第二話 評価外
どうも、Tenpです。最近は寒いですね。私はとても忙しいので、たまにしか小説書けなくて困ってます。でも一週間に1話投稿できればいいかなって思ってます。今後とも、よろしくお願いいたします。
王城の一件から数日後、
中野恒一とリンは、アレティア王国郊外の森に来ていた。
あの後、勇者たちはそれぞれ異なる任務を与えられた。
恒一に渡されたのは、その中でも最も難易度の低いものだった。
報酬として配られた金貨の額は全員同じだったが、装備の内容は大きく違っていた。
神谷烈には大剣と龍の鱗の鎧。
白銀潤には魔力上昇のアーティファクトと白銀の鎧。
赤城剛には大斧と鋼の鎧。
久遠ユウには魔導書と魔法耐性のネックレス。
そして――
恒一に渡されたのは、短剣、革の防具、そして木の盾だけだった。
「……これで、勝てるのか?」
思わず漏れたその言葉に、答える者はいない。
それでも旅に出るしかなく、恒一はリンとともに王城を後にした。
そして今に至る。
森は静かだった。
王都に近いこの森は、魔物の気配も薄い。
耳に届くのは、鳥の鳴き声と、風に揺れる木々の音だけだ。
「思ったより、普通の森ですね」
リンが周囲を見渡しながら言う。
緊張感はあるが、怯えは感じられない。
「一番低い難易度の任務だからな」
恒一は短く答え、手にした短剣を握り直す。
軽い。頼りない。
王城で受け取ったときから、その印象は変わらなかった。
任務内容は単純だ。
森の奥に現れた小型魔物の討伐。数は少数、危険度も低い。
――なのに。
胸の奥に、説明のつかない引っかかりがあった。
恒一は足を止める。
「リン、少し待ってくれ」
「え?」
リンが振り返るより早く、恒一は木陰へと視線を向けた。
次の瞬間、茂みがわずかに揺れる。
――来る。
そう確信した直後、地面を蹴る音がした。
低い唸り声とともに、魔物が飛び出してくる。
狼に似た姿。
だが、牙は異様に長く、目は赤く濁っていた。
「恒一様!」
リンが叫ぶ。
だが、恒一はすでに動いていた。
体が、勝手に。
一歩、半身をずらす。
牙が空を切る。
同時に、短剣が魔物の喉元へと滑り込んだ。
――浅い。
そう判断した瞬間、力の入れ方を変える。
刃の角度を微調整し、神経と血管が交わる一点を断つ。
魔物は悲鳴すら上げず、その場に崩れ落ちた。
静寂が戻る。
リンは、しばらく言葉を失っていた。
「……今の、何ですか?」
「わからない」
恒一は正直に答える。
「考えて動いたわけじゃない。ただ……そうした方がいいって、思っただけだ」
自分の手を見つめる。
震えはない。
(女神の言葉は、嘘じゃなかったのか)
だが同時に、別の疑問が浮かぶ。
――なぜ、俺だけこんな装備なんだ。
倒れた魔物の身体が、ゆっくりと霧のように崩れていく。
討伐の証拠として残る魔石だけが、地面に転がった。
森の奥から、別の気配が微かに漂ってきた。
恒一は短剣を構え直す
気配が膨れ上がった。
空気が、わずかに重くなる。
さっき倒した魔物よりも、明らかに大きい。
「……リン、下がれ」
恒一が言った瞬間、茂みが弾けた。
二体目。依頼では一体だけの討伐のはずだった。
先ほどより一回り大きい、狼型の魔物。
牙には唾液が垂れ、赤い目が一直線にリンを捉えていた。
――狙いは、俺じゃない。
(まずい)
リンはまだ状況を把握しきれていない。
距離も近い。
「恒一様――!」
魔物が地を蹴った。
速い。
今の装備じゃ、正面から受ければリンが巻き込まれる。
その瞬間だった。
胸の奥が、きつく締め付けられる。
(――失う)
その想像が、はっきりと形を持った。
次の瞬間、視界に文字が滲む。
> 選択が要求されています
【前に出る】
結果:あなたが重傷を負う可能性があります
【剣で迎撃する】
結果:攻撃がリンに届く可能性があります
【盾を投げる】
結果:装備が破損します
味方の生存率:高(あなたの安全は保証されません)
息が詰まる。
(……考えるな)
いや、違う。
(考えろ)
守りたい。
ただ、それだけだ。
「――盾を投げる」
選択した瞬間、身体が前に出た。
木製の盾を、全力で投げ放つ。
回転しながら飛んだ盾が、魔物の顔面を叩いた。
鈍い音。
完璧じゃない。
だが、確かに――止まった。
その“わずかな隙”に、恒一は踏み込む。
短剣を逆手に持ち替え、喉元へ。
刃先が、狙った一点を貫いた。
魔物は声も上げず、崩れ落ちる。
静寂。
壊れた盾が、地面に転がっている。
リンは、目を見開いたまま動けずにいた。
「……今の……」
恒一は、自分の手を見る。
震えていない。
だが、胸の奥が、じわりと痛む。
(守ろうとしたから、出た)
理解してしまった。
この力は、便利じゃない。
自分のためには、きっと使えない。
(知を力に変える能力とは、このことなのか、今後探求するしか無いな。)
「……大丈夫ですか、恒一様」
「ああ」
盾の残骸を拾い上げながら、恒一は小さく息を吐いた。
「どうして、あんな判断ができるんですか?」
恒一は、少し考えてから答えた。
「わからない。
ただ、選択肢が見えて……一番、後悔しないものを選んだだけだ」
リンは、魔石を拾い上げながら小さく呟く。
「それ、勇者の考え方じゃない気がします」
「そうか?」
「はい。
でも……私は、そっちの方が好きです」
恒一は返事をしなかった。
ただ、森の奥を見つめる。
(……もし、別の選択をしていたら)
そう考える自分が、少しだけ怖かった。
森を抜け、王都へ戻った頃には日が傾いていた。
アレティア王国冒険者協会は、夕刻にも関わらず人で溢れている。
そう、この世界には冒険者協会というものがあり、依頼、報酬、冒険者を統括している。
冒険者は上からS,A,B,C,D,E級と分けられていて、それにあったように任務も難易度でS,A,B,C,D,Eとランク分けされている。
もちろん、恒一はE級だった。
石造りの建物の中は、
金属の触れ合う音、酒の匂い、荒い笑い声で満ちていた。
「……すごい人ですね」
リンが小さく呟く。
「任務の報告が重なる時間帯なんだろ」
恒一は周囲を見渡しながら答える。
受付カウンターの前には列ができていた。
討伐証明の魔石を手にした冒険者たちが、
それぞれの成果を誇るように語っている。
やがて順番が来た。
「任務名、D級郊外森林・小型魔物討伐ですね」
受付嬢は事務的に確認し、魔石を受け取る。
数を数え、軽く目を見張った。
「二体討伐……?
この任務、通常は一体想定ですが」
「途中で、増えました」
恒一はそれだけ答えた。
深く追及されることはなかった。
代わりに、金貨が小袋ごとカウンターに置かれる。
「報酬です。お疲れさまでした」
それを受け取り、恒一とリンは一歩下がった。
――その時。
背後から、ひそひそとした声が聞こえてきた。
「……なあ、聞いたか?」
「例の、噂の話だろ?」
声の主は、装備の整った中級冒険者たちだった。
「一人で任務を片っ端から片づけてるってやつ」
「しかも、難易度関係なし」
リンが、わずかに身を固くする。
「また自慢話じゃないですか?」
「いや、違う」
男は声を落とした。
「討伐記録が異常なんだ。
複数任務を同日完了、しかも単独行動」
「魔法使いらしいな」
「詠唱もほとんどしないって」
恒一は、知らず知らずのうちに耳を傾けていた。
「最初は誇張だと思った」
「でもな……」
別の冒険者が、真剣な顔で口を挟む。
「助けられた奴が、実在する」
空気が、わずかに変わった。
「俺の知り合いが、森で囲まれた」
「気づいたら魔物が全部倒れてて、
立ってたのは一人だけだったそうだ」
「顔は?」
「ローブでよく見えなかったらしい」
「名前は?」
その問いに、男は首を振った。
「名乗らなかったってさ。
報酬も受け取らず、すぐ消えた」
リンは恒一を見る。
「……すごい人、いるんですね」
「ああ」
恒一は短く答えた。
胸の奥に、わずかな違和感が残る。
(ユウも一人、だったよな……確か)
だが、確信には至らない。
受付嬢の声が、協会内に響いた。
「次の任務の掲示を更新します」
職員の声と同時に、掲示板の前へ人だかりができた。
ざわめきの中心。
一枚だけ、異様に多くの赤い判が押された依頼書があった。
「……これ」
リンが、思わず息を呑む。
Sランク指定。
推奨人数:A級〜S級三名以上。
そして、達成状況の欄に刻まれた文字。
――達成済み
――ランク外・単独
恒一は、無意識のうちに、その依頼書を見つめていた。
(――誰だ)
もしよかったら、感想など書いていただけるととても嬉しく思います。




