ドラゴン!
突然だが私の名は今日から「ドラゴン」である。
何故ドラゴンなのかというと、答えは単純明快――かっこいいから。
もう一度言おう「私の名はドラゴンだ!」
実に気持ちのいいものだ。
なんなら口から火でも吐いてご覧にいれましょうか――これはジョークである。
そんな冗談を言うほど、今の私は上機嫌なのである。
そういえば昔、私は本物のドラゴンを退治したことがある。
ある草原を歩いていると、突然上空から襲ってくるものだから、つい殺めてしまった。
その後、ドラゴンの噂は、この世から消え去ってしまった。
今にしておもえば、あれが最期のドラゴンだったのでは、なかろうか?
せめて国が絶滅危惧種に認定しておいてくれれば、私だって加減できたのかもしれない。
だが、その時は突然の不意討ちに私も少し頭にきて、ついつい力を入れすぎてしまった。
自分でも分かっては、いるのだか私は短気な一面を持ち合わせている。
私の悪いところだ。
あの時のドラゴンには、かわいそうな事をしたな、と思っている。
そんな私ドラゴンが現在いる地方では最近、盗賊共が好き放題暴れ回っているそうだ。
無法地帯と化した、この辺りの治安を取り戻そうと、私は一人草原をオドオドしながら歩いている。
いかにも鴨が葱背負って歩いてますよと、いわんばかりの演技をやっているのだ。
さあ、いつでもこい!……と歩くこと数時間。
何もやってこない。
やはり、いくら私が演技をして弱そうに見せても、分かるのだろう――私の強さが。
そんなことを考えていた矢先だった。
「おい。おっさん。殺されたくなかったら、所持品全て置いて……こ、こいつ!やばい、おまえら逃げろ!」
盗賊団は一目散に逃げ出した。
「今のは、なんだったのだろう?」
まあよい。
これからだ。
私は再び気を取り直し歩き続けた。
――数時間後
あれから数組の盗賊団と出くわしたが結果は全て同じ。
私を見るとすぐに逃げてしまう。
そして次の盗賊団が現れた。
「お、お前は!こ、殺される。」
「お頭。どうしたんですかい?」
「この男は俺達の業界では有名人だ!名前は知らんが、とにかくやばい奴だ。お前ら死ぬ気で走れ!」
そうやって盗賊は、またしても逃走した。
「有名人……悪党にか!」
私の心はうちひしがれた。
悪党の間でだけ有名になっても全然嬉しくない。
もう、これではらちが明かないので、とりあえず最寄りの村に立ち寄った。
何か、いい情報がないか収集しなくては、ならない。
こんな時に役立つ場所がある。
酒場だ。
お決まりの場所だが一番情報をゲットできる場である。
私は、一人渋く酒を飲む。
勿論、聞き耳は全開に立てている。
最強の私は、とんでもない地獄耳なのである。
「おい、聞いたか。この村にドラゴンが来るんだってよ。」
「なに!本当か?」
私はビクッと反応した。
そして自分の事が噂になっていることに、心臓がバクバクと音を鳴らし反応した。
……いや待てよ。
私がドラゴンと名乗るのを決めたのは、ついさっきだ。
その間、誰にも名乗ってなどいない。
つまり、これは人違いの噂ということだろう。
「ちっ!」
心の底からの舌打ちだ。
「しかしなんでまたドラゴンなんかに目を付けらたんだ、うちの村は?」
「本当だよな。迷惑だよ。」
「ドラゴンなんか、くたばっちまえばいいんだ!」
「全くだ!」
私の怒りは、みるみるうちにマックス付近まで登りつめた。
「このやろう。」
私は我を忘れ、低級魔法を唱え始めた。
――いかんいかん。
そのドラゴンは私の事ではないのだ。
落ち着け――ドラゴン。
何とか持ち直し、再び酒を飲む。
「この村にタイガーが立ち寄ってるらしいぞ。」
「まじか?あの賞金ハンターのタイガーが。」
次はタイガーか……それもかっこいいな。
私は、さらに聞き耳を続けた。
「なんでもドラゴンを倒すために来たんだと。」
何だと!私を倒すだと!
面白い。やってもらおうじゃないか。
私は残りの酒を一気に飲み干し酒場を後にした。
私は村中を歩き回った。
すると、ある店の前で木の箱の上に立ち、何やら演説する男の姿があった。
男は、湾曲した大きな剣を腰に差し、長い黒髪をかきあげながら言った。
「みんなも知ってる通り。あの大盗賊団のボス、ドラゴンが近づいている。」
大盗賊団のボス!――大悪党では、ないか。
私は愕然とした。
よりによって、そんな大物悪党と同じ名にしてしまったことにだ。
「それで僕は、奴を倒すために。やってきた。奴とは少々、因縁があってね。」
聴衆は、ざわつき始めていた。
「確かにタイガーも強いって有名だが……ドラゴンに勝てるとは思えない。」
「確かにな。やはり俺達は今のうちに村から逃げたほうが、いいかもしれんな。」
そうだろう、そうだろう。
「みんな聴いてくれ。ドラゴンは汚い奴だ。きっと卑怯な方法で、この村を襲ってくるだろ。だから俺に力を貸して欲しい。」
聴衆は皆、首をブンブンと横に振る。
そんな中、私は怒りと葛藤中である。
「俺一人では、奴等には敵わない。手伝って欲しい。」
しかし誰も名乗り出る者は、いない。
ほうほう、彼は良く分かっているではないか。
自分より強いと認めた上で協力を求めるタイガーの姿を見て、私は冷静さを取り戻した。
「なかなか素直な青年ではないか。」
しばらく沈黙が続く。
その静寂をやぶったのは、タイガーだった。
「みんなそれでいいのか!あんな屑野郎に村を奪われても。」
「そんなこと言われても……なあ」
村人達は、その意見に同調する。
「自分達の村だぞ。あんたらがそうやっている間にドラゴンは、もう村に入り込んでいるかもしれないぞ!」
私はドキッとし、冷や汗をかいた。
「まさか。お、俺は逃げるぞ!」
「俺も!」
「私も!」
村人達は蜘蛛の子を散らしたように、四方八方に散っていった。
そんな中、私は一人取り残され、現在タイガーと、ばっちり目が合っている。
そして私に近寄ったタイガーは、私の手を握り、
「ありがとう勇気ある戦士殿。」
こうして、私はタイガーの仲間になり、共にドラゴンを討つことになった。
もう一度、今のうちに整理しておこう。
私の名は、ドラゴン。
そしてこれから戦うであろう男もドラゴン。
つまり良いドラゴンと悪いドラゴンが戦うという構図なのだ。
だが私は、それはそれでよいのだが、このタイガーとかいう男の立場は、どうなる?
私は、考えてみたが……どうもめんどくさい。
二人は、村を出て北へ向かった。
なんでも村のすぐ側までドラゴンが迫っているのだという。
「戦士殿の勇気に私は、感服しました。二人でドラゴンを倒しましょう――なんてね。」
「?」
タイガーは突然走りだし、
「兄貴!ドラゴン兄貴!連れてきたぜ。」
すると草むらから一人の男が姿を現した。
「よくやった、タイガー。我が弟よ。」
私は、困惑しまくっていた。
「ようやく会えたな……えーと……まあいい。私はドラゴン。盗賊団の頭だ。」
「ドラゴンは私だ!」と、言いたい。
「その昔、お前に好き放題にやられた俺達は、やっとの思いで、この地にたどり着いた。なのに――」と、タイガー。
「ようやく、あの頃の勢力を取り戻しつつある。なのに――」と、ドラゴン。
そして二人は、同時に言葉を発した。
「お前が、どうしてここにいるんだ!」
私は、記憶の中を探った。
思いあたる節はない。
と、いうよりこの地方に盗賊が増えたのは私のせいだったか!
仕方ない、自分の撒いた種なら摘み取らねば、なるまい。
かかってきなさい!……あっ、剣は前回失ってしまったのだった。
その隙をついてタイガーが剣を抜き襲いかかってくる。
「死ね!名もなき戦士!」
私は、その攻撃を難なくかわし、パンチをお見舞いしてやった。
「私の名はドラゴンだ!」と、言いたいが、まだ我慢だ。
真のドラゴンは私だと、この悪党に思い知らせてからだ!
「タイガー!!おのれ今度は俺が相手だ!」
ドラゴンは強力で、しなやかな鞭を振りながら近づく。
「弟の仇!ズタズタにしてやるわ!」
ヒュンヒュンと高速で飛んでくる鞭を私は、わけなく掴んだ。
「な、なに!馬鹿な――」
最強の私は動体視力も半端では、ないのである。
そして、その鞭を敵もろとも私は勢いよく回し始めた。
そして最高にスピードが乗ったところで放り投げた。
「うわあぁぁ~!」
「ほう。よく飛んだものだ……うっぷ……回転しすぎた。」
なんともあっけない終わりであった。
私は、釈然としない何かを抱きながら、先ほどの村へ引き返そうか悩んだ。
ふとなにか気配を感じ空を見た。
なにかが羽ばたいている、と思った次の瞬間、それは私の目前に降りたった。
「ド、ドラゴン……」
しかも、ただのドラゴンではない。
そいつは紛れもなく、私が以前に倒した筈のブルーの瞳のドラゴンだった。
あの世から私に仕返しでも来たのだろうか?
「ん?……あの世?」
次の瞬間、私は走りだした。
「ぎゃあああ!ドラゴンのお化けだー!」
――後日
私は、ドラゴンを鎮めるための碑を造り祈りを捧げた。
「もう二度と、ドラゴンの名前は語りません。どうか成仏してください、と。」
雲ひとつない青空には、今日も元気に蒼い瞳のドラゴンが飛んでいた、とさ。
(完)
ありがとうございました。
次回作も宜しくお願いします。