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最強の戦士ここにあり  作者: 田仲 真尋
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グリフォンブルー死闘編~Ⅵ部~

デヴァイン城の王の間には、不穏な空気が流れていた。

そこにいる誰もが、それぞれの想いを抱きながら、そこに居るのだ。


「それで、これからどうしようというのだ?」


重苦しい空気を破ったのはサフィアだった。

その必死に絞り出した問いかけに、コーエン兄弟は顔を見合せてから答えた。


「さあ、どうだろうな。」

「答えは急がずともじきに出る。大人しく待っていろ。」


コーエン兄弟の言葉に私たちは、ただ黙って時を過ごすことになった。


「兄上。ここへ来させてしまったのは俺の失態たけど……来てくれて、ありがとう。」


サフィアは、どこか気恥ずかしそうに言った。

それに対し、私もなんだか途端に恥ずかしくなった。

しかし、それ以上の嬉しさが込み上げてきたのは、言うまでもない。


しばらくの時が過ぎた頃であった。

何の前触れもなく、王の間の扉が開かれた。

私たちは、扉に注目した。


「恐らく、あの二人が待っているのはメルバ王女だ。」


サフィアの言葉に、私は唾を飲んだ。

ゆっくりと開かれた扉から入ってくる一人の影。


「ついに登場か女王よ……いや、男だし!しかも、おじいちゃん。」


私は思わず一人、胸の内で突っ込んだ。

そこに居たのは紛れもなく男であり、老人であった。


「ルベール様!」と、サフィアは叫んだ。


「おお!サフィア様、無事でありましたか。」


その老人は足が悪いのか、片足を引きずる様にしてサフィアの元へ歩み寄った。


「なぜ、ルベール様がここへ?」


「少し気になることがありましてな――も、もしや貴方は……レジェス様!?」


私は訳が分からないまま、頷いた。


「やはりそうでしたか。一目見てすぐに分かりました。生きて、生きておられたのですな、良かった。」


その、やり取りを黙って見ていたコーエン兄弟が、ようやく口を開く。


「隠居されたはずの元双牙宰相の一人、ルベール殿が今更、何用ですかな?」

「只今、取り込んでいるので、お引き取り願えませんかな。」


しかし、ルベールはホワイトとブラックの言葉に耳を貸そうともせず、レジェスに向かって続けた。


「レジェス様。私は幼い頃の貴方様の教育係をしておりました。貴方様が生きておられると聞いて私はどれ程、嬉しかったか。」と、ルベールは涙を流しながら言った。

それを聞いた私は、今でも自分のことを案じていてくれている人がいることに驚きを隠せなかった。

その時だった。

私の頭に、またしても激痛が迸る。


「ま、またか。いったいこれは――」


なんとか今回は意識を保ち、気合いを入れた。

すると、その痛みは瞬時にして消え去ってくれ、私は平穏を装った。


ルベールは私の手を強く握ったのち、立ち上がった。


「ルベール様?」


そんなルベールをサフィアは不思議そうに見た。


「私が再び、このデヴァイン城に赴いたのは、皆に伝えたい事があったからだ。」


ルベールは何かを吹っ切ったように力強く語り始めた。


「そこに居るコーエン兄弟は双牙宰相だ。だが、それは五十年も昔の話し……では一体、そこに居るのは誰なのだ!?」


ルベールの話しに、さきほどまで涼しい顔をしていたコーエン兄弟の顔色が微妙に変わった。


「何の話しか、さっぱり分かりませぬが。」

「年をとり、少し呆けたのではありませんか、ルベール殿。」


ルベールは二人の言い分を聞き流すようにして、続けた。


「貴方がたは確かに存在していた。しかし、それは遥か昔のこと。」


「それでは、この二人は、そのコーエン兄弟の名を騙った偽者ということですか、ルベール様?」と、サフィアは訊ねた。

しかし、ルベールは首を大きく横に振った。


「偽者ではありません。ずいぶんと昔のことですが、私がグリフォンブルーの見習い兵になった五十年前、確かに、この二人を見ましたから。彼らは当時の姿のままなのです。」


ルベールの説明で、私は更に混乱した。

しかし、サフィアは納得したような表情を見せていたような気がした。


「そういえば、先ほどサフィアが私に言った。『この二人は人ではない』と。」


「恐らく、影で操っているのはメルバ王女。違いますかな?」と、ルベールはコーエン兄弟へ問いかけた。


コーエン兄弟は何も答えずにいた。

そこへ王の間の扉が再び音を立て開いた。

そして現れたのは――ディルクだった。


「サフィア様、レジェス様、遅くなり申し訳ありません。」


私はディルクの無事を喜んだが、それと同時にマスターゼロの姿が見えないことに一抹の不安を感じた。

それをディルクは、すぐに悟った様子で、

「ゼロ様は、ご無事ですよ。」と、言った。

私は、それを聞いて心底安堵した。


「ちっ!しぶといでやんすね。」


「アンダーヘアー。お前、何故そちらに居る?」


ディルクの質問に答えたのは、サフィアであった。


「ディルク。奴は敵のスパイだったようだ。俺や兄上を貶める役割を担っていたようだ。」


「そうでしたか。それに気づかなかったとは不覚……サフィア様、奴は私が、この手で必ずや葬ります。」


その時、またしても扉が開く音が鳴り、一同は入り口に視線を移した。

次に入って来たのはギャツビーとレト大陸の四大剣士であった。


「懐かしきデヴァイン城。それにコーエン兄弟か。事態は芳しくないようですね。」


「次は元、六牙将軍ギャツビーですか。」

「今日は、やたらと古びた人間がやってきますね。」


コーエン兄弟は、ギャツビーに向けて言った。

私は師匠である四大剣士たちが元気そうなのを見て、また安堵した。


「なんじゃ、賑やかじゃな。ダマン殿。」

「そうですね、ラルナ殿。」


呑気な会話をしながらの登場はラルナとダマンであった。

私は師匠のラルナと、顔を隠していた布を取り去っているダマンの元気な姿にホッと胸を撫で下ろした。


そして、今度は扉が開く前から、扉の向こうでザワザワと騒々しい話し声が聞こえた。

そらから、すぐに扉が開かれ、入って来たのはクッキー、クレア、ハーブティーであった。


「だからこっちだと言っただろう!」

「師匠こそ、最初は僕の意見に賛成したじゃないですか。」

「まあまあ。もう着いたんだからいいじゃない。」


ハーブティーとクッキーが何やら言い争っているのをクレアが宥めている様子である。


その三人に続き、

「師匠、大丈夫ですか?」

「……おにゃか、いちゃい。」


トンボとムーンも一緒である。


こうして、この戦いに関わった私の仲間たちが、デヴァイン城の王の間へと集結した。


その緩い空気を切り裂く、鋭い爪の様な声が王の間に鳴り響いた。


「何ですか騒々しい!」


こだまする、その声が、その場にいる全員の心臓を掴んだ。


「これは女王陛下。誠に申し訳ございません。」

「汚い鼠が紛れこんできまして。」


ホワイトとブラックに視線を合わさずに女王メルバは、その青い瞳で私たちを見下す様にして続けた。


「ここはグリフォンブルー、デヴァイン城王の間ですよ。貴方がたのような者たちが何の許可もなく立ち入って良い処ではありません。」


黒く長い髪を綺麗に束ね、薄く赤みがかったドレスを纏ったメルバは、女王としての品格を存分に醸し出していた。


「女王陛下。この者は、あろうことか自分をレジェス様だと申しております。」

「もう、すでに亡くなられている王子の名を語る不届きな輩と、その仲間どもであります。」


ブラックとホワイトの言葉にメルバは、彼らに視線を投げた。

しかし、私の方には一切、目もくれなかった。

新雪の様に、どこまでも白く濁りのないメルバの肌は美しかったが、そのイメージ通りに雪のように冷たさも感じた。


「なんということ!これは亡くなられたレジェス王子に対しての冒涜!もはや死に値します。ブラック!ホワイト!その者たちを排除しなさい!」


「仰せのままに。」

「仰せのままに。」


メルバの命にコーエン兄弟は、「待っていました」と、ばかりに従った。


「――ところで、サフィア殿。そなたは、何故そちらにおられる?六牙将軍としての務めは、どうなされた?」


メルバは、演技がかった物言いで、サフィアに訊ねた。


「――くっ!おのれ魔女めが!」と、サフィアは、ボソッと呟いた。


「女王陛下。このサフィアめこそが、今回の騒動の首謀者とみられます。」


ホワイトの進言にメルバは、

「まあ!なんということ!それでは裏切り行為ではないですか!」と、オーバなリアクションを見せた。


「反逆者には、死罪――ということで宜しいでしょうか、女王陛下。」


ブラックは、口元に笑みを浮かべ、女王の言葉を待った。


「当然です。サフィア!貴方から六牙将軍の権限を剥奪します。この国を裏切った報いを受けなさい。」


「ふざけるな!お前に、そんな権利はない!俺は国王様に忠誠を誓った、お前ではない!国王様をここへ!」


サフィアは、これまで抑えていた感情をメルバにぶつけた。


「国王様の、お手を煩わせるまでもありません。ブラック、ホワイト、さっさと始末なさい。」


「御意。」

「御意。」


メルバは、ゆっくり歩き、玉座へ腰をかけた。

まるで、これから芝居でも観賞するかの様な余裕の態度であった。


「さっきから聞いていれば、ずいぶんと好き勝手やってくれたものだな。なにはともあれ、この白と黒を倒しちまえばいいのだろう。」


これまで黙っていた一同から、最初に声を上げたのはオリオスだった。


「俺たちがいこう。クラブ!ロザリア!あの白いのをやれ!ジェイソン!お前は俺と、あの黒いのをやるぞ!」


「何で、お前が命令するんだ。」

「本当よ。」

「……オリオス……死ね……。」


レト大陸の四大剣士は、オリオスの命令口調に反発しながらも、身体は、すぐに行動に移っていた。


「おもしろい!」

「我らに、その力を示してみせよ!」


四人の攻撃が、ほぼ同時にコーエン兄弟へ向け放たれた。

ブラックとホワイトは自分の剣を抜き、瞬時に己の剣に魔法をかけた。


「ディエティ・ミラー!」

「ディエティ・ミラー!」


コーエン兄弟の剣は、極限にまで磨かれたメッキ加工が施されたような、反射する輝きを放ちだした。

そして、その刃はまるで空気と一体化したようになり、そこに刃が存在しないようにさえ見えた。


「くらえ!」


――パキン!


甲高い金属音が鳴り響く。

その音はシンクロしていて、一度しか聞こえない様に思えたが、実は同時に四度も鳴っていた。

レトの四大剣士の動きは完全に止まっていた。

そして皆が、その剣の刃を見た。


「なんてことだ。」

「信じられん。」

「嘘でしょ。」

「……オーマイガー……」


コーエン兄弟の剣と一度、交わっただけで、四大剣士たちの剣は、見事に真っ二つに折られてしまっていたのだ。


「剣が折れたからと――」

「油断していると――」


コーエン兄弟の剣が今度は、四大剣士たちへと襲いかかる。


「死にますよ。」

「死にますよ。」


その瞬間ギャツビーが、四大剣士たちへと意識を注いだ、コーエン兄弟に奇襲をしかけていた。

しかし、コーエン兄弟はギャツビーには見向きもせずに剣を振った。


「ぐわっ!」

「ぎゃあ!」

「キャア!」

「……きゃあ!……」


四大剣士たちは、四人全員同時に吹き飛んだ。


「グハッ!」


そして、ギャツビーも、またコーエン兄弟の攻撃を受けていた。


「ちっ!この小者が邪魔をするから全員、仕とめ損なってしまった。」

「虫けらのくせに生意気だよね、兄者。」


四大剣士とギャツビーは傷を負ったが、ギャツビーの突然の機転により何とか一命をとりとめた。

そして、この時、コーエン兄弟の口振りに、少しの変化が見てとれたことに気づいた男がいた。

――ラルナだ。


「ダマン。俺の援護を頼む。」


ダマンは驚いた。

目の前に居たラルナが、いつの間にか、また若返っていたことに。

そして、それはコーエン兄弟の力が、それほどに強大であることを意味している。

しかし、ダマンは喜びに満ち溢れていた。

それは本気の剣聖ラルナに「力を貸してくれ」と、言われたことに他ならない。


「ラルナ殿。このダマン、全力で援護しますぞ!」


「ああ、期待しているぞ。では――参ろう!」













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