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最強の戦士ここにあり  作者: 田仲 真尋
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グリフォンブルー死闘編~Ⅶ部~

凄まじい勢いでコーエン兄弟に斬りかかったラルナの攻撃は、彼らの虚をついた。


「ちっ!」


最初の一撃が、ホワイトへと振り下ろされた。

しかし寸前のところでホワイトは、その攻撃を避けた。

だが、ラルナの狙いは最初からホワイトではなく、ブラックであった。

わざとホワイトに避けさせ、その降り下ろした剣を今度は、そのまま振り上げ、ブラックに襲いかかった。

そして、ラルナの背後から現れたダマンが、油断したホワイトに攻撃をくわえた。

二人のコンビネーションにコーエン兄弟も慌てた表情を見せた。


「終わりだ!」


ラルナの剣がブラックを切り裂いた。

それに続き、ダマンもホワイトを一刀両断した。

コーエン兄弟は、二人の息の合った攻撃に、なす術なく倒された――はずだった。


「ラルナ殿、これは!?」

「妙な小細工をしてくれたものだ。」


二人が斬ったのはコーエン兄弟の白と黒のマントで、あった。

斬られたマントだけが、その場に残り、ブラックとホワイトの姿が消えていた。


「まさか、これ程やるとはな。」

「少し甘く見ていた。」


どこからともなくコーエン兄弟の声が聞こえた。

そして次の瞬間、一同はコーエン兄弟の姿を捉えた。

それは、ちょうど玉座の左右に並び立つ巨大な柱の上方であった。

コーエン兄弟は、その柱に張りつく様にして立っていた。

それは、まるで足の裏に強力な粘着テープでもつけている様であった。


「奇妙な奴らだ。」


ラルナが、ぼそりと呟いた瞬間だった。


「白のホワイトアックス!」

「黒いブラックアロー!」


コーエン兄弟の手から無数の斧と矢が放たれた。

それは、ラルナやダマンにだけではなく、その場にいた私の仲間全員が標的になっていた。

私はサフィアをかばいながら、それらを払った。

そして、ハーブティーたちに視線を送る。

それに気づいたハーブティーたちは全員が頷き、動けない手負いのギャツビーと四大剣士たちの盾となり攻撃をしのいだ。


「小賢しい真似を!」


ラルナは全身を、グッ!と沈め、勢いよくバネの様に飛び上がった。

コーエン兄弟も下から飛んでくるラルナを迎え討つように大地へ向けて飛んだ。

そして両者が交わる瞬間、コーエン兄弟は突然、ラルナを避けるように左右へと空中で方向転換した。


「なんだ!?」


これにはラルナも驚きを隠せない。

コーエン兄弟はラルナの横をすり抜け、ダマンへと斬りかかった。


「く、くそ!」と、ラルナは、クルリと翻り、剣を振った。

十分な態勢ではなかったが、ラルナの空気を切り裂く剣撃はコーエン兄弟を追った。


「おのれ、こい!」


ダマンは地上にて、コーエン兄弟を正面から待ち構えた。


「いかん!逃げろダマン!」


ラルナの叫びはダマンに届くのが遅かった。

ダマンの両脇を黒と白の閃光が、駆け抜けた。


「グハッ!」


ダマンは全く動くことすら出来ずに、その場に倒れた。

さすがに私も黙って見ておくわけには、いかなかった。

スッと立ち上がり、剣を抜こうとした。

だが、それをラルナの声が押し止めた。


「お前は、まだ待て。そして、そこでよく観察していろ、こいつらの動きを。それと、ダマンを頼む。」


ラルナの言葉に、私は抜きかけた剣を収めた。

そして、ハーブティーを見た。

彼女は、すぐに理解してくれた。


「クレア、クッキー。手伝ってくれ。」


三人はダマンを端の方に運び、ハーブティーが治療にあたった。


「一つ聞いても良いか?」


「貴方の、その強さに敬意を表して。」

「なんなりと、剣聖ラルナ。」


コーエン兄弟は、落ち着きを取り戻しているように見えた。


「貴様らは人間か?いや、恐らくは違うな。何者だ?」


ラルナの問いに、コーエン兄弟は顔を見合せ笑った。


「剣聖と謳われている貴方が、冗談を言うなんて。」

「我らが『人』か?ですって。」


「そんなこと、あろう筈がない。」

「貴方たちみたいな愚劣極まりない種族と一緒にしないでくれ。」


「私たちが何者であろうとも。」

「お前たちが知る必要はない。」



コーエン兄弟の言葉を一通り黙って聞いていたラルナは、満足したように、

「そうか。要は、お前ら兄弟は屑野郎ってことだな。」と、剣を手に構えた。


「そういうことは、我らを倒してから言え!」

「負け犬の遠吠えに、ならんようにな!」


コーエン兄弟が先に動いた。


凄まじいスピードで二人はラルナに襲いかかった。

さすがのラルナも二人を相手にしては、防戦一方である。


「ちっ!さすがに厳しいか――!」


ラルナは一瞬、油断した。

それは足下に落ちていた、剣の束に気をとられてしまったからだ。

恐らくは四大剣士の誰かの、折られた剣の束であろう。


「もらった!」

「死ね!」


コーエン兄弟の攻撃が容赦なくラルナ目掛けて飛んでくる。

ラルナは何とか片方の攻撃を防ぐが、もう一方が間に合わない。


キィイン!


激しい金属の、ぶつかる音が鳴り響き、そして静寂が訪れた。

私は、師匠ラルナに言われた通り必死に、コーエン兄弟を観察していた。

本当のところ今にでも飛び出し、ラルナの助太刀に向かいたいという気持ちを押し殺して。

しかし今、目の前でラルナの危機に直面している私は、いてもたってもいられなく、なっていた。

師匠の命に背くのか否かの葛藤が、私の判断を鈍らせた。

だが、その窮地の師匠ラルナを救ってくれた人物が現れた――ダマンだ。


「ダ、ダマン!お前……。」


「ラルナ殿、一人に戦わせる訳には、いきませんゆえ。」


「死に損ないが!」

「邪魔をするな!」


コーエン兄弟はダマンに向け剣を降り下ろした。


バキン!


しかし今度はラルナが、その剣撃を防いだ。


「借りができましたな……ダマン殿。」


「ラルナ……殿!?」


これまでに、一日に二度も本来の姿に戻り、戦ってきたラルナの限界であった。

それはダマンが見慣れた、いつもの老人ラルナであった。


「ふん!つまらん!」

「死ね!」


コーエン兄弟の情け容赦ない攻撃が、ラルナとダマンを襲う。

――その時であった。

コーエン兄弟は、殺気に気づいた。

そして、飛んでくる攻撃を避け、後方に飛んだ。

その隙に、ラルナとダマンを広間の隅に移動させる男がいた。

――ムーンだ。


「こら、年寄りは大事に扱わんか!」


そしてコーエン兄弟に不意討ちを仕掛けたのは、トンボであった。


「すみません、助かりましたぞ。トンボ殿。」


ラルナの声にトンボは手を振って応えた。


「師匠!かっこいい!」


「ムーンよ。お主は、そこで見ておれ。」


トンボの命に、これまで従ってきたムーンは、

「お断りします。」と、槍を取った。


「これムーン。お前では無理だ。」


「こんなことを言いたくないけど……たぶん師匠でも無理でしょう。だったら少しでも手伝いたい。どうか、お許しを。」


「……ムーンよ。勝つぞ――とは言わぬが――死ぬな。それが師匠命令じゃ。よいな?」


「はい!生き延びて、またメタールへチーズケーキを食べに行きましょう。」


「――てぃ~どぅきぇ~てぃ……ゆくぞムーン!」

「はい、師匠!」


トンボとムーンは全力を出した。

しかし、コーエン兄弟には、かすり傷一つ付けることすら出来なかった。

私は拳を固く握りしめた。


「もう限界だ。私もいく。」と、剣に手をかけた。

その時であった。


「お前はジッとしていろ。私がいく。」


私を制したのは、ハーブティーだった。

私は首を、ちぎれんばかりに横に振った。


「お前がやられたらゲームオーバーだ。皆が必死に繋いできた、このゲームを簡単に終わらせてたまるか。師匠としての命令だ。まだ動くな。」


ハーブティーの決意が私には、ハッキリと見えた。


「姉さん、本気なの?私には、到底無理。」

「レベルが違い過ぎる。僕も無理だ。」


クレアとクッキーは目の前で繰り広げられている戦いに、恐れをなしていた。


「お前たちは戦わなくていい。ここで――」


ハーブティーがクレアとクッキーに対して言っているのを遮る様にして、

「まあ、絶対無理だけどね。私もやるよ、姉さん。」

「仕方ないな。また貸しを増やしちゃうけど、僕もやります。」と、クレアとクッキーは前に出た。


「お、お前たち?」


「いやだな、姉さん一人、戦わせる訳ないでしょ。」

「そ、そうですよ、師匠。」


「だが――。」


ハーブティーが何かを言おうとしたが、またしてもクレアとクッキーが遮る。


「それに、姉さんの為だけって訳じゃないからね。」

「そうそう。僕は彼に多大な貸しを作っていますからね。」


二人は私の方を見て不敵な笑みを浮かべていた。

私は何だか、怖くなった。


「よし!それじゃあ作戦会議だ。私たちが、あんな化け物を倒すには頭を使わないとな。」


「賛成。ムーンたちが頑張って戦ってくれてる間に、良い作戦を考えてよ姉さん。」


「それじゃあ、僕の出番かな。軍師クッキーのね!……あの、二人とも聞いてます?」


私は、そんな仲間たちを見て、底知れぬ不安を感じたのであった。





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