ハーピー・メールー ー異世界郵便ギルド アルガス支局 本日も異状なしー
アルガスの街に居を構える『郵便ギルド アルガス支局』。
今日も引っ切り無しに丸い天窓から、手紙の詰まった赤茶色の鞄を肩から斜めに掛けてハーピーたちが飛んで行く。
一階では、ルディがにこやかに依頼主から手紙を受け取り、奥でレンが送り先別に仕分けをしている。
そんな中でアルフレッドは車椅子に座り、王都の本局にいるギルドマスターの圭介への業務連絡を書いていた。
そこへーー、
「支局長さん!」
「なんだ、ルル?今日は非番じゃないのか?」
アルフレッドの居る支局長のデスクの端から、ひょこっとルルが現れる。
業務連絡の手紙が一段落して、アルフレッドは不思議そうにルルに尋ねる。
「カッカッカ!今日のわたしを見て、どう思う?」
ルル特有の笑い声と共にくるりと一回転する。
「どうって?何がだ?」
「え〜!?気付かない?」
「ん?あ〜、非番なのに制服?」
「ブ〜!」
「あっ!髪を切ったのか?」
「ブッブ〜!!」
アルフレッドは仕分けをしているレンの方を向いて助けを求める。
「レン、お前はわかるか?」
「何だよ?」 「今日のルルは一味違うらしいぞ」
アルフレッドに言われてレンは仕分けをしていた手を止めてルルをよく観察する。
「……………髪の色を変えたのか?」
「わたしの髪は青いままよ!もう!本当に目がついてるの!?」
「だよなー」
ムキ〜と怒り出すルルの後ろから、客足が落ち着いたルディがヤレヤレと言った感じで入って来る。
「まったく、揃いも揃って鈍感なんだから」
「何だよ?」
「そんな事を言われてもなぁ」
「ルルの左の襟をよく見なさい」
言われて見るとルルの襟にキラキラ光る羽を模ったブローチが光っていた。
「おっ、良い感じのブローチじゃないのか」
「本当だ、良く似合ってるぞ」
2人に褒められて鼻高々になるルル。
「ふふーん!良いでしょ!前から欲しかったんだよ!」
そう言ってクルクル回るルルにレンが羽が飛び散るだろと注意する。
「お給料、5ヶ月分!奮発したんだ!」
「「「5ヶ月!!」」」
思っていたよりも高額な値段に3人は驚く。
「うん!宝石をいっぱい使ってるんだって!」
カッカッカと笑うルルにアルフレッドは、ちょっとよく見せてくれよと頼む。
ルルは「良いよー」とブローチを外してアルフレッドに渡す。
アルフレッドたち3人は、そのブローチを見て目を細める。
そして、ルルに礼を言って返す。
「それじゃ、わたしは今日の非番仲間に自慢して来るね!」
「ああ、気をつけてな。そうそう、そのブローチはどこで買ったんだ?」
「最近、出店された『バーン宝石商アルガス支店』って所だよ?」
ルルは、そう答えるとバサッと翼を広げて天窓へと飛んで行く。
残された3人は一様に黙って彼女の後ろ姿を見守っていた。
〜数日後〜
王都でも歴史があり、上位貴族に人気のあるバーン宝石商。
その店がアルガスに初めて出店した支店に朝から笑いが止まらない男がいた。
男はアルガス支店の支店長、ガストン。
「支店長。なんだか最近、ご機嫌ですね」
「わかるか?クックックッ」
「どうしたんです?」
ガストンは若い店員の質問に何かを思い出したように笑いを漏らす。
「最近、バカなハーピーたちがいてな」
「えっ?ハーピー?」
「このくだらん硝子細工のブローチを欲しいと言って来るんだよ」
ガストンはそう言って棚からルルが買ったのと同じブローチを取り出してみせる。
「物の価値がわからん鳥のくせして、生意気なもんだよ。だから、倍以上の値段で買わせたよ」
「えっ!?それって不味いんじゃ?」
「バカ言え、奴らはどうせ光り物なら何でも喜ぶ鳥だぞ?硝子と宝石の違いもわからんよ。要は光ってれば良いんだろ」
ハーピーたちを明らかに馬鹿にする発言に若い店員は不安になる。
「あの、1羽だけっすよね?買っちゃったの?」
「まさか!最近はどんどん買いに来てバカみたいに喜んで帰いくぞ?」
「え〜!」
ガストンの言葉にドン引きする店員に気づかずに彼は機嫌良く話す。
「いや〜、本当に最近は実に儲けた、儲けた!ハハハハハハ!私が本店勤務になるのも時間の問題だな!」
「大丈夫かな、本当に?」
「何か言ったか?」
「いえ、何も!」
店員が慌てて首を振ったとき、出入り口からカラン、カランと客が入って来る。
「いらっしゃいませ!」
ガストンはすぐに営業スタイルになり、接客をする。 入って来たのは車椅子に座った男と、その椅子を押す女性、そして魔法使いらしい男の3人。
「今日は、どのようなアクセサリーをお探しですか?」
「ああ、悪いな客じゃないんだよ」
車椅子に座る男が愛想よく話す。
「俺は、そこの郵便ギルドの支局長をやってる者だ。今日は新しく出店したあんたに、ご挨拶をと思ってな」
郵便ギルドと名乗った瞬間にガストンの笑みが消えて、代わりに見下すような表情になる。
「ああ、あの冒険者崩れの?」
「俺を知ってるのか?」
「まぁ、噂程度には」
「なら、話は早い」
アルフレッドも笑みを引っ込める。 そしてーー、
「ウチのもんに舐めたことをしてくれたな?」
店内にドスが利いた声が響く。
「クレームは困りますな」
「クレーム?あなた、あの子たちに法外な値段で硝子細工を売ったのよ?」
「それが?」
ルディの指摘に悪びれる様子も無くガストンは応対する。
「相手はハーピー。光り物なら、何でも喜ぶ鳥ですよ?私は需要に応えただけです。まぁ少々、儲けさせてもらいましたがね」
「何だと、てめえ!?」
入り口で睨んでいたレンがガストンに殴りかかろうと前に出ようとするのをアルフレッドは手を上げて止める。
「おお、怖い。これだから、冒険者崩れはたちが悪い。さ、挨拶は済んだでしょ?お引き取りを、ここは貴族の方々も通うバーン宝石商の支店ですからね」
ガストンはニタニタと3人を笑う。
「支店長さんよ。とりあえず、ブローチを回収して金を返した方が身のためだと思うぜ?」
「脅迫ですか?」
「まさか!あんたのために言ってんだよ。このままじゃ、あんたは」
アルフレッドが言い終わる前に店のドアがコンコンとノックされる。
「すみませーん!お手紙です!」
続いて幼い少女の声が聞こえてくる。
「あらら、残念。時間切れだな」
「?」
「ほら、郵便だぞ?」
ニヤリと笑うアルフレッドの様子に不信がりながら、ガストンは顎で店員に手紙を受け取るように指図する。
カランカランーー
「ハンコかサインをお願いします!あっ、支局長さんたち!」
「おう!お疲れさん!」
ペコリと頭を下げるハーピーにアルフレッドは片手を上げて笑う。
そして、しっかりと受領印をもらって次の配達先へ飛んで行く。
「差出人は誰だ?」
「ルナデック伯爵夫人です」
お得意さまだった。
ガストンは店員から、奪うように手紙を取ると中身を確認する。
「はぁ!?」
そして、大きく目を見開く。
「どうした?」
「……………何でもありません」
すぐに懐へ隠すようにしまうとガストンはアルフレッドを睨む。
そこへ、コンコン。
「郵便で〜す!」
「お手紙で〜す!」
「あれ?あなたも?」
「どうしたの?」
「えっ?手紙だよ?」
「私もだよ!」
「やっほ〜!どうしたの、皆?」
そこへ、何羽もの少女たちの声が重なる。
「なっ、何だ?どういう事だ?」
狼狽えるガストンにアルフレッドが「早く受け取れよ、手紙」と笑う。
その後、店員が総出で手紙を受け取る。
差出人はどれも高位の貴族や、その夫人からだった。 手紙を開くたびにガストンから生気が抜けていく。
内容はどれもクレームだからだ。
《いつも手紙を届けてくれるハーピーちゃんが付けていたブローチについて話がある》
《いつも息子の手紙を届けてくれる子が持っていたブローチ。あれは……………》
《あの子のブローチ。冗談か何かか?》
どれもハーピーが付けていたブローチについてだった。
中にはカストーデス子爵からの手紙があり、内容は簡潔に《殺すぞ》。
「あっ、あああああ!」
ガストンは手紙を握り締め、絶叫しだす。
「まったくあの子たち、業務中もずっとブローチを着けてるのよね」
ルディは、しかないんだからと苦笑する。
「ハハハ。それだけ自慢したかったんだろうな。しかし、困ったよな?うちのハーピーたちの配達範囲はアルガスだけじゃないからな。各領地や王都、それに王国中の都市や村」
昔と違って手紙が届く距離や速さが凄いとレンは染み染みと口にする。
「ウチのハーピーたちは貴族の顧客も多くてな。ほら、あの子たちは見た目だけじゃなくて、人の声を真似できるだろ?遠くの家族や友人の声で代読っていうサービスをしていて皆から人気があるんだよ」
アルフレッドは誇らしげに口にしてルディやレンもウンウンと頷く。
「そんな人の中にはお前が言う物の価値がわかる貴族が何人、何十人も居るんだが……………さて、どうする?」
「……………ブローチを回収して…返金します」
ガストンは絞り出すような声で話す。
そのとき、もう来ないと思っていた扉からノックが響く。
そしてーー
「もし、もーし!お手紙です!」
「ひぃ!」
ガストンは恐怖で固まる。
「おっ、ルルか?」
「丁度、良いんじゃないか?」
「そうね、入っておいでルルちゃん」
「え?支局長たち?どうしたの?」
アルフレッドたちの声に驚いておずおずと店に入って来るルル。
「別につまらん用事があっただけだよ」
「もう終わったけどな」
「さあ、お手紙を配達しなさい」
にこやかにガストンへ指を差す3人。
「?まっ、いっか!ガストン支店長さんにバーンさんから、お手紙で〜す!」
「ひぃ~!来るな、来るな!!」
絶対に手紙の受け取りを拒否しようと壁際へ逃げるガストンにルルは首を傾げる。
「あの手紙を」
「いやだ!いらない!受け取らない!」
駄々をこねるように拒絶するガストンにルルは「うぇ、困ったな」と困惑する。
しかし、あることを思い出した様子で「あっ、そうだった」と呟く。
「依頼主さんから、手紙を受け取ってくれなかった場合の伝言があったんだ!」
次の瞬間、ルルの可愛らしい容姿には似合わない野太く怒気をはらんだ男の声が口から出てくる。
「『ガストン。お前はクビだ』以上です!」
ガストンは崩れ落ちた。
〜その日から10日後〜
支局内にあるハーピーの住まい、通称「巣箱」から歓声が響いてくる。
アルフレッドは車椅子に座り、圭介への報告書を書いていた。
「支局長、レンのおっちゃん、ルディ!」
「どうした?」
「レンのおっちゃん!見てよ!」
そう言ってルルはブローチを見せる。
デザインは同じだった。
しかし、その輝きは昨夜までの無色のモノではない。
ブローチの細工が硝子から本物の宝石へと姿を変えていた。
「なんか、ブローチの輝きが増したの!」
「あら、綺麗。良かったじゃないの」
本物の宝石に気付かずに喜ぶルルを見て微笑むルディ。
「うん!前よりも気に入った!でも、なんでだろ?わたしのだけじゃないの!皆のもだよ!」
「ふぁ〜、世の中には不思議な事もあるんだな」
何故か眠そうに答えるレン。
「だねぇ!凄いよね、アル支局長さん!カッカッカ!」
ルル独特の笑い声が局内に響く。
しばらくして業務時間となり、ルルや他のハーピーたちが配達に飛び立つ。
その後ろ姿をアルフレッドは筆を置いて眺める。
「アル、これどうする?」
後ろから、レンが声を掛けてくる。
「全部、砕いてガストンに渡しとけ」
アルフレッドは振り向きもせずに答える。
そして、筆をとって報告書を書き上げる。
《郵便ギルド アルガス支局、本日も異状なし》
読んでいただき、ありがとうございます!もし、気に入ってもらえると嬉しいです!




