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午前零時の怪異行進  作者: ローナ


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午前零時の怪異行進

川崎の街を南北に貫く、大きな一本の道路「第一京浜」。

昼間は絶え間なくトラックや車が行き交うこの大通りも、丑三つ時――午前二時を回る頃には、嘘のように静まり返ります。街灯の光がコンクリートの路面を白く照らし、時折、遠くの工業地帯から「ゴーーー」と地鳴りのような音が響いてくるだけです。


ある雨の夜。仕事帰りに終電を逃し、一人で暗い高架下の道を歩いていた男は、奇妙な違和感に襲われました。

自分の足音のすぐ後ろから、

「カシャ、カシャ、カシャ……」

と、まるで無数の「錆びた鎖」を引きずるような音がついてくるのです。


振り返っても、誰もいません。ただ、アスファルトの地表から、ねっとりとした黒い霧が立ち上り、街灯の光をじわじわと侵食していくのが見えました。


やがて、霧の奥から「それ」は現れました。


先頭を歩くのは、人間の胴体に、古びた踏切の遮断機が何本も突き刺さった、異形の大男。

その後ろを、かつて京浜地帯の泥から這い上がってきたような「顔のない泥人形」や、真っ黒いヘドロの塊に無数の赤い目がぎょろぎょろと蠢く「水底のモノ」、そして、かつて事故で廃車になったはずの古びたバイクが、誰も乗せていないのに青白い炎を上げてガタガタと自走しています。


それは、川崎の「負の記憶」や「捨てられた怨念」が形を変えて練り歩く、恐るべき『百鬼夜行』の列でした。


男はあまりの恐怖に息が止まり、高架下のコンクリート壁に背中を押し付けました。

(目を合わせてはいけない。見つかったら、あの列の中に引きずり込まれる……!)


しかし、運悪く男のスマートフォンの画面が、新着通知で「ピカッ」と青白く光ってしまったのです。


一斉に、百鬼夜行の動きがピタリと止まりました。

遮断機の男、泥人形、ヘドロの化け物たちが、一斉に首を「ギギギ……」と不自然な角度に曲げ、男のほうを凝視します。


「……ミツケタ」


耳を突き刺すような、金属が擦れ合うような声が響き、ヘドロの塊から伸びた黒い無数の手が、男の足元へと津波のように押し寄せてきました。男は悲鳴を上げて走り出しましたが、足がすくんで前に進めません。


その時です。男の背後にあった古いコンクリートの壁に描かれていた、スプレーの落書き(グラフィティ)が、にわかに真っ赤な光を放ちました。

壁から巨大な「影の腕」が飛び出し、押し寄せるあやかしの手を凄まじい力で叩き落としたのです。


百鬼夜行の列は、その壁の落書きをひと睨みすると、それ以上深追いすることなく、また「カシャ、カシャ」と鎖の音を響かせながら、霧の向こう、夜光運河の方角へと消えていきました。


気がつくと黒い霧は消え、男はただ一人、雨の激しく降る第一京浜の歩道にへたり込んでいました。

助かった理由を考えながら背後の壁を見上げると、そこには、まるで男を守るように大きく牙を剥いた「野獣の顔」の落書きが、ただ静かにストリートの闇に佇んでいました。


今でも、深夜の川崎の静かな大通りで、ふと「錆びた鎖の音」が聞こえることがあります。もしその音を聞いてしまったら、決して振り返ってはいけません。壁の落書きが、いつでもあなたを守ってくれるとは限らないのですから。

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