2.ギルド内にて
「ただいまー」
「おう、おかえりぃオマエら」
ヘルトたちは固まった。
ギルドを取りまとめるマスター、キリル・ライモスが、眉間に血管浮かせてメンバーの首を絞めていたのだ。
「……何やってんすか、キリルさん。クラウス、死にそうなんですけど」
「んあ? おう」
「いや、おうじゃなくて。青くなってますよ。死にますよそいつ」
「……ちっ」
パッと離されたメンバー・クラウスが地面に落ちた。
クラウス・ギヴン。チームBの1人、斧使いである。
チャーリーが慌てて駆け寄り抱き上げた。
「おいっ、大丈夫かクラウス!」
「ねぇ、もしかしてまた村半壊させたの?」
泡を吹いて倒れるクラウスにメイヤナが膝を折って近づき、ツンツンしていると、上から声がした。
「そっ。ティモスとバトラーが村再生のために働きにいってるよ。張本人はお説教」
チームAの魔法使いであり、このギルドの専門医であるイッキ・べラーズがそこにいた。
「あっ、イッキさんただいま! スコーン作ってある⁉︎」
「うん。おかえりユーリ、作ってあるよ」
「わーい! メイさん早く行こ!」
「ちょ、ユーリくん足早っ、行くから! そんな引っ張らないで!」
「ふふっ、ほら。ヘルトもチャーリーもクラウスのことはほっといていいから手を洗っておいで。ユーリにみんな食べられちゃうよ」
「ん? イッキさん、ダイアナは?」
「兄ちゃんたちの監視」
「あぁ……」
そんなこんなでイッキ特製スコーンを食べつつ、チームCは依頼疲れを癒すことに専念する。魔法使いのイッキが作るスコーン、またはお菓子類には基本的に回復のものが入っていることが多く、苦いモノが苦手な者でも簡単に食べられる良い品である。食いしん坊なユーリはそれをバカスカ食べるので、作り甲斐あるわぁと呑気に言うイッキはもはやみんなのお母さんである。
いい回復薬だー、なんて言っていた時。
「んぉ、タイプC全員集合じゃん」
「あ、カイトさん」
「カイトさん、タイプCじゃないですよ、チームです」
「……おかえり」
「サーラさん、お疲れ様です」
「サーラさんだぁ、やっほー」
「……………ん」
チームA斧使い、カイト・レスター。
そしてチームAのもう1人の魔法使い、サーラ・オリスタが戻ってきた。
「あっはは、Cから大人気だなぁサーラ」
「……………ん」
「人気っつか、こっちにいるの珍しいからだろ」
キリルが頭をガリガリ掻きながら言う。それを聞いたカイトはひょいっと眉を上げた。
「ん、そうなのか?」
イッキに問いかけるカイトだったが、イッキは曖昧に笑って見せている。その曖昧な笑みの意味がわかったカイトは苦笑いするが、ユーリはもそもそリスのようにスコーンを食べながらサーラに問いかけた。
「ギルド以外でいるとこあるの? サーラさんっていつもどこにいるの?」
「……………部屋」
「サーラさんの部屋ってどこ?」
「……………教えない」
「えー教えてよー」
「……………」
ヘルトは少しだけ慌てた。サーラは女性であり、先輩である。ただの好奇心で聞いているだけとはいえ、男にそんなことを言われたら不愉快だろう。そう思ったヘルトはユーリを止めた。
「ユーリ、女の人にそんなしつこく聞くな。すみません、サーラさん。コイツ好奇心旺盛なだけなんで」
それを聞いたサーラは、少しだけヘルトを見ると頷いた。
「……いい、ヘルト。別に、気にしない」
「ありがとうございます。ほらユーリ、謝罪」
「はーいごめんなさぁい」
「………………大丈夫」
謝罪を促され、まるで弟かのように言うことを聞くユーリの頭をポンポン叩くサーラ。その手つきは優しく、無口な性格の彼女にしてみれば珍しいものであった。
現場を優しく見守っていたチャーリーは、そっとイッキに問う。
「……あの、イッキさん、そんなサーラさんってギルドに出てきてないんですか?」
「んー、バトラーが落ち込むほどには出てこないね」
「え? なんでバトラー?」
バトラーとは、クラウスのチームBの剣使い。
顔がカッコいいものの、かなりのチャラ男で有名になっちゃいけないことで有名になりがちなメンバーであった。最近はそんな噂もとんと聞かなくなったと思ったが、理由は意外とすぐに明らかになった。
「ああアイツ、サーラにフラれてから何回もアタックしてるうちに本気になっちゃったらしいんだよねぇ。以来サーラがいないとへこんでんの」
「ああ、なるほど……」
ヘルトが納得すると、チャーリーもふーん、といった様子で言う。
「けどサーラさん、よくここにいるイメージですけどね。バトラーくんなんかやったんですかね」
「……あはは、そうかもねぇ。サーラ手厳しいから」
うん、今なんか間があったなぁ。
残念ながらそれを感じることができるのは、メイヤナとカイトだけなのであった。
「たっだいま〜☆ おおっ、我が家族たち、ウェルカムバ〜ック! 任務は楽しかったか? おっつー!」
バターン!
と盛大な音を立てて入ってきたのは、ジャック・ライモス。キャピキャピしているが、キリルの双子の兄弟である。チームCは全員が度肝を抜いた。普段ならこの男、こんなテンションではないからだ。
「え、なに、ジャックさんテンション高っ」
「はーい戻りましたー」
「てか今までどこにいってたんすか?」
チャーリーが聞いた瞬間、ジャックの目がどろんと虚ろになった。
「キリルのバカが逃げたせいで俺がしこたま謝罪してきて疲れたんだよ察せバカ野郎ども、オマエらまでなんか壊してねぇだろうなオイ俺もう謝りにいくのやだよ」
「いやいや心外。なんも壊してないですよ、情緒大丈夫っすか?」
「うちのギルドでカイトさんくらいしか斧使いで破壊神にならないやついねぇんじゃね? うちはたまたま斧じゃなくて槍だから無いだけで」
「チャーリー、そもそもクラウスくんとカイトさんしか斧使いいないよ」
「あーもーむり、もーはたらかない俺。……ユーリぃ、オマエのお友達もふもふさせてくれぇ」
「え、いいよー! ゴンザレスでいい?」
「……今名前についてつっこみたかったけどオマエの友達でもふもふしてるならなんでもいいわ……」
わかったー! と、走っていくユーリを横目に見たヘルトは、そばに座って机に突っ伏すジャックを見る。
「いや、めっちゃ疲れてんじゃんジャックさん、スコーン食べます?」
差し出されたスコーンを見たジャックは、一瞬嫌な顔をしてまた突っ伏しながら言う。
「……ヘルト、俺食ったら死ぬよ、それ」
「え? なんで?」
唐突の死ぬ宣言。
ヘルトは目をパチクリさせる。
「……それ作ったの、イッキとサーラだから」
「……ん?」
「……そゆことだから、おやすみ」
ユーリ来たら起こして。
そう言うと、本当に疲れたのだろう、ジャックはそのまま眠ってしまった。
「……毒でも入ってんの? このスコーン」
そして説明らしい説明がなく意味が理解できない、ヘルトであった。
続きご覧いただきありがとうございます。
兄チームAの紹介でした。
次回はクラウスの所属するチームBの説明を致します。
よろしくどうぞ。