一話
真円に近い形を有する大陸『ハルト』
東西南北をそれぞれの大国が治め、今回語るは東。
碁盤の目のように区画され整えられた都、春はどこより絢爛と謳われる国。
東域『占唐』の物語。
鈴原浅緋十五才は重たい足取りで、 本来自身の職場ではない陰陽寮への路を歩いていた。
まるで人身御供の儀に今から当の生け贄役で挑みますとか言えそうな雰囲気だ。
「……実際変わらないような」
浅緋は本日何度目になるかわからない溜め息と共に、 仮病による物忌みという最終逃避手段を割りと真剣に考えていた。
自身の本来の職場は典薬寮である。
読んで字のごとく、 医術に従事する場所であり、 決して物の怪云々を斬った張ったする場所ではない。 無いのだが……。
「薬で治らぬ病は病魔疫鬼の仕業とか」
マジ無いわ。 どうなんだその考え方。
世間一般当たり前の考え方ではあるが、 今まで生きてきてそんな類い見たこと無い。 その自分が何で物の怪を以下略の代表格みたいな場所へ、 七日間のお試しとは言え行かなければならないのか。
決まっている。 上司命令だからだ。 勤め人な以上、 上司の命令は絶対です。 世の不条理がここにある。
それまで微妙に距離を取っていたのに何で自分が入った矢先、関係改善兼ねる親睦交換留学とか。 せめて来年なら違う人間が選ばれただろうに。
しかもただ行くだけでなく、 陰陽寮の新人と組む事まで必須。
「はぁ……」
その陰陽寮の前まで来てしまった。
「不条理だ……」