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13話 涙



 『骨融合』で合体した脚は正しくイノシシ。

 頑強で突っ込むことにおいては凄まじい力を発揮している。

 ふふふ、その骨を持っていたモンスターの特性を引き継げるとか、俺の可能性がまた広がってしまったな。

 これでヤディカちゃんの所に行けるぜ!


 しかし、まぁ、あれだ。

 1つ上手く行くと、何かしら上手くいかないことがあるもので……。


 困ったことが1つ。

 簡単に止まれないのです。

 将棋の駒で例えるなら香車。しかも成れない。

 脇目も振らず突進するしかない状態。


 足がね、止まんないのよ。勝手に動いてるんだよ。

 自分の足が勝手に動くとか気持ち悪い。

 恐らく『猛進』というスキルが関係していると思われる。

 SPの減りは微々たるもんだから焦りはあんまり無いんだけどね。


 ハッ!?

 イノシシを殺して奪った骨だから、○タリガミの呪いまで引き継いでしまったのか!?

 やばい、シシ○ミ様に首を返さないと呪いのアザが全身に広がって死んでしまう!

 …………生きろ、そなたは美しい……。


 いや遊んでないでどうにか止める方法を考えないと、ちょっとマズい。

 目の前には村らしきものが見えてきている。

 あれたぶん目的地でしょ。

 いやー、適当に走り出した足が止まんなかった時はどうしたもんかと思ったけど、辿り着けるもんだねぇ。

 うん、このままだと駆け抜けちゃうんだけどね。


 止まる方法は一応有るんだけどなぁ……。

 壁にぶつかるとか、木にぶつかるとか。

 でもそれって絶対ダメージを負うよなぁ。


 迷っているうちに村に突撃。

 ん? 目の前で倒れているのはヤディカちゃん!? それになんだ、あのデカイモンスターは!?

 赤角熊には劣るが、あれも結構なプレッシャーを放っている。

 群れのリーダーみたいなヤツか。

 ここら辺もなかなか危ないんだなぁ。


 馬鹿デカいゴリラがヤディカちゃんに向かって拳を振り上げた。

 ふっ、だがそんなトロい攻撃など……。

 うぉおい! ヤディカちゃん何で逃げないの!?

 足を怪我してるのか?

 だからってなんで死を受け入れるみたいな顔をしてんの!

 ダメダメダメ諦めたら! もっと周りのこと思ってみろって君のこと応援してくれる人のことを! だからこそ、ネバーギブアップ!!


 炎の化身を心に纏い、俺は地を蹴った。

 『猛進』で充分すぎる加速を得ていた骨の体は、重量差をものともせず巨大ゴリラの横っ腹を蹴り飛ばす。


「グラァアアアア!?」


 手応え充分。いや、この場合は足応えか。

 あばら骨、2~3本は頂きました。

 でも仕留めきれなかったかぁ。

 師匠にバレたら俺が折れなかった分のあばらを折られそうだな。


 ふふん、ゴリラめ、驚いているな。

 まさかこんなタイミングで横槍が入るなんて思わなかったんだろう。

 俺も狙ったわけじゃあないんだぜ!

 だけどなんだか凄い狙ったみたいになってしまったな。

 ヤディカちゃん、あれだよ?

 君のピンチを待っていた訳じゃないよ?

 出来るならすぐに助けに来たかったんだよ?


 振り向くと、ヤディカちゃんは夢でも見ているかのような顔をしてこちらを見上げていた。


 ……身体中、酷い傷だ。

 綺麗な赤い肌にはアザがいくつも浮かび、片腕と片足ががあらぬ方向に曲がっている。

 辺りは毒液と猿の死体で溢れ返っていた。

 こんなになるまでヤディカちゃんは戦ったんだ。

 くそ、本当に、なんでもっと早く来れなかったんだよ!

 こんなちっちゃい子を一人で戦わせて、この村の奴らは何やってんだ!

 モンスターどもめ、寄って集って女の子を襲うなんて恥も外聞もない奴らめ!

 俺も、村の奴らも、モンスターどもも、みんな馬鹿野郎だ!

 クソザルめ、テメェは俺を怒らせた。

 久しぶりにキレちまったよ……。

 俺はお前に敵対する。

 裁くのはこの俺の拳だ!!


 だけどまずは、ヤディカちゃんに俺が敵じゃないって分かってもらわないとな。

 ヤディカちゃんは足がある俺を知らないし、いきなり野生のスケルトンが乱入してきたと思われたら困る。

 だから伝えよう。



「ヤディカちゃん、君を――――」



 時を越えた先で一人の少女の窮地に間に合うことが出来た男のように。

 救いを求める声に手が届いた喜びと、必ず守る決意を乗せて。





「――――君を、助けに来た!」





◆◆◆




「グラァア!」


 俺の蹴りでぶっ倒れていた巨大ゴリラが一声吠えて飛び起きた。

 おーおー、元気満々じゃねぇか。

 だけどな、こちとらドタマにキテるんだよ。血管キレたぜ!

 お前らモンスターにどんな事情があってこの村を襲ったのか知らないが、お前は俺を助けてくれた女の子を殺そうとした。

 あなた、覚悟して来ているモンスターですよね?

 人を襲うってことは逆襲されるかもしれないという危険を常に覚悟して来ているモンスターってことですよね?


 『魔力自在』で魔力筋を作り出し装着。

 更に欠損した左腕の骨と筋肉を擬似的に構成。

 『千思万考』にて戦術サポート開始。

 迎撃体勢は整った。


「グラァアアアア!!」


 巨大ゴリラは両手を組み合わせハンマーのように叩き付けてきた。

 体格、重量、自分の利点を活かした油断のない攻撃。

 受けることはできない。例えイノシシと『骨融合』した足でもまともに受ければ砕かれる。

 だが、『千思万考』をかけている俺にはあくびが出るほど襲い。


「ふッ!」


 短く息を吐き、敵の懐へ。

 回転と螺旋の動きで力を受け流す。


「激流に身を任せ同化する……」


 巨大ゴリラに言っても理解できないだろうがね。

 カサンドラ師匠との特訓の中で、俺は幾つもの漫画の技を訓練していた。

 そもそもカサンドラ師匠の武術に型はない。

 膨大な基礎を積み重ねた果てに最適化された動きを本能と狂気で振るえ、的なことしか言われてない。

 要は技が欲しけりゃ自分で作れ、ということらしい。なんじゃそれ。

 それって一部の天才しか出来ないんじゃない、と思ったけど、時間だけはたっぷり使えた。

 また師匠も面白がって漫画の技の特訓に付き合ってくれたりするのだ。

 曰く、今までになかった視点から動きが作れる、だそうだ。

 

 漫画やゲームしか趣味がなかった俺の無駄多い知識が実を結んだ。こんなに嬉しいことはない……!

 師匠も漫画やゲームの話に興味津々だったしね。

 修業の後半は大体技の再現訓練になっていた程だ。


 どこかの地上最強の弟子のようにスパルタで達人な師匠に魔改造に近い修練を繰り返し繰り返し繰り返され、何度も死にながら――魂状態なのですぐに復活できる――俺は遂に漫画の中でしか見ることの出来なかった技達の再現に成功したのだった。


「グラォオオアア!」


 巨大ゴリラは俺が近付いてくるのを好都合と見たのか、やたらめったら拳を突き込んでくる。

 図体がデカい割りには拳の回転率がいい。

 やっぱ筋肉が違うんだよなぁ。魂では引き締まったムキムキになれたんだけどなぁ、あぁ、筋肉欲しい。魔力じゃなくて、ナマモノの。


 殺到する拳をいなす。避ける。躱す。

 数打ちゃ当たると暴れる獣には、相手の攻撃を流すことに特化した回転体術を捉えることはできないぜ。

 回転体術はただの回避じゃない。防御でもあり、次の攻撃に繋げる移動でもあるのだ。


「そして次――……敵の身体そのものを盾とする」


 多くの巨大な敵と戦い続けた銃で夢な少女の戦闘術。

 それを俺はできる限り身に付けた。

 モンスターと戦う以上、体格に大きな差がある場合が多そうだしね。

 ファンタジー世界に転生してるのにソースはSF漫画というチャンポン具合。

 サイボーグやぶっ飛び技術を活かした殴りあい、至高じゃないですか。至高じゃないですか!

 まぁ、魔力で再現できそうだし、ぶっ飛び技術っていう意味ではファンタジーもSFも大差はいないからね!

 いつか俺も反物質拳やブラックホール拳を修得してみせる!

 目指せ! 拳ひとつで惑星破壊!

 つまり何が言いたいかと言うと、自分より巨大な相手との戦闘など、俺はすでに――イメージトレーニングで――乗り越えているッ! ということだ!


「グ、グラァ!?」


 ゴリラめ、ビビってるのか。

 既にここは俺の間合い。

 身を擦り合わすような接近戦は体験したことがないだろう?

 あまりに隔絶した体格差ってのは有利にも不利にもなるんだよ。

 だがもう油断はしない。

 窮鼠猫を噛む、という。俺の相手は窮鼠どころじゃない。

 赤角熊の二の舞は御免だ。一切の反撃を許さず、全力で決めさせてもらう!


 踏み込んだ足から腰、背中、腕の先へ力を無駄なく流し、僅かな動作で最大威力を捻り出す。

 狙いは膝。

 左手は添えるだけ。

 その上から右手を叩き込む。

 デカイ奴を倒すには末端を攻撃するのがセオリー。

 最短距離から最大弱点への攻撃!


「カァッ!」

「グゥルァア!」


 

 中国拳法で言うところの寸剄。さらに浸透剄を重ねて杭のように打ち込む。

 剄を魔力で代用したモドキだけどね。

 ぶちこんだのは一発。だが衝撃は一回じゃない。頑丈な鎧甲冑を着た武者の心臓を止める打ち方ってのが日本にはあるんだよ。

 

 手に伝わるゴリラの膝を砕いた感触。

 リアル骨伝導です。

 剄に貫かれる痛みで苦痛の呻きを上げる巨大ゴリラ。

 だがこれは繋ぎ、次で終わりだ。

 膝を剄で打ち抜かれて体勢を崩したゴリラは隙だらけ。

 下げた頭は切り落としてくれって言ってるようなもんだ。


 『魔力自在』で右手に魔力を集中。圧縮し、薄く伸ばす。更に性質付与“ 硬化 ”

 俺の右手は擬似的な刀剣と化す。

 絶対に折れず、限りなく薄く鋭利な聖剣へと。


 大魔王のカラミティな終わりやビールとソーセージの国的な赤い雨もいいけど、俺はやっぱり手刀といえばコレだぜ!


「受けよ、聖剣エクスカリバー!!」


 全力で振り抜いた。


 強靭な毛も、分厚い筋肉も、頑強な骨も、一切抵抗できず、すぱり、と斬れる。

 聖剣エクスカリバーの名は伊達じゃない。


 ふふふ、これは修行中、奥義として師匠にパクられる程の技なのだ。

 単純にして明解。それでいて威力は強大。自分の魔力をどれだけ注ぎ込めるかだけで威力が決まるのだから。

 まぁ、スピリチュアルとタイムなルームの修業時代では『魔力自在』なんかは無かったわけだから、殆ど理論だけだったんだけどね。師匠は魔力とは別に『気』とかいって変なオーラ使ってたけど。

 あれはマジで分からん。いつか使いたいもんです。


「グ、ラ……?」


 何が起こったのか理解できなかったのか、巨大ゴリラは目を見開いたまま、間抜けな声をあげた。

 少し遅れて巨大ゴリラの首が落ちる。

 思い出したように切り口から血が吹き出し、胴体が崩れ落ちた。


 倒してみると案外呆気なかったな。

 赤角熊を想定して鍛えていたんだけど、アイツはもしかしてこの島で最強なんだろうか?

 だとしたら、そいつにいきなり出会ってしまった俺は運がいいのか悪いのか。


 取り敢えず左腕は貰っておこう。後で骨にして『骨融合』するのだ。


 っと、その前にヤディカちゃんだ。

 全身に痛々しいアザが浮いている。片腕と片足は折れているんだよな。

 それでも気丈に俺を見上げていた。


「じっとしてて、って言ったのに」

「すまない。約束は守れなかった」

「……頑張れば、倒せた」

「そうだな」


 自分だけで勝たなくてはいけなかった、とその黒曜石のような瞳が語っている。

 その気持ちは尊重したい。

 でもね、それじゃあ駄目だ。


「だったら死ぬな」

「…………!」


 ヤディカちゃん、君が戦士という役割に誇りを持っているのは知ってるよ。

 俺がまともな部位の方が少ない役立たずの不具スケルトンだった、ってのもね。

 決して長い時間一緒に居た訳じゃない、信用できないって気持ちもあるだろうさ。

 でも、頼って欲しかったよ。

 子供に戦わせて大人が安穏としてるなんて、おかしいでしょ。


「自分の力が通じないなら逃げるのも手なんだ。命は投げ捨てるものではない」

「あたしは戦士、あたしが逃げたら、誰も戦えない!」


 そこが間違ってるとあたしゃ思うんだがね。

 毒があろうが無かろうが戦うってのは己の気持ち一つだよ。

 まぁ、ヤディカちゃんに拾われた俺が、ずっとこうやって暮らしてきたエルカ族の皆さんを非難するのもおかしいと思うけど。

 だから、仕方ない。

 もうちょっとの間は俺もその重荷を背負うよ。

 助けてもらった恩。美味しいご飯を恵んでくれた恩。気にかけて心配してくれた恩。

 たっぷり貯まってるからさ。


「今は私がいるだろう?」

「…………」

「私がヤディカを助けるよ。ヤディカが私を助けてくれたように」

「せ、せん、しは、誰の助けも……」


 不安げに俯きながらヤディカちゃんは最後の抵抗のようにか細い声で言った。

 精一杯の虚勢だ。

 期待しないように、傷付かないように。そういう態度を取ることで自分を守っているんだろう。

 その気持ちはよく分かる。

 元の世界で俺がそうだったんだから。


 でもそれって裏返しなんだよ。

 期待したいから期待しないと言い聞かせてるんだ。

 傷付いて成長したいから、傷付くかもしれないことがよく見えるんだ。


 俺はまったくの偶然と不幸と幸運の重なりあいからカサンドラ師匠と出逢い、手を差し伸べてもらった。

 師匠ほど上手くはできないと思うけど、今度は俺が誰かに何かを出来る番なんだ。

 だから――――


「いいから黙って助けられろ!」

「……ッ!」


 ごめん、なんだか間怠っこしくなってきちまったぜ!

 いいか、俺は本気だ!

 俺はしつこいぞ、頑固だぞ、融通が効かないぞ!

 そんな俺が決めたんだ!

 ヤディカちゃんの力になる!

 だから助けられろ! 以上!


「助けてもらっても、いいの? 助けて、くれるの……?」

「あぁ。ヤディカが断ってもそうする。覚悟しろ」

「あたし、は……、あたしは……」

 ヤディカちゃんの目に、じわりと涙が浮かんだ。

 今まで泣くことも我慢していたんだろう。

 自分が泣けばみんなが困る。

 それに、助けてもらえることもない。

 ただ喚いて毒を巻き散らかすだけにしかならないと。


 でも、子供なんて泣いて喚いて寝てナンボってなもんだぜ?

 こんな骨しかない胸じゃあ貸して上げるのも憚られるけど、ないよりはマシだよね。

 スケルトンじゃあ不満かもしれないけど、思いっきり甘えてくれ。

 そっと抱き締めると、ヤディカちゃんの涙が決壊した。


「うぅ、うぁあああああああああああああ!」


 いいよ、今は何も考えず泣きな。

 で、疲れたら眠るといい。

 後片付けも事後処理も、全部大人がやっとくからさ。




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