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第5話 特別な存在

 楓の結婚式が終わり、彩花は、新婦を囲んで参列した女性陣みんなで撮った画僧を朔弥に送信する。するとハイテンションな返信が朔弥から返ってきた。


『わっ〜、楓ちゃん特別綺麗だわ〜。みんなも華やかでなんだか豪華な花束みたい』

『朔弥がパーティーメイク教えてくれたから、場違いな浮いた存在にならないで済んだよ。ありがとう』

『どういたしまして。彩花、メイクすることを楽しんでる?』

『うん、朔弥のおかげかな』


 朔弥と再会してから、彩花の生活の張りが出てきている。自分の存在を肯定してくれて、時にはアドバイスもしてくれる朔弥の存在は大きい。自ずとメイクやファッションにも気を遣うようになった。

 恋とは違うのかもしれないけれど、朔弥は特別な存在だと彩花は思っている。



 

 月曜日の昼休み、メールを打つ彩花の顔が笑顔になってたのか、隣の席の同僚が茶化してくる。


「林田さん、ここ数ヶ月で印象が明るくなったね。メイクだけじゃなく表情とか。なんかいいことあった?」

「うん、音信不通だった友達と会えるようになったり、別の友達が結婚したり……かな」


 彩花は、朔弥が花束と称した画像を同僚に見せる。その同僚は素直な感嘆の声を上げる。


「みんなキレイね〜。あ、林田さん緑のパーティードレス着てるんだね、可愛い」

「緑をチョイスするなんて、まるで花束に添えられる葉っぱみい」


 後ろからその画像をのそいた加納さんが嫌味を言ってくる。隣の席の同僚が焦って加納さんを嗜めようとするのを彩花が抑えって言い返す。


「……主役の花嫁を引き立てるのも、招待客の大事な役目で……TPOをわきまえない装いをするのは大人じゃないと思います」

「――! ……生意気」


 加納さんがそう言ってイラついたように去っていった。彩花はやっと加納さんに言い返せたと、自分を褒めた。手がまだ震えている。隣の席の同僚がこっそりと彩花に拍手していた。


 ことあるごとに、なぜか彩花に対してマウントととってきた加納さんをやりこめた快さに、彩花は自分が内面的にも少し強くなれたと実感していた。

 メイクやファッションは、自分を強くするための矛であると同時に自分を守るための盾であることもわかってきた。今までの自分は無防備すぎたのだと、彩花は自省する。


「さっきの林田さん。かっこよかったよ」


 同僚がそっと彩花を励ました。彩花は照れながらお礼を言う。




「そう、そんなことがあったのね」


 朔弥が感慨深げに呟いた。

 いつものカフェで彩花は朔弥と会っていた。


 彩花は加納さんの嫌味のことは今まで朔弥に言わないでいた。人の悪口ほど醜いものはないと思っているし、そもそも加納さんにつけ入る隙を与えていたのは自分の無防備さだったから。


「でも、朔弥の魔法がきっかけで、色々気づけたことがあったのから」

「彩花は間違ったこと言っていないわ。TOPをわきまえることは基本中の基本だもの」


 朔弥がにっこりと肯定してくれる。彩花は心地よい思いに満たされる。


「朔弥にはなんてお礼を言っていいか――」

「お礼なんて……私は彩花の気持ちで十分よ、でもそうね。欲を言えば、私、彩花の特別になりたい。ううん、彩花がノーマルなこと知ってるわ。でも私にとって彩花は特別なの」


 朔弥が切なげに訴える。彩花はドキドキする。

 つまり私たちは両想いなのだけれど、それを肯定していいものか、彩花は迷った。私はノーマルで百合ではないけど、私にとっては朔弥は特別な存在で――。


「彩花を誰にも取られたくないの。私のわがままだけど」

「でも私は――」

「彩花のことが好きだから、彩花の気持ちを待つわ。今まで通り私たちは親友よ」


 反則だ。こんな熱烈な告白されたら――でも私は百合じゃない。けど他ならない朔弥だけは他の人に取られたくない。これは独占欲だろうかと彩花は戸惑う。


「私の気持ちが変わるまで――変わらないかもしれないけど――親友でいてくれる? 朔弥はそれでいいの?」

「もちろんよ、女に二言は無いわ」




 この先、私たちはどうなるかわからないけれど、少なくとも、今は親友であり特別な関係だ。

 彩花は楽天的に考えることにした。朔弥のいない人生など二度と考えられないのだから。


 




 【おわり】


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