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15話 カサンドラ・ブート・キャンプ




 そんなこんなで絶賛格闘技指導中のスケルトンさんじゅうななさい。


 と言っても俺はたかだか十年程度基礎を鍛えただけ。

 そりゃあ今まで戦うことを避けてきたエルカ族の皆さんよりかは強いでしょうが、武に身を捧げた偉大なる先人様方に比べればまだ孵化もしてないイモムシみたいなもの。

 俺がモンスターを倒せたのは偏にスキルという絶対的な優位と魔力による想像力の実現があったに過ぎない。


 そう、重要なのはスキルなのだ。

 ここが現実である以上、異様な非現実感をもったスキルは実に胡散臭い。

 全ての黒幕がスキルを広め己の都合のいいように支配していたのだぁ、という話はたっぷり読んだ。

 こっちにも是非居て欲しいものだ。

 スキルを全部取られた極限状態で殴り合う。それもまた良し。


 なんだか最近の思考が大体修行か殴り愛だな。

 俺はもとの世界じゃそんなキャラじゃ無かったんだけど、戻った後も順応出来るのかしらん?

 たぶん師匠の体を使ってる所為だな。あの人呼吸をするような自然さで戦いに身を置いてるからな。

 人間の住むサンタナ大陸ではつい最近まで戦争が頻繁に起こっていたそうだから、戦場には事欠かなかったようだ。

 おかげで一般常識やコミュニケーション能力が錆び付いてるなんてレベルじゃねぇぞ! って感じだけど。


 とにかく、短期間で強くなるならスキルを習得するしかないのである。

 よいかねエルカ族の紳士淑女諸君。

 我々はこれより基本的な体の動かし方を学びながら戦闘向けスキルを習得するという二足のわらじを履く。

 覚悟のないヤツは置いていくのであーる!


 さて、ちょっと失礼してエルカ族の一般男性の《ステータス》をば見せてもらいますかね。

 ほい、『覗き見』っと。




《ステータス》

名前:ルマダ・エルカ

種族:蛙人種/エルカ族

Lv.3

HP:20/20

MP:20/20

SP:50/50

攻撃力:15

防御力:10

素早さ:30


◇スキル

『水陸棲』『水泳』『風読み』『農耕』『水魔法』

『水耐性』




 《ステータス》は決して高くないが、レベル3の時点では同レベルのスケルトンには負けないだろうなぁ。

 俺も貧弱だったし。

 注目すべきは『水魔法』だ。

 魔法ですよ魔法!

 魔力じゃなくて、魔力じゃなくて!


 俺が魔力筋とか魔力骨とか言って使ってたのはやっぱり普通の魔法じゃないらしい。

 魔力とは言わばガソリン。そのままでももちろん使えるが、コストパフォーマンスは非常に悪い。

 大昔はそのまま使っていたらしいが、どうやら魔力には発展性が有るということで、じゃあ色んなものに加工してみましょう、といって出来たものが魔法になったとのこと。


 魔法も極めれば星と星の間を行き来したり、別の世界への扉を繋いだり出来るらしい。

 ……理論上は。


 エルカ族の『水魔法』だが、攻撃としてはまったく使えなかった。

 というよりも、誰も彼もそこまで魔法全体に素養が無いようだった。

 出来て精々が、体の表面を湿らせて快適に保つ、とか、体内の調子を整えて二日酔いを治す、といった程度のものだった。

 これ、人間なら8~10才で出来るそうです。

 マジかよスペック高いな人間。

 あ、俺も人間だったわ。いやー、悪いね勝ち組で。

 ちょっと今、事情があって骨やってるけど、本当は人間だから。


 さて、そんなエルカ族さん達をどうやって鍛えるか、という話になります。


 前衛戦士タイプ?

 いや、基本的に体の細いエルカ族は筋肉も相応に付き辛いだろう。剣や鎧、盾などの材料も安定して手に入る当てがない。

 それに、種族的に熱に弱いらしいので鍛冶仕事も不可能だ。

 俺も鍛冶スキルは無いしね。


 後衛魔法使いタイプ?

 そもそも僅かな適正しか無いって話よ。

 肌がしっとりする魔法でモンスターやっつけられるなら苦労はしないぜ。

 唯一魔法の適正が高いおばばがいたが、治癒専門らしい。これも無理。


 遊撃・暗殺タイプ?

 正直、ここにしか目がないだろう。

 エルカ族の手足の指の先には吸盤があり、足場が不安定でも体を支えられる。装備も軽くすれば筋力低くても動きを阻害しないだろうし、体捌き程度ならば多少教えられる。


 ですが問題点はまだまだ有りますよー。


 まずスキルの少なさ。遊撃・暗殺ならば索敵や感知は必須だが、エルカ族達は総じて不馴れで感覚も並みかそれより下程度。


 装備の不十分さ。敵に見つからず仕留めるのであれば技術もそうだが装備も適したものを揃えたい。だが彼らは基本的に農民。武器になるもの? 鋤きとか鍬の話? って感じ。 あと草刈り鎌が有るくらい。


 何より体の脆弱さ。防御力という点では普通の人間と比べて特別弱いわけではない。だが乾燥に極端に弱いという性質は、陸上での活動時間を大幅に制限している。


 すまない、お手上げだ。

 はっきり言ってしまうと、こんな弱点だらけの種族がどうやって今まで生きてきたの!? という気持ちです。


 ですが、投げ出すわけにもいかない。

 何故ならこのカサンドラ・ブートキャンプ・俺バージョンにはヤディカちゃんも参加しているからです。

 まぁ、ヤディカちゃんは流石に戦士を自称するだけあってエルカ族一般男性より遥かに強いんだけど。

 ヤディカちゃんの《 ステータス 》はこんな感じでした。




《ステータス》

名前:ヤディカ・エルカ

種族:毒蛙人種/エルカ族

Lv.3

HP:50/50

MP:50/50

SP:120/120

攻撃力:20

防御力:55

素早さ:40


◇スキル

『水陸棲』『水泳』『風読み』『水魔法』『毒精製』『致死毒』『毒血』『跳躍』

『水耐性』『毒無効』



◇称号

【毒殺者】【守り人】




 何が凄いって毒関係の充実っぷりだよ。

 『致死毒』この字面が怖すぎる。

 ヤディカちゃんには他の皆さんとは別メニューで体を鍛えて貰うことにしよう。

 頑張って汗でもかいちゃったら大惨事だしね。


 だから、皆とはちょっと変わっちゃうからねー、ごめんねー的なことを遠回しに伝えたら、ヤディカちゃんはこくりと頷いてくれました。

 自分の毒による被害がちょっとでも減るように、普段から村には近付かないようにしているらしい。

 ヤディカちゃんマジ健気。


 ヤディカちゃんも頑張ってるんだ。俺も頑張ろう。

 エルカ族の皆さん。

 まずは体を鍛える所から始めようか?

 何? 筋肉が付き辛い? 鍛えるのは無駄が多いのでは? と。

 ふむ。一理ありますな。

 私も今それで止めようかと思っていたところだったのですから。

 ですがね、それは“ 逃げ ”です。


「骸骨さん、鍛えてくれるあんたに口答えする積もりはないが、我々は基本的に争い事に向いていない。自衛の手段だけでいいんだ、こう、言っては何だが、手軽な……」


 手軽と申したか。

 ほほう、鍛えるということを舐めていますな?

 なるほどなるほど。体の前にまずは心だったか。


「言い訳してるのではないか?」

「な、え、いや、そういう訳では、なぁ? みんなもそう思うよなぁ?」

「自分には出来ない、そう思っているのではないか?」

「――――!」


 困ったなぁ、と薄ら笑いを浮かべていたエルカ族達の顔が凍った。

 彼らもまた、諦めていたのだ。

 自分達は絶対的な弱者であるという信念にも似た開き直り。

 そうしてこの現状を耐えていたのだ。

 だが、その心は燻っているはずだ。

 強くなりたいと切望したことがあったはずだ。


「おい昔を思い出せよ! 私だってこの骨しかない体のままで筋肉つけて頑張っているぞ!」

「――ッ我々だって強くなりたいと思っていたさ! でも無理だったんだ! 体を鍛えても力の付かない自分に絶望した覚えがあるヤツはこの中に何人も居る! 」


 先程俺に意見してきた男が堪り兼ねたように叫んだ。

 あぁ、分かるよ。

 全部は無理かもしれないけど、分かる。

 強くなりたいのになれない悔しさ、辛さは俺も知ってるんだ。


「スケルトンのあなたは、弱いままで強者に勝てる術が有るんでしょう? それを教えて頂きたいのですよ!」

「自分が信じられないのか」


 そういう時って、自分が嫌いになるよね。

 それでも楽に楽に逃げてしまうんだよね。


「ならば私を信じろ。自分を無理に信じなくてもいい。お前達を信じている私を信じろ!」


 熱い! 熱いセリフだぜ!

 俺も兄貴のようにカッコ良く生きたい!

 そう、あの兄貴のように、俺があんた達を背負ってやる。

 一緒に強くなろうぜ!

 テンション上がってきた。早速始めようか。

 カサンドラ・ブートキャンプ・俺バージョン!

 まずはレッスン1だ。

 ちょっと死んでみようか。





◆◆◆





 俺はルマダ・エルカ。

 エルカ族の極々一般的な成人男性だ。

 ちょっと他とは違うところを挙げるとすれば、村長の息子という所か。

 エルカ族は自分で言うのもなんだが、穏やかな種族で、多種族との交流を避けつつ、陸上と水中で畑作をしながらひっそりと暮らしている。


 だがここは人間よりも頑強である亜人種にとっても生きていくのに困難なジュリアマリア島。

 モンスターの跳梁する魔境だ。

 村がモンスターに襲われれば、温厚なエルカ族でも牙を剥く。毒付きの鋭い牙を。


 先日もホッピングモンキーの大群に襲われたのだが、エルカ族の戦士であるヤディカと、その食客だというスケルトンが一匹残らず退治してくれたのだ。


 だが、現状を良しとしない者達もいる。

 まだ幼いヤディカに村を守るという厳しい役目を負わせるのは心苦しい、自分達にも出来ることはないか、ということだそうだ。


 間違った感性ではないが、これまでずっと毒持ちが村を守って来たのだ。

 ヤディカだけ役目を免除する訳にはいかない。


 それでもヤディカの父親を筆頭とした連中は引こうとしない。

 もう面倒くさいので、だったらあのスケルトンに手っ取り早く強くなる方法を伝授してもらうといい、と言ってやった。

 口約束だが、訓練を付けて貰いたいと話し、了承してもらっている。


 そいつらは強くなれる当てがあると村中に片っ端から声をかけ、他の村人まで巻き込んでいってしまった。

 何とも、後先考えない連中だ。


 エルカ族よりも弱いはずのスケルトンに教えを乞うという話なのに、多くの仲間が集まってしまい、俺は監督者として参加せざるを得なくなってしまった。




 純粋に体を鍛えると言われて、声をかけまくった奴等は焦っていた。

 動じていないのはヤディカの父親だけか。

 なるほど、こうして見ると覚悟の有る無しがハッキリ分かるな。


 スケルトンはすり替え論のような激励を行い、これから訓練を始めると宣言した。

 ただただ思いの強さだけが先走ったような言葉だったが、思いの外心に響いたな。

 俺も、まだ諦めきれていなかったということか。

 他の奴等もやる気に充分油を注いでもらったようだ。

 さて、どれだけ強くなれるのか、まずはこの訓練を乗りきってみようか。


 何?

 聞き間違いか?

 死んでみよう、だと? いや、まて、無理だ、止めろ! これは、死…………。


 ぐぁああああああああああああああああああ!





◆◆◆




 レッスンの内容と開始を告げてから、村は阿鼻叫喚となった。

 亜人ではなく、最早ただの追い詰められた獲物のように狂奔していく。


 うんうん。まずは今ある価値観を壊していかないとね!

 老人や幼すぎる子供を除いた、村の殆どの人が集まってくれたんだから、雑兵にするつもりで接したら可哀想だ。

 皆で仲良く精兵になりましょう!


 俺はろくな知識がないので、「貴様らはクソムシだ! 口からクソ垂れる前と後には“ サー ”を付けろ!」とかはやれない。

 そういう意味では君たちを強くは出来ないんだ、すまない。

 戦闘民族になりたかったよね?

 それ、来月からなんですよ。


 俺が出来ることと言ったら“ 修行たのしいイヤッッフゥウウウイ!! ”っていう性格に魔改造するくらいだよ。

 でもね、そうなるともう筋肉付くとか付かないじゃなくなるから。

 ただもう鍛えるために鍛えるようになるから。

 手段と目的が逆転しちゃうから。

 ね、強くなれるよ!


 大事なのは、脳内麻薬のコントロールです。

 あの感覚が分かれば大丈夫!

 いくらでも修行出来るようになるからね!

 そうやって体を創り変える勢いで鍛えた格闘漫画の主人公もいたし、間違ってないね!

 あぁ、偉大かな日本の漫画。

 前例があるからこそ日本人は安心して考え、行動することが出来るのです。


 さて、エルカ族の皆さん。

 覚悟してくださいね?

 大丈夫! カサンドラ印の修行法だよ!

 個人的な目標は、谷底にフリーダイブするよりも生命の危機を感じさせること。

 いつでも自分ルールがあれば修行になるのさ!


 でもちゃんと集中に集中を重ねれば怪我を防ぐくらいは出来るくらいにしておこう。

 恐怖しかなくてもう止めるとか駄々捏ねられても困るしね。


 でも、強くなることを求めた以上、崖から落ちるように強くなってもらいます。

 途中リタイアは許しませんので、そのつもりで。


 強化されたステータスにものを言わせて走る。

 『剽悍無比』スゲェ! 世界が変わって見えるぜ!


 どうしたどうしたー? 追い付いちゃうぞー。

 ほーら捕まえた。

 さぁ、悪い子はしまっちゃおうねー。


「ひぃ! 許してください!」


 捕まっちゃったら、怖い思いをしてもらおうかな?

 ふふふ、安心して、ただの他界他界……もとい高い高いだよ。


「吩ッ!」


 湖に向けてぶん投げる。

 毒が溜まってない場所に投げているから、死にはしないでしょ。

 全身水面に打ち付けて死ぬほど痛いかも知れないけど。


「あばばばば! 無理無理いいいいいいいィイ!」

「打ッ!」

「まて、無理だ、止めろ! これは、死…………ぐぁああああああああああああああああああ!」

「勢ッ!」

「お父さんお父さん助けて骨が来るよほらすぐそこにああああああああああ!」

「邪ッ!」




 うむ! 大分投げたね!

 湖の上は正しく死屍累々。

 夏の海岸の海月祭のような有り様だ。

 皆気持ち良く臨死出来たかな?

 さぁ! 今度はその感覚を忘れないうちに筋肉を鍛えてみよう!

 え? 辛すぎるって?

 ハッハー! ご冗談を! 騙されやすいスケルトンをからかっているんだね!

 お前それ師匠の前でも同じこと言えんの?


 本場のカサンドラ・ブートキャンプに比べればこれくらいソフトソフト。あれは臨死から本番どころか死んでからがスタートラインだから。

 師匠、俺の体を参考にして教える際の手加減とか学んでたから。

 師匠が手加減をマスターする頃には骨の髄までその技術が染み込んでいるという不思議。


 でも飛び付いて首の骨折るとか、両足を虎の顎に見立てて頭を挟んで蹴りあげるとか、思いっきり縦回転して勢い付けてから肘叩き込んでくるとか、やる前に分かるよね、と言いたかった。


 あぁいけない、あの地獄を思い出してしまう。

 忘れよう、忘れるんだ。


 ほら、君たちをも筋肉を鍛えたまえ。

 俺も魔力筋で一緒に付き合うからさ。




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