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最強の戦士ここにあり  作者: 田仲 真尋
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Dream island~前編~

港町セドランからギアン大陸の大国ブレイズへと向かうことを決意したのは、よく晴れた穏やかな天候の日であった。

数ある、レト大陸からギアン大陸への海路の中でも、このセドランからブレイズへの航路は比較的、安全だといわれている。

しかし私は少しでも、より波が穏やかであろう日を選択するために、四日ほどを費やした。


「よ、よし。これだけ波が穏やかであれば、船酔いの危険も回避できるだろう。」


こうして、私は船へと乗船した。

今回、なぜブレイズへ向かうのかって?

それは、かねてから興味があった、グリフォンブルーという謎に包まれた国へ行くためである。

グリフォンブルーは、ブレイズから真っ直ぐ南へ下った場所にある。

ちょうど運良く、セドランからブレイズへの便があるということを知った私は早速、波止場に向かった。

しかし、いざとなると船に乗るのを躊躇ってしまう。

しばらく、その場で考え込んでいた私に刻々と決断の時が迫ってきていた。


「もうすぐ出航致します。お乗りの方は、お急ぎください。」と、係員の冷酷な発言が私の決断を鈍らせていく。

しかし、その時であった。


「あーん、ちょっと待って。乗ります。」と、風に乗って甘く、艶かしい声が聞こえてきた。

もちろん、私は即座に反応して振り向いた。

そこには、太ももまで鋭くスリットの入ったタイトなドレスに身を包んだ女性がいた。

服の上からでも分かる胸――巨乳だ。

時折、覗かせる白い足がセクシーである。。

私は何の迷いもなくなり、その黒髪の艶やかな清楚系美女の後に続き乗船した。


――船が出航して数時間が経過した。

今回の船旅は、まさに奇跡であった。

この私が、船酔いしていないのだ。

船酔いどころか、こんなに楽しい旅は初めて、である。

私は他の乗客と共に甲板で、くつろいでいた。

そして、その乗客たちの前で踊りを披露する一人の女性。

彼女は先ほど、私の乗船を決意させてくれた巨乳……いや、清楚系美女であった。

彼女の名は「ビーナス」。

その名のように、まるで女神だ。

オータムという島で踊り子をしているとのことだ。

もちろん、その情報は私の地獄耳で収集したものである。

私は彼女の踊りに、目と心を奪われていた。


「おっ!ギアン大陸が見えてきたぞ。もうすぐブレイズだ。」


乗客の誰かが、そう叫んだ。


「な、なに!そんな馬鹿な!もう着くのか。」と、私は吃驚仰天した。

こんなにも早く感じるとは、とても信じられない。

私は、なんとかビーナスと近づきたくて、あたふたした。

さり気なく近づいてみたり、横目でチラチラ見てみたり……いや、これでは不審者ではないか。

私なんか、やはり駄目な野郎だ、と自暴自棄になってみたりもした。

そうこうしていると、船に一隻の小舟が近寄ってくるのが目にとまった。


「なんだ、あの船は?」と、甲板に出ていた乗客たちは、一斉に小舟を見た。

すると、この船の船員らしき人物が、小舟でやって来た人物と何やら会話を始めた。

その数分後、私たちの目の前に船長を名乗る男が現れた。


「えー、皆様。私、この船の船長を務めますポールと申します。先ほど入った情報により、皆様のブレイズへの上陸が難しくなりました。」


「どうして上陸できないんだ?」

「セドランへ引き返すつもり?」

「理由を教えてくれ船長。」


乗客たちは、不安になり次々と船長に迫った。


「ブレイズへの上陸が出来ない理由は、ずばり戦です。先日未明より、グリフォンブルーがブレイズへと侵攻を始めたそうです。私どもキング海運としましては、お客様の安全を第一とし、これよりレガリアへと向かいたいと思っております。どうぞ、ご了承下さい。」


船長の説明に乗客たちは、さらに不安に陥ってしまった。

しかし、最後は戦に巻き込まれるよりはマシだとの結論に達し、皆が承諾した。


「よし!レガリアまでなら、相当時間がかかる。その間に、なんとかビーナスちゃんと、親しくならなくては。」と、私は一人、この出来事をポジティブに捉えていた。


「レガリアまでだと三日ほどかかるぞ。」

「さすがに辛いわね。」

「せめてアトラスにしてもらえないのか?」


乗客たちは一旦は納得したが、やはり不安が拭えない様子だ。


「アトラスには寄れません。あそこは私どもとの契約が存在しないので寄港できないことになっております。ですが、このまま直行でレガリアへ向かうのは皆様にも負担をかけてしまうでしょう。そこで一旦、ここより半日ほど東へ行った所にある島、「ラ・ベニー」へと、ご案内致します。この島は私どもキング海運の本拠地でもありますので皆様を充分に、もてなすことが出来るでしょう。それで宜しいでしょうか?」


船長の提案には、皆が賛成した。

話によると、ラ・ベニーは観光地として有名であるらしい。

世界各地から富裕層が集まる、いわば高級リゾートだ。

さすがに、そんな所へタダで行けるのならば誰も文句は言うまい。


こうして、私たちはブレイズを断念し、レガリアへ向け出航を再開した。

途中、寄港するラ・ベニーまでが勝負だと踏んだ私は、ビーナスに不自然に擦り寄った。

ビーナスは一人甲板の手すりに寄りかかるようにして、海を眺めていた。

私は、引いては返す波のように、ビーナスに近づいては離れを、幾度か繰り返した。

その時であった。

突如、船の上で「きゃあぁぁ!」と、鳴り響くビーナスの悲鳴。


「ち、ちがう。私は決して変質者などでは――」と、私が心の中で弁解をしていると。


「あれは!レッドデビルだ!」と、船員が叫んだ。


よく見ると、ビーナスの腰に何やら太いものが巻き付いている。

それは、軽々とビーナスを持ち上げ、海へと引き込もうとしている様子だ。


「私のビーナスちゃんを返せ!」と、ばかりに私は剣を抜き、それを切り、彼女を救出した。

ビーナスは投げ出され、私は彼女の落下点に入り、そしてキャッチした。

キャッチしたは良いが、その後が大変であった。

予期せぬ、お姫様抱っこに私は硬直してしまったのだ……変な意味ではない。


「あ、あの、ありがとうございます。」


ビーナスの一声で私は我に返り、彼女を降ろした。


「私、ビーナスと申します。宜しければ貴方のお名前を、お聞かせ頂けませんか。」と、ビーナスは頬を赤らめて、恥じらいながら訊ねた。


「こ、これは!もしや恋の予感!」と、私は一人舞い上がり、雲を突き抜け、どこまでも翔んでいけそうだった。


しかし、束の間の幸せは突然、崩壊することとなってしまう。

何やら私の足元に変な感触が――気持ち悪い感じだ。

ふと、足下を見た瞬間であった。


「な、なんだこれは!?」


先ほどビーナスに巻き付いていたやつが、今度は私の足に絡み付いていた。

そして私を海へと引きずり込もうとしている様子である。


「うぉぉっ!負けるか!」と、私は手すりに掴まり抵抗したが、敢えなく海へと落ちてしまった。


「ああっ!剣士様!まだ貴方のお名前も伺っておりませんのに!」と、ビーナスの悲痛な叫びが水中にまで届いた。


「まずい!レッドデビルを怒らせてしまったんだ!大至急、離脱するぞ!」と、船長と船員は慌ただしく船を発進させてしまった。


残された私は水中でレッドデビルと揉み合っていた。


「おのれ!せっかくビーナスちゃんと、いい雰囲気だったのに……この蛸野郎、許さん!」


私は「レッドデビル」などと、大層な名前を持つ、蛸を許す訳にはいかなかった。

しかし水中での戦いは思った以上に苦戦を強いられてしまう。

このレッドデビルという化け物は以前、戦ったクラーケンよりもパワフルな力で私の自由を奪った。


「魔法で対処せねばなるまい。」と、私は低級魔法「ウォーターボム」を唱えた。

レッドデビルの上方に数十個の水の球が散りばめられていく。

そして、「ドロップ」と、唱えると水爆弾は一斉にレッドデビル目掛けて落下し、そして爆発を引き起こした。

それに驚いたレッドデビルは、ようやく私の身体を解放した。

この魔法に殺傷能力は、ない。

相手を脅かすだけである。

だが効果はあった。


「よし!これで戦える。」と、私は剣を抜いた。


しかしレッドデビルも、なかなかのやり手であった。

一瞬の隙をつき、墨を吐いて逃亡を図ったのだ。

私は墨に飲み込まれ、暗がりで足掻いてみたが、奴を見失ってしまった。

そろそろ息の方も限界が近づいてきている。

私はレッドデビル討伐を諦め、水面を目指した。



波間に漂う漂流物は……私です。

もう、どのくらいの時間が経ったのだろう。

何処を見ても、なにもない海。

島も無ければ船も無し、である。

しかし、私は冷静だった。

幾度となく漂流してきた経験があるからだ。

こんな時に期待するのは――そう、イルカ師匠である。

私がピンチの際には、必ず助けに来てくれる偉大な師匠だ。


「むっ!来た!」


波の合間に師匠の背鰭がチラリと見えた。

そして、それはグングンと私に近づき、ついには私を喰おうとした……お決まりの鮫である。

私は、鮫を低級魔法「パンチャー」で撃退し、再び海に漂った。


「これは少々まずいかもしれない。」と、思った。


そして、その不安は時間が経つにつれ、酷くなっていく。


「ど、どうしよう。このままでは……。」


私は、ありとあらゆる手段を模索してみた。

空を飛べる魔法は、なかったか?

海を割る魔法は、なかったか?

海水を飲んでも大丈夫な魔法は、なかったか?

――答えは全て「ノー」であった。


そんな私が軽いパニックに陥っている、まさにその時であった。


「おーい!お前、そんな所で何しているんだ!?」と、救いの声が聞こえてきた――船である。

私は、その船に向かって大きく手を振った。

恐らく、こんなにも手を振ったのは生まれて初めてだろう。

腕がちぎれるくらいに、だ。


「待ってろ!助けてやるからな!」と、神様は言いました。


船は、近づいてくる。

どんどん近づき、そして私が目にしたのは、堂々と海賊旗を掲げた船だった。


「か、かいぞくか……致し方ない、背に腹は変えられぬ。」と、私は笑顔で海賊船に手を振り続けた。


「あっ!お前は、あの時の鞭男じゃねーか!」と、船から大きな声が、こだました。

見てみると、確かに見た顔がいた。


「確か……キャプテンキッド……いや、キャプテンキッズだ!」

三十五話参照なのである。


「お前には多少の恨みがあるが、どうしようかな――助けて欲しいか?」と、キャプテンキッズは、その小柄な身体を船から乗り出すようにして、私に訊ねた。

私は子犬のように、従順に小刻みに頷いた。


「そうか、助けて欲しいのか。うーん。でもな、お前には痛い目にあったからな……そうだ!俺の手下になれ。そうすれば助けてやる。さあ、どうする?」


キャプテンキッズは弱味につけこみ、ふざけた取引を持ちかけた。

しかし私は落ち着いて、機を伺っていた。


「もう少しだ。もう少し、こちらへ来い。」と。


そして、機は熟した。

私の低級魔法「ワイヤー」の射程圏内に船が入ってきたのだ。

私は、すかさずワイヤーを飛ばし、船の手すりに絡めた。

そして、一気に船の甲板へと飛び上がった。


「お、お前。計ったな!」と、キャプテンキッズは驚き、怒り、そして私のパンチャーにひれ伏した。



「調子にのり、どうもすいませんでした。」


「すいませんでした。」


キャプテンキッズと、その手下どもを、私は得意の低級魔法パンチャーで散々殴りまくってやったのだ。


「あ、あの。俺たちは、ラ・ベニーという島へ行くつもりなのですが……宜しいでしょうか?」と、キャプテンキッズは恐る恐る、訊ねた。


「おっ!確か、その島にビーナスちゃんたちは、向かった筈だ、ラッキー。」と、私は小躍りしたくなりそうなのを、我慢してクールに頷いてみせた。


「了解しました。おい、野郎共!ラ・ベニー目指して出発だ。」


こうして私は、不本意ながら海賊船に乗り「ラ・ベニー」へ向け

進み始めた。

この島が、とんでもない島だということを知るのは、まだもう少し後の話である。


よく晴れた陽気の中、船は機嫌良くジャブジャブ進んで行く。

私は、船とは裏腹に早速、船酔いしそうだった。










お読み頂き、ありがとうございます。


Dream island編 三部作を予定しております。


次作も宜しくお願いします(*^^*)

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