表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強の戦士ここにあり  作者: 田仲 真尋
35/68

アメとムチ

私は、フォンダン国の王、レジェスである。

――つい、さっきまでは。

それを説明するには、今から遡ること数時間ほど前に戻らねばならない。


私は、爽やかな朝の陽を感じて、優雅に目覚めた。

「良い朝だ。しかし、このベッドの寝心地は最高だな。」

窓を開け、外の新鮮な空気を吸い込んだ。

まるで、体内が浄化されていくような、清々しい気分だった。

そんな、高貴な私の元に一羽の白い鳩が舞い降りてきた。

汚れのない真っ白な鳩は、その円らな瞳で私に何かを訴えているように思えた。

「どうしたんだい、鳩ちゃん。」と、私はその鳩に近寄った。

その時であった。

今まで可愛らしい瞳をしていた、鳩の目つきが急変したのだ。

キッ!と、きつい目をした鳩は、なんと人の言葉を喋り出したではないか。


「おはよう。ずいぶんとゴージャスな生活を送っているじゃないか――レジェスさんよ。」

その声に聞き覚え、あり!

「ま、まさか……。」

「そうだ、そのまさかだ。」

「――ハーブ・ティーだ!」

私は焦り、挙動不審になった。

「今日は、お前に用があってな。ちょっとこれから家に来な。」

何と!?

「冗談じゃない!私は一国一城の主だぞ!やなこった。」と、私は鳩に向け舌を出した。

「ほう、そんな態度をとるのか。言っておくが全部、見えているのだからな。」

「し、しまった!調子にのり過ぎてしまった。」

「来てくれるんだよな?レジェス国王さん。」

私は鳩に何度も頷いて応えた。

「だったら、さっさと準備して出てこい!」

「はい!」と、言わんばかりに、私は着替えを終えて、城を飛び出そうとした。

「そ、そうだ、あれを置いていかねば。」

私は手紙を書き、テーブルの上に置いて、城を出た。

手紙の内容は、こうである。

(前略。フォンダンの皆様。私、レジェスは一身上の都合により、国王を今日限りで辞めさせて頂きます。短い間でしたが、お世話になりました。草々)


私は、ハーブ・ティーの住むアトラスへ向けてフォンダンを出た。

「まったく、勝手な師匠だ。こちらの都合はお構いなし――」

歩いている、私の前に一羽の鳩。

「ま、まさか。ハーブ・ティーか!?」

しかし、その鳩が喋ることは、なかった。

「まったく、これでは鳩、恐怖症になってしまう。」

私は疲労と絶望に抱かれ、フェイトフル・リアルムへと、入った。

アトラスへ行くには、またしても、船に乗れねばならないからだ。

「踏んだり蹴ったりとは、このことだ。」

私は、フェイトフル・リアルムの船着き場がある、シレトという町にたどり着いた。

この町は、漁師たちが多く住む町であり、海鮮料理が美味しい観光地らしい。

私が訪れた、この時も小さな町が数多くの人で賑わいをみせていた。

そんな平和な町が、ある一声で、突如として一変することになった。


「海賊だ!海賊が出たぞ!」

海を見ると、海賊旗を掲げた船が三隻、こちらを目指して来ている様子だ。

「上陸する気か。」

町の人々は、不安気に見ていたが、どんどん近寄ってくる海賊船に、次第に恐怖を感じている。

「あいつら、陸に上がってくる気だ!」

「あれは、ホール・デストロイだ!」

「その海賊は凶暴で有名だぞ!逃げろ!」

人々は恐怖に震えた。

そんな中、逃げる民衆と逆行するように、一人の女性が前に進みでた。

細く長い、綺麗な生足が黒いエナメル質のショートパンツから伸びている。美脚だ。

上に着ているジャケットも同じく黒のエナメル質で、ピタッと身体に張りついている。

身体のラインが見事である。

思わず「女王様!」と、叫びたくなるほどにだ。

私が、彼女に見とれているのには、訳がある。

彼女は私に気がついたのか、立ち止まり、そして振り返った。

緑色に染められた彼女の前髪は、不揃いだった。

所謂、アシンメトリーと、いうやつだ。

「あら、僕ちゃんじゃない。お久しぶりね、元気してた。」

私は、赤面しながら頷いた。

――そう、彼女は私の師匠である、ネイル様だ。


ネイルは鞭の使い手である。

彼女の手にかかれば、どんな屈強な男も、たちまち「女王様」と、叫んでしまう。

「しかし、ネイル様は確か、アトラスに居るはず。なぜ、ここに?」と、私が疑問に思っていると。


「ここはね、私の生まれ故郷なのよ。なにやら、キリエスが攻めてくるとかで、私も故郷の為に戦うつもりで帰郷してきたら、キリエスは引き返したって、いうじゃない。だから退屈してたのよ――でも、いい玩具が現れたわね。」

そう言って、ネイルは猫の様に舌舐めずりをした。

「ま、まさか玩具って!私のことか!?」と、私は恐怖に陥った。

しかし、よく見てみると、ネイルの視線は海の方、海賊船へと向けられていた。

「よかった。私じゃなかった。」と、ホッとしていると、

「はい、僕ちゃん。飴ちゃんあげるわ、アーン。」

私は、素直に口を開けた。

すると、ネイルは飴玉を一つ放り込んできた。

「し、しまった!」

私は、すっかり忘れてしまっていた。

飴を与えられた後には、鞭があることを。


「おい。」

ネイルの目つきは、豹変していた。

いや、性格もである。

「てめぇ、この豚野郎!今まで何の連絡も寄越さずに何さらしてたんじゃ。ボケ!」

私は、鞭に打たれた。

……何故か、痛みと共に快感を得られた――ような気がした。

「――痛かったぁ?ごめんね、僕ちゃん。」

「はい、大丈夫です、ネイル様。」と、言わんばかりに、私は忠誠心を剥き出しにする、犬のように寝っころがり、腹をみせたのであった。



「よし、野郎ども!久々の陸だ!酒に女に、欲しいものは全て奪い取れ!」

「うおー!船長!最高だ!」

海賊たちは、いつの間にか上陸してきていた。

「待ちな!」と、海賊の前に立ち塞がったのは、ネイル様だ。

「ひゅーっ!いい女の登場だ。たまらんな。」と、海賊は興奮した。

「女、邪魔するな。俺がホール・デストロイの船長、キャプテンキッズと知ってのことか、ああん?」

船長らしき小柄な男は、ネイルに歩み寄った。

「キッドじゃなくて、キッズなのね。よく、お似合いだわ、僕ちゃん。ご褒美に飴ちゃんあげるわね、はいアーン。」

「おっ、そ、そうか。あーん。」と、キャプテンキッズは、素直にネイルに従った。

「馬鹿な男だ。飴玉を食わせられおった!」と、私は自分のことは、さておきキッズを嘲笑った。

「お前、いい女だな。どうだ、俺の女にならねえか?」

「はぁ?てめぇ、みてえなチビと、このスタイル抜群のネイル様が釣り合うとでも?身の程をしれ!」と、ネイルは豹変し、鞭を打った。

「キャイーン!痛い――でも、なんか良い。」

「それ!さあ、女王様とお呼び!」

「は、はい。女王様ーっ!」

その光景を見ていた、海賊たちは口をあんぐりとしていた。

「せ、せんちょう。しっかりしてください。」

「はっ!い、いかん。」と、キッズは我に返った。

「くそ、俺に恥をかかせやがって。お前ら、この女をやっちまえ!」

総勢、五十以上はいる海賊たちは、容赦なくネイルに襲いかかった。


バキッ!

私は低級魔法、いつもの「パンチャー」を、唱えて海賊を殴りつけてやった。

「僕ちゃん。ありがとう、後で飴ちゃんあげるわね。」

「いえ結構です。」と、言いたかったが、自分の意思に反して、私は笑顔で頷いていた。

「そうだ。久しぶりに、僕ちゃんの腕を――み・せ・て。」と、ネイルは色っぽく、私に鞭を投げた。

「はい、女王様!」と、言わんばかりに、私は張り切った。

鞭を振り上げ鋭く、しなるように、

「ピシッ!ピシッ!」と、海賊たちを倒していく。

「しかし鞭だけで、この人数は、ちときついか……仕方ない。」

私は鞭に、魔法をかけた。

「スパーク!」

電気を帯びた鞭は、青白い電流を放つ。

「電流鞭」と、でも名付けよう。

私は、それを振り回した。

海賊たちは、感電してバタバタと倒れる。

「ハハハッ!楽しいでは、ないか。」

気づけば海賊たちは、全て地面に転がっていた。

「なんだ、もう終わりか 。女王様、やってやりました。褒めてください。」と、振り返る。

「……女王……さま?」

ネイル様は海賊たちと同様、地面に倒れていらっしゃる。

「ぼ、ぼくちゃん。よ、よくもやってくれたわね。飴ちゃん十個あげる……わ。」

私は、そっと鞭をネイル様の側に置き、走って逃げたのであった。


その後、私は苦手な船に乗り、アトラスへと渡った。

船を下りた私が、その後数時間は動けなかった、ということは言うに及ばずで、ある。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ