表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最強の戦士ここにあり  作者: 田仲 真尋
2/68

烏賊野郎

魔王を倒した後、クレア達と別れて半年が過ぎようとしていた。

私は己の名前の長さに絶望し、なんとか略すことができぬか試みたが、なかなか上手くいかなかった。

そこで、これからは「ジャン」と名乗る事にした。

特に意味合いはないが、より親しみやすく覚えやすいものをチョイスしたつもりだ。


そんな私が今、向かっている港町には最近、漁師達を悩ませる化け物が現れるという噂がある。

その化け物はクラーケンと呼ばれているそうだ。

私は激怒している。

そんなイカだかタコだか分からぬ生物ですら世間に名が知れ渡っているということにだ!

――だが、まあよい。

私は新たな名を手に入れたのだ。

そしてクラーケンを倒した男として世に私の仮の名が広まるだろう。



街に着くと、すぐさま船着き場へと向かった。

潮の香りが風に乗って爽やかに鼻に届いた。

ふと見ると、その一角に人だかりができていた。

近寄ってみると、漁師達がクラーケン退治の者を募っている最中であった。

「誰か我こそはというものは居ないか?もしクラーケンを倒してくれたら賞金を出すぞ!」

漁師が用意した、クラーケン退治に向かう船には既に数名が乗り込んでいる。

屈強そうな男や胡散臭い魔術師に混ざって一人銀髪の、やたら品のある若い男が乗っていた。

「キャー!ロベルト様素敵!」

「こちらを向いてください!」

「私ロベルト様と目が合ったわ。どうしましょう。」

黄色い歓声が船に向けられていた。

私は別に彼に対抗心があるわけでも、女性にもてたいわけでも、ましてや金が欲しいわけでもない。

――ただ有名人になりたいだけである。

すぐさま私も船に乗った。


そしてクラーケン退治の船は大海原へと飛び出した。


――数時間後

突然だが私は、とても強い!

恐らく、この世界に生きる全ての生物の頂点に位置するだろう。

あの魔王ですら、あの程度だ。

クラーケンなど秒殺だ。

だが最強の敵は海の中ではなく船の中にいた……船酔いである。

気分は最悪で身体に力が入らず、産まれたての小鹿のように足がガクガクする。

「大丈夫かい?これを飲みなさい。船酔いには、これが一番だ。」

ロベルトは、酔い薬を差し出した……別の者に。

「おのれロベルト。それを私にもくれまいか」とは、言えず私はただただ耐えた。


やがて、甲板で船員達が騒ぎ始めた。

「クラーケンだ!」

その声を聞いたロベルトや他の者は、直ぐに飛び出した。

私は遅れまいと、必死に這いつくばって続いた。


船上では既に戦いは始まっていた。

銛を打ち込む者、魔法で攻撃する者、ロベルトは大きな弓矢を放っている。

だが、どれもクラーケンに弾き飛ばされてしまった。

「やはり私の出番だ。こんな気味の悪い生き物は、私の低級魔法で終わりだ!」

私は、船の先端に立った。

その時だった!

海水で足を滑らせた私は海へ投げ出されてしまった。

だが、心配ご無用!

最強な私は泳ぎも得意なのであります。

クラーケンは落ちた私に容赦なく襲いかかってくる。

私は剣に手をやった……ない。

船を見ると私の剣が手すりにぶら下がっているではないか。

だが私は、冷静沈着である。

こんな時に取り乱すのは、まだまだヒヨッ子なのだ。

私は素手で戦う事を決意した。

素手で充分だ。

「このやろう!ぶっ殺してやるぞ!」

私は、奮闘した。

まず奴の足を一本もぎ取り、その足でクラーケンを、ぐるぐる巻きにして捕獲完了。

「みたか!私の力を!」

私は振り返り船を見た……が、船の姿はもうなかった。

「ちくしょう!!」

私はクラーケンを引っ張り泳いだ。

何時間も泳ぎ続けた。

そしてようやく岸にたどり着いた。

一晩中、泳ぎ続けたせいで、さすがの私も少々疲れ果てた。

そして岸にクラーケンを引き揚げたところで力尽き意識を失った。



――目覚めると陽は、もう傾きかけていた。

ふと見ると隣にクラーケンの姿はなく、引き摺られた形跡だけがあった。

街の方からドンドン!と太鼓を打ちならす音と人々の騒ぐ声が聞こえた。

おそらく、今日はクラーケン退治を祝うお祭りなのであろう。

私は立ち上がり街とは反対方向へ歩きだした。

真の英雄とは何も語らず黙って去るのみである。

綺麗な夕日を眺めながら歩く海岸もなかなかロマンチックではないか。

そんな気分に浸りながら、ひたすら歩いた。

そして私は重大な過ちに気がついた。

「しまった!……名を名乗るのを忘れていた!」

今さら戻るわけには、いかない。


――私の苦悩は、まだまだ続きそうである。


夜になり冷たい風が吹き抜けていく。

とても寒い、寂しい夜だった。

「寒っ!」

お読み頂きありがとうございます。


またお立ち寄りくださいませ(*^^*)



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ