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第一話 召喚と鑑定不能スキル

――問いは、目を覚ます前にあった  

中野 恒一は、考えるのが好きだった。

それは誇れる趣味でも、役に立つ特技でもない。  

ただ、答えが一つに定まらない問いを前にすると、どうしても思考を止められなかった。 放課後の教室。  

誰もいない席で、恒一は窓の外を眺めていた。

「もし、この世界がゲームだったら……」  

小さく呟いて、自分で苦笑する。  

現実逃避にしては、少し面倒な考え方だ。  

――プレイヤーは自由か。  

――それとも、選択している“つもり”なだけか。  

ノートの端には、授業とは関係のない言葉が並んでいる。  

自由意志、決定論、存在。  

クラスでは目立たない。  

話しかけられることも少ない。  

家に帰ればゲームと動画と本。  

どこにでもいる、高校一年生。  

……そのはずだった。

「……ここは、どこだ」  

白い。  

視界のすべてが、境目のない白で満たされている。  

立っているのか、浮いているのかもわからない。  

床の感触がないのに、落ちている感じもしなかった。  

夢だろうか。  

そう考えて、やめる。  

夢にしては、感覚がはっきりしすぎている。  

音がない。  

風もない。  

それなのに、自分の意識だけが妙に冴えていた。

「落ち着いてください」  

突然、声がした。  

驚くより先に、安心感が満たされていく感覚があった。  

振り向くと、白銀の髪をした女性が立っている。  

柔らかな微笑。  

だが、その存在感は、現実離れしていた。

「あなたは、よく考える人ですね」

「……誰ですか」

「女神、と呼ばれることが多いですね」  

否定する気も、肯定する気も起きなかった。  

恒一はただ、問いを選ぶ。

「ここは、天国ですか?」  

女神は少しだけ目を細めた。

「いいえ。あなたはこれから、別の世界で生きます。いまは、召喚されている途中のようなところですね。」  

異世界。  

召喚。  

どこかで聞いた言葉なのに、不思議と現実味があった。

「あなたには、力を授けます」  

女神が指先を伸ばす。

「知を、力に変える才能。  

あなたがこれまで考え、学び、培ってきたものすべてが、魔力となる能力です」  

胸の奥で、何かが静かに動き出す。  

覚えている。  

読んできた文章。  

考え続けてきた問い。  

それらが、形を持たずに、確かに“そこにある”とわかる。

「全知全能に近い力です。  ただし――」  

女神は言葉を切る。

「使いこなせるかどうかは、あなた次第」  

恒一は、ゆっくりと息を吐いた。

「……なるほど」  

理解した、とは言わない。  

だが、納得はしていた。

「行ってきなさい。  考える者として」  

視界が、反転する。  

次に意識を取り戻したとき、恒一は広間に立っていた。  

豪奢な天井。  

玉座に座る国王。  

そして――自分を含めて、五人の少年少女。

「うおっ!? なんだここ!」

「は? 夢じゃないのか?」

「……召喚、か」  

それぞれが口々に声を上げる。  

恒一は、何も言わなかった。  

女神のことも、力のことも。  

胸の奥にある“感覚”も。

「ここは、アレティア王国。現在、魔王国軍に攻められていてな、勇者が必要なんじゃ。だから召喚させてもらった。」

と国王は言った。

「まずは、スキル鑑定をさせてもらおう。そこに立っておれ、」

と国王が言うと、騎士の人たちの後ろから石板を持っている鑑定士のような人がやってきて、一番端にいた勇者に石板を向け始めた。

「まずは一人目、名前は神谷 烈ー15歳、スキルは...《英雄共鳴ヒーロー・レゾナンス》!?」

鑑定士の声が響いた瞬間、広間の空気が変わった。ざわめき。 歓声。期待という感情が、形を持って膨れ上がる。

「次に二人目、名前は白銀 潤ー15歳、スキルは...《最適演算オプティマイザー》!?」

というと、周りの人たちが「最上級スキルが二人だと!?」などと騒いでいる。

どよめきが収まらない。耳を抑えたい気分だ。

「次に3人目、赤城 剛ー15歳、スキルは《限界突破オーバードライブ》!」

「また、最上級スキルかよ!」もう、周りの人は最高潮に達した。その中で、鑑定士はさらに鑑定を進める。

「次に4人目、久遠 ユウー15歳、スキルは《空白観測ゼロ・オブザーバー》、見たこと無いスキルだな。でも強そうだ、」

周りの人は「新しいスキルだ!」騒いでいる。

神谷 烈、白銀 潤、赤城 剛の三人は周りの人の声を聞いて誇らしげにいるのだが、久遠 ユウはそう聞いてもずっと俯いている。

「そして、最後、中野 恒一 15歳、スキルは鑑定できない...」

周囲は、静まり返った。

期待ではなく、失望でもなく。

値踏みするような沈黙。

「スキルが鑑定できないということは、スキルがないことに等しいのだ。でも、いままでも何人かスキルがないものが勇者になった。済まないが勇者になってもらう他無い。」

周りはまたざわめき始めた。

今度は「可哀想」や「一人だけ弱いのね」と哀れみの言葉の数々。

女神の言葉は嘘だったのかと考えたが俺はそれを受け止める他なかった。

「それでは、鑑定が終わった。これから、パーティーを作ってもらい旅に出てもらう。」

と国王が言うと横にたくさんの冒険者に見える人が並び始めた。

「では、冒険者たちよ、つきたい勇者のところに行きパーティーとなるのだ。」

冒険者たちが勇者のところについていく。烈や剛、潤のところには、どんどん人だかりができていくのだが、恒一とユウのところには誰も来ない。

冒険者たちの足音が、やけに大きく聞こえた。

誰かに呼ばれる声、笑顔で手を振る者、早速作戦を話し合い始める者――

広間は一気に活気づいていく。

烈の周囲には、剣士や魔法使いらしき者たちが集まり、

剛の前には、盾を背負った屈強な男たちが並んだ。

潤のもとには、回復役や支援職と思しき冒険者が集まり、

まるで最初から決まっていたかのように、パーティーが完成していく。

……なのに。

恒一の前だけ、空白だった。

ユウの横も同じだ。

視線は向けられる。だが、誰も足を止めない。

「……」

ユウは何も言わず、ただ前を見ていた。

その横顔から、感情を読み取ることはできない。

恒一は、胸の奥が少しだけ冷たくなるのを感じていた。

女神の言葉が頭をよぎる。

必ず意味がある――そんな、曖昧で都合のいい言葉。

(……嘘だったのか)

そう考えたが、答えは出ない。

そして、今のこの現実が、すべてだった。

「おい……あの二人、誰も来てないぞ」

「鑑定不可と、新しいスキルの……?」

「勇者、なんだよな……?」

小さな囁きが、遠慮なく耳に入ってくる。

同情と好奇心が混じった声。

だが、それ以上でも以下でもない。

しばらくして、国王がこちらを見た。

一瞬だけ、困ったような表情を浮かべてから、口を開く。

「……どうやら、全ての勇者にパーティーが組まれたわけではないようだな」

と国王が言ったそのときだった。

「――この人でいい」

 はっきりとした声が、広間に響いた。

 ざわめきの中で、妙に通る声。

 恒一が顔を上げると、

 そこに、一人の少女が立っていた。

 歳は、少し下だろうか。

 淡い色の髪を肩まで伸ばし、簡素な装備を身につけている。

 派手さはない。

 だが、その瞳だけは、真っ直ぐだった。

「え?」

 誰かが間の抜けた声を出す。

 少女は、迷いなく歩き、

 恒一の前に立った。

「あなた。勇者でしょう?」

「……そうだけど」

 問い返すより早く、少女は小さく笑った。

「よかった。誰も来ないから、遅れたらいけないと思って」

 周囲がざわつく。

「なんで、そっちなんだ?」

「スキル、ないって……」

 そんな声が聞こえる。

 少女は、それらを気にする様子もなく、

 恒一を見上げた。

「私はリン。冒険者です」

 一瞬、言葉に詰まる。

「……俺で、いいのか?」

 リンは、少し首を傾げたあと、こう言った。

「うん。

 だって――」

 彼女は、恒一の目を見て、はっきり言った。

「一番、考えてる顔をしてたから」

 その言葉に、胸の奥が、わずかに揺れた。

 力でも、称号でもない。

 スキルですらない理由。

 リンは、ユウの方をちらりと見てから、付け加える。

「それに……

 俯いてる人ほど、逃げてないって、私は思うんだ」

 ユウは、何も言わなかった。

 だが、その肩が、ほんの少しだけ動いた気がした。

 恒一は、ゆっくりと息を吸う。

「……よろしく、リン」

「こちらこそ」

 こうして、

 誰も選ばなかった勇者のもとに、

 最初の仲間が現れた。

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