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藍の残花  作者: 兵藤ちはや
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切ない話が書きたかったので初めてみました。

お暇がございましたらお願いします。

───お願い。

誰か違うと言って。


これが。

こんなものは、恋ではない、と。









眩むほどの、陽射し。

眼前に広がるは、整然と整えられた鮮やかな緑に散る色とりどりの花。

その中に佇むプラチナブロンドの儚げな美しい貴婦人が、淡いライドグリーンのドレス姿で佇んでいる。柔らかく微笑むその眼差しの先には、漆黒の艶やかな髪をひと纏めにした均整の取れた長身の青年が熱に浮かされたような眼差しで見つめ返している。

まるで、一幅の絵画よりも美しい光景。

それをテラスから続く応接室のカーテンに隠れるように、少女は昏い眸で立ち尽くしていた。


まるで恋人同士のように寄り添う二人は、少女の姉と婚約者だ。


ノースランド皇国、皇室直下の三公ある公爵家のひとつグリンド公爵家長女である姉サリアージュ・グリンドは皇国一美しいと謳われている。齢十七になりたての彼女はまだ少女の名残を残しながらも、嫋やかな微笑みに誰もが魅了された。

それは蚊帳の外から見れば、呪いのようだった。

真夏の空のように蒼い瞳を縁取る長い睫、整った鼻筋、聖母のように微笑みを湛える小さな唇。作り物のようであり、或いは人形に血を通わせたらこうなるのかという事象を見せられているかのような。

誰もが褒め称えた。それが当たり前の周囲の反応だったし、心酔する姉の存在は少女から見れば絶望であり諦めの対象であった。

それに比べて末子であるルナサリア・グリンドは冬の夜明けを思わせるような紫藍の髪はこの国の美意識には程遠く、瞳の色はより深い紫だ。明るさの欠片もない容姿は、公爵家では異端だった。


神様は、不公平。

そして、酷く残酷なのだ。





「……仕方のない…」


ひとつ息を吐き、眇めた眸を逸らした。音をたてないように応接室から自室へ戻ろうと先で、銀の台車を押したメイドと行き会う。


「お嬢様?どちらへいかれるのですか?」


三組分のティーセットと菓子を乗せている台車をちらりと見、顔を逸らした。


「少し具合が悪いの。部屋へ戻るわ」


「あ───」


何か言いかけたメイドを振り切って、ルナサリアは自室へと駆け込むと鍵をかける。

ずるずるとその場に座り込み、呪文を唱えるように呟く。


───この世のものは姉の物。

きっとそれは、あの姉の妹として産まれた時点で定められた運命なのだ。

姉はこの国の皇太子の婚約者なのに、妹の婚約者まで魅了しても許されるのだろう。

女神と言われた、彼女であるなら。



ルナサリアは、ずっと孤独だった。

”寂しい”という感情さえ、とうの昔に麻痺した。

けれど、人のいない孤独よりも、人の中での孤独は心をじわじわと殺していく。

遅効性の毒に冒されていくように。

両親も兄も姉でさえルナサリアを家族としてそれなりに愛しているのだろうと思う。だか、それは掛け値ないものではなく、どこかよそよそしくさえ感じた。あれほど完璧な姉を前にして比べるなという方が無理な話だ。笑顔一つ、言葉の温度一つ、かけられる情の色一つ、何もかもが違っていた。

それに気づいてからは抗い、この家の、あの姉にこれ以上比べられぬようにマナーやダンス、勉強を血を吐く思いでこなしてきたというのに。

ルナサリアという個性を認めてくれる者は、誰もいない。



あの優しい、婚約者さえも。



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