欠けている①
は ぁ ぁ゛ぁ゛。。。もう!!!
「ねぇ、あんたのパパって医者なのにどうしてこんな村もない山の中にいるの?というかさっきの村にもその前も、行くところ行くところぜんっっぜんいないし、今回の情報も嘘なんじゃないの?」
「あらやだ〜〜、マクレーンったらおっぱい飲みたくてイライラちてるでちゅねぇ??仕方ないでちゅねぇ」と、服を巻くしあげた。
「いや、きもっ。おっぱいいらねーし、そもそもあんた男だし。」
「んふっ。ハーフ&ハーフよっ」
「どこがよ。この脳まで筋肉に侵略されたくそ童貞が。」
「いやーーん。マクレーンのいけずぅ」
聖王歴3X23年、訳ありおかまと訳あり女は旅をしていた。
***
–マクレーンは涙を流さない–
僕がそのことを目の当たりにしたのは12の時だった。
朝、一通の手紙が届いた。
毎度のごとく僕は父からの連絡を期待してみたが、
「あら、学園からね」と母は言った。
学園の理事長が亡くなったという。
今日の夕方に前葬祭が行われ、明日には葬儀が執り行われる。
前葬祭とは、葬儀の前日に故人を囲ってお酒を飲んでご飯を食べるパーティーのようなもので、ハクレイ族の習慣だそうだ。
僕 「なんだ、また父さんからじゃないのか。」
スカシをくらった息子には、理事長の「死」など正直どうでもよかった。
田舎の医者である父が仕事で外国に行くと家を出て、もう2週間は経つ。
連絡があったのは、家を出て7日後くらいまでだった。
さすがの母も心配のようで、ここ最近は風がドアにぶつかる音によく反応するようになっていた。
母 「さぁ、夕方には前葬祭があるから畑仕事さっさと終わらせなくちゃ。ヨハンも手伝って。」
ヨハン 「えー、行くの?面倒くさいだけじゃん。」
母 「だめよ。学校には散々迷惑かけてるんだからこんな時くらいちゃんとしなさい。」
そのあと、今までのトラブルを散々掘り起こされ、ガミガミと説教が続いた
強制的に前葬祭への出席が決まった。
15時、日没が近くなってきた頃、
カゴいっぱいに野菜を詰めた母が帰ってきた。
「これ、理事長のご家族に渡そうと思って」
そう微笑む母はとても優しい顔をしていた。
気を紛らわすために誰かに優しくするのは悪いことではない。
憶測ではあるが実際にそうなのかもなと思った。
前葬祭にはいこうか。
「あら、かっこいいわよヨハン。」
礼服を身に纏った僕に母は言った。
そういう母も、いつもはラフな姿で目立たないが、
ちゃんとした服を着ると胸とくびれが強調され、顔も小さく、一回りくらい若く見える。
恥ずかしいので言わない。
王都から南に30kmほど降ったところに僕が住むカーキ村がある。
前葬祭が開かれる王都へは、1時間に1本でているバスに乗り1時間ほどかけて向かう。
母がバスに乗っているところをみて、少しだけ嬉しくなった。
このところ畑の収穫時期だったこともあり、母と出かけることが珍しくなっていたからだ。
「ヨハンが通っている学校にいけるなんて母さんも少し嬉しいわ」
“も“ってなんだ。照れ臭くなり顔を背ける。
隣の村からも礼服の人がちょくちょく乗り込んできており、今から行く場所が人が亡くなった場所なのだという実感が湧いてきた。
人の死に触れるのは初めてのことで、12年間1度も葬式に出たことはない。
どういう顔をすればいいのだろう。なんだか不思議な感覚だった。
もうすぐ王都に到着するというアナウンスがあった。