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16話 魔改造感染


「今まで訓練をよく耐えた! 今日これより諸君らは無価値なクソムシを卒業し、村の為種の為に戦う戦士となる! 最早我らに恐れるものはなく、最早我らに敵うもの無し! この島の低脳な魔物どもの遺伝子にエルカ族の戦士の戦い方というものを刻み込み、二度とこの地を攻めるなどという愚挙を思い付くことさえ出来ないよう教育してやろうではないか!」


 つい言っちゃったぜ!


 俺が拳を振り上げると、屈強な筋肉の鎧を纏った男達が、強靭な肢体に戦意を漲らせる女達が、風よりも素早く鋭く動けるようになった子供達が、同じく拳を振り上げて言葉にならない叫びをあげた。


 カサンドラ・ブートキャンプ・俺バージョンを始めてから大体二ヶ月くらいです。

 こんなの予想して無かったとです。スケルトンです。


 誰だよエルカ族は筋肉が付かない、力が育たないって言った奴。

 あれじゃないの? 鍛えすぎて縮小しちゃってたんじゃないの?

 某格闘漫画の主人公の腹違いのお兄ちゃんみたいに。

 ステロイドは使ってないんだけどな。

 もはや蛙じゃないよこの人たち。

 怒れる緑の巨人だよ。必殺技でジャンプして小惑星抱えて落ちてくる人だよ。


 男の人達は思わずミスターアンチェインと呼びたくなるような筋肉で覆われ、素手で生木を引き裂くくらい平気でやっちゃうし、女の人達はスパイアクション映画かな? と錯覚するくらいしなやかな動きをして、全身が鞭のようだ。しかも毒性まで手に入れたたらしく、鮮やかな体色となっている。子供達に至っては、初速からトップスピードを叩き出す驚異の脚力を獲得し、本気で跳ね回られると目で追えない。


 嘘みたいだろ、エルカ族なんだぜ、これ。


 なんかね、カサンドラ・ブートキャンプがすごく体に合ったようです。

 エルカ族達は強くなりたいという思いがあっても具体的にどのようになりたいのかイメージが固まって無かった様なのだ。

 だから、男性チームと女性チームと子供達チームに分けて、俺とのエクストラ鬼ごっこでの役割を決めさせました。


 男性チームは体を張って俺を足止めし、他のチームが少しでも逃げられるように時間を稼ぎ、女性チームは分散し翻弄し俺に狙いを付けさせない。子供達チームはひたすら逃げる。


 自分達の役割を認識してからもう実力が伸びる伸びる。

 俺も悪ノリしてより特化できるようにメニュー組んじゃったもんだから、余計にヒートアップしちゃって、骨格から変形してるレベルで強くなっていった。

 各チーム内でもいい意味で競い合うようになり、筋肉はどんどん膨れ上がり、しなやかさに磨きが掛かり、瞬発力が跳ね上がっていったのだ。


 もう以前のエルカ族を知る人がここを訪ねてきても、同じ種族がいると気付かないだろうな。

 謎の筋肉族がエルカ族を攻め滅ぼしたと思うかもしれん。


 でもね、俺の所為じゃないと思うんだ。

 だって俺が関わったの二ヶ月くらいですよ?

 それで何が変わるってのよ?

 エルカ族はもともとこうなる素質があったんだよ。

 言うなればサ○ギマン。

 俺はそれを突付いて羽化を早めてしまったいたずらっ子みたいなもんだよ。


 筋トレする度に盛り上がっていく胸板を見せられる気持ちが分かるかい?

 こっちがずっと欲しかった筋肉がもりもり成長していく様を見せつけられる骨の気持ちが?

 もはや訴えるよ。訴えて勝つよ。


 この悪夢の大改造にヤディカちゃんは巻き込まれなかった。

 毒のことがあるので、基本的に洞穴付近で鍛練を積んでいたのだ。

 俺も毎日洞穴に帰ってきているので、成果を見るのもすぐに出来る。

 もうね、ヤディカちゃんだけが俺の癒し。

 蹴り一発で薪を数本まとめて破砕するお姉さんや、踏み込みの速度だけで空中を跳ぶ子供じゃ癒されないのよ。

 変わらない貴女でいて欲しい。


「ほっほっほ、今日でカサンドラ殿との訓練も終わりと思うと寂しいですなぁ」


 地面を踏みしめるように筋肉の塊が俺に接近してくる。

 これ、村長です。

 やり過ぎなボディービルダーみたいになってるけど、村長なんです。

 近くに来るだけでむわり、と雄臭い獣臭が漂い、空気が闘気に熱せられて歪むかのようだ。


 因みに、名前を聞かれたのでカサンドラ師匠の名前を名乗りました。

 ガワが師匠のものだからね。

 もし万が一肉を取り戻すようなことがあったら、照彦じゃあオカシイからね。


「少し驚いている。ここまで強くなるとは」


 やっちまった感が半端ねぇぜ!

 なんかミッシングリンクでも繋げちゃったの?

 もう明らかに進化してるよね。


「師匠、これより我らはこの村を拠点とし、この森を一族安寧の場とするための闘争を始めようと思います」

「エルカ族を強くするという依頼は果たせたかな?」

「無論、期待以上のものでございました」


 村長は自分の腕に力こぶを作り、にやりと笑った。男臭い、雄々しい笑みだった。

 彼の後ろには屈強な男達が並んでいる。

 村長の息子だという一際筋肉の引き締まった男が、ぺこりと頭を下げた。


「我らエルカ族に力を与えて下さり、感謝の言葉もありません」

「私が与えたんじゃない。自分達で掴み取ったのだろう」


 ちょっと、俺の所為にしないでください。

 事実無根です。無実です。


「ふふふ、ついに始まるのね! 私達の闘争が!」

「へっへっへ、俺様の筋肉が歓喜で奮えてるぜぇ!」

「あはは、おじちゃんもおばちゃんも遅かったら置いていくからね?」


 ギラついた戦意を滾らせながら、エルカ族達が笑う。

 なんかもう、コイツら誰?


 戦闘訓練は組み手やチーム対抗戦という形で何度も行っている。

 男女子供混合で班編成し、狩りなども行わせてみた。

 あとは実践でどれだけ動けるかだ。


 そんな彼らの《ステータス》は既に化け物クラスとなっている。



エルカ族一般男性

《ステータス》

名前:ルマダ・エルカ(一例)

種族:蛙巨人種/エルカ族

Lv.12

HP:240/240

MP:60/60

SP:300/300

攻撃力:380

防御力:500

素早さ:110


◇スキル

『水陸棲』『水泳』『風読み』『農耕』『豪腕』『業躯』『堅固』『跳躍』

『水魔法』『強化魔法』

『水耐性』『毒耐性』『恐怖耐性』



◇称号

【守り人】【修行中毒】【肉の盾】




 エルカ族一般女性

《ステータス》

名前:マーガ・エルカ(一例)

種族:毒蛙人種/エルカ族

Lv.10

HP:80/80

MP:150/150

SP:200/200

攻撃力:230

防御力:150

素早さ:280


◇スキル

『水陸棲』『水泳』『風読み』『農耕』『跳躍』『回避』『軽業』『隠形』『消音』

『水魔法』『強化魔法』『毒精製』『麻痺強化』『睡眠強化』

『毒無効』『水耐性』『麻痺耐性』『睡眠耐性』『恐怖耐性』



◇称号

【翻弄する者】【修行中毒】【毒使い】




エルカ族一般の子供

《ステータス》

名前:エミナ・エルカ(一例)

種族:蛙人種/エルカ族

Lv.10

HP:50/50

MP:30/30

SP:80/80

攻撃力:50

防御力:40

素早さ:400


◇スキル

『水陸棲』『水泳』『風読み』『農耕』『短刀術』『跳躍』『瞬身』『念話』

『水魔法』『強化魔法』

『水耐性』『毒耐性』『恐怖耐性』



◇称号

【修行中毒】【神速】


〈 進化待機中です 〉





 ええい、エルカ族は化け物か!?

 エルカ族の集落はせいぜいが百人程度の小さな集まりだ。

 だが、この《 ステータス 》を持つ者達が百人もいると考えると、もう笑うしかない。

 子供以外は蛙人の種族の壁を突破する勢いで成長し、進化してしまっている。

 敵対行動とか取った瞬間に叩き潰されますわ。間違いない。


 子供達だけは進化に待ったをかけたけどね。

 安易に決めてはなりません。

 親御さんとよくよく相談の上、進化先を決めるのです。


 エルカ族の中では進化を成人の儀式にしようという意見も出ていた。

 そこら辺は好きにやってくれたまえ。



 こんな彼らを特訓していたんだから、俺も充分恩恵を受けていて、《ステータス》が大分上がりました。スキルも結構ゲット出来ています。

 ぬっふっふ、今ならあの赤角熊にも負ける気がしないわ!

 もう絶対に油断しないけどね!





《ステータス》

名前:カサンドラ・ヴォルテッラ/菅野 照彦

種族:スケルトン

Lv.10

HP:360/360

MP:600/600

SP:500/500

攻撃力:360+72

防御力:120

素早さ:1800


◇スキル

『不死属性』『魔力自在』『千思万考』『骨融合』『無手の天才』『足掻く』『下級鑑定』『言語理解』『覗き見』『威圧』

『幸運』『根性』『無茶』『剽悍無比』『豪腕』『物理抵抗(小)』『HP自動回復(微)』『念話』『指導者』

『威圧耐性』『恐怖耐性』『毒無効』『麻痺無効』『睡眠無効』



◇称号

【転生者】【重度修行中毒】【融合魔獣】【ユニークファイター】【教え導く者】【恐怖の体現者】


〈 進化待機中です 〉




 そして当然、ヤディカちゃんもかなり強くなっている。




《ステータス》

名前:ヤディカ・エルカ

種族:猛毒蛙人種/エルカ族

Lv.12

HP:250/250

MP:330/330

SP:420/420

攻撃力:210

防御力:110

素早さ:420


◇スキル

『水陸棲』『水泳』『風読み』『跳躍』『瞬身』『回避』『軽業』『隠形』『消音』『気配遮断』『念話』

『水魔法』『毒魔法』『複合毒精製』『薬精製』『致死毒』『毒血』『毒性強化』『薬効強化』

『水耐性』『毒無効』『麻痺無効』『睡眠耐性』



◇称号

【毒殺者】【暗殺者】【守り人】【調合職人】【神速】【モンスターキラー】




 もうね、新しいスキルや称号が増えて把握しきれない。

 何となく意味は分かるから、暇なときに『下級鑑定』かければいいや。


 エルカ族の皆さんは俺が出撃命令を出すのを待っている。

 手に入れた力を存分に振るって暴れたいのだろう。

 ちょっと調子に乗ってる感じもするからなぁ、危なっかしい気がするんだけどなぁ。

 まぁ、狩りや集団戦闘の経験も積ませたから無茶はしないと思うし、馬鹿やる奴がいても止めてくれるだろう。

 手に入れた力に酔えば、俺みたいに失敗するからね。

 手痛い失敗で済めばいいけど、最悪死んでしまうんだから。


「諸君。諸君らは強くなった。疑いようもなく強い。だが忘れるな。その力はただ仲間のために振るわれるものであるということを。諸君らの隣に立つ友の為にこの力は使われる。誇りを持って戦え。誇り無くば我ら獣と同じ。誇りこそ力持つ我らを人足らしめるものなのだ」


「「「イエス!マム!!」」」


「ならば我らエルカ族の戦いを始めよう! 脆弱な亜人と見縊る魔物どもに毒と拳を以て教授してやろう! この森の支配者が誰であるかを!!」


「「「うぉおおおおおおおおお!!!」」」


「さぁ諸君。闘争の時間だ!」



 解き放たれた矢のようにエルカ族達が森へ突撃して行った。

 ふぅ、これで一先ずミッションコンプリートかな?

 島の魔物を減らして人間側に好印象を与えるっていう作戦も、強化エルカ族のお陰で予定よりも早く達成できそうだし、苦労した甲斐があったね!


 一人で仕事をやり遂げた感慨に浸っていると、突然後ろから声がした。


「ずいぶん、乗ってたね」

「……ヤディカ。君は行かなかったのか」

「うん、あたしは此処を守るのが、仕事」

「そうか。偉いな」


 ヤディカちゃん、いつの間に……。

 最近、スキルの訓練の為だと『消音』や『気配遮断』を常に使用しているようで、気が付くとヤディカちゃんが背後に居たりする。

 結構ビビるから、出来ればやめて欲しいわ。

 

 まぁ、俺が気づいていない時の若干得意そうな顔が可愛いから許すけどね!


 他のエルカ族の面々が『毒耐性』や『毒無効』を取得したので、今ではヤディカちゃんも自由に村に出入りできるようになった。

 これね、大事。

 エルカ族達に修行つけて何が一番良かったかって、村に来られるようになったと分かった時の嬉しそうなヤディカちゃんの顔を見られたことですよ!


 流石に殺傷力の桁が一回り以上違う猛毒を持つヤディカちゃんが村にずっと居ることはまだ不可能だが、今後のエルカ族の皆さんの頑張り次第では実現も遠くない未来なのではないかと思う。


「カサンドラは、行かないの?」


 む、まだ俺の、っていうか師匠の名前は呼び慣れないかね。

 ぎこちなく名前を呼ぶヤディカちゃん可愛い。


「私は行かないな。今回は彼らの順番だ」

「じゃあ、一緒にお留守番、だね」

「あぁ。そうだな」


 くぁあ! 一緒にお留守番だって、一緒にお留守番だって!

 こんな可愛い女の子からのお誘い!

 もうおねーさん舞い上がっちゃうよ!

 コミュ障拗らせてぼそぼそ喋る骨じゃなければ踊り狂ってるよ!


 ふふふ、じゃあ一緒にお料理とかするかい?

 ヤディカちゃんがやりたい遊びでもいいよ?

 自由な時間を好きに過ごそうぜい!


 あ、警戒中だからやりませんか、そうですか。

 なんかテンション上がっちゃってすいません。


 ……ヤディカちゃんの方がよっぽど大人っすね。

 おねーさん、大人しくスキルや称号のチェックでもしてます。ぐすん。




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