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第4話 友達になれる予感

 金曜日の夜、家でくつろいでいた彩花に、楓から連絡が来た。


「実は折り入って、お願いしたいことがあって……」

「どうしたの?」

「実は私、この度結婚することになりました」

「わ! おめでとう! 式いつ?」

「ちょっと急なんだけど四ヶ月後に決まったんだ。でね、友人代表のスピーチを彩花にお願いしたいと思っていて……いいかな?」

「えと……私でいいの?」

「うん、お願いできる?」

「わかった」


 どうやら、できちゃった婚のようだ。だからお腹が大きくなる前に式を挙げようと急いで式場を探したらしい。招待状は追って送るということだった。


 彩花は、友人の結婚式に出るの初めでだ。しかもスピーチ、緊張するなぁと彩花は姿勢を正す。何を話せばいいんだろうと、パソコンでキーワード検索する。な、なんか難しそうと目を細めつつ、検索結果に目を通していた。


 楓とは高校一年の時に知り合って以来だから、かれこれ八年来の付き合いになる。それぞれ別の大学に進学したけど、二〜三ヶ月に一度は、会ってたっけ。大体他の子とは、彼女たちに彼氏ができると疎遠になったけど、楓とは続いていた。楓が面倒見の良い性格だからかな。

 と同時に、あぁ私って彼氏いない歴五年になるのかと、彩花はドーンと落ち込む。

 まぁその間、朔弥のことを引きずってたわけだけど。

 

 明日はその朔弥と待ち合わせをしている。会うのは三度目になるけど、『よりを戻す』件ははっきり否定しないといけない。その代わり、友達になろうと提案することにしている。

 朔弥といるとなんだか元気になれるし、楽しい。

 社会人になると『同僚』は増えても『友達』ってなかなかできない。朔弥は元彼とはいえ、今は女性同士、彩花は朔弥ときっといい友達としてやっていけると思っている。




 翌日、繁華街の駅の改札付近で、彩花は道ゆく人々の中から朔弥の姿を探した。向こうから華やかで綺麗なお姉さんがやってくる。朔弥だ。

 朔弥は彩花に気づくと嬉しそうにブンブンと手を振った。


「待たせちゃった?」

「ううん、今来たとこだから」


 なんだろう、ほっとすると同時にドキドキする。朔弥が首を傾げてランチの店を提案してきた。


「ランチ、洋食にしない? 隠れ家的な洋食屋を見つけたの」


 そう言って朔弥が彩花を誘導する。

 女になっても、こうやってリードしてくれる朔弥の性格は変わってない。そしてそれをよしとする彩花の性格も変わってなかった。


 そのお店は、煉瓦と木の温もりのするの内装で、カゴに入った野菜がディスプレイされている。古民家とアメリカンカントリーがミックスしたような、どこかほっとするような雰囲気の店だ。

 ちょっと並んだが、しばらくしてテーブル席に通される。

 注文した料理を待っている間、彩花は朔弥に楓が結婚式を挙げることを話した。


「あの優等生な楓ちゃんが、できちゃった婚ね〜ちょっと意外だわ。計画立てて妊活とかしそうなイメージだったから」

「うん、でも楓、しっかりママさんになりそう」

「そうね、でもスピーチでは、楓ちゃんが妊娠中ってことは言わないほうがいいかもね」

「そうだよね。披露宴の席だし」


 昨日ネットでざっと調べた限りでは、新婦が妊娠中ということは披露宴では言わない方がいいらしいと、彩花は学んでいた。


「どんなドレス着るのかしらね〜彩花、撮影してきてね」

「もちろん」

「彩花はどんなパーティードレスにするの?」

「楓のお色直しのドレスと色が被らなければと思ってるけど」

「そうね、そこはちゃんと確認しておかないと」


 朔弥が、花嫁の楓に対する彩花の気遣いに感心したように微笑んだ。

 彩花は、心の中の声をそのまま伝えてみた。


「なんだか朔弥と女子トークできるのって嬉しい。私たち、友達としてやっていけるよね?」


 すると朔弥が悲しそうな表情になる。彩花は戸惑いながら言葉を紡ぐ。


「? 朔弥のことは好きだけど、だって、今の朔弥は女だし、私も女だし」

「う〜ん……ま、いいわ。今は『友達』でも」

「?」


 朔弥がちょっと不満そうに言ったが、彩花はどう返していいのかわからない。朔弥を『女』として受け入れて、彩花なりに、彼女との新たな関係を築きたいと思っている。


「私も彩花のこと、好きだから!」


 朔弥が彩花の手を握って告白する。彩花はポカンとしつつ、朔弥にお礼を言う。友達に好かれて嫌な思いになる人はいない。


 「うん……ありがとう」


 その時、料理が運ばれてきて、この話は中断したままになった。




 それから彩花は、朔弥と割と頻繁に連絡を取り合うようになった。彩花は土日休みで、朔弥は不定休なこともあって頻繁には会っていなかったが、朔弥はマメにメールを寄越した。

 朔弥は彩花にとって、仕事の愚痴や相談事、ファッションやメイクなどなんでも話せる親友の一人になっていった。



 

 一ヶ月半ぶりに会えた日、彩花は楓のお色直しのドレス色が決まったことを朔弥に話す。


「楓は、色打掛のほかに、ブルーのドレスとローズのドレスに決めたんだって」

「じゃあ他の色で派手じゃない色がいいわね。そうと決まればお店へGO〜!」


 彩花より朔弥の方がノリノリだ。朔弥のリサーチでは、パーティードレスを取り扱うお店は周辺に5つ、ネットショップなら無限にあるということだった。


「私、試着して決めたいなぁ」

「うん、うん、せっかくの機会だし、色々試着しましょ」

 

 5つのブティックはそれぞれ可愛い系や大人系など個性があり、試着前に彩花は目移りして、迷い出した。


「チャペルでの式に参列するなら、肩出しはNGね。ショールで肩を隠す作戦もありだけど。彩花は何色が着たい?」

「うーん……どうしよう」


 迷う彩花とは対照的に、朔弥は楽しそうだ。


「うん、候補としては、この緑のワンピと、紺色のこっち? かなぁ?」

「紺色のロングワンピは、スリットが深すぎるわ。私の彩花にはちょっと……」

「そう? そんなにスリット深いかな」

「ま、試着試着!」


 何着か試着させてもらう。店員さんが二人の様子を見て微笑んで尋ねてくる。


「仲がいいですね。お姉さんですか?」

「恋人で――」


 すかさず答えようとする朔弥を、彩花はどついて黙らせる。


「友達なんです」

「そ、そうでしたか。失礼しました。小物等もございますので、ワンピースに合わせて提案させていただきますね」

 

 紺色のロングワンピースを試着してみる彩花を見て、朔弥がダメ出しをする。


「だめ、却下よ、色っぽすぎる。私の彩花はもっと清楚なイメージなんだから」

「うーん、確かにスリット深め……」


 他にもいくつか試着してみる。彩花は、朔弥のリアクションが楽しくなってきた。スリットが深すぎるだの胸元が開いているだの、アドバイスなのか朔弥の好みなのか判断しかねるけれど、チャペルの式に参列するなら露出度の高い服はNGだ。

 もう一度店内を見まわした彩花の目に、緑色のレースのワンピースが飛び込んできた。派手すぎず清楚で上品なワンピースを試着してみる。

 朔弥の反応も今までと違った。


「あら、似合うんじゃない? 素敵!」

「うん、私もなんかこのワンピ、好きかも……」



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