クトゥルフ神話系 Murder on the Iwo Island Base
あれは今から数年前の暑い夏の日のことだ。あの時、私はとある雑誌の特集を組むために硫黄島にいた。東京ほどではないものの、南洋独特の蒸し暑さがあった。硫黄島は当時の自衛隊(現在の国防軍の前身にあたる組織)の航空基地があった。一般の人は原則として入れず、例外的に東京都などの関係機関から許可を得られた場合にのみ入島を許可されていた。もちろん、私も特別に許可を得て入島をしたが、あくまでも自衛隊の報道班としての許可だった。自衛隊から出された許可は基地内での隊員1名の監視下においての基地取材だけだった。監視下の隊員は女性のパイロットで、今回特別に派遣された陸上自衛隊の久禮疾風大尉だった。疾風大尉は優しい人というのが第一印象であった。ここに来るまでも面白い話をしながらだった。彼女がそれまで自分が勤めていた部隊での失敗談、自分の姉妹兄弟の話をした。どうやらたくさんの家族が居たらしく、数十人くらいの名前が挙がっていた。中でも自分の一番尊敬するお姉さんがいて、名前は千葉というらしい。その姉の事をもっとも多く話していた。
硫黄島に運よくその日中につけた私たちはその日は取材をしないということで一致して寝ることにした。ベットに入り眠りにつこうと、うとうとし始めたそんな時だった。突然叫び声が聞こえてきたのだった。突然の叫び声に私はそのまま部屋のドアを開けた。隣の部屋からも声を聞いた隊員が廊下を見渡している。全員が何の声だと言っていると、拡声器からとても冷静な声が聞こえてきて全員集まるように言われた。声の主はロックアイスとも呼ばれているこの地の司令官である鷹天意央だった。常に冷静で、噂では日本版NSCとも呼ばれている組織の一員だとも言われているくらいの冷静さを持っている。その司令官に集まるように言われ、全員がぞろぞろと集合場所に向かう。当然私もついていった。ついていきその場所に行くと鷹天司令官とその隣にもう一人の男性が立っていた。隣にいた隊員の1人に聞くと、その男性の名前は夕札三茂という文官らしい。1か月前から特別配属となったらしいが、実質的左遷ということでかなり不満に思っているらしい。そんなことを聞いていると司令官が重い口を開けて話を始めた。話の内容は今日の0205に隊員1名が殺害されたという事だった。直接の死亡原因はこの地方では不可解な凍死ということだった。そう思われる理由を話したのは深山間森中尉だった。彼女は海上自衛隊のUS-2のパイロットであると同時に医師免許の所有者でもあった。彼女が言うには死体には打撲痕などの争った痕跡がない一方で霜に覆われているような状態で見つかったのだという。そして原因がわかるまでは全隊員は基地外に出ないことを告げられた。
解散後、部屋に戻ると疾風大尉がいた。疾風大尉は私に対して質問をした。自分がこの怪事件に対してどのように思ったか。その時の私は冷凍庫にでも昏睡状態あるいは睡眠時に縛られて入れられたのだろうと告げた。しかし疾風大尉はこう言った。確かにこの基地には巨大な冷凍保管庫が存在する。しかしその中に入ったのであれば何かしらの痕跡が残るはずだ。そう言った。痕跡が何一つ残っていなかったというのだ。それでいて隊員は殺害された、本来この南方の島ではありえない凍死という状態で。ドライアイスなどを用いた方法はどうなのだろうかと告げたが、それも疾風大尉によって否定がなされた。ドライアイスを用いたのであれば確かに凍死になる。しかし、必ず凍傷という形で傷が残るはずだと。そしてもう一つはドライアイスを仮に用いた犯行をした場合はそれだけで膨大な量を置いていなければならないのだ。その言葉を聞いて私はそれ以上の推理ができなくなった。それ以上の方法を思いつけなかったのだった。推理に行き詰った私に対して、疾風大尉はこう言った。「もし、私を信じるのであれば私と共についてきて、このことを記録してほしいと。」そう告げた。私も記事になると思い同意した。その答えを聞いて疾風大尉はついてくるように言った。向かった先は司令室だった。そこには間森中尉や意央司令官がいた。そして文官である三茂もいた。そしてそれぞれが互いの考えを話始めた。間森中尉は凍傷などの外的損傷がないことからゆっくりと冷やされた状態で死亡した可能性があるという事、そして大気の情報を得たが二酸化炭素と言った類の気体に異常は見られず通常の大気と同じ成分だったという事。意央司令官は殺された隊員の場所を映しているはずのカメラの映像がなく、調べてみるとケーブルが切断されていたという事がわかった。三茂は市ヶ谷にこの場所に送られてきた輸送物資の品目を問い合わせたところ凍らせるようなものが品目に入っていないということがわかった。品目の内容は食品や弾薬、航空機用の機材、水道管のパイプなどだった。その中で気になった物があった。それはトランペットだった。しかしそのトランペットに誰も心当たりがないと言っていた。その時点で話が行き詰ってしまい、その日は解散となった。
解散の後、私は部屋に戻って寝た。しかしあんな事件があったせいかなかなか寝付けず、しばらく寝返りをうちながらだった。そんな時に外から声が聞こえてきた。その声は聞き覚えがあるような声だった。カーテンの隙間からこっそり外を見てみた。外は満月であったが、その人物の立っている位置は木のせいで暗かった。さらに雲が月を覆い隠していてその姿はさらに認識を困難にしていた。しかし雲が晴れた瞬間に私は見てしまった。その姿は人間ではなく背丈が150cmもある化け物だった。甲殻類のようなキチン質の胴体に足ひれのような翼、そして頭にあたるはずの無数の短い光ファイバーのような触手がうごめいているのだった。危うく声を出してしまいそうになったが何とか右手で口を押えて声を出すのを押さえた。その姿を私は近くにあったインスタント式のカメラを使ってシャッターを数枚切った。そして現像を行ったが、その姿は映らなかったのだった。何度行っても同じで、その姿は途中で消えてしまった。結局私はあきらめてその日は寝ようとしたが寝られるものではなかった。あの姿は何だったのだろうか?あの木の陰にいた人間は?なんの話をしていた?そもそもあの生物は実在するのか?実在するのならカメラに映らないのはなぜだ?幽霊はよくカメラに映ると言われている。それは人間では見ることのできない範囲の物まで映せるからと言われている。しかしあの存在は目には映り、カメラには映らなかった。なぜだ?そんなことを考えながら繰り返し考えていた。
考えてふと気が付けば朝を迎えていた。寝られずにいた私は目の下にくまを作りながらもベットから起き上がった。起き上がって食堂へと向かうとそこには疾風大尉がいた。彼女は私におはようと言ってきた。私もそれに対しておはようと返答した。疾風大尉は私にくまがあることに気が付いて聞いてきたが私は寝られなかったと言った。理由は簡単だ。あんなものを見て正直に言ったら正気を疑われる。だから私は何も言わなかった。しかしあんなことがあった後で食事がのどを通るわけがない。結局まともな食事をとらずに私は1日を始めることになった。その後も犯人探しは行われていた。そしてその日の夜もまた死者が出た。そしてまた司令室での話し合いになった。そこで三茂が私に向かってこう言った。「お前が来てからこの事件が起こるようになった。何か関係があるのではないか?」と。当然私は首を横に振って否定をした。「そもそも日ごろから鍛えている自衛隊員が一般人であり武道の訓練も受けてないような人間にどうして敗れるのだろうか」と言ったらそれが同意を得た。その日は私が犯人なのがどうかで議論が紛糾し、そのまま話が終わった
そしてその日の夜、私が相変わらず寝られずにいると扉をノックする音が聞こえた。私が「誰ですか?」と答えると「疾風です。」という声が聞こえた。その声を聞いて私が鍵を開けると疾風大尉が入ってきた。その姿は軍服のままだった。入ってきて早々に疾風大尉はこう切り出した。「あなたは昨日の夜何かを見たのではないの?」そう聞いてきた。私は当然のように「いいえ、何も見てないです。」と言った。しかし異常なまでに食いついてくるので私はとうとう白状をした。そして私はありとあらゆることを話した。昨日の夜に誰かが居たという事。そしてその時にいた怪物の事も話した。そのことを聞いた疾風大尉は「本当にあなたは見たの?」と聞いてきた。私は「はい。信じてくれないでしょうが、すべて事実です。」といった。私は当然だと思った。こんなことを信じてくれる人間なんていない。彼女も私を疑って当然だと思った。しかし彼女の返ってきた答えは違った。写真を撮らなかったかどうかを聞いてきて私はその写真を見せた。写真には相変わらず真っ暗な基地内の一部の写真が写されているだけだった。しかし疾風大尉は何かの液体を胸ポケットから取りだし、写真にかけた。疾風大尉によるとこの液体は特殊な感光材なのだという。その感光材をかけてしばらくするとその写真にあの怪物が現れるのだった。それと同時に木の陰になっていて隠れていた顔も現れてきた。その顔は夕札 三茂の顔だった。
それを見た疾風大尉はこう言ってきた。「これから起こることはあなたの心ではとても耐えられるものではないかもしれない。それでもあなたが真実を探りたいのであれば・・・来てほしいと。」その言葉に私は「この事件の顛末を私は見届けたいです。」そう言った。それを聞いた彼女は私に軍服を着せてついてくるように言った。場所は基地のあの場所のすぐ近くだった。そこで隠れて待っていると暗がりから人影が見えてきた。その人影が明かりの元に入り顔が見えた。それは間違うことなく夕札 三茂の顔だった。その顔を見てもまだ隠れている疾風大尉は何かを待っているようだった。そしてさらに私と疾風大尉は待った。二時間ほど経っただろうか?急に空からあの怪物が姿を現した。その姿を見て、私は恐ろしいと思った。その姿が現れ、その短い触手を三茂の手とつなげたところで疾風大尉が飛び出した。彼らは驚いているようであったが再びその顔が元に戻った。疾風大尉が投降を求め、手を後ろにするよう言ったが彼らは捻じ曲がったパイプのようなものとドアの取っ手のようなものを取り出してきた。そしてそれを迷いもなく疾風大尉に向かって撃った。取ってのようなものからは電気が飛び、捻じ曲がったパイプのような物からは白い霧のようなものが出てきた。それを疾風大尉はよけたが、その場所は薄い霜でおおわれていた。そう。これが自衛隊員殺しの武器だったのだと初めて知った。私は応援を呼ぼうと思ってその場から逃げようとした。しかし疾風大尉のうめくような声が聞こえ、私は振り向いた。その瞬間、私は人間が見てはいけないものを見てしまった。きれいであった疾風大尉の姿からは予想もつかないほど体中がひび割れていた。その姿はまるで雪男のような姿だった。その後のことは断片的にしか思い出せない。キチン質の化け物を殴り飛ばして・・・その後は思い出せなかった。いや、理性が思い出すことを否定しているかのようだった。ともかく、気が付いたら私はベットの上にいた。近くにあったカメラを見ると恐ろしいものが映っていた。疾風大尉の姿を乗せるのはここでは控えさせてもらうがそれでも恐ろしいものだった。紅い目、風が常に吹いているかのように揺れている髪。頭をつぶされけいれんを起こしているキチン質の化け物。そして呆然としている三茂の姿。そうだ。彼はどうなったのだろうか?そう思っているとドアをノックする音と共に疾風大尉が入ってきた。その姿はいつもの黒髪に軍服の姿だった。彼女は私を見てこう言った。「三茂は市ヶ谷に送致しました。罪状は殺人。それと多少のおしおきをしておきました。」そう言ったことに対して私はこう言った。「そうですか。・・・あの、私はどうなるのでしょうか。」その質問に疾風大尉はこう言った。「とりあえずあなたは軍医に見せます。軍医の判断を仰いでからその後どうするかは決めます。」そう言って疾風大尉は出て行った。その後軍医の元に連れていかれ検査を受けた。・・・その後私は数年もの間陸上自衛隊の管理する病院にいる。たまに疾風大尉が会いに来てくれるがそれ以外に面会はない。疾風大尉にあの夜の事を聞いたがうやむやな答えが返ってくるだけで要領を得なかった。ある時私は疾風大尉から本と新聞を渡された。本は中国語で書かれているものであり、はじめのうちは読むことができなかったが今はこうして辞書を片手に読めるようにはなった。同時に、渡された新聞には防衛省内の殺人事件の事が大きく報じられていた。被告人である夕札三茂は事情聴取に対しても要領を得ない、支離滅裂な言動を行っており、精神鑑定が行われていると書かれていた。その後しばらくして、おそらく私はこれからも人が知らないことを見て、調べて、そして書き記すのだろうと悟った。今回これを書いたのもあることが理由にある。疾風大尉が数日前にある場所で本を記す気はないかと聞いてきた。場所はここから遠く離れたところらしいが、そこには多数の書物があるらしい。何か新たな書物を書くにはもってこいの場所だと疾風大尉は言っていたが、私にとって、そんなのどこであってもかまわない。私はこの世界の真実を記したい。ありとあらゆる事象を、そして真実を知りたいのだ。・・・どうやら迎えが来たようだ。最後にこの本を読んでいる者に1つだけ告げておきたいことがある。目の前に起こった事を否定してはいけない。否定しても最終的には肯定をせざるを得ないからだ。それでは私は向かうことにする。疾風大尉にこの本で感謝をしたい。私をこの世界に導いてくれて。
2020/08/21
いかがだったでしょうか?急に新しいクトゥルフ神話の小説を書いてみたいなと思って1日で書いたのですが、いつの間にか自分の書いていた話の世界が入り込んでしまい、こうなってしまいました。夏の長い間に感覚を忘れないようにと書いたのできっと評価はよくないでしょう。だから、もし感想を書いていただけるのであれば構成上の改善点などの指摘をいただきたいと思っています。少しでもいい文章を書きたいと思うので。