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最強の戦士ここにあり  作者: 田仲 真尋
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魔王再び~後編~

魔王軍襲撃から三日後、私達は薔薇の騎士団とクッキーと共にクレイヴ王国へと、やって来ていた。

薔薇の騎士団は大幅に戦力ダウンしていた為、そして魔王軍を侮っていた事を国王に報告する為の帰還であった。


クレイヴ王国は、このギアン大陸の国々の中では、まだ比較的に新しい国である。

そのため国交はあっても親交が深く、軍事同盟にまで発展している国が、まだない。

特にクレイヴの南に位置する、大国レガリアとは反りがあわないのか、その関係性は良好とは言えなかった。

私から言わせてもらえば、これは全世界の問題なのだから、全ての国々が協力すれば良いだけの話しだ。

全く、煩わしいものである。


私は、クレイヴの街に出て酒場へと向かった。

後ろからついてくるストーカーみたいな男、クッキーには目もくれず。

そもそも、私は何をやっているのだろうか?

魔王討伐に行く筈が、こんな所で酒を飲んでいる。

「このままで良いのか……いや良くない!」

私は居ても立ってもいられなくなり、酒場を出た。

「こうなったら一人でも。」

私は急ぎ旅の支度をして、クレイヴを出ようとした。

すると、

「どこにいくんだい?……まさか逃げる気じゃ――」

この野郎!

私は我を忘れてクッキーに対し低級魔法を唱え始めた。

「いや、そんな筈ないか。ごめん。」

私は辛うじて踏みとどまった。

「君には一緒に戦って欲しいと思っているんだ。僕は、皆に英雄扱いされているけど、本当は怖くてしょうがない。」

私は、こう言いたい、

「甘ったれるな!」と

英雄扱いされているだけ幸せだろう。

私なんか……。

「今回は、クレアはいない。だから僕が先頭に立って戦わないといけないと思うんだ。力を貸してくれないか?」

私の答えは、既に決まっていた。

「お断りします!」と。

何故、クッキーが先頭なのだ?

今度こそ、私の出番なのだ。

そこへ、一人のクレイヴ兵が駆け寄って来た。

「クッキー様、大変です!またしても魔王の軍勢がエグナ山から南下中との報せが。」

私とクッキーは、すぐにクレイヴの兵士たちの元へと急いだ。



クレイヴ城には、既に大軍勢が待機していた。

そして、国王デイルが言葉を発した。

「我が息子達よ、今は国の危機ではない。この世の危機だ。私が頼りないばかりに、他の国々からの支援が得られないことを、皆に申し訳なく思う。だが、私は決断した。我がクレイヴの全兵力を魔王討伐に差し向けることを。まずはエグナに程近いローズ・ガーデンを絶対に死守せよ。行けクレイヴの戦士たちよ!」


王の言葉にクレイヴの兵士の士気は最高潮に達した。

私は、約二万の兵と共に再びローズ・ガーデンへ向け出発した。

本音を言えば「多すぎるだろ。」と、思っている。

このままでは、私はきっと目立たない。

なんとか到着までに策を練らねばなるまい。



ローズ・ガーデンに到着したのは、もう真夜中だった。

魔王軍の進軍速度は早く、明け方にも現れるだろうとの予測だ。

斥候からの報告によると、その数およそ六万。

その圧倒的な数にもクレイヴの兵たちは臆すことはなかった。

それから、しばし休息をとっていると、

「きたぞ!」との、声に皆が跳ね起きた。

ローズ・ガーデンの住民たちは既に避難済みであった為、街は武装したクレイヴの兵士で埋め尽くされている。

私は朝に弱いので起きたくなかったが、兵士たちのテンションの高さに起きざるをえなかった。

「眠い……皆、元気だな。」

眠い目を擦っている私の横を、クッキーが真剣な眼差しで歩いていった。

「ぬっ!奴め、やる気満々だな。」

私も負けられぬ、と顔を洗い歯磨きして戦に備えた。

朝食が無いのが残念だ。


やがて、おびただしい数の魔王軍が姿を現した。

クレイヴの兵士たちとクッキーは既に戦闘体制に入っている。

「いいか、ここは絶対に守るぞ。一匹も街に入れるな!」

「おーっ!」

兵士たちの士気は、衰えていない。

クレイヴの先鋒に、あの薔薇の騎士団の姿があった。

「我らの誇りにかけて化け物を一体でも多く倒せ!」

団長らしき男の、かけ声で薔薇の騎士団は前進を始めた。

そして敵との距離が縮まると突撃を開始し、それが戦闘開始の合図となった。

薔薇の騎士団は、あっという間に魔王軍に飲み込まれていく。

続いて本隊も騎士団の後に続き、進軍を始めた。

両軍入り乱れる中、私はクッキーや後方部隊と共に、すり抜けてきた魔物を退治した。

しかし、徐々に前方の部隊を抜けてくる魔物の数が増えはじめてくる。

「このままでは……」

誰かの、その言葉に私は激しく賛同した。

「そうだ。このままでは、私は目立たない!」

私は魔物共を、なぎ倒しながら前線へと走り出した。

それを見ていたクッキーも私の後ろをついてくる。

「く、くるな!」

目の前の敵より後ろから迫ってくるクッキーに私は、なんだか恐怖を感じた。

「君!あまり前に出過ぎると危険だ。戻ってくるんだ!」

そんな言葉で私は止まらない。

ふと、振り返るとクッキーが躓いて転けた姿が見えた。

「プッ!何やってるんだ。」

私は笑いを堪えた。

しかし次の瞬間、倒れたクッキーに魔物の刃が襲いかかる。

私は、すぐに翻ってクッキーの元へと急ぐが、間に合わない。

「く、くそっ!」

その時だった。

襲いかかった魔物が突然、爆発したのだ。

「一体なんだ!?」

私はクッキーの元へ駆けつけ、辺りを伺った。

するとクッキーは起き上がり、言った。

「し、ししょう!来てくださったのですね。」

「大丈夫かクッキー。遅くなった――なんだ、お前もいたのか?」

私は顔を上げ、その声の主を見た。

「う、うわぁぁ。ハーブティーだ!!」

すぐに逃亡を図ったが、ハーブティーの低級魔法「フック」で、 私は襟元を引っかけられた。

「師匠。お知り合いなのですか?」

「ああ。こいつは、お前の兄弟子だ。」

クッキーは心底驚いた。

だが本当に驚いたのは私の方である。

何せ敵より恐いハーブティーが突然、現れたのだから。

「しかし、ものすごい数だな。どれ――」

ハーブティーは敵の固まりに向け、

「ワイヤー」を唱えた。

そして、「ネット」と続けた。

するとワイヤーは敵の頭上に張り巡らされ、網状に姿を変えた。

その網は広範囲に広がり、そして敵に覆い被さった。

「スパーク!」

ハーブティーは指をパチンと鳴らした。

すると、網に包まれた魔物たちは電撃を浴び、感電死した。

「さすが師匠です。一気に、あんなに沢山の敵を倒すなんて。」

「悠長なことは言ってられないぞ。奴らの産みの親である、バロールという魔王は魔物を生み出す能力がある。もし、この大軍を倒したとしても、数日後には同じ数の魔物が襲ってくるぞ。」

それは、あまりにも衝撃的な発言であった。

クッキーは項垂れた。

「まったく、この女は何しに来たんだ。クッキーが凹んでしまったではないか。」と、私は心の中でハーブティーを軽蔑した。

「何も策が無いわけではない。」

その言葉にクッキーは、ハッ!と顔を上げた。

「いいか、要は親を倒してしまえば良いのだ。」

「なるほど!魔王を倒してしまえば魔物は現れない。さすが師匠です。」

いや、それはそうだろう。お前達は馬鹿なのか!

私は、またしても心の中で、そう叫んでいた。

「なんだ?なんか文句がありそうな顔をしているが?」

私はブンブンと首を横に大きく振る。

「しかし魔王の元まで行くにはどうすれば……」

クッキーの疑問は、もっともである。

例え討伐に向かうにしても、現状を打破しない限り、どうにもならない。

「魔王討伐には、お前たち二人で向かえ。」

「僕たち二人だけで、ですか?」

私は、「冗談じゃない」と、思った。

「実はな以前から国王のデイルからの頼みでな、魔王バロールの挙動を探っていたのだ。今も私が放った鴉が奴を監視している。報告によると、今の奴の周囲は手薄になっているらしい。恐らく、この戦いに魔物たちを殆ど送り出しているのだろう。つまり、今が好機なのだ。」

「わ、わかりました。」と、クッキーは答えた。

「納得するな!私は反対だ、絶対に行かない」と、叫んだ……もちろん心の奥底で、そっとだ。

「師匠の仰る通りだと思いますが……でも仲間達を置いて行くのは、やはり気が引けます。」

「よく言った。」と、私はクッキーに拍手をおくる、イメージを頭の中で思い描いた。

「なに、ここの事は気にするな。」

「し、しかし!師匠がいくら強いとはいえ、この数では……」

ハーブティーは、にやりと微笑んだ。

「私ではない――あいつだ。」

ハーブティーの指差す方向を私とクッキーは見た。

小高くなっている場所に一頭の馬と乗っている人が一人……いや、その後ろにも人がいる。

しかも一人や二人では、ない。

「誰なんだ、あれは?」

私は、目を大きく見開き、そして目をこらした。

「十字架に三日月の旗。あれは――」

それは、戦いの最中のクレイヴの兵たちも気づき始めていた。

「おい、あれは――レガリアだ!」

その先頭にいる人物はレガリアの新しき王――クレアであった。

「やっと来たか。あの性悪女め。」

ハーブティーの口振りからして、クレアを説得したのが彼女だと、すぐに理解できた。

「しかし性悪って……あんたが言うか。」という、私の心の声を見透かしたような、鋭い視線が私を突き刺していた。



クレアが率いるレガリアの軍勢五万!

これで戦局は一転した。

「待たせたなクッキー。」

「クレア、ありがとう。」

「そこの恐い、姉さんに脅されたからな。それはそうと、お前までいたとは驚きだ。まったく、どこにでもいるな。」

できることなら、私の事は放っておいてくれ。

「よし、役者は揃った。お前達二人は早く魔王の元へ。私とクレアが、ここは引き受ける。」

こうして、私は半ば強引にクッキーと二人で魔王討伐へと出発させられた。



魔王の根城であるエグナ山までは、馬に乗り丸一日はかかった。

お尻が痛い。

お腹が空いた。

眠たい。

帰りたい。

そんなことばかりが頭の中を駆け巡った。

ようやくエグナ山へ着くと、早速のお出迎えである。

少なくとも二十体の魔物が一気に襲いかかってきた。

私とクッキーは素早く、それらを片付けて山の奥へと突き進む。

山の中腹辺りまで来た時だった。

「見てあれ!」

クッキーの指差す方角には、巨大な砦が不気味に聳え建っていた。

その砦のある山頂付近まで私達は急いだ。


やがて砦が目前にまで迫った時だった。

「ここは通しまへんぞ!」

「たった二人か?正気か人間。」

変なのが二体現れた。

「邪魔をするな!」

クッキーは蒼白い身体をした二体に火系の魔法を浴びせた。

しかし、そいつらは大きな羽根を広げ空中へと回避する。

「そんなん、当たりゃしまへん。」

「このクソ人間!いきなり攻撃してんじゃねぇ!」

二体は私達の頭上を旋回しながら飛び回る。

「こいつらは今までの魔物より手強い。」と、私の野生の勘がそう告げている。

「気をつけて!こいつらは今までの奴らとは違う。」

クッキーの言葉に、「それは私が先に思ったことだ!」 と、言ってやりたいが、今はそんな場合ではない。

「ほな、次はこっちの番やなギルティー。」

「おう。さっさと片付けるぞ、ディバイン。」

二体は交互に私達に襲いかかった。

鋭い手足の爪で不規則に動きながら攻撃してくる。

私は、それを難なく交わしながら次の手を考えた。

クッキーは避けるので精一杯で攻撃に転じることすら出来ずにいた。

「まずは動きを止めないと――よし、あれでいくか。」

私は、素早く魔法を唱えた。

「レイン!」

激しい雨が降り注ぐ。

その水を集め二つの大きな水玉を作った。

そして、その水玉を奴らの頭上に配置した。

「な、なんやこれ?」

「単なる水だろ、気にすんな。それより早く奴らを八つ裂きにしようぜ。」

私の低級魔法のコンボにより準備は整った。

「ドロップ!」

水玉は二体の頭上から落ち、敵の全身を包んだ。

「ぐわ、息でけへん。ゴボゴボ……」

「飲め、全部飲め!ゴボゴボ……」

次は仕上げである。

「バースト!」

水玉の中は急激に圧縮され、爆発を引き起こした。

「完了。」

二体はピクリとも動かなくなった。

「す、すごい併せ魔法だ。」

クッキーの驚く顔に、私は大満足であった。



私達は砦へと、ついに足を踏み入れた。

砦の中は不気味な静寂に包まれていた。

「本当に魔王の手下たちは居ないのだな。」

私はハーブティーの情報を最初から疑っていた。

だが、ここまで情報通りとは「あいつも、なかなかやるものだ。」と、上から目線で思ってやった。

そして、砦にいるラスボス――魔王の元へと辿り着いた。

「よくぞ、たった二人でここまで来たものだ。敬意を払って殺してくれようぞ。」

魔王バロールの登場である。

奴は四メートルは、あろうかという巨体であった。

手には奴の身体に合った巨大な剣を持っている。

クッキーは、残り少ない魔力、体力で自身最強の魔法を唱えた。

「ワイルド・ローズ!」

自然に生えた草木が宙に舞ながらクッキーの元へと集まる。

その草木たちは鋭い棘の薔薇へと姿を変え、魔王へと襲いかかった。。

「いけぇぇ!」

魔王バロールは動じることなく刀を振り上げ、そして力強く降り下ろした。

その風圧は凄まじく、突風を巻き起こす。

クッキーの放った薔薇は一瞬にして弾き飛ばされた。

更に、その風はクッキー自身にも襲いかかる。

風に耐えきれずクッキーは吹き飛ばされ、壁に激しく打ち付けられた。

その衝撃でクッキーは気を失ってしまった。

「起きろクッキー!!」

と、念じてみたがピクリともしない。

「まずい。これでは私が魔王を倒したとしても、証人がいない。後世に語り継がれるような戦いをしても、無意味ではないか!」

そんな私の心配事を他所にバロールは容赦ない攻撃を仕掛けてくる。

私はそれを交わし、

「まあ、仕方ない。今は、こやつを倒すのが先決だ。戦いの内容は、後で大いに盛ってクッキーに話せば、よし!」

私は低級魔法を乱発した……効かない。

「まあ、そうだろう。前回の魔王でも低級魔法だけで倒すのは難しかっただろう。だが中級魔法ならどうかな。しかも中級魔法のなかでも最上位に位置する、これならどうだ!」

私は自信満々に唱える。

「アズ・クイック・アズ・ライトニング――疾風迅雷!」

完全に決まった!

黒煙が魔王を包み、そして晴れていく。

「おもしろい。おもしろいぞ人間!」

バロールは生きている。

しかもダメージさえも感じさせない動きを見せた。

素早く動き、大刀で私に斬りかかってくる。

私は何とか避けた。

その大刀は地面を破壊する程の威力であった。

それは斬る、というよりも叩き潰すという表現のほうが正しいだろう。

魔王バロールの攻撃は止むことをしらない。

最初は完全に見切れていたが次第に私の身体を掠めていくようになった。

風圧だけでも皮膚に切り傷が刻まれていく。

「くそう!こうなったら上級魔法で仕留めるか。」

ふと、倒れているクッキーの姿が視界に入った。

「駄目だ。私の上級魔法だと、この辺り一帯が吹き飛んでしまう。そうするとクッキーも……」

大事な語り人なのだから死なせる訳にはいかない。

「ハァー、仕方ないな。」

私は動きを止めた。

「どうした人間。諦めたか。」

バロールの攻撃が私に直撃した、かのように奴には見えただろう。

だがその瞬間、私は既にバロールの背後をとっていた。

腰の剣に手をやり、抜いた。

「フゥーッ!」と、息を吐き、

「行くぞ!我が剣の奥義受けてみよ!」


一の太刀「アルムス!」

ニの太刀「カウション!」

三の太刀「ペーシェンス!」

四の太刀「デヴォート!」

五の太刀「メディテイティブ」

そして、六の太刀「ニルバーナ!!」

「ん?なんかしっくりこないな。」

実戦で初めて使ったので、しっくりこないのは仕方ない。

だが、魔王バロールを見てみると、

「ぐおぉぉ!」と、苦しんでいる。

「効いた!」

私は最後の仕上げに低級魔法「パンチャー」を唱えた。

そして硬く握りしめた拳で奴を思いっきり、ぶん殴った。

魔王バロールの断末魔の叫びが響き渡る。

最後に奴は、

「これで安堵するな人間よ。魔族は、他にもいるのだからな。」と、言った。

私は、奴の言ったことなど気にも留めずクッキーを抱え、山を下りた。

きっと戦場と化していたローズ・ガーデンも魔王亡き今、手下の魔物たちも、きれいさっぱり消えさっていることだろう。


山の麓まで来た私は、安全な場所にクッキーを寝かせ、立ち上がった。

私には、帰る場所も待ってくれている人もいない。

だから私は旅に出る。

きっと、その旅にこそ我が真に求めているものがあるはずだから。



こうして、魔王バロールを倒した私はクレイヴをそっと離れた。

そして、必ず数日内には私の武勇伝が各地へ翼を広げ翔んでゆき、世界の隅々まで知れ渡ることだろう。

「そうなれば――フフ、きっとモテモテに違いない。」

私は妄想を膨らませた。

「……あっ!そういえば名前……まっいいか……いやよくないな。そろそろ通り名でもいいから決めておかないとな。」

私の旅は、始まったばかりである。






魔王再び~前後編~お読み頂き、感謝感激であります。


また次回も是非ともお立ち寄りくださいませ。


ありがとうございました(*^^*)


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