グリフォンブルー死闘編~Ⅱ部~
私とアンダーヘアーは遂にグリフォンブルー領内へと足を踏み入れていた。
「レジェス様。あの川を越えれば、いよいよデヴァイン城が見えてきやすぜ。」
その川を渡るため、私たちは石造りの大きく美しく白い、橋を渡り始めた。
橋も半ば辺りに差し掛かった所で、アンダーヘアーが先ほどから落ち着かない様子に、私は気がついた。
「本当なら、ここは通りたくなかったんですが、この川を渡るには、ここしかないんでさぁ……もし、ここで襲われたりですれば、逃げ道がない、ときたもんでさぁ。」
私はアンダーヘアーの心配事に、ようやく気がついた。
「確かに。橋の両側から挟まれでもすれば、残る道は川へ飛び込むしか手がない。」と、思った途端、なんだか私もソワソワしてきた。
その直後であった、
「そこで止まられよ!」という声が、こだました。
私とアンダーヘアーは、その声こそが私たちの憂いていた事だと直ぐに判った。
「うわぁ!あっしが変なこと言ったばっかりに……すいやせん。」と、アンダーヘアーは項垂れた。
行く手には約百騎程の軍勢が待ち構えていたのだ。
「貴方様がレジェス殿か?」という問いかけを、重厚な黒塗りの鎧を装備した男が投げかけてきた。
そして、それに私は頷いて応えた。
「我の仕事は貴方様を、この橋の向こうへ行かせないこと。もし、貴方たちが引き返してくれるのならば、その身の安全を保証しよう。」
「あ、あのお方は――アーキュラ様!六牙将軍の一人、アーキュラ様だ……引き返しやしょう、レジェス様。」
私はアンダーヘアーの頭を小突いた。
アンダーヘアーの情けなさに腹が立ったのだ。
「いってぇ!レジェス様、お気持ちわ分かりやすが、あの方を敵に回すのは得策とは、いえねぇですぜ。」
私はアンダーヘアーの、弱気な発言に対して、低級魔法で応えてやろうと魔法提唱に入った。
その直後だった。
「やはり、貴方がレジェス様でしたか。」と、私たちの後方から何者かが声を上げた。
そして、そこには見慣れた男の姿があった――ギャツビーだ。
ラ・ベニーの支配者が私たちの元に突如、姿を現したのだ。
ギャツビーは元、六牙将軍の一人であると聞いていた。
しかし何故、この地に現れたのかは分からない。
「ここは私に任せて頂こうか。貴方は先を急がれよ。」と、ギャツビーは剣を抜いた。
「誰かと思えば、元同士であった、ギャツビーではないか。今更、何をしにグリフォンブルーへ戻った?」
アーキュラの問いかけにギャツビーは、
「なーに、昔の因縁に決着をつけにきただけだ。」と、答えた。
「貴方との因縁など、私にとってはどうでもよいこと。邪魔をすれば、お主にも攻撃を加えることになるぞ、ギャツビーよ。」
「もちろん、その覚悟だ――さあ、レジェス様は先に。」
「残念だが、ここは誰一人通さんぞ、ギャツビー。いくらお前でもたった一人で、この人数を相手にするのは難しいだろう。ここは、レジェス様共々引き下がられよ!」
しかし、ギャツビーは不敵な笑いを浮かべ、
「誰が一人だと言った?」と、言った。
「そうそう、俺たちもいるんだ。」
「面倒くさいが仕方ないな。」
「可愛い弟子の為ですものね。」
「……敵を抹殺しにきた……。」
私の目の前に現れたのは、我が師匠たちであった。
剣神オリオス。
剣帝クラブ。
剣姫ロザリア。
邪剣ジェイソン。
レト大陸の四大剣士である。
「さあ、始めようか。」と、ギャツビーの一言に、
「……やるしかないか、レト大陸の剣豪たちよ。」と、アーキュラは剣を抜いた。
そして、
「よいか!ここは一人も通すな!」という、アーキュラの声によって戦いの火蓋はきって落とされた。
「ここは俺たちが引き受けた。お前は行け!」と、オリオスの言葉に私とアンダーヘアーは頷いて、走り出した。
「行かせぬ!」と、アーキュラの刃が私に襲いかかってきた。
しかし、その斬撃を受け止める者がいた――ギャツビーだ。
「貴公の相手は私が致そう。」
「邪魔をするなギャツビー!」
その隙をついて私たちは敵の包囲網を突破した。
「やりやしたね、レジェス様。しかし貴方様には、沢山のお仲間がいるんでやんすね……ちょっと羨ましいな。」
アンダーヘアーの言葉に私は正直、戸惑った。
これまで、そんな風に考えた事がなかったからだ。
しかし、いつの時も私が困った時は誰かしらが、手を差し伸べてくれていた。
「もしかしたら、私は一人ではないのかもしれない。」という思いが芽生え始めた瞬間だった。
――こちら、六牙将軍タクティスとトンボ、ムーンの戦場。
「師匠。こちらの敵兵、全て倒しちゃいました。そちらの加勢に回りましょうか?」
「ムーンよ、要らぬ世話じゃ。そこで見学でもしておれ。」
「はーい。じゃあ、そうします。」
「ずいぶんと余裕ではないか。三槍鬼と呼ばれていたプライドか?しかし、老いには勝てまい。弟子に手伝ってもらったほうが良いのではないか?」
トンボはタクティスに押されていた。
「ふん!まだ、お前みたいな昨日今日、産声を上げた赤子に負けるものか。かかってこい。」
「頑固爺だな。では、さっさと終わらせるとしよう。」
タクティスは、槍をヒュンヒュンと、まるで鞭でも振り回すように、しなやかに振った。
「くらえ!シルバーインパクト!」
タクティスの槍から放たれた衝撃は、トンボをまともに捉えた。
「びぇぇぇえ!」
トンボは吹き飛ばされ地面に叩きつけられてしまった。
「し、ししょう!」と、ムーンはトンボの元へ駆け寄った。
「み、みゅーん。」
「師匠の覚醒が解けている!こ、こうなったら俺が――。」
「おみゃぃじゃ、みりゅじゃ、みゅーんよ。」
「だけど、このままじゃ――。」
「あ、ありぇをきゅれぃ、みゅーん。」という、トンボの言葉にムーンは腰袋に入っていた包みを取りだしトンボに食わせた――メタール産チーズケーキだ。
トンボは無言で貪り、スクッと立ち上がった。
「師匠?……あっ!」と、ムーンは気がついた。
包みの刻印の日付は一月前を記していたことに……賞味期限だ。
「あ、あの……師匠、大丈夫ですか?」
トンボは無言でムーンの方を振り返って、
「あぁん!」と、一言睨みをきかせた。
「茶番は終わりか?だったら終わらせてもらおう。シルバーインパクト!」
タクティスの放った攻撃は、またもトンボを捉えた。
しかし、トンボは微動だにせず。
「な、なに!?」
「それで終わりか?ならば、こっちからいくぞ、あぁん!」と、トンボはタクティスに飛びかかった。
「サウザンドニードル!あぁん!」
「そんなもの、このシルバースプーンで跳ね返してくれる!」と、タクティスは応戦した。
だが、トンボの攻撃は徐々にタクティスを押し込んでいく。
「くっ!早いだけではない。一撃一撃が、とてつもなく重い。」
そして、遂にトンボの槍はタクティスに届いた。
「くそぉ!この俺が、こんな爺に――グハッ!」
タクティスは大きく吹き飛び、そして倒れた。
「やった!師匠やりましたね!」と、ムーンがトンボを見ると、トンボも、また倒れていた。
「師匠!」
ムーンは倒れたトンボを抱き抱えた。
「み、みゅーんよ。おにゃか、いちゃい。」
――トンボは食あたりをおこしていた。
「た、食べ過ぎたんじゃないかな。大丈夫、すぐ治りますよ。」と、ムーンは、しらばっくれた。
「そういえば、あいつら無事かな。明日は雨かな。あー腹減った。」と、ムーンは独り言を呟きながら、トンボを抱えて歩き出したので、あった。
私とアンダーヘアーはデヴァイン城を目指し走り続けていた。
「あと、あと少しですぜレジェス様。」
私の視界には確かに、太陽の光に照らされた白く美しく輝く城の姿を捉えていた。
「あれがデヴァイン城――グッ!」
突然、私の頭に激しい痛みが襲った。
「どうかされやしたか?」という、アンダーヘアーの言葉に答えることが出来ない程に、その痛みは私を苦しめていた。
そして、ついには地に膝をついてしまった。
「レジェス様!どこか、お体の具合でも!?少し休みやしょう。」と、アンダーヘアーは心配そうに、私に付き添った。
しかし、そんな私の都合には、お構い無しとばかりに、次の刺客が私たちに迫ってきていた。




