10.5 田中 彩芽
この物語は、架空のフィクションです。
パパとママは熱心な宗教家でした。
私はその二世でしたが、世間のイメージよりも不便に感じたことはなく、逆に、教会の人たちからは良くしてもらった思い出の方がたくさんありました。
啓示現象が起きた次の日、家族の中で私だけが能力に目覚めました。すぐに教会の人たちがやって来て、私たち家族は山奥にある教会へ向かうことになりました。そこには教会の偉い人が待っていました。私の能力が見初められて、ある学校の訓練科というものに入ることを勧められました。その訓練科に入れば、自分の能力を深く知り、修練を重ねることで、将来、私の夢でもある誰かの役に立てると告げられました。パパとママの後押しもあり、少し嫌でしたが、私はその学校へ行くことを選びました。
パパとママは家に残ることを選び、その日に私だけ田園都市ユートピアへ引っ越すことになりました。引っ越し先は学校の寮でしたが、一人暮らしには少し大きく、お風呂とトイレは別だし、シングルベッドやテレビ、家電製品がひと通り揃っていて、不自由を感じる要素はありませんでした。
夕方、荷解きも終わり、少し快適に過ごせるようになって、パパに電話をかけたら、教会での待遇が良くなると言っていました。私は嬉しい気持ちになりました。少なからず、これが誰かの役に立ったときに感じる気持ちなのかなと思いました。
一昨日から学校に通い始めましたが、訓練科はイメージしていたものよりもすごくハードで、午後から始まる訓練の授業がとても厳しくて挫折しそうになります。周りの生徒とは、会って日が浅いこともあり、この大変さを共有できる人もいません。もともと、人と打ち解けるのが苦手な性格でしたから、以前の学校でも友だちがいなくて、周りの生徒からは、いつも端っこにいるような内気な生徒のように映っていたかなと思います。
この学校では、友だちができたらと思っていました。三谷くんから話しかけてくれるようになりましたが、受け答えが難しくてもう少し上手くなりたいなと思います。他の子ともお話がしたいのですが、まだまだ壁があるように感じます。
今朝、朝礼で氏家先生が新しく転校して来る男の子について言っていました。名前は、日向 葵くん。三谷くんが言うには、根性のある男だと言っていました。嘘か本当かわかりませんが、藤原さんの部屋を覗いていたと。そういう人なのかなと思い、少し距離を置いて、様子を見ようかなと思いました。
抜き打ちテストがお昼前にあることを知らされ、私はテストの成績がみんなよりも良い方ではなかったのでとても不安でした。それでも頑張って選択問題を解いて行きました。無事、抜き打ちテストが終わり、お昼と休憩を経て、午後の訓練のため、更衣室で訓練用のスーツに着替えました。
おっぱいのラインを気にしながら歩いていると、氏家先生に担がれた日向くんを見ました。どんな状況なのかわかりませんから、呼び止めるわけでもなく、ただただお二人の背中を見送りました。
射撃訓練用のフロアは地下六階にあり、階段とエレベーターで行けるのですが、今日は楽をして、エレベーターを選びました。地下六階のフロアで日向くんと藤原さんが何かお話しているのを見ました。三谷くんから聞いた話では、藤原さんに蹴飛ばされて、お昼まで気を失っていたそうです。どうやら、藤原さんに誤解があったようで、日向くんのとばっちりと言いますか、転校初日になんとも大変な思いをしたのでしょう。
日向くんに対するイメージと第一印象は違い、少し可愛らしいというのを思いました。他の男の子よりも背が低くて、一六三センチくらい。三谷くんと作間くんの背が高いからそう見えるのかも。
私の能力『絶対不可避』は、射撃テストにとても最適で、銃の扱いが苦手な私としては、引き金を引くだけでしたのでとても簡単でした。頭の中で当てたい的をイメージすると、なぜかその方角へ弾丸が向かうのです。
その分、射撃テストの順位が一位になるたび、周りの目が痛かったのですが、三谷くんが話しかけてくれるようになってから、競うだなんておこがましいのですが、少し自信が持てるようになりました。
三谷くんのあとに射撃テストを終え、タイムなどを見て、今回も一位だと浮かれながら、銃を置きに行こうとしたら、私は転んでしまいました。みんなの笑い声が聞こえて、恥ずかしくてたまらず動けなくなってしまい、うずくまっていると日向くんの声が聞こえてきました。そこに日向くんがいるのだとわかりました。どうすれば良いのかわからず、何か行動に移さないとと思い起き上がると、日向くんが銃を差し伸べてくれていました。
その親切な出来事に、私は恥ずかしさと嬉しさが入り混じって、何も考えられず、彼が持っていた銃を奪い取って、トレイカートへ戻しに行ってしまいました。それからはお礼を伝えるタイミングがなく、ズルズルと時間が過ぎてしまって、戦術テストを迎えてしまいました。
今日の帰り、お礼を言わなくちゃ。