Part 19-4 Who are you? 誰何(すいか)
Equinix Data Center Infomart Dubberley-Bld. 1900 N Stemmons Fwy suite 1034, Dallas, TX USA
1900 N Stemmons Fwy, Dallas, TX 23:49
23:49 テキサス州ダラス フリーウェイ・スイーツ 1034ノース・ステムモンズ・フリーウェイ1900ダバリー・ビル内エクイニクス・データ・センター
光る三原色──それぞれの色彩が別々に偏位し順に追いついた。
艶消しの黒いの姿形真似た怪物が動き出した瞬間、両眼のピエゾアクチュエーターが故障したのかとM-8マレーナ・スコルディーアは仮想した。
その微妙にずれたものが一瞬で一体化した寸秒、動きのパターンを膨大なライブラリーに見つけたと同時にもう1人の自動人形が腰を捻り激しくぶれた右足が舞いフリルでできたチョーカー巻く首を横様に蹴り込まれた。
飛ばされ右肩からサーヴァー・ラックに激突したマースはそのまま肩から床に滑り落ちた。
蹴り込まれる一瞬、頚椎の拘束をフリーにしたので見た目ほどダメージは大きくなかった。
床から見つめた先の我擬きはゆっくりと右足を下ろすとその利き足を引き拳を胸の左右に構え半身でファイティング・ポーズを取った。
これしきのことで再起できないと判断してないことに敵にポイントを与える。
処理追いつかぬ速さにも敵にポイントを付与した。
首を左右に捻り動作確認をしながらゴシック・ロリータのドレスの着崩れを直しつつ立ち上がる。
擬きの真似をしてファイティング・ポーズなどとらなかった。
ファイティング・ポーズは素早い攻撃と防御のパターンを取りやすい反面、攻守の手を読まれてしまうとマリア・ガーランドから教わっていたから────。
操り糸の切れたマリオネットのように無様に両腕を垂らしたまま僅かに上半身を前傾させた。
突き出した顎から頭部が絶好の餌食だと差しだす。
さあ、乗ってきてごらん、と自動人形は仮想した。
次の瞬間、化け物の輪郭の三原色──それぞれの色彩が別々に偏位し瞬間、順に追いついた。
艶消しの黒いの姿形真似た怪物が動き出した瞬間、両眼のピエゾアクチュエーターが捉える怪物の動きが小間切れになり飛びとびになった視覚情報を処理しようとした瞬間、側頭部を上げた右足で猛打され、M-8マレーナ・スコルディーアはスピンしながら宙に捻った両脚を上げて激しく回転しながら床を弾け跳んだ。
画像処理系のトラブルでないとマースは仮想した。
我擬きの動きが急激に速くなり認知と分析処理が追いつく前に攻撃されていると解答を導きだした。
そう。怪物はドーピングをしたのだ。
こんな場合、人──相手ならおもむろに立ち上がり片唇に滲んだ血を指で拭い顎を引き三白眼で相手を睨みつけ上げた片手の甲を相手に向け人さし指から小指まで揃えて数回手前に折って掛かって来いとジェスチャーすると相手の正常な判断を迷わせることができるとライブラリーにある黄色ボディスーツ着たクンフー使いが映画資料の1つでやっていたのを見つける。
カッコいい────わからん!
自動人形は黒い擬きをダイヤモンドの煌めき溢れる両の瞳で睨み据えながら両の腕を同時に怪物へ向け振り上げ両手でクンフー使いの真似をした。
カッコいい────ではない。
怪物を侮辱したのだ。
3度目の攻撃をフレーム間の動きを補正し予測するルーチンを組み上げる。
それだけでは追いつかないと予想値が語っていた。
格闘用ソースをC系から純然たるマシン・ランゲージだけで組み上げ追いつけるか仮想してダメだと値がでた。
2度の攻撃から記録した画像処理のフレームレートと怪物の脚の振り抜き間隔で黒い我擬きが増速した割合を推し量った。
およそ7倍の速さにブーストしていた。
追いつけられない速さではない。
我は神の真似すらできるのだ!
M-8マレーナ・スコルディーアは1536コア、6144スレッドのメインMPUベースクロックと電圧を熱暴走限界値まで跳ね上げ、同時に全身の超電磁マッスル──インラッシュ電流設計限界値を踏み越えて緊急対応モードに切り替え高電圧高電流をターボ動作用キャパシスタにチャージしてゆく。
その瞬間、帯電した自動人形のブロンドの人工頭髪が何百本も跳ね上がり始めた。
ジェシカ・ミラーはいきなり形勢が逆転したことを目の当たりにした。
マース擬きの動きがあまりにも速過ぎどうしてマースがサーヴァー・ラックまで跳ばされたのか理解できなかった。
直後、黒いマースがゆっくりと右足を床に下ろし、やっと怪物がマースを蹴り跳ばしたのだとわかった。
轟音を放ち折れ曲がったスチール製の棚の支柱を眼にしてマースがとんでもない勢いでぶつかったとジェスが理解した。即死だと思った矢先、そのラック傍の床からNDCのゴシック・ロリータは首の動きを確かめつつ乱れた黒いドレスを整えながら立ち上がった。
とっくに死んでいる。
それをマレーナ・スコルディーアは事も無げに立ち上がってくる。
なんで死なないんだ!?
どうして骨折1つせずに堪えきれるんだ!?
立ち上がったくるくる巻きのツイン・テールが両腕を垂らした。そればかりでなく前屈みの姿勢で顔を突き出した。
その所作にジェシカ・ミラーは唖然となった。
まるでどうぞお顔を攻めて下さいと差し出しているように見える。
直後、マース擬きが激しくぶれ動いた瞬間、激音を放ちマースは身体を空中で回転させながら飛ばされ床に落ち滑った。
それを何事もなかったようにゴシック・ロリータの少女は立ち上がるといきなり怪物へ両腕を振り上げ両手の指を数回曲げた。
掛かって来いとジェスチャーしたのか!?
あまりにも人を食ったその仕草にジェシカ・ミラーは顎落とし困惑した。
怪物への特別な意味でもあるのかとジェスが思った直後、マレーナ・スコルディーアのツイン・テールの巻き髪の毛が静電気でも帯びたように踊り始め、ジェシカ・ミラーは鼻孔の匂いに気がついた。
サーヴァー・ルームの空気がオゾン臭で満ち始めていた。
潜在戦闘力。
その純粋値がこれまで100だったものが、怪しくなっていることをそれは知覚していた。
原住民の未成熟個体へ力とスピードで凌駕した直後、周辺の空気成分に変化が生まれた。
酸素の同素体が急激に増えていた。
炭素系生物であるこの未成熟の個体が生みだしているのか!? 炭素系生物の呼吸器系や視覚部位に致命的な酸化作用を持つ酸素同素体をどうして生みだすのか!?
その空気成分の変化だけでなく、空気のイオンバランスが急激に崩れだしていた。
そのため格闘していたこの未成熟な原住民の体毛が静電気を帯びて頭部から浮き上がりだしていた。
新たな攻撃手段の前触れなのか!?
この世界で進化した未確認の原住民。
きさまは何ものなのだ!?
膨大な世界の共有に予見の助けを求めた。
炭素系生命体を土台とする次の世代の誕生の可能性。
次世代だとこれまで得た炭素系生命体の原住民の集積情報と大きく異なる見込みがあった。
末裔の蓋然性────共有に説明を求める────空間を越えた重なり合いがさらなる情報を求めていた。
目の前の重なる薄布を身につけた小柄な原住民をレイジョは観察しながら次の攻め手を選び実行に移した。
小柄な原住民が格段に状況適応してきた。
MPUのオーバークロックは絶大でマースの自意識の中核である仮想環境上に組んだコンシャンス・モデリング4D構造の記憶比較カオス・ニューラルネット──モデリングマルチコアを安定的に走らせるセーフ・マージンを食い尽くした。
だが彼女を構成する周辺パーツは安全マージンもバラバラで爆発的な発熱にも対応していなかった。
壊れるは、死と同義語ではない。
バックアップは万全だ。
研究所に帰ればコピーをするように細部まで正確に再現できる。
だから────怖いとは仮想しなかった。
なら眼の前のこの敵を殲滅するのが、マリア・ガーランドが私に与えた使命だった。
怪物を両手で挑発した直後、あれほどフレーム飛びしていた情報が繋がった。
完全に我擬きの動きを捉え、対抗手段を構築する余裕さえ生まれた。
幾何級数的に増えるチャートの枝を対効果の等級に応じてピコ秒で順位立てすると最もポイントの高い手段に自動人形はほくそ笑んだ。
連続し左右の手でブローを打ち込んでくる。
それを右腕1つ急激に右へ左へと振り手のひらと甲を当てベクトルの向きを変える。
直後、艶のないタールのような擬きが大きく踏み込み爆速で脚を交差させ躯全体を急激に回転させた。
その申し分ない動作の後に何をするのか、数千に及ぶリストの中から足による攻撃手段の百数十にのぼるパターンを用意する。
足による攻撃は決して単純ではない。
それを思い知らせる。
そう判断した数千分のピコ秒に怪物が回し蹴りしてくる脚をM-8マレーナ・スコルディーアは片足で迎え打った。
相手が振り回してきた脹ら脛を右足で蹴り上げ直後、軸足の膝裏を引っ掛け振り回し引き倒し振り上げた右足の踵を顔面めがけ振り下ろした。
細部まで複製されていた擬きの顔面が陥没しマースの踵が床のコンクリートに食い込み周囲に黒い粒子が霧のように広がった。
「この程度で────死ぬなよ」
そう吐き捨てマースは恐ろしい勢いで跳び上がると天井の石膏ボードの裏に走るレールをネジ位置から予測し蹴り壊し一気に飛び降りると身動きしなくなった怪物の胸に両膝を打ち込んだ。
爆轟が響き渡り、床が半円形に陥没しコンクリートの破片が噴水のように周囲に立ち上り広がった。
それでもマースは己を真似た怪物を赦すことをリストに入れてなかった。
少女は食い込ませた膝を軽く飛び上がり抜くと黒い擬きの躯両サイドに足を着き怪物の首を左手で鷲掴みにして頭を引き上げそれを激しく陥没した床に叩きつけた。
「どうしたの!? お前の野心はこの程度だった?」
自動人形はそう問いさらに怪物の頭を引き上げ床に叩きつけた。
「人のネットワーク使い防衛網の中枢に何をしようとしてたの!?」
化け物が人の言葉を理解しているのは確かだった。そうでなければ国防総省のサイトにあからさまな攻撃を仕掛けるなど────。
眼の前でつかむ艶消しの黒いの顔のピクセル数が激減して見えマースは困惑した。
バイタル・チェックをかけると放熱が限界を超え潜熱が上がりすぎMPUが暴走しかかっていた。マースは慌ててベースクロックと電圧を下げ発熱を抑えた。
リスタート掛けなくても僅かな間に擬き化した怪物の顔が鮮明に見えてきた。
マースはもう一度、化け物の頭を引き上げ問うた。
「お前────この世界になぜやってきた!?」
「新たな種を生みだす──贄床にするため────」
初めて怪物が人の言語を操ってコミュニケーションをしてきた。新たな種!? 贄床!? マースはデータベースを検索しヒットしたものを片っ端に読みあさった。
こいつらは人を────いや、この世界の生物を土台に次の世代の生態系を構築しにきたのか。
焦慮値が爆上げだった。
「答えろ! お前らの世界への入り口はどこにあるの!?」
問い質すなり怪物の頭部をコンクリートに叩きつけた。苛立ちはないとマースは仮想する。同種のことは正確に理解してるがコンシャンス・モデリング4D構造の記憶比較カオス・ニューラルネット──モデリングマルチコアのメイン・スコアにパラメーターとしていなかった。
この世界の生き物すべてを使い捨てるためにこいつらは来た。
地球上の生命を根絶やしにしに来た。
マリア・ガーランドを殺しに来た!
短絡的に結びつけ、こいつらが命の恩人にとって大いなる脅威だとM-8マレーナ・スコルディーアは結論付けた刹那、怒りにとらわれ自動人形は怪物の頭部を音速越えで床に激突させた。
首から上を粉砕され黒い霧に散った一閃、残された怪物の胴体が再構築を始めたその時、M-8は問い掛けられ半身振り向き相手を見た。
顔を強ばらせたジェシカ・ミラーがダットサイトでM-8マレーナ・スコルディーアへ照準しFN SCARーHの銃口を向けていた。
「マース────お前、何ものなんだぁ!?」
顔を下げ視線下ろした自動人形が眼にしたのは怪物またぐ片脚の黒のニーソが破れそこから覗いた医療用シリコンで整形されアクリル塗料で染色された右脹ら脛の人工皮膚が裂け剥き出しになった超電磁マッスル────アクチュエータ数本の配線がショートして火花弾かせる様。
マリア・ガーランドが人の社会に我が溶け込めるようにと約束させた最重要項目の1つが破綻しかかっていた。
アンドロイドであることはワーレン・マジンギ教授とダイアナ・イラスコ・ロリンズ以外には口外しないこと。
急激に電圧が落ち顔の表層温度が激下がりした瞬間、M-8マレーナ・スコルディーアは顔を上げNDC民間軍事企業セキュリティの1人にしらっと言い切った。
「最新式の義足よ──お気になさらず────」
それでジェスが納得するのが僅か7ポイントだとM-8は仮想し焦った。