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最強の戦士ここにあり  作者: 田仲 真尋
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古代魔法

私は、西の果てにある村を訪れている。

この村はテロスというところで、魔法発祥の地と言われている。

ここは観光地としても最近有名になりつつあった。

それを知った私は、この村が観光客で、ごった返す前に一度観ておこうと訪れたのである。

常日頃アンテナを高く張っている私だからこその行動だ。


村には観光客への土産物屋が数多く建ち並んでいる。

「誰でもできる魔法グッズ」――要らない。

「あなたも今日から簡単に魔法使い」――要らない。

「恋人がすぐできる魔法の杖」――ちょっと欲しい。

様々な土産物があるもんだ。

しかし私の興味があるものは、そんなものではない。

伝説では、この村に古代魔法の書物があるらしい。

現世にある魔法は、全て修得済みの私には是非とも手に入れておきたい一品である。


私は、村中を歩き回った。

だが、そうそう簡単には見つからない。

それもそうである。

なんたって伝説の代物なのだ。

こんな時は探すのではなく待つのだ。

そうすれば、きっと運命に導かれ向こうからやってくるだろう。

私には、そんな根拠のない自信があった。


「あのー。」

私に話しかけてきたのは、老婆だった。

このいかにも生ける伝説的な老婆……いや魔女に、私の直感は働いた。

「きた!運命だ」と。

老婆は、

「――魔法教室、本日無料となっております。よかったら是非ともお越しください。」

最初の言葉がよく聞き取れなかったが、これは好機だ。

行くしかあるまい……無料だし。

私は、老婆の後に続いた。

やがて賑やかな村の中心部から外れ裏路地を歩いていくと、そこには古びた建物が待ち構えていた。

「いいぞ、私が頭の中で描いていたイメージそっくりだ。」

中へ案内され、一番奥の突き当たりの部屋へと導かれた。

老婆は力を入れて「ふん!」と、扉を開く。

重厚な扉は「ギィー」と、音を立てて開いた。

中に入ると数名の、ご婦人の姿があった。

「むっ、これはどういう事だ、老婆よ。」

振り返ると、そこに老婆の姿は、もうなかった。

「おのれ魔女め。図ったな!」

私は、ご婦人達から目を離さず警戒体勢に入った。

いつ攻撃してくるか分からないからだ。

ご婦人達は、私には目もくれず話しに夢中の、ご様子だ。

少し警戒心をとき、立ち尽くしていると、

「はーい皆さん、お待たせ致しました。」

奥の部屋からから現れたのは、これまた上品で美人の、ご婦人であった。

すると、ご婦人達は、会話を止め拍手をおくりだした。

仕方なく私も。

「ありがとうございます。それでは本日の、お料理魔法教室を始めたいと思います。今日の担当はわたくしミミが務めさせて頂きます。」

なに!

私は、老婆に騙され料理教室へ連れて来られたようだ。

「はい、それでは本日のメニューを発表致します――みんな大好きハンバーグです。」

「ハンバーグ……大好きだ。まあ仕方ない、これも何かの縁だ。やってやろう。」と、私は奮いたった。


「はい、それではまず玉葱をみじん切りにしましょう。勿論普通にやってはいけませんよ。魔法でチャレンジしてください。まずは、わたくしが見本を」

そう言ってミミは、いとも簡単に玉葱を次々とみじん切りしていく。

玉葱のみじん切りを魔法で、とは斬新だ。

私は、見よう見まねで、やってみた。

「なかなかいい感じだ。」

ふと周りの、ご婦人達を見てみるが皆様、苦戦中のご様子だ。

「ふむ。要領が分かってきたぞ。」

私は、ペースを上げていく。

「あら!あなた上手ね。魔法使いには見えないけど素晴らしいわ。」

「なんのなんの。これしき。」

ミミに褒められ有頂天になった私は、更にスピードを上げた。

「どうですか先生。なんなら肉眼では捉えられないくらいまで刻みますぞ!」と、いわんばかりに張り切った。

その後、みじん切りした玉葱、ひき肉、卵、パン粉を混ぜ合わせ形を整える。

「はい皆さん。ここからは、また魔法での調理になります。皆さんの目の前にある鉄板に注目してください。」

「目の前?これか。」

その鉄板は、ちょうどご婦人達の目の前の高さ辺りにくるように、天井から吊り下げられていた。

私には少し低く感じられるが、一体これをどうするというのだろうか?

「はーい注目してください。これより焼いていきますからね。ここは一番大事なところですので、よく見ておいてくださいね。」

ミミは鉄板の下に手のひらを翳した。

するとミミの手のひらから炎が吹き出てきた。

「いいですか、火力は強すぎず弱すぎず。お肉が焼けてきた時の音にも注目してくださいね。」

「これは、初級魔法のファイアではないか……簡単すぎるだろ。しかし音とは何だ?」

「お肉の焼ける音はジュージューが正解ですよ。ジリジリやバチバチでは駄目ですよ。ジュージューです。」

「ジュージュー……か。」

とりあえずやってみた――いい感じではないか!

他の、ご婦人達も次第に私を注目するようになってきた。

「まあ!あなた凄くいいわ。」

「本当、良い火加減ですわね。」

「私にも教えて頂けないかしら。」

私は、褒められるのは嫌いでは、ない。

良い気分で火を放ち続け、火が充分に通ったところで、皿に盛り付け――完成。

完璧である。

ミミは、私の完成したハンバーグを見て、

「完璧だわ。美しい!あなた料理の才能があるわ。ちょっと味見していいかしら。」

「最強の私は、料理の才能も持ち合わせていたか。さあミミ先生、食べてみろ。私の料理を堪能するがよい。」と、ばかりに強く頷く。

「頂きわすわ。パクっ……不味い。」

「そんな筈はない!どれどれ……まずっ!」

「どうしたら、こうなるのかしら!」

それは、こちらが聞きたいと、思いながら首を横に振る。

周りの、ご婦人達もザワザワと騒ぎだす。

「やはり殿方には、無理なんじゃないかしら。」

「そうね。」

「見た目が良くても、やっぱり美味しくなくっちゃね。」

「そもそも、なぜあの方は、ここにいらしたのかしら?」

私は、どうしてよいか分からなくなり、その場を逃げ出した。

「くそー!もう二度と料理魔法なんかやるもんか!」


結局、古代魔法の手がかりすら掴めず、私はテロスを後にした。

土産物屋で買った杖を握りしめて。


「あの方、一体何処へ行かれてしまったのでしょうね?ミミさん。」

「さあ……変な人でしたわね。」

「ええ。」

ミミが脇に挟んでいる料理本のタイトルが、

「古代料理魔法レシピ」と、いうことを彼が知ることは、一生涯なかった。


(完)



ありがとうございました。


次回作も宜しくお願い致します。


ご意見ご感想も、お待ちしております(^-^)

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