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最強の戦士ここにあり  作者: 田仲 真尋
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キリエスの召喚士~前編~

マビン・グラスに、たどり着き数時間が経過していた。

ここは今、他国から入ってくる者に敏感になっている様子で、先ほどから、旅の商人などがキリエス兵に呼び止められている場面を、しばしば目にした。


「下手に動けば、危険だな。」

私は、建物と建物の隙間に入り込み、街の様子を、こっそり伺っていた。

ここに来るまでにキリエスの王、ハレス・ドレイクについての噂を色んな所で耳にした。

もちろん国民たちは、声をひそめて話していたが、私の地獄耳には、ばっちりと情報が届いていた。

ドレイク三世を一言で表すならば、独裁者である。

これは珍しいことでは、ない。

まあ、良い王か悪い王かと問われれば、このドレイク三世は、後者であると、いえるだろう。

私が集めた情報を統合し、これまでのキリエスの行いから見てとれる、ハレス・ドレイクという男を、私なりに分析してみた。


知的で好奇心旺盛、思い立ったら即行動に移すタイプだ。

そして、冷酷であり残忍、短気で我が儘な一面も、あり。

自らの手を汚すより、他人を使って事を成そうとする、クソ野郎であることは、間違いない――以上だ。


なんにしても、甘ったれたガキが権力を握った典型的な男だろう。

ついでにここで、私に人間分析の仕方を教えてくれた、ファイル師匠に感謝の意を述べておこう。


「召喚士は城に居るとみた!」

私の頭に閃きが走った。

しかし、グラス城に忍び込むのは、簡単ではない。

「どうしたものか……。」

私は、小一時間ほど考えた。

そして、出した結論は、騒ぎを起こして連行されるで、ある。

では、連行されるには、どうするか?

どうせなら良い思いをしたい。


痴漢か……いや、変態扱いは勘弁だ。

覗きか……いや、道徳的に間違っている……だが、ばれなければ……いかん、主旨が変わってしまっている。

結局、その辺りのキリエス兵を、ぶん殴るのが手っ取り早いという結論に至り、私はため息を吐き、低級魔法「パンチャー」を、唱えた。


「止めておけ。」

その声に私はハッ!として、魔法提唱を止めた。

気づくと、四方を黒いマントにフードを被った、四人に取り囲まれていた。

「な、なんだ。いつの間に――。」

私が、あたふたと取り乱していると、その四人は、

「心配するな、俺たちだ。」と、フードを取った。


「おお!やはり師匠たちでしたか。」と、私は初めから判っていた様な素振りを見せた。


「ここでは、なんだ。歩きながら話そう。いいか、キリエス兵に怪しまれぬよう自然に振る舞え。」と、師匠たちは再びフードを被った。


「……どう見ても不審者ですぞ師匠たち。」と、私は心の声を潜め、怪しいオーラ全快の師匠たちと並び歩いた。


ここで、師匠たちを紹介しておこう。

彼らは私の魔法の師である。

「ドーン・スクワード」という、魔法使いのギルドに所属している。

まあ所謂、魔法組合みたいなものだ。

正規の魔法使いは、ここに登録せねばならないらしい。

私は趣味で魔法を使う剣士であるから、登録などしていない。

そのドーン・スクワードの中でも、最強クラスの四人衆として、彼らは名を馳せている。


まず、リーダー的存在の「ゴールド」

土系の魔法使いである。

紳士的であり、何事にもきっちりしている。

この中では年長であり、真面目な男だ。

だが、どこか抜けている。

今現在、キリエス兵の注目が私たちに集まりつつあるのは、彼のせいである。


次に、アイスター。

彼は風を操る魔法に長けている。

マッチョな体は服の上からでも、よく分かる。

性格は無口で温厚。

だが、切れるとすぐに低級魔法を、誰彼構わず浴びせようとする迷惑極まりない男である。

――私と、よく似ていると言われるが、そんなことはない。


続いて、レイナ。

この中で唯一の女性。

長い黒髪が綺麗で――巨乳だ。

水系の魔法を好んで使う。

美しいが、ちょっと病んでいる。

ゴールドに恋心を抱いているが、相手にされていない。

面倒見が良く、私の姉のような存在だ。


最後に、シュナイダー。

火系の魔法使い。

私と同じ歳で、この中では最年少。

派手な金髪を逆立てている。

とにかくチャライ男だ。

女を見ると欲情する、盛りのついた犬である。

しかし魔法のセンスだけは、ずば抜けて一番だ。


――以上が私の師匠たちである。


「お前の目的は召喚士か?」

ゴールドの問い掛けに、私は頷いた。


「そうか。じゃあ少し、話しておこう。その召喚士は元々、我々ドーン・スクワードの仲間だった男だ――名をグロウという。以前は目立たない奴だったが、ある時グリモワールという書物と出会い、グロウは変わってしまった。召喚の術に、のめり込んでいき、そしてドーン・スクワードを抜けた。もちろん、無断で抜けることなど許されていない。そこで我々がグロウの捜索及び始末をつけるため派遣されてきたのだ。」


ゴールドの話しは衝撃的だった。

かつての仲間を倒さねばならない、というものは、一体どんな気持ちなのだろう。

師匠たちが負わねばならない気持ちを考えると、私は、そのグロウという召喚士に無性に腹が立った。


「お前、グロウはグラス城に居ると思っていたんだろう?」

シュナイダーの質問に、私は自信を持って頷いた。


「浅はかよ、よく考えなさい!――お菓子食べる?」と、レイナは私を叱った後、お菓子をくれた。


その背後で、アイスターが低級魔法を唱え始めているのをゴールドが止めていた。

「おのれアイスター!私に低級魔法を――」

私はアイスターに向け低級魔法を唱えようとした。


「まあ落ち着け、お前ら。」

私はゴールドの言葉に、我に返った。


「いいか。グロウは城にはいない。奴は今、ドレイク三世の持つ別宅に居るんだ。」


私は「……やはりな。」と、いう様な顔をした。


「お前、変わんないね、ハハハ。オッ!美女発見!」と、シュナイダーは、女の子へ向け走り出した。


「おい、シュナイダー!隊列を離れるな!」と、ゴールドは大声で叫ぶ。


「ゴールド、騒いじゃ駄目よ。キリエス兵に怪しまれるわ。」

「いや、もう既に手遅れですぜ、姉さん。」と、私は言いたい。


「す、すまんレイナ。とりあえず話を続けよう。グロウが城に居ないのには、理由がある。それは、キリエスを信用していないからだ。城の中で過ごせば、暗殺の恐れもあるからな。王の、お膝元には居たくなかったのであろう。それに、それはキリエス側も同じだろう。得体の知れない召喚士というものを城に住まわせるのは危険と判断してのことだろう。」


お互い警戒心が強いと、いうことだ。


「共に来るか?」

私は当然、頷いた。

「よし!それじゃあ行くぞ、場所はあそこだ!」と、ナンパに失敗して無様に戻ってきたシュナイダーが、指差すのは小高い山の中腹辺りにある、大きな屋敷だった。


「あそこか。」

私が、その屋敷を確認した、その時だった。


「おい、そこの怪しい奴ら。ちょっと来い!」

――キリエス兵だ。

私たちは皆、すっとぼけた様に顔を逸らした。


「貴様らだ!その黒いマントの四人と剣を持った、ゴリラみたいな奴!」


師匠たちは、途端に失笑した。

「ゴリラだってよ、お前!ヒャヒャヒャッ!」

シュナイダーが私を見て笑っていることで、ようやくゴリラ扱いされたのが自分のことだと気づいた私は、素早く低級魔法「パンチャー」を唱え、キリエス兵をぶん殴ってやった。


「貴様、なんということを!おい、こいつらを捕らえろ!」

その声に街中に散らばっていたキリエス兵が、わらわらと集まりだした。


「まずいな。逃げるぞ!」

ゴールドの掛け声に、皆が走り出した。

もちろんキリエス兵も、逃すまいと必死に追いかけてくる。


泥沼ボッグ」と、ゴールドがキリエス兵に向け唱えると、追手の足元が泥の沼と化した。


「うわぁ!なんだこれは!?」と、キリエス兵の足止めに成功した。

しかし、追手の数は減るどころか増える一方である。


「ここは一旦バラけて、あの屋敷で落ち合いましょう。皆、気を付けて。」と、レイナは提案した。


「よし、そうしよう。私は、こちらへ行く。」と、ゴールドが最初に裏路地へと入り込んだ。


残る私たちは四方向へ散らばり、逃げだしたのであった。



私は、とある民家の納屋に身を潜めていた。

「ふぅ。しばらく、ここでやり過ごすか。」と、思った矢先であった。

ガチャ!と、納屋の扉が開き、キリエス兵数名が入り込んできた。

「居るのは分かっておる。というより、貴様らが散り散りに、なるのを待っていたのだがな。さあ、出てこい!」


私は民家の主人に迷惑を掛けまいと、仕方なくキリエス兵の前に歩み出た。


「発見!よし。まずは、こいつを殺って手柄を挙げるぞ。俺は第六師団の師団長、コラゲンである。貴様らを全滅させて軍団長に出世するのだ。」と、頭の悪そうな発言をしている。


しかし私は、この時に妙な違和感を覚えた。

まるで待ち伏せされていたような、そんな気がしたからである。

何はともあれ、まずはキリエス兵を倒さねばならない。

私は剣を抜き、剣技「オーバーラップ・ファイア!」で、キリエス兵を一瞬にして斬り伏せた。


「な、なんという強さ……一つ貴様に教えてやろう、お前たちの中にユダがい……る。」

コラゲンの最後の言葉に私は蒼ざめた。


「……やはり、そういうことか。」と。


私は急ぎ、召喚士の居る屋敷を目指し走った。

風に湿り気を感じる。

恐らく雨が落ちてくるのだろう。

遠くの空から雷の音が鳴り響いている――これから起こる不吉を嘲笑うかのように。

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