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最強の戦士ここにあり  作者: 田仲 真尋
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Dream island~中編~

そこは誰もが分け隔てなく成功者へのチャンスを与えられる場所。

既に巨万の富を得ている者でも、これから成功する者でも関係ない。

正義の味方だろうが悪党だろうが、お構い無し。

力があれば成り上がれる。

やるかやらぬかは、己次第。

ここは、夢を掴む者たちの島――ドリームアイランド「ラ・ベニー」である。



キャプテンキッズの船から降りた私は船酔いにつき、足がプルプル震え全身から力が抜けていた。まるで蝉の脱け殻のようである。


「到着しましたぜ。ここが『ラ・ベニー』でさぁ。」と、キャプテンキッズは、まるで私の手下のように振る舞った。


私は、その街並みを見渡した。

なんか思っていたのと違う。

高級リゾート感、ゼロである。

その辺りを歩く連中も、どことなく柄が悪い。


「そうそう、言い忘れてましたが、ここはラ・ベニーのダークサイドになるんでさぁ。表ではリッチなセレブたちが優雅に楽しんでいるですが、こちら側は悪党たちの溜まり場になってるんでさぁ。」


「ノー!私は、こんな暗黒街に用はない。優雅な一時をビーナスちゃんと過ごすために、やってきたのだ!」と、頭を抱えた。


「ちなみに言っておきやすが、俺たちみたいな海賊はリゾート地への立ち入りは禁止になってやすんで。まっ、あんたも似たようなもんでしょ。こっちの方が落ち着くってもんでさぁ。」


私は低級魔法「パンチャー」を唱え、

「一緒の括りにするな!」と、ばかりにキャプテンキッズを、ぶん殴ってやった。


「ま、まあまあ、落ち着いて。ここだって意外と楽しい所なんだから。あっ!そうだ、俺たちは姉御の所に行かないといけねぇんだった。今日は海賊会議があるもんで、俺たちはこれで失礼します。」


キャプテンキッズと手下たちは、街の中へと足早に消えて行った。

取り残された私は早速、ビーナスちゃんのいる表側へ行くため、情報収集へと乗り出した。


「まずは酒場だな」と、私は街を散策した。

しかし、酒場らしき店は、なかなか見つからない。

しばらく街をフラフラと歩いていると、東の方角に何やら高い壁が見えてきた。

その壁は南北に伸びている。

何かを仕切る壁のようだ。


「あの、壁の向こう側がパラダイスだな。」と、私は本能的に感じた。

しかし私は、このダークサイドの街を、もうしばらく散策してみようと思った――本能的にだ。

私の野生の勘が、まだ何かあると教えてくれている。

街を歩いていると、やたらと人相の悪い輩が、そこかしこに散らばっていた。

どう見ても、カタギではなさそうである。

そんな中、私は信じられない光景を目の当たりにした。

それは、真っ赤な防具を装備し、獅子の紋章の入った盾を持っている騎士――グリフォンブルーの戦士である。

よく観察すると、グリフォンブルーの騎士は、一人や二人ではないことが判明した。


「なぜ、こんな場所にグリフォンブルーの兵士が?というより、現在はブレイズと戦の最中では、ないのか?」と、私が不思議に感じていると、背後から突然声をかけられた。


「グリフォンブルーの騎士が珍しいか?」


その声は私のすぐ後ろ、耳元付近から聞こえた。

私は、ドキッとして振り返った。


「――オリオス師匠!」


それは、私の剣の師匠オリオスであった。

長い金色の髪を、後ろで一つに束ねているスタイルは今も健在である。

彼は齢三十という若さで「剣神けんしん」と呼ばれるほどの腕の持ち主である。

ちなみに、このレト大陸には四大剣士と呼ばれる者たちがいる。

オリオスの他には、

剣帝けんていと呼ばれる、クラブ。

剣姫けんきと呼ばれる、ロザリア。

邪剣じゃけんと呼ばれる、ジェイソン。

以上の四人が、そうである。

さらにいえば、この四人より高い能力を持っていると云われているのが、剣聖ラルナである。

一応言っておくが、この四人は全て私の師匠です。


「お前が、こんなとこに居るなんて驚きだ。随分と久しいな。」


私はオリオス師匠との再会を嬉しく思ったが、今はなによりビーナスちゃんと合流せねばならない。

私はオリオスに一礼し、足早に立ち去ろうとした。


「こらこら!久方ぶりに師匠と再会したというのに、それはないだろ。」


仕方がないので、私は師匠と共に酒場へと向かった。


「早く、ビーナスちゃんの元へ行かねばならんのに。」と、私はソワソワしていた。


しかしオリオス師匠は酒場で様々な情報を提供してくれた。

まず、このラ・ベニーという島が、どこの大国にも属さない、れっきとした独立国であるということ。

主な収入源は観光業と海運業であること。

島の表面には綺麗なコロシアムがあり、そこで行われるクリーンファイトは賭け試合になっている。

なんでも、その試合にはシナリオが用意されていて、劇的な試合を繰り広げ観客たちに感動をあたえる、ということである。

それに観光客は魅了されているのだという。

八百長というよりは、一つのショーである。

他にも馬のレースやカジノと呼ばれる豪華絢爛な賭博場が、このラ・ベニーの表面にはある。


この裏面にはも大きなコロシアムがある。

ここダークサイドでは強い者だけが名誉と金を得ることができる。

正義も悪もなく、ただ強ければ成功者になれる、というシンプルな仕組みだ。

それを目的に各地から猛者が集まる。夢を掴むために。

それがドリームアイランドと呼ばれる由縁である。


その他の情報もオリオスから聞き出した。

このラ・ベニーには独自の軍隊があるという。

その殆どが傭兵らしい。

そして、このドリームアイランドを取り仕切る総帥ギャツビーという男のこと。


「ギャツビーは俺の弟子だ。つまり、お前の兄弟子にあたる。腕っぷしが強く、豪快な奴だ。最近では自分を『剣王けんおう』と呼ばせているらしい。」


「四大剣士の真似事か……ナイスアイデア!」と、私はギャツビーを密かに称えた。

自分で通り名を決めてしまえば、世間にも私の強さが広がり易くなるはずだ。


「例えば……剣皇けんこうなど良いではないか……だが、なんとなく体の調子のよい人みたいだな。では……剣華けんかで、どうだ。強く美しい感じで良いではないか……だが、なんとなく短気で喧嘩っ早い感じだ――難しい。」と、私は一人で悩んでいた。


「なに一人で唸っているんだ?――そういえば最近、この島の観光客を増やそうと、キング海運の奴らが嘘話で、この島に人を誘致しているらしいな。例えばグリフォンブルーがどこかに侵攻して、戦争が起きた、一時的に避難するためラ・ベニーへ寄港しますってな。それは誘致ではなく誘拐だろって言いたくなるよな。」


「なるほど。では、ブレイズへの侵攻も嘘であったか。」と、私は何故かホッとした。


「おっと、もうひとつ大事なことがあった。」と、オリオスは微かに残った酒を飲み干し、追加の酒を注文して、語りだした。


「ここが、どうして他国に侵略されないと思う?」と、唐突に質問された私は、首を横に振ることしかできない。


「それはな、グリフォンブルーだ。ギャツビーは、グリフォンブルーに多額の金を払って契約を交わしているんだ。」


私には理解できない話である。

つまり、国こど傭兵として雇っているということだ。

そんなことがあり得るのだろうか。


「ギャツビーは、ここにいる傭兵を信用していない。奴が信用するのは、金とグリフォンブルーだけだ。」


何故、グリフォンブルーを信用できるのだろうか?という、疑問が私の頭に浮かび上がった。


「ギャツビーが、グリフォンブルーを信用するのは――それは、奴自身が元グリフォンブルーの将軍だったからだ。」


流石の私も驚きを隠せなかった。


「グリフォンブルーには六頭の獅子がいる――六牙将軍だ。ギャツビーは将軍の座を譲り、ここに来た。元々、何もなかった島をここまで発展させたんだ。奴はそういう才能を持っていたんだろうな。いい資金源となったことで、グリフォンブルーもギャツビーを無下に扱うことができなくなった。それで、現在の関係が成り立っている、ということだ。」


世の中には面白い奴が、まだまだ居るものだ。

私は俄然、ギャツビーという男に興味が湧いた。


「どうだ、これから見に行ってみるか――ギャツビーを。」と、オリオス師匠の提案に、

「しかし、私にはビーナスちゃんと優雅なリゾートデートが……」と、頭の中で天秤を思い描いた。


「いいから、行くぞ。これは師匠命令だ。」


「師匠よ、汚いぞ!」と、思いながらも結局、私は逆らえなかった。



酒場を出て何処へ行くのかと、オリオスの後をついて行くと、たどり着いたのは古びた大きなコロシアムであった。


「ギャツビーは、だいたい此処にいる。」と、オリオスは慣れた様子でコロシアムへと入っていった。


「仮にも一国の総帥が、こんな所に本当に居るのだろうか――」と、考えている時であった。

私の視界の片隅に映る美しい女性の姿。


「あ、あれビーナス……ちゃん?」


そう、私が追い求めていた女神である。

遠目では、あったが間違いない。

私の視力は、一キロ先であっても、はっきりくっきり見える。


「どうしてビーナスちゃんが、こんなダークサイドのコロシアムに?」と、私は訳が分からなくなった。


後ろ髪を引かれながらも、とりあえず私はオリオスに続きコロシアムへと足を踏み入れた。

コロシアムの中は大勢の人で賑わっていた。


「ここでは毎日、熱い闘いが繰り広げられている。ほら見ろ、あそこで金を集めているだろ。あれは観客が賭けをしているんだ。そして、あの闘技場の真ん中に立っている男こそ、この島の支配者、ギャツビーだ。」


私は自然と、その男に釘付けとなった。

雄々しき、その佇まい。

不思議と人を惹き付けるようなオーラ。

間違いない――強者だ。


「どうだ戦ってみたいか?」と、オリオスの問い掛けに私は、即座に首を縦に振った。


「そうか。ここは飛び入り参加可能だ、俺が話をつけてきてやろう。」


オリオスは闘技場へと歩み出す。


「どなたか私と勝負してみませんか。私に勝てば莫大な賞金が手に入りますよ。」


闘技場の真ん中では、ギャツビーが若干弱々しく吠えていた。


「俺がやろう。」と、銀色の長髪の男が闘技場に飛び入った。


「あっ!先を越された!」と、私はオリオスを見た。

オリオスは途中で知人に出会ったらしく立ち話し中だ。


「おいおい、ありゃあキリエスのイグリットだ。」

「イグリットって、あのキリエス兵を斬りまくったっていう。人斬りイグリットか!?」

「ああ。奴が出没してからはキリエス兵が夜、出歩かなくなったっていう噂だ。」



「あんたを倒せば、この島は俺のものだ――でいいんだよな?」と、イグリットは黒い眼帯の位置を直しながら、ギャツビーに訊ねた。


「いや、そんな話はしていません――ですが、まあいいでしょう。貴方では私は倒せない。」


ギャツビーは手を上げ手下たちに何やら指示を出した。


「ご来場のお客さま、これより私とイグリット殿との闘いを賭け試合と致します。ご存分に楽しんで下さい。」


会場中から歓声が巻き起こった。


「それではイグリット殿、集計が終わるまで、しばしお待ちを。」


「分かった――この闘いを受けたことを、すぐに後悔させてやるからな。」


ギャツビーとイグリットの間に激しい火花が散っているようだった。



それから、およそ一時間後。

ついに闘いは、始まった。

イグリットは長身の細見である自身に、よく似た剣を持っていた。

対するギャツビーもイグリットの剣と同じタイプの物である。

ただギャツビーは、服の上からでも分かる筋肉隆々の肉体だ。


「では参ります、イグリット殿!」


「こい!剣王ギャツビー!」


二人の闘いは、誰もが予想しない展開となった。

オッズはイグリットが、やや優勢。


「ま、まさか!」と、この私でも驚く展開だった。


勝負は一瞬だった。

最初の一撃でイグリットは……息絶えた。


「――見事……だ――」


再び会場を大歓声が包んだ。


「物足りない!今日はもう一試合行おう!誰か私と血のたぎるような闘いをしようぞ!」


そのギャツビーの雄叫びに歓声は、より一層輝きを増しているようだった。


「よし、今こそ私の出番だ!オリオス師匠は宛にならん。飛び込むしかない。」と、私は闘技場へと走り出した。


だが、その時であった。


「その闘い私が相手をしよう、ギャツビー!」と、いう声が会場内にこだました。


観客たちは一斉に、その人物を見た。


「そ、そんな。どうしてビーナスちゃんが!?」





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