Part 19-5 Evolutionis Stupor 昏迷の進化
NDC Hangar Teterboro Airport 111 Industrial Ave. Teterboro East Hasblack Heights, NJ. 00:21 Jul 14/
1 Cavalry Regiment Camp 6th Squadron 1st Armored Division Ⅲ Corps Army Commands US.Army Company Training Ground East of Fort Bliss, July 14 00:59
7月14日 00:21 ニュージャージー州ハスブラック・ハイツ東部テターボロ インダストリアル・アベニュー111番地テターボロ空港NDC格納庫/
7月14日00:59テキサス州フォート・ブリス東方アメリカ陸軍 陸軍コマンド第3軍団第1機甲師団第6戦隊第1騎兵連隊野営地
ワーレン・マジンギ教授の発案で強電磁場により精霊戦闘機シルフィードから謎の感染物の除去に成功した。
だが事案はこれで終わりではなかった。
────そう。1時間もすると大規模な攻勢が起きます。局地航空優勢奪取に止まらない攻撃──それに備えなければならない。
「航空攻勢ってことなの?」
ヴィクトリア・ウエンズディが精霊シルフィに尋ねると傍で聞いていた教授が口を挟んだ。
「航空攻勢じゃと!? どこの空軍じゃ!?」
ヴィッキーは左手を彼に向けて立てた人さし指を振り黙るようにジェスチャーした。
────挑んでくるものは多く、人の作り出した空の力では対抗できない。
「貴女でしか落とせないと?」
────いえ、敵の数が多すぎる。
「多すぎるって!? 数10機!?」
────いえ、数千。
「数千!? メキシコ湾とワシントン近空で戦った連中が数千も!!? 」
────大丈夫よヴィク。娘達がいるわ。
「無人戦闘航空機!」
そうだ。試作機をかき集めれば20機余りの編隊が組めるとヴィッキーは思った。
「ワーレン、ありったけの試作機が必要になるわ。1時間で何機組めるの!?」
ワーレン・マジンギ教授が顔を歪めた。
「何機じゃと!? 車でも1時間で組めるものか!」
ならアルファ、ベータ、ガンマの3機それに地上テスト中のデルタとイプシロン2機だけだとヴィクは落胆した。
「それじゃあ、地上テスト中の2機を至急上げられる状態に。それと全機に装備できるだけの武装を。人手が必要ならエンジニアを私の権限で召集かけて構わない」
ビクに言われなお教授が不満顔なことに彼女が冷ややかに脅しともとれることを言い切った。
「どれだけNDCに貢献していても肝心な時に動かないなら職を失うわよ」
そう告げてヴィッキーは返事も待たずにパイプ椅子から立ち上がり格納庫の残骸の方へ必要な工具類を探しに歩き出すとワーレン・マジンギ教授は慌てて椅子から腰を上げた。
ワーレンは部下を呼びだすためポケットのモバイルフォンを取り出そうとして落として壊したのだと思い出し青ざめた。
事務棟に向かおうにも車が格納庫の鉄骨を喰らい運転席が乗り込めないほどに潰れていた。
「どうするんじゃ────電話かけに歩いて行けと!?」
そう呟くと離れたヴィッキーに聞こえていなかったはずなのに彼女が格納庫の瓦礫の方へ片腕上げて指さした。
ワーレン・マジンギ教授が視線向けるとスレートの下敷きになってる自転車のハンドルが眼に止まった。
だがその上に4千ポンド(:約1.8t)はありそうな鉄骨が乗っかり重石になっていた。
「どうすんじゃ!?」
教授がぼやくとヴィッキーが長い鉄骨を両腕で抱え上げた。
結局、力尽くかと彼は肩を落としヴィクトリア・ウエンズディに呼ばれ走りだした。
「南西で装甲車に襲いかかっていた怪物ら消失!」
ルナに言われ胸当を開き人型戦闘装甲のコクピットに座るマリア・ガーランドは胸をなで下ろした。これで攻めてきてる怪物らと形勢が逆転した。
まだ野営地東近隣で機甲部隊が怪物らの残党と鍔迫り合いしているが、陸軍が圧し負けてもまた指揮司令テントを狙いにこの広場に来るだろうから、ここで迎え打てばよかった。
しかし40騎の怪物らが攻めてきたのだ。
次も同数だと思わない方がよかった。
化け物らの本隊は他にいていつそれらが本格的な侵攻をかけてくるかわからなかった。
100以下か、それとも数千いるのか。
「ルナ、セキュリティ全員で司令テントの防衛陣形を」
そう命じてマリーは人型戦闘装甲のAIに問いかけた。
「AI、あなたはNDC資産の観測衛星へのアクセスと画像の分析はできるの?」
『可能です。オーダーは?』
「ここ野営地を中心に30マイル圏内の敵怪物の索敵と侵攻ルートの予測」
『了解』
返事を聞きながらマリーはセキュリティ達を見回した。顕著な疲労は見られなかった。皆きびきび動いている。むしろ陸軍側の司令テントを護るために来ている兵士らの方が疲労を顔に浮かべていた。ルナはテントを中心に第1中隊のメンバーを空き地3方に布陣させた。東を開放しているのは火線にメンバーが曝されないようにとの配慮だとマリーは理解した。
怪物らは当初、東へ13マイル余りの場所に出現していた。それが今回は野営地防衛線から半マイルほどの近隣に出現場所を変えてきた。
空間転移の技術的問題からか、野営地内に直接転移してこない。あくまでも会敵は地上移動か結構な距離の跳躍による。
空間転移は魔法によるのか。それとも機械的手法によるのか。
近接戦闘で見せた怪物の攻撃手段はすべて物理的な徒手空拳だった。飛び道具もなければ、武具の類も使わない。もちろん魔法の片鱗も見せなかった。
徒手空拳での近接戦闘とはいえ同じ方法なら人の攻撃力は怪物に劣る。バトル・ライフルやショットガンがなければ怪物らを瓦解できない。
「ルナ、怪物はナノマシンの集合体で構成されていると思う?」
マリーが問うと傍らのルナが半身振り向いた。
「ええ、私もそう考えています。怪物らは攻撃回数を重ねるごとに大きさや形態を変えてきています。始末の悪いことに連中は会敵のたびに学び攻撃手段を変えそれに合わせ形態を変えています。まるで細部を組み替え可能なユニット兵器です」
化け物らの防御は現在、バトル・ライフル以上なら急所を狙うことで撃ち砕くことができている。だが近距離で使い辛いバトル・ライフルの徹甲弾に堪える防御力を有して来たら人の側は守り難くなるのは眼に見えていた。
野営地内で野砲は使えない。
「ルナ、陸軍から資材を借り受けテント前のこの広場に地雷を設営」
そうマリーが命じるとルナが意見した。
「可能ですが、まず陸軍側の許可と、必要な地雷をこの野営地が保管しているかです。砲弾を使い即席爆弾装置の設置も視野に入れないと──」
それを聞いてマリーは人型戦闘装甲から下りて自分が基地司令に頼みに行こうとして躊躇した。
サウジアラビアで囚われた時に着せられた粗末な麻布のケープしか身に着けていなかった。
服を具現化できるかと考えて自信がなかった。
この場でルナに予備の縮体戦闘服を用意させることもできなかった。
「ルナ、野営地司令に地雷の徴用とテント前の空き地に埋設許可をもらってきて頂戴」
「了解しました」
そう返事し踵返したルナは指揮司令テントに入って行った。
「ロバート!」
マリーがロバート・バン・ローレンツを呼ぶと彼が即座に駆けてきた。
「何でしょうか、チーフ?」
「この広場を地雷原にします。司令テント横の土嚢をテント前に積み直させて」
「了解」
返事しロバートは男のセキュリティだけを4人呼び集めた。
テント横に積まれた防御陣の土嚢は全部で100袋ほどだった。積み替えるのに15分もかからないだろうとマリーは思った。
直後、ルナと1人の将校が司令テントから出てきた。
「チーフ、地雷の保有はないそうです。155ミリ砲弾を20発買い上げました。設置は陸軍の工兵隊がするそうです」
陸軍少佐が人型戦闘装甲に好奇心の視線を向け乗ったマリーに口を開きかかった寸秒、人型戦闘装甲のAIがマリーに報告した。
『北東東3マイルに光球の集合体を観測、員数────』
『────100』
倍以上の数で圧してきた!!
顔を強ばらせたマリア・ガーランドはまだ移動開始していない怪物らに先制攻撃を仕掛けるべくAIに命じた。
「AI、NDC対地攻撃ユニット──01TAKEMIKADUTIとリンク。照準とトリガーを私に。リンク・コード、1MG10B93GT39DF2────」
『リンケージ、サイティングとトリガーをマリア・ガーランドに』
そうAIが告げた直後、跳ね上がった胸当内面の液晶モニタが点灯し不明確なモノトーン画像に幾つかのマークと注釈が追加表示された。
「胸当を閉鎖!」
ガスの抜ける様な音と共に急激に胸当が下りてくると閉鎖されたコクピットの暗さに合わせ全周ワイドモニタの照度が落とされマリーはB1ー100Yと表示された部分を注視した。その瞳の動きをセンシングしたAIが自動でB1ー100Yのエリアを急激に拡大し始めた。
すぐに葡萄の房のような白いハレーションの球体の集合群が見えてきた。
「ヘア・ライン、照準の地球自転と大気移動を補正」
白い球体の群れの中央にあるクロスラインが僅かにぶれながら斜め上に移動し中央にある赤い円が緑の四角に切り替わった。その刹那、マリア・ガーランドはコントロール・アームに入れた右手人さし指をゆっくりと引き絞った。
刹那、書類でしか見たことのないNDC軌道対地攻撃兵器へトリガー・パルスが転送された。
サッカー・コート2面にもなるダークグレーの巨大なNDC軌道上スター・ショット01TAKEMIKADUTIは平均高度500kmの低軌道を毎秒2万5千フィート余りで飛びながら下部の9フィート径の開口部から突き出した4本の帯電した電磁ガイドレール間に数多の放電を走らせた。
フライホイール姿勢安定機構が設定された回転数に達し8.2フィート径の長さ17フィートの流線形の砲弾が爆速で電磁射出された。砲弾は急激に加速し毎秒2万4千フィートに増速すると華氏6100度に達したセラミック・カーボン・タイルが真っ赤に焼け標高26万フィートに達し熱圏から中間圏に落下すると先端外核のセラミック・カーボン・タイルがサボットごと8片の花びらの如く分離しエジェクション・ユニットが外気に曝されクラスター爆弾の子弾散布の様に人の身長よりも長い7千本のタングステン・フレシェットが一瞬で周囲に広がり音速の21倍で指示標的へと向けて降下した。
100のそれぞれは現界終了まで辛抱強く待った。
紫紺の耀き放つ雷球の放電がピークに達し地表の砂岩を溶解させ底部の僅かな半球を真っ赤に染めていた。
放電が減り転移が終盤にさしかかったその寸秒、上空から威圧が凄まじい勢いで舞い降りてきた。
大質量の棒状をしたタングステンの塊が音速の25倍近い速度でそれらに降りかかった。
これは共有化された記録に残っていた。
原住民は幾つかの空間高速移動投射体を兵器として用いていた。
中でもこの大気圏外から飛来する高質量の金属の数多の槍は凄まじいエネルギーで多大な破壊力と面制圧力を有していた。
原住民より落とされてくることは予想範囲内であり、動けない瞬間に狙ってくることへ対抗策もすでに共有済みであった。
それらは一斉に現界を引き伸ばし座標を歪ませた。
転移中の現界座標変更は同一に作用しないが、ばらばらな場所に散ることの方が重要だった。
紫紺のハレーション耀く葡萄の房のような光球は歪むと群れが霞んだ場所へ多量のタングステン・ロッドが襲いかかってきた。
地面は100メートルプールのように大きく抉られ舞い上がった砂塵が爆轟の直後、滝のように壁になり周囲へ急激に広がった。その埃が薄れる中へ次々に紫紺の光球が稲妻放ちながら広範囲に現界し始めた。
原住民のこの成層圏外からの攻撃は威力あるが限られた範囲であり、連続して落ちてくることは共有されていなかった。
現界が散れば被害は殆どなく、あとは固まった集団行動をとらなければ同時被害は有り得ない。
見せた隙に原住民が喰らいついた。
レイジョらは知っていた。
原住民の攻撃力は限定的であり単位時間当たり有限なのだ。
その直後、オチデンタリスの水平線から飛来した極超音速の投射体に1のそれがコアを粉砕され構成素材をばら撒いた。
周囲のそれぞれが散った素材の新たな主導権を得、吸収すると移動を開始した。
音速を遥かに超え物を投げつけてくる猿らめが。
物理力を無駄に振り回してくるこんな種族は共有していなかった。
進化はなぜこんな誤りを赦した!?