9.5 藤原 木の実
この物語は、架空のフィクションです。
私は、小さいころからずっと一人でした。
先生も同級生もみんな、私の名前を知るやいなや腫れ物に触れたように離れて行くのです。
原因は、───お祖父さまにありました。
お祖父さまの名前は、藤原 実孝といいます。今は、第二施設 関東支部の全出資者であり、所有者兼所長をしています。以前までは、大企業の会長を務めていたそうです。裏の社会にも精通していたようで、真相の曖昧な悪い噂ばかりがありました。反社会勢力との繋がりがあるとか、政治家のスクープを握っているとか。
私と関わると良くないことが起きるという噂は、常にまとわりついていました。
最近、移住者のあいだではこの施設のことを田園都市ユートピアだなんて呼んでいるみたいだけれど、啓示現象が起こる前から、もっと言えば、二ヶ月前からこの施設で暮らしていた身としては、この施設に理想郷なんて要素はどこにもありません。
以前、暮らしていた世田谷区のほうがよほど理想的でした。家も庭も広いし、家政婦さんが美味しいご飯を作ってくれました。都心からも近いのでお買い物もたくさんできました。
打って変わって、この施設には娯楽施設もなければ、美味しいご飯が食べられる場所もありません。学校の訓練科ではどう接したらいいのかわからない生徒が数人。
私には、お祖父さましかいなかったのに、そんなお祖父さまでさえ、数ヶ月に一度、お会いするくらい。毎朝、通学でお迎えに来てくれる執事の方もお祖父さまのことは何も教えてくれませんでした。
四日前からマンションの向かいにあるお部屋に明かりが付いていました。時折、部屋の窓からおばあさんと二十代後半くらいの男性がいるのが見えて、なんだか羨ましいと思えました。
二ヶ月前には、マンションに暮らしていたのが私以外に誰もいなかったので、部屋の中ではバレないと思い、いつものようにブラとショーツで過ごしていました。カーテンを開けっぱなしにしていた無防備な私のせいもあります。裸族と言われればそれまでだけれど。
エアコンの効き過ぎでパジャマに着替えようとしたとき、何か視線を感じて、窓の向こうを見たら、男の子が向かいのベランダでこっちを見ていました。それもずっと。こんなときに恥じらいを感じられればいいけれど、私にはそういうものを持ち合わせていなくて、冷静に考えていました。男の子は、おばあさんと暮らしていた男性の弟さんなのだろうと思いました。二日前に、おばあさんとお兄さんが話していたところに出会して、苗字を知りました。“日向”───と。
日向と聞けば、お祖父さまが頭を悩ませている人の苗字でした。そして、日向家の男に下着を見られてしまった。これは、藤原家の一人娘として、しっかり話しておかないと、そう思い、次の朝に話しかけました。私よりも小さな男の子、お祖父さまを悩ませる男の息子、ナヨナヨとした彼の表情を見て、嫌悪感を覚えました。
これはきっと八つ当たりに近いのかもしれません。苛立ちに歯止めが効かず、私の身体は動いてしまって、気づけば、彼を空高く飛ばしてしまいました。
あとでお会いしたら、私から謝らないと。