ケンカとカエリミチ
お母さんとケンカした。
すごくくだらない事で。
なのにいつもより強くあたった。
腹がたって、外に逃げ出した。
冬の寒い夜はもう、来ていた。
「喧嘩?」
「…うん。」
「帰ってあやまりなよ。」
時人は他人事のように携帯をいじりながら言った。
「一日でいいので泊めてください。」
「ダメ、帰ってあやまりなさい。」
さっきからこの繰り返しだ。
「なんで?いっつも時人泊めてくれるじゃん。」
「頭冷やしたらはやく帰りなさい。」
話にならない。
今帰ってもいれてもらえないに決まってる。
「どっちが悪いかわからないなら謝りなさい。」
まるで説教。
「私は悪くない。」
「理由は?根拠は?」
つまる。
少しため息をつくとまた携帯をいじりだした。
「ねぇ時人ちゃんと私の話をきいて」
「きいてる」
「さっきから携帯しかいじってない。」
「…」
「ねえ時ひ「雪。」
ようやくこっちを見た時人は今まで見たこと無いくらい冷たい目をしていた。
思わず言葉を失う。
一気に他人の関係になったみたいだ。
耐えられない。
「おじゃましました…」
家から出ると頬を涙がつたってる事に気づいた。
「初めて…」
初めてケンカをした。
帰るとお母さんが玄関の前に立っていた。
エプロン姿のまま、ずっとそこにいたの?
私を見つけると走ってきた。
お母さんが悪かった、ごめんねって言われた。
違う、お母さんごめんなさい、もうしないから、こんなこと。
次の日、普通に学校に登校した。
放課後になると、玄関をでた。
ようやく思い出した。
「そういえばケンカして…」
ケンカしてるし待ってないだろ…
いつも時人が待っている場所を見た。
「えっ」
時人はいた。
気まずい。
いつも繋いでた手は今日は繋いでない。
まだ怒ってるのかな。
きっと、時人は親を大切にしなさいって言いたかったんだよね?
あの時は気がおかしくって変なこと言ってごめんね。
…なんて言えたら楽なのに。
無言が続く。
私ってこんなに謝るのが下手なんだ。
しばらくしてようやく時人から口が開いた。
「雪ちゃん、昨日はごめんね。」
なんでそんなすぐ謝るの?
「私こそ、ごめん。」
時人が大好きだよ、ごめんね。
「雪ちゃんの話、僕全然聞けてなかった。」
「そんなこと無い…時人はちゃんと私の事心配して言ったんでしょ?」
目を合わせるのが怖くてつい目をそらしてしまう。
ごめん、ごめん。
「お母さんと仲直りした?」
「うん。」
ちゃんと仲直りしたよ。
「良かった。」
ホッとしたように顔を緩ませる。
「親とケンカするってどんな感じなんだろうね。」
「…あんまり覚えてないや。」
「そっか。」
そっと手が繋がれた。
「良いの?」
もう、怒ってないの?
私の心配をよそに、いつもみたいに手を繋ぐ。
「寒いから。」
時人と目があった。
優しいその目が好き。
「…うん。」
もう少し、寒いままで。
夏でも変わらないだろと思いながら最後書いてたのは秘密です。