冬の山と雪男
私は、なぜ旅を続けているのだろう?
強くなる為。
色々な人と出会う為。
どちらも間違いではない。
だが本当は、自分自身を取り戻す為――ハッ!
「……夢か。」
ここ最近、同じ夢をみている。
私に問いかけるのは、もう一人の自分。
いったい何を言いたいのだろう――寒っ!
どうでもいいが、なんという寒さだ。
よくよく考えてみると私は只今、冬の山籠り決行中であった。
「どうりで寒いはずだ。」
私が滞在する洞窟から一歩外に足を踏み出すと、そこは猛吹雪の最中である。
「これでは外には、出れないな。」
私は洞窟の焚き火の側へと引き返した。
そういえば、この山の麓の村で、おかしな噂を耳にした。
それは、このモックル山にイエティなる雪男が出没する、という噂話であった。
私から言わせれば、そんなものは存在しない。
それは野生の熊でも見たのだろう、と言いたい。
かれこれ、幾度となくモックル山に登っている私だから分かることだ。
断言しようイエティなどいない、と。
「そうだろう、白ちゃん。」
――ああ、紹介が遅れました。
私の友人の白ちゃんです。
彼ほど、この山に詳しい人物は存在しないだろう。
彼は、ちょっと変わっているが、とても純粋で素直な奴だ。
白ちゃん、と知りあったのは、もう何年も前の話である。
雪山で遭難していた私を、救ってくれたのが白ちゃんなのだ。
つまり命の恩人である。
そんな白ちゃんに、
「イエティを知っているか?」と、目で訴えかけたが白ちゃんは無反応であった。
モックル山の住人だある、白ちゃんが知らないのならイエティなど存在しないのだろう。
全く暇な人々だ。
もっと世の中に目を向けたら、どうだろうか。
この世界にはイエティみたいな不確かなものより、もっと恐ろしくてクールな奴は山程いるのに。
私は、ため息を吐き白ちゃんを見た――いない。
「ど、どこに行った、白ちゃん。まさか外に――」
私は、外に飛び出した。
外は吹雪が止み、そこには新雪が一面に広がった白銀の世界が広がっていた。
「おお!美しい。」
私は辺りを探してみた。
すると、私がいる所より少し斜面を上った場所に、白ちゃんは立っていた。
全身を白い毛で覆われている白ちゃんは、雪の中では見つけにくいこと、この上ない。
白ちゃんは、身長二メートルを越える大きな奴だ。
その巨体で、何が楽しいのか分からないが、雪の上をピョンピョンと跳ね回っている。
「止めろ、白ちゃん。」と、目で訴えかけるが無意味だった。
「ま、まずい。このままでは、雪崩が起きてしまうぞ。」
私は焦った。
だが、よい方法が見当たらない。
白ちゃんは、私を嘲笑うかのように激しさを増して暴れだした。
「やめんか!」
私は軽いパニックに陥り、そして低級魔法を唱えた。
それは、白ちゃんには当たらず雪へと衝撃を伝えた。
ドドドッ!
不気味な音が静寂を切り裂いた。
そして私は、
「ああ、やっぱりか。」と、諦めた。
目が覚めると、私は雪の中に埋もれていた。
自力で脱出すると、麓の村付近まで押し流されていた。
……まあ毎度のことである。
私は凍えた身体で村へと急いだ。
村に到着すると、当然のことながら村人達が騒いでいた。
「昨日の雪崩は、きっとイエティの仕業だ。」
「ああ、間違いねぇ。」
私は、心の中で、
「いいえ、昨日の雪崩は私の低級魔法です。」
そして震えながら、
「寒い。そうだ!今度は砂漠にでも行こう」と、本気でそう思ったのであった。
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