかどうか。

 そちらとしても失敗する可能性のある商品を送り込みたくないもんな? 体験版と言っておいて、その実リスクを減らそうとしているということか。


『どのように取っていただいても構いませんよ!』


 余裕だね。

 まぁ、商品に何を言われたところで痛くも痒くもないということかな?

 宇宙人みたに人を勝手にキャトルミュートレーションしといて、傲慢なことだな。


『はい! それで、どうします? 帰りますか? 残りますか?』


 …………はぁ。

 残るよ。残るさ。良いように転がされている感じがするけど、実際、残れるようにしっかりお膳立てもしてもらってるしね。

 地球にもしっかり俺が居て、今すぐ帰る必要も無いというならば、この世界を楽しまない法はない。

 この世界なら、目指せるんだ。

 かつて憧れた世界最強の格闘家。その夢を。


『ご利用ありがとうございます! それでは早速――――』


 しかぁし! ちょっと待った!

 異世界に残るとなれば、少ーし話をしておかなければならないことがあるのだよ。


『はい! まだ何かご質問がございますか?』


 俺さぁ、憑依コースを選んだんだよね。

 顔とか外見選んでさぁ、寝落ちするくらい気合い入れてやったのよ。

 で、今スケルトンな訳。 これさぁ、そちらのミスじゃあないの?


『申し訳ありませんが、転生した後のことにつきましては責任を負いかねます!』


 へぇえ! アフターケアもバッチリなんじゃあ無かったっけ?

 いやね、何も初めからやり直させろとか、肉体を戻せなんて、世界の条理に反したことを言うつもりはないよ?

 ただね、ちょっとばかりサービスがあっても良いんじゃないかなって思うのよ。

 特別感があるって言うのかな……。

 そういうのってお客の心を掴むと思うんだよね。

 また利用したいって思える店ってさ、お客がどれだけ良かったって思えるかじゃない?


『……お客様、世間ではそれをクレームというのでございます』


 違うよ。安心できる保証が有るんだろ? アフターケアも含まれるんだろ?

 全部俺じゃあなくてそっちが言ったことだぜ?


 それにさぁ、自分の会社のこと老舗って言ったよね?

 ということは他にも同じ異世界転生を取り扱う会社があるんだ?

 で、一生懸命実績やら保証やらをアピールしてんだよね?

 どこの世界も会社員は大変だねぇ。

 きっと異世界転生業界も鎬を削り合い生き馬の目を抜く厳しい世界なんだろうねぇ。


『…………』


 くっくっく、どうした? 笑えよベンダー。


 あー、いいサービスがあったらなぁ。

 本当にアフターケアがバッチリだったらなぁ。

 俺、このあと依頼達成したらこの世界の管理者に会えるんだよねぇ。

 異世界転生斡旋事務所だっけ?

 それに案内役のベンダーさん?

 きっと俺は良い宣伝が出来ると思うなぁ。

 貴女が案内役で良かった、また異世界転生斡旋事務所を利用すべきだと管理者さんに強く推薦できるなぁ。

 いいサービスがあれば。


『……はぁ。では、具体的に何をせよと言うのでしょうか?』


 さっすが~! ベンダーさんは話が分かる!

 そこに痺れる憧れるゥ!


 いやまぁ実際ダメ元で言ってみただけの所があったんですけどね。

 マジでいいの?

 ほんと?

 いやー、なんか悪いね。


 じゃあやっぱり、チートかな。

 異世界転生といえばチートでしょう?

 既に色々恩恵を受けてはいるけどね。

 チート下さい。


『ですから、具体的にはどのような?』


 話変わるけどさぁ、ベンダーさんキャラ変わったね。

 あぁ、こっちが素か。

 営業のためにあんな明るく元気に笑って喋ってるんだね。

 凄いね! マジで尊敬する。

 いやー、俺なんかそういうの全然できなくて無理してやって結局仕事辞めちゃったからなぁ。

 今にして思えば、仕事をするってことに対する覚悟が足りなかったんじゃないかなって思えるんだけどね。


 当時は仕事から帰る度にストレスで髪は抜けるわ酒に逃げてぶくぶく太るわ、仕舞いにゃ病気になるわで……あぁ、思い出すだけで落ち込む。止めようこんな話は。


『同情するのであれば、ワタクシの心の安寧の為にもクレームを取り下げて欲しいです』


 だが断る!

 これからモンスターや何かと切った張ったの世界で命を賭けていくんだから、武器は多い方が良いのです!

 済まんが、わりと本気で申し訳ないと思っているがごめんなさいマジ許してください嫌いにならないで下さいボッチは嫌です。

 いや違うそうじゃない。

 チートの話ね。


『では此方から今進呈できるチートスキルを幾つか提案しましょう』


 アッハイ。それでお願いします。


『ではこうなります』



『取得経験値増加』

 戦闘・行動によって取得する経験値にが大幅に上昇する。



『魔法創造』

 自らの想像から、または既存の魔法を組み合わせて新しい魔法を造り出すことができる。



『進化条件解放』

 その種族の進化できる条件を全て解放する。




 何ぞこれ。

 どれもこれも魅力に溢れてやがる。溢れすぎてやがる。全部ほしい。


『無理です。ワタクシの権限では一つが限界です。』


 うっほいマジかよ。

 やっぱり一つかい。

 うーあー、どうすっかなぁ、これから先強くなっていくんだったら『経験値増加』は必須だし、戦術の幅を増やすんだったら『魔法創造』もかなり良い。

 進化先をどん詰まりにしないためにも『進化条件解放』はぜひとも持っておきたい。


 ぐぅ、選ぶのが辛い……!


『ちなみに、今を逃せば今後二度と手に入らないものですので、慎重にお選び下さい。変更は出来ませんので』


 ぐぬぅう!

 此処でしか手に入らないのかァ!

 変更も効かない!

 『進化条件解放』を選んでから速攻で暗記して他のチートを選ぶという考えが浮かんだんだが、見破られていたか。

 わざわざ教えてくれるとか、ベンダーさんマジ天使。


 よし、落ち着け。

 今の俺が異世界で生きていくにおいて、もっとも不足しているのは何だ?


 『経験値増加』、これは【重度修行中毒】でカバー出来る範囲だろう。重複すればとても役立つだろうが、他の二つを捨てるほどじゃない。


  『魔法創造』は、現段階では有用に使うことが出来ない。何故なら俺が使える魔法はまだ一つもないからだ。このままでは元から存在する魔法をわざわざ『魔法創造』で造り出すなんてことになるだろう。正直、微妙。


 では『進化条件解放』か? いや今進化しちゃってるんだよね。せめて進化する前だったら、一も二もなくこれだったんだけど。



 それら全てを踏まえて俺に不足しているもの。それは情報だ。

 情報として欲しいのは『進化条件解放』だね。

 進化の条件の方向性が分かれば、他種族、言ってしまえば、エルカ族の今後の指導方針にもなる。


 うん。指導、続けます。

 急いで帰る必要が無くなったしね。

 この世界のレベルを底上げすることが依頼ならば、今促成栽培している筋肉ガエル達を強化するのが最も手っ取り早いだろう。


 そういう訳で『進化条件解放』でお願いします。ベンダーさん。


『分かりました。では『進化条件解放』のチートを授けます。目が覚めたら《 ステータス 》をご確認下さい』


 色々ありがとうございました。

 ……迷惑かけて、本当にごめんなさい。


『ここまで好き放題するお客様も珍しいです。ワタクシも少々楽しかったので、まぁ、良いですよ。でも、しっかり宣伝よろしくお願いしますよ!』


 うっす、勿論ッス。

 慎んで宣伝役やらせてもらうッス。

 ベンダーさんマジ感謝!


『それでは、またのご愛好お待ちしております! お客様におかれましては、良い旅を!』



 段々と世界が真っ白な光に包まれて、俺の体も意識も、境目がなくなり光の中に溶けていく。


 この感覚は二回目だ。

 あぁ、目が覚めるんだな。


 一回目……、あの時はカサンドラ師匠との別れの時だったっけ。


 そういや、あの時ってリアルタイムで十年経ってたんだよね。


 今回、体感速度的には一日も経ってないんだけど、大丈夫かなぁ……。

 目が覚めたら、エルカ族全員スケルトン化してたりして……。


 ははは、そんなまさかぁ!


 ……。


 早く目覚めなければッ!!




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