表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強の戦士ここにあり  作者: 田仲 真尋
52/68

Palace of the Dragon King

私たちの船はギアン大陸を東回りで進んでいた。

目的地のグリフォンブルーへは、まだ遠い。

ようやく船酔いも落ち着きかけた、この日の午後。

私は潮風を浴びながら船の甲板の手すりに、もたれかかり海を眺めていた。

ふと頭を過ったのは、ラ・ベニーでの出来事。

ビーナスの「役立たず!」の一声に過敏に反応を起こしてしまった自分が、私には不思議で仕方なかった。


「あれは、なんだったのか――」


そんな事を考えていると突然、私の背後から強い風が吹きつけてきた。

振り返るにも、全身に力を入れねばならない程の突風であった。

あまりの強風に一瞬、足がよろけてしまった。

その勢いで船の手すりに倒れかかると、

ミシッ!という鈍い音がした。

手すりは老朽化していたのか、あっけなく壊れ、私は空かされた様にして――海に落ちた。


ドボンッ!


「船の手入れくらい、きちんとやっておけ!」と、船員たちを叱りつけたい気分だ。

船から落ちた私であったが、心配は無用である。

泳ぎが、カジキマグロ並みに速い私には何の問題もない。

すぐに船に追いつき、低級魔法「ワイヤー」で、よじ登ればよいのだ。


「さて、では――」と、私が華麗な泳ぎを披露しようとした、まさにその時だった。

私の足に、何かが絡みついている事に気がついたのは。


「むっ何だ!?」


私は海に顔をつけ、確認した。


「な、なんじゃこりゃあ!」


そこには、これまでに一度として見たことのない生物がいた。

白くて凄く長い。

それは海月などではない。

どうやら魚のようだが、何にしても奇妙な魚である。

足に巻きついていた、そいつは徐々に私の身体にまで巻きつき始めた。


「う、うわぁ!やめろ!」


私は軽いパニックに陥り、ジタバタした。

それが悪かったのか、そいつは余計に、そして複雑に絡んでしまった。


「し、しまった!これでは上手く泳げない。もう息も――」


体の自由を奪われた私は、海の底へと落ちていったのであった。



暗闇の中で感じたのは、肌を焼くような暑さであった。

ゆっくり目を開くと、飛び込んできたのは激しい光。

体を起こし、辺りを呆然としながら見回した。


「ここは……どこだ?」


私は美しい白い砂浜に横たわっていた。

私の、これまでの経験から言わせてもらえば、恐らくは小さな無人島だろう。

辺りに人の気配はない。

海の方を見ても、船一隻見当たらない。

ただ永遠と波の音だけが、響きわたっていた。


「目が覚めたようだね、ソードマン。」


不意に聴こえた声に、私は戦慄を覚えた。

近くに人の気配など全く無かったのに、その声は私の真横から聞こえてきた。

私は、声の主を探した……いない。


「失敬な男だね、ここだよ。」と、またしても低い声がした。

そして私は、ある一点で目をとめた。

ジーッ……いや、まさか。


「そう私だよ。今、ユーが見つめている神々しいのが私だ。」


それは……大きな亀であった。


「ぎやぁぁ!亀が喋った!」と、私は気を失いそうになった。


「やはり失敬なウォーリアだ。君はリュウグノツカイに招待を受けたのだ、喜べ。」


「リュウグノツカイ……あの魚か。」

しかし、何をどう喜べば良いのか?

ここは、何処なのか?

ビーナスちゃんの船は何処へ?

そんな疑問ばかりが私の頭の中を支配した。


「さあ行こうか、ヤングボーイよ。」と、亀は歩き出した。


「行くって、どこへ?」と言わんばかりに不信感丸出しにしていると、

「姫君のとこへ案内するのだよ、ジェントルマン。」


「姫!?……仕方あるまい。騙されたと思って、ちょっと行ってみるか。」と、私はノコノコと亀の後に続いた。


約一時間後。


「ふぅ、少しレストするか。疲れたな。」と、亀は立ち止まった。


「休憩って……さっきから、たったあれだけしか歩いてないではないか!」と、言わんばかりに、私は亀を睨んだ。


「どうした、歩き疲れたのかい?なんなら私の上にライドオンしていくかい?」


「ええい、面倒だ!」と、私は亀を抱き上げ走った。


「おお!これは快適だ。よし、私がナビゲーションしてやろう――へい、メン!そこを左折だ。」


私は亀を抱え走り、そして五分程で目的地にたどり着いた。


「さあ、着いたぞ。あれが、『パレス・オブ・ザ・ドラゴンキング』だ!」と、亀は興奮して叫んだ。

私の目の前に大きな建物が姿を現した。

ピンクの派手な、城らしき建物は周りの豊かな自然とまったく調和していない。

それどころか、台無しにしているようにさえ思えた。

亀は私の手元から飛び下り、スタスタと足取り軽く城へと歩いていく。


「あの亀、早く歩けるではないか!」


城の門あたりに人影が、いくつか見える。

どうやら、お迎えらしい。

赤や黄色、それから緑などの派手なドレスを身につけた女性たちである。


「お待ちしていました。鶴丸様。」


「うむ。プリンセスはおいでかな?客人を連れてきたのだ。」


亀は鶴丸という名らしい。


「亀のくせに鶴とは、ややこしい奴だ。」

しかも、なんか勘にさわる口調である。


亀の事はさておき、

「いよいよ姫とご対面か。」と、私は恥ずかしながら、期待を高めていた。


「まあ鶴丸。お客様を連れてきてくれたのね。」と、城の門が開き、中から姫らしき人が姿を現した。


「き、きた!姫だ!」と、私の興奮度は頂点に達す勢いであった。


「乙姫様。ご機嫌麗しゅう御座います。また今日も一段と、お美しいですな、ビューティフルに御座います。」


私は恐る恐る、乙姫と呼ばれる女性の顔を拝んだ。


「――う、うつくしい!……だが……。」


私の目に映った乙姫は、美しいというより可愛らしいという方がしっくりくる。

あと七、八年もすれば確かに美しい姫となるだろう。

だが……まだ今は子供だ。


「よく、この竜宮城へおいでくださいました。どうぞ中へ。」


私は、少しがっかりしたが、気を取り直し、乙姫と亀に連れられて城の中へ。


城の中には豪華な料理が、ズラリと並んでいた。

中でも目を引いたのは、鯛やヒラメの活き造りである。


「これは見事だ。」と、私は感動すら覚えた。


すると、そんな私を見ていた乙姫が、

「お客様に、こんなこと頼んだら失礼かもしれませんが……。」と、恥ずかしそうに言った。


「私、兄弟も両親もいないのです。もしよかったら、『お兄ちゃん』って呼んでもいいですか?」


もちろん私は喜んで、快諾した。

こんなに可愛らしい妹なら大歓迎である。

それに私も一人っきりであったから、その気持ちはよく分かる。


「本当ですか!ありがとう――お兄ちゃん。」


「なかなか良いものだ。」と、私はでれでれ、した。


その後、私は旨い料理と酒に舌鼓を打ち、楽しく過ごした。


「ここが気に入ったかな、ボーイ?」と、鶴丸は訊ねた。

もちろん気に入った

――だが、そろそろ行かねばなるまい、と私は考えていた。


それから数日後、私は竜宮城を出る決断をした。


「名残惜しいが、私にはやらねばならぬことがある。」と、自分に言い聞かせた。


「寂しくなっちゃうね、お兄ちゃん。」


やはり別れは辛いものである。

既に私は涙目である。


「また来てくれる、よね?」と、乙姫の言葉に私は力強く頷いて答えた。


「それでは私が、送って差し上げよう。私の背にライドオン――。」と、言いかけた鶴丸を私は素早く抱き上げた。


「あっ!お兄ちゃん、これ持っていって。」と、乙姫は黒い艶のある木の箱を手渡した。


「これは玉手箱っていうんだけど……絶対に開けては駄目だからね。」


開けては駄目?

ならば、なぜ渡すのだろうか?


「乙姫め。お兄ちゃんを困らせようとして、そんなことを――可愛いいやつだ。」と、私は、にやけ顔をした。


「なに笑っているんだ、バッドフィーリングな奴だ。」と、鶴丸が言ったので、私は軽く小突いてやった。


「じゃあ元気でね、お兄ちゃん。」


乙姫は私の姿が見えなくなるまで手を振り続けていた。



亀の鶴丸と海岸まで、やってきた私は、ふと気づいた。


「帰るといっても、どうすればよいのだ!?」


私が悩んでいると、鶴丸が、

「よし、じっとしていろ。」と、言って木の棒を器用に掴んだ。

私は言われた通り、じっとしていた。

鶴丸は、その木の棒を私の頭目掛けて振り下ろした。


バギッ!


――目を開くと、眩いばかりの陽射しが飛び込んできた。

何となく後頭部に痛みがあったが、どうやら無事らしい。


「ここは――。」


「よかった!目を覚ました!姉御――船長、馬鹿が目を覚ましましたよ。」


その声に聞き覚えがあった――メープルだ。


「あんた無事で良かった!」と、私に抱きつくように飛び込んできたのは、ビーナスだった。


「あれ?……私は何故ここに?」と、錯乱状態の私。


「あんた、海に落ちて溺れちゃったのよ。覚えてる?」


私は首を傾げて、そして首を横に振った。


「泳げないなんて信じらんない!」と、メープルが怒ったような口調で言った。


「泳ぎは得意なんだが……。」と、思ったが、どうもよく現状を把握できない。


「あんたを運んでくれたのは、あのイルカよ。感謝しなさいよ。まったく、あんたが死んでしまったらギャツビーに合わせる顔がないわ。」


ふと海の方を見ると、一頭のイルカがいた。

「イルカ師匠だ!ありがとう!」と、手を振った。


しかし、それではあの竜宮城とやらは?

亀の鶴丸は?

私の可愛い妹、乙姫は?

――夢だったのか?

ふと、手元に何か固い物がぶつかった。


「ん?――これは、乙姫に貰った玉手箱。」


やはり夢ではなかったか。

私は、そう確信した。


「あっ!なにその箱?」と、メープルが目敏く玉手箱を見つた。

私は焦り、取り戻そうとしたが間に合わない。


「高級そうな箱だ。中身はなんだ?――それ!」と、メープルは箱を開けてしまった。

箱を開くと中からは白い煙りが大量に発生した。


「な、なんだこれ!?」


開けてはいけない箱。

それを開けてしまったことが、この私に天罰として降り注いだ。

どうして、こうなってしまったのか?

それは私にも判らない。

きっと妹との約束を破った罰なのであろう。


「おい、あんた達!綺麗に掃除しなよ。掃除が終わるまで夕飯は抜きだからな。」と、ビーナスは私とメープルに、きつく言い聞かせた。


「お前のせいだからな。」


「いや、お前が勝手に開けるからだろ!」と、言ったやりたいところだが、仕方あるまい。


「まったく!なんなんだよ、あの箱。突然爆発して白い粉を撒き散らしやがって!」と、メープルは愚直をこぼした。


日が地平線へと沈んでゆく。

冷えた風が、白い粉を巻き上げたながら、強く吹き抜けていった。


「さ、さむっ!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ