表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強の戦士ここにあり  作者: 田仲 真尋
6/68

山籠り編

今日は久しぶりに山籠りでもやろうかと、訪れたのはキイロ山。

標高こそたいしたことはないが、この山は人も立ち入らない険しくも過酷な場所である。

その、手付かずの自然こそが私の師であり友である。

まずは軽く滝にでも打たれ、心身を清めようではないか。

山の中腹辺りにある、滝を目指し歩いた――遭難しました。

開始五分ほどで、私は道を見失ってしまい、軽いパニックに陥る。

まあ、いつものことである。

気を取り直し歩いていると、今度は野生の熊に遭遇した。

「おう。こいつは我が友、文ちゃんではないか。久しいな。」

その熊は昔から馴染みのある奴だった。

右目の上には、大きな傷がある。

「懐かしいな、その傷。覚えているか?あれは二人で――」

バシ!っと突然の文ちゃんのパンチに、

「このやろう!」と、低級魔法を唱えた。

……二人の再会は悲しいものになった。


またもや気を取り直し、私はひたすら滝を目指し歩いた。

「むっ!この木には見覚えがある。確か、ここを真っ直ぐに行けば。」

ようやく目印となる木を見つけ、真っ直ぐ歩いた――遭難しました。

「なぜだ!?」

……だが、これもよくあることである。

私は気持ちをしっかり立て直し、再び滝を目指した。

「こ、この木は!」

それは、ついさっき見たばかりの木に間違いない。

つまり同じ場所を、ぐるぐると回っているということだ。

「おのれ!」

私は猛ダッシュで、この無限回廊を脱すべく、走った。

走りに走って、そして――遭難した。

今度は完全に道を見失い、道なき道を進む。

やがて遠くから水の流れる音を聞いた。

その音に導かれ突き進むと、川に辿り着いた。

私は喉の乾きを潤すため、川に顔を突っ込んで水を飲んだ。

一息ついて、ふと考えた。

この川を辿っていけば、滝に着くのではないだろうか、と。

我ながら天才的な閃きだ!

早速、川の上流へ向け出発した。


およそ十分後、目の前に滝がその姿を現した。

「ぬっ!これは……滝は滝でも……違うやつだ。」

私が目指した滝の五倍は、あろうかという大きな滝だった。

しかし、これも運命。

私は、さっと服を脱ぎ捨て滝壺へ走った。

間近で見る、そいつは大迫力である。

一瞬、躊躇うが気合いで飛び込んだ――押し潰された。

「なんという水圧!」

しかし私の適応力は半端ではない。

ものの二、三分で私は滝の真下に仁王立ちしてみせた。

「慣れれば心地よいものだ。」

ふと、滝を昇る魚がいるという話しを思い出す。

「――やってみるか」

私は、飛び上がり水を掻いてみる。

もちろん出来る筈がない。

もう一度――無理。

もう一度――やっぱり無理。

もう一度――全然無理!

もう一度――絶対無理!!

「くそぉぉ!」

私の怒りは頂点に達した。

「手足の動きが足りぬのだ。」

高速で手足を動かすと、少し昇った。

「もっとだ。もっと早く。」

数時間が経過した頃、私はついにコツを掴んだ。

調子に乗って、どこまでも昇る。

「見たか!これが私の実力だ!」

そして頂点へ昇りつめた。

すっぽんぽんの私は昇天した竜だ!と、ばかりに勢いよく滝を制覇した。

川から這い上がると、川岸になにやら気配を感じた。

見ると、なぜかそこには三人の女性が驚いた表情でこちらを見ている。

「きゃあああ!化け物よ!」

どうやら、それは私のことのようだ。

「とう!」

私は再び川に飛び込み、滝を猛スピードで落下した。

言うまでもなく、私は落ちた衝撃で頭を強打した。

そして半分程、意識を失いながら服を手に取り全裸のまま走った。

「なぜこの山に、あのような軽装の女子が――」

山の中を野生児のように走る私は大木に正面から激突した。

「も、もういやだ。帰る。」

私は、無念の下山を決めた。

山の斜面を勢いよく駆け抜ける――遭難しました。

「くそ、ここはどこだ!」

私は怒りのあまり、この山ごと吹っ飛ばしてやろうと、上級魔法を唱え始めた。

「――い、いかん、いかん。自然は大切にせねば。」

なんとか思いとどまり冷静になる。



数時間後。

結局、迷ったまま夜を迎える羽目になった。

火を起こし、体を暖める。

「しかし、しばらく来てないだけで、こうも勝手が違うものなのか。自然というものは恐ろしい。そして神秘的だ。ここは以前な山とは違う……迷いの森だ。」



山は静寂に包まれていた。

時折、聞こえてくる正体不明な動物の鳴き声。

すぐ近くから聞こえてくる、ガサ!という音。

「だ、だれだ!」

私の神経は尖っていた。

ふと目の前を光る何かが横切った。

見間違いか?と、目を擦る……いる。

間違いなく、その光りは青白く光りながらフワフワと浮いている。

「も、もしかして妖精さん……いや、まさか――」

私は、ごくりと生唾を飲みこみ、天秤を頭の中で思い描いた。

「好奇心か恐怖心か……妖精さん!」

結局こういった場合、好奇心が勝利するものだ。

妖精さんに会いたくて、暗闇の中を、ヨチヨチと歩けるようになったばかりの子供みたいにして、光る物体を追いかけた。

そして、もう少しで手が届きそうになった時だった。

ふっと、足下の感覚が消えた。

真っ暗な中、どっちが上か下なのかも分からず落下した。

「うわぁぁ!ようせいさーん!」



気がつくと、辺りは既に明るかった。

「こ、ここは?」

周囲を見回すと、誰かが歩いてくるのが見えた。

「おはようさん。」

「おはようさん。」

それは、老夫婦らしき二人連れであった。

「おや、お兄さん。そんなとこで寝とったんか?風邪ひくぞ」

「違いねぇ。」

老人達は、笑いながらスローペースで歩いていく。

「さあ今日も頂上まで頑張るかの。」

「そうですね。軽く登っちゃいましょうかね。」

――私は、まだまだな男だと痛感させられた。

この危険極まりない山を、いとも簡単に制覇しようとしている老人達は、きっと名のある武芸者なのだろう。

それに、昨日の女子達もそうだ。

「人は見た目によらぬ――か。」



すぐ脇に立てられた看板には、「アオイ山ハイキングコース」の文字が刻まれていることに、彼が気づくことはなかった。

「いやー、世の中は広いな。」





今回も、お読み頂いた皆様ありがとうございます。


また次回も宜しくお願いします(^-^)



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ