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第三話 噂と視線

Tenpといいます。普段はイラストを書いたりアニメを見たりしているのですが、小説を書くのはとても楽しいと友人から聞いたので始めました。毎週水曜日ほどに上げますので、確認していただけると幸いです。よろしくお願いいたします。

依頼書から、視線を外すのに時間がかかった。

赤い判は、何度も重ね押しされている。

まるで、誰かが「ここに異常がある」と訴え続けた痕跡のようだった。

「……恒一様?」

リンの声で、我に返る。

「いや、なんでもない」

そう答えながらも、胸の奥の違和感は消えなかった。

――単独。

――ランク外。

条件を満たさない存在が、結果だけを残している。

(合理的じゃない)

(でも……)

恒一は、ふと思った。

――もし、自分がこの力を「誰にも知られないように」使うとしたら。

名前は出さない。

報酬も受け取らない。

評価も、称賛も、必要ない。

(……それは、勇者か?)

考えかけて、やめる。

今は、材料が足りない。

「次の任務、どうします?」

リンが掲示板から少し離れた場所で、控えめに聞いてくる。

「E級か、D級だな」

「ですよね」

現実的な選択。

生き残るためには、それが正しい。

だが――

そのとき、協会の奥から、硬い足音が響いた。

鎧の音。

複数人。

ざわめきが、自然と道を空ける。

現れたのは、王国騎士団の一団だった。

胸元には、王家の紋章。

「……騎士団?」

リンが小さく呟く。

先頭に立つ男は、受付嬢に一枚の書類を差し出した。

声は低く、よく通る。

「至急だ。

 この依頼の達成者について、情報提供を求める」

示されたのは――

さきほどの、Sランク依頼書。

協会内の空気が、目に見えて張り詰める。

「達成者は名を名乗らず、身元不明。

 だが、戦闘痕と魔力残滓の解析結果が一致した」

「一致……?」

誰かが息を呑む。

騎士は続けた。

「――勇者召喚時、一人だった者が一名いたな」

恒一の、指先がわずかに強張った。

「その者の魔力波形と、

 今回の依頼現場に残った反応が、酷似している」

ざわめきが、一気に広がる。

「単独の勇者って……」

「まさか……」

「いや、でもあいつは……」

リンが、恒一を見る。

何か言おうとして、言葉を飲み込んだ。

恒一は、動かなかった。

表情も、変えなかった。

(……確定じゃない)

(推測だ)

だが同時に、理解してしまう。

この世界は――

結果から、存在を逆算する。

力を見せれば、理由を求められる。

理由がなければ、都合よく解釈される。

(自由に選んでる、つもりだった)

(でも――)

騎士の視線が、広間を一巡する。

「心当たりのある者は、後ほど名乗り出るように。

 王都の安全に関わる問題だ」

それだけ言い残し、騎士団は去っていった。

静寂。

そして、ざわめき。

「……大事になってきましたね」

リンが、少し不安そうに言う。

「そうだな」

恒一は、短く答えた。

(選ばなかったはずの道が)

(勝手に、近づいてくる)

女神の声が、脳裏をよぎる。

――使いこなせるかどうかは、あなた次第。

「リン」

「はい」

恒一は、彼女を見て言った。

「次の任務、少しだけ難易度を上げよう」

「え……?」

「D級の中でも、討伐対象が複数いるやつ」

「それって……」

「確かめたい」

リンは、一瞬迷ってから、頷いた。

「……わかりました。

 でも、無茶はしないでください」

「約束はできない」

「正直ですね」

小さく笑ってから、リンは真剣な顔になる。

「でも――信じます。

 恒一様が、ちゃんと考えて選ぶって」

その言葉に、胸の奥がわずかに温かくなった。

(――問いは、行動の前にある)

(でも、答えは)

恒一は、掲示板から一枚の依頼書を剥がした。

選んだのは、

失敗したときの結果が、はっきり書かれている任務だった。

(後悔しない選択、か)

「……これでいいんですか?」

リンが、依頼書の内容を覗き込む。

討伐対象:群生型魔物(三〜五体)

推奨人数:E〜D級三名以上

危険度:D上位

「人数、足りませんよね」

「足りないな」

恒一は、あっさり認めた。

「でも、明確だ」

「……何がですか?」

「失敗したら、何が起きるかが」

リンは少しだけ目を見開き、

それから、静かに息を吐いた。

「恒一様って……」

「ん?」

「結果を見る前に、責任を見る人ですよね」

即答できず、恒一は視線を逸らした。

「……たぶん」

「たぶん?」

「自分がそうしたいだけだ」

リンは、それ以上聞かなかった。

ただ、依頼書を受け取り、受付へ向かう。

手続きはすぐに終わった。

E級の二人が、D上位任務を受ける。

多少の怪訝な視線はあったが、止められることはない。

協会を出ると、夕暮れの王都が広がっていた。

石畳が橙色に染まり、

遠くで鐘の音が鳴っている。

「……さっきの騎士団の話」

リンが、歩きながら口を開いた。

「うん」

「久遠ユウさんが疑われてる、ってわけじゃ……ないですよね?」

「直接じゃない」

「でも……」

「“結果”が先にある限り、誰かが理由にされる」

リンは、しばらく黙ったあと、ぽつりと言った。

「それ、怖くないですか?」

「怖いよ」

即答だった。

「でも、目を逸らしたら、もっと怖くなる」

リンは、驚いたように恒一を見る。

そして、少しだけ笑った。

「……変な人ですね」

「よく言われる」

王都の門を抜け、街道へ出る。

空はすでに暗くなり始めていた。

そのとき――

恒一は、背中に刺さる視線を感じた。

振り返る。

人混みの向こう。

フードを深く被った人物が、

一瞬だけこちらを見て――

すぐに視線を逸らした。

(……今のは)

追うには遅い。

確証もない。

だが、胸の奥が、微かにざわついた。

(観測されている?)

(それとも――)

「どうしました?」

「……いや」

恒一は前を向く。

(まだ、交わらない)

(でも、いずれ)

問いは、増えていく。

選択肢も、増えていく。

それでも歩みは止めない。

――考える者として。

二人は、夜の街道を進んでいった。


感想などありましたら、お願い致します。次回もよろしくお願いいたします。

                ___

             ,. .: : : : |     ”_、

            ,z≦: : : : : :|    Y:.:.:.:.:.:.:\

         / : : : : : : : : |___.|ニニO:.:.:\

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         {:/i:i:i:i:i,i:i:i:i/   Vi:i:iヽi:i:i:i:i:i:i:i:iト、i: |i:i:i:ヽ}

        {i:i:i:i:i:i:li:i:i:i{  、__Vi:i:i:\i:i:ヽi:i_| `:|i:i:i:i:ソ ノヽ

       /i:i:i:i:i:i:ili:i:i:|____ ̄´   `ニニ彡  i:i:i:i:}  ⌒

     /  ヽi:i:i:ili:i:i:マ弋_少`    弋_歹ア j:i:i:/

    Y     ) iヽiヽi:iヽ ¨     ,  ¨   ノi:i|"

   人    ノ \`__\ヽ    _     ´/ノi:i|

     > 、    }i:i:i:∧    (__)   .八 |i:|

        > ノi:/i:i:i:\        /从  :|

          イ  )/):/} > 、。 < `:.{  i ノ

          ____ノ     乂__ ノ

       >'"==ニ{  i i       i i   )ニ}` <

      //  : :マムi: i i         i i ムア: .  ヽ

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    /: : : : : : : : : : :   : : :',ヽ'ヽニニイ/ : j:.   : ',: : : : : :V

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