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衝動の天使達 3 ─殲滅戦線─  作者: 水色奈月
Chapter #19
93/164

Part 19-3 Arbiter Purgatorii 煉獄の裁定者

1 Cavalry Regiment Camp 6th Squadron 1st Armored Division Ⅲ Corps Army Commands US.Army Company Training Ground East of Fort Bliss, July 14 00:47

7月14日00:47テキサス州フォート・ブリス東方アメリカ陸軍 陸軍コマンド第3軍団第1機甲師団第6戦隊第1騎兵連隊野営地





 コクピットに警報音が鳴り響き全周囲モニタ前面の上向きの赤い二等辺三角マークに顔を振り上げたマリア・ガーランドの上空の映像に未確認(アンナウン)表示の講釈付いたコーション・マークが乱立した寸秒、風の唸りが重なり野営地司令部テント前広場に16騎以上の数の怪物らが舞い降りた。



 即座排除に使うにはフルオートのバトル・ライフルよりも大ざっぱな照準で的確に倒してゆけるコンバット・ショットガンの方が効率が良い。



 舞い上がった砂塵が流れきる前に人型戦闘装甲(HCA)を着たマリア・ガーランドはウィンチェスターM12の倍はある似た形状の40ミリ口径の大きなショットガンで銃口を身近にいる怪物の胸ぐらへ振り上げ引き金を絞った。



 50口径マテリアル・ライフルよりも大きな野戦砲のごとき爆轟と同時に怪物の1体が砂塵と化し崩れきる前にマリーはさらにその近くにいる2体目にトリガーを引いたままバレルを振り向け素早くポンプアクションさせ12ゲージ・ショットシェルの3倍以上はある大きなビールのロング缶みたいな空の散弾シェルを排莢はいきょうしリ再装填(ロード)するなり銃口から火炎が膨れ上がった。



 寸秒3体目をねらう前に人型戦闘装甲(HCA)周囲に6体の怪物が取り囲むなり4体がはさみの腕で同時に殴りかかり2体が踏み出し閉じたはさみの鋭利な先端を突き出した。



 マリーは瞬時に正面の片腕突き出してくる怪物の手首を人型戦闘装甲(HCA)の片手でつかみ怪物の足の間に滑り込んで背後にそのつかんだ怪物を前転させひっくり返した。



 人型戦闘装甲(HCA)は滑り止まる前に頭上へ40ミリ口径コンバット・ショットガンを振り上げひっくり返した怪物の右横の1体の背中をねらい撃ち、人型戦闘装甲(HCA)を開脚し急激に回転させその勢いで身体捻り飛び上がり地面に両足が着く寸前にさらにもう1体の背に向けて散弾を発砲した。



 マリーは次々に怪物らを砂塵に変え続け、そのわずかなあいに司令部テント出入り口(そば)にいるルナとセシリー・ワイルドがFN SCARーHを発砲しさらに陸軍兵数名がM4A1を周囲へ発砲していた。



 7.62ミリでなんとか倒せても、陸軍兵が使う5.56では怪物らの足止めにもならなかった。



 この空き地に降り立ったすべての怪物らを倒すにはどだい銃器では無理があった。



 マリーはコンバット・ショットガンでさらに1体倒しフォアエンドを操作し再装填した直後、人型戦闘装甲(HCA)腰のパウチから新品のショットシェルを3本引き抜きコンバット・ショットガン下側のローディングポートから続けざまにショットシェルをチューブマガジンに押し込み素早く腰溜こしだめで発砲し振り向き向かってくる怪物2体を砂塵に変えながら高速(ファースト・)詠唱(チャンティング)を口ずみかけ思い直した。





 操りきる魔法はナイフと同じ緻密ちみつさと破壊力を持つ。





 怪物らはまだ10体近くいたが1発の攻撃魔法に賭けた。マリーは意識した瞬間、右腕首に細身のリングが現界すると得意技となりつつあるマイクロ・ブラックホールをその空き地に敵の数だけ発生させた。



 直後、ばらばらに動いている怪物らすべてが胴の1点に急激に絞り込まれ爆縮すると空いた空間を埋めるように空気の流れ込む音と共に手首のリングが砕け散った。



 効果絶大だった。



 人側の負傷者はなくみな銃器を肩付けし構えたまま怪物の残存を探し視線をおよがせていた。



 その広場にFN SCARーHを構えたNDC民間軍事企(PMC)業のセキュリティ達が駆け込んできてマリーはコクピットの全周囲モニタに表示されたサブウインドでそれに気づいたが、応援に駆けつけたセキュリティらはマリー着る人型戦闘装甲(HCA)を敵だと勘違いし一斉に銃口を振り向けてきた。



「止めなさい! MGが乗っている戦闘マシーンよ!」



 ルナが片手を振って声を上げ部下達を静止した。



 その寸秒、マリア・ガーランドの意識にパティの超空間精神接続(ブレイン・リンク)の声と少女の視野が流れ込んだ。



────マリア! もう1人のあなたがベルセキアにられる! 助けて!!!



 NDC本社の見覚えある廊下の1つに制服警官(ブルースチール)姿の編み上げの髪形をした両腕が(ソード)になったクラーラ・ヴァルタリに対峙するプラチナブロンドの縮体バトルスーツ姿のもう1人の自分の後ろ姿が見えた。



 その右腕が上腕中間かられ落ち血が吹き出してい左手で押さえていた。



 なぜクラーラ・ヴァルタリがベルセキアに!?



 疑念が膨れ上がり、一瞬自分が異空通路ことわりのみちを開きそこへ跳ぼうとした刹那せつな、マリア・ガーランドは思い直した。



 この野営地は怪物らの侵攻に重大な危機を迎えており、それを差し置いて異次元の自分を救うために向かうなどできなかった。



「コクピット胸当(ブレスト・プレート)解放!」



 マリーは人型戦闘装甲(HCA)の人工知能に胸部パネルの開放を命じガス作動で急激に前へ跳ね上がり見えてきたセキュリティの中に一際ひときわ上背があるシルフィー・リッツアを見つけると大声で命じた。



「シルフィー! 本社ビルへ異空通路ことわりのみちで跳びなさい! ベルセキアがもう1人の私を倒そうとしている!」



 野営地の冷たい照明の下でベルセキアと聞いてハイエルフの顔が強張った。



 何も告げずにFN SCARーHを肩付けし構えたままシルフィー・リッツアは高速(ファースト・)詠唱(チャンティング)を唱え三重の黒い魔法陣(マジックサークル)を広げ急激に彼女の前に黒い暗雲の渦が広がるとそこへ駆け込み一瞬で異空通路ことわりのみち残滓ざんしを散らし閉じた。



 シルフィーならベルセキアとおぼしきクラーラ・ヴァルタリと互角に渡り合える。



 そう願いたいとマリーはその事案を意識から締め出し意識をここの戦況に振り向けた。



「ドク! 残りの怪物らの報告(リポート)!」



 ルナと同じぐらいに冷静なスージー・モネットに野営地外周の状況をマリーは問うた。



「10数体の怪物らと陸軍機甲部隊の車輌が交戦中です」





 数が合わない!? マリーの不安が爆発した。





 この広場で倒した怪物は10数騎。外周防衛戦で10数体なら、残りの半数はどこに消えたの!?



 マリーは胸当(ブレスト・プレート)を跳ね上げたままの人型戦闘装甲(HCA)を振り向かせルナに命じた。



「ルナ、マレーナ・スコルディーアに観測衛星で野営地近辺の怪物らを索敵!」



 ルナが待ってと片腕を上げ手のひらをマリーに向けヘッドギアのスロートマイクで無線通信を始めた。



 マリーの1番の危虞きぐは怪物らがフォート・ブリスの街へ向かうことだった。そうなったら市民はひとたまりもない。



 10数秒の沈黙のあとルナは短くマースに何か告げ無線通信を切るとマリーへ報告した。



「おおよそ16騎の怪物、野営地南西半マイルで2輌の装甲車に群れで襲い掛かっています!」



 それを聞いてマリーはおかしいとすぐに気づいた。



 なぜ野営地と司令部を執拗に攻めていた怪物らがそれを放棄し野営地から離れた2輌の装甲車を襲うんだ!?



「マリー、もしかしてアン・プリストリが持ち込んだ超電磁砲の車輌が────」



 ルナがそう説明した瞬間、マリア・ガーランドは間違いないと確信した。











 陸軍野営地へあと目と鼻の先だというときにいきなり上空から飛来した怪物らに襲われてアン・プリストリとレギーナ・コンスタンチノヴィッチ・ドンスコイ乗る戦闘装甲車が立ち往生してしまった。



 最初にガーゴイルかドラコーのように飛び降りてきた3匹の怪物が振り回す緑色のネオンのように光るむちが見えてアンは連結した2輌にドーム状の黒い魔界障壁を張り巡らしあわてて砲塔に下りハッチを閉じた。



 その3匹の怪物がドーム状の障壁にぶつかり滑り落ちてきたのが戦況確認マルチモニタに映し出され、手足は2対だがその昆虫のような1角持つ頭部を眼にしてアン・プリストリは怪物らが地獄から抜けだしてきたものじゃないとわかった。



 冥府に跋扈ばっこする魔物らはすべからず覚えている。



 知らぬ魔物がいたら煉獄れんごくのルーラーの二つ名を返上してもいいとアンは思った。



 陸軍野営地の前でこの傑作超電磁砲戦車の活躍ぶりを頭の足りぬ兵士らに見せつけようと考えていたのがあやうくなっていた。



「プリストリ様ぁ、どうするんですか? ここで撃ち合うんですか?」



 操縦席にいる年増としまの元ロシア諜報部大佐(PV)が不安そうな声でたずねた。



 アンはすぐにそれに応えなかった。



 搭載する電磁砲は長距離では使えても数10ヤードの至近距離では役に立たないのは間違いない。射撃前のチャージングで袋にされるのは明白だった。



 短気を起こして引っ張る動力源車輌の小型原子炉を臨界メルトダウンさせるという手もあったが、後で少佐(LCDR)にピンヒールを尻の穴(アスホール)に痛いほど蹴り込まれるのも嫌だった。



 数回やられてあれも快感かななんて思ってることを少佐(LCDR)にちょっとでも知られるとあれはもっと酷い仕打ちを考えるに決まっている。



 顔に向けて平気で38口径をぶっ放す手合いだ。



 あれこれ思案してると次々に魔障壁のドームにぶつかった怪物らが滑り落ちてきて群れになって障壁相手に光るむちを振り回しているのがモニタで見えた。



「こいつらァ──レぇギオンみたいな奴らァだなァ」



 アンがぼそりとつぶやくとペリスコープで見ているのかレギーナがまた頼りない声でたずねた。



「アン様ァ、怪物らが取り囲んでェいるんですけどォ」



 覚えたての英語でなにも舌足らずに話す必要はないだァろうがァとアンは脚先の女に眉根寄せねじ曲げ閉じた赤い唇を開いてつぶやいた。



「さァてこいつらァ7.56x51ミリM118LRじゃあ黙りそうもねえしィ、かといってあれ(・・)じゃ下品だしなァ────おィ、レギーナぁ」



「何ですかァプリストリ様ァ?」



「車外ィ近接戦闘(CQB)にするゥ。ShAK12とォ予備弾倉を持てるだけェ持って下りろォ」







"Сука блядь!!"

(:くそう!)







 ロシア語の悪態が聞こえてアン・プリストリは眼を細めると操縦席の女に巻き舌で問うた。



「そいつはァ俺様のことかァ? 光栄だねェ。さァ、下りるぞォ!!」



 告げるなりアン・プリストリはチェストリグを羽織ると座席下のガンラックからロシア製ブルパップ式バトル・ライフルを引き抜き、砲弾庫の一角から異様に大きなマガジンを次々に引き抜いてチェストリグのマガジンパウチに差し込み始めあっという間に追加装甲を施した戦車みたくなった。



 そうして座席の座面に足を乗せハッチ開きキューポラから上半身を上げると大きすぎるスチールプレスのレシーバー製バトル・ライフルを引き上げ砲塔上面に上がった。





 見下ろすと魔障壁ドーム前面に10体余り、側面と後方に2体ずつの怪物らが緑色に光るむちをしきりに魔障壁へ振るっていた。





「こいつらァ、ばっかでェい!」





 見下ろすと砲塔下の操縦席ハッチから這い出たレギーナが暗がりの中、ブルパップ・バトル・ライフルを構え立ち上がった。



「いいかァレギーナぁ、1、2、3でバリアぁ消すからなァ」



「3で消すんですか? 3の後に消すんですか?」



「そんなもん、見てェ判断しろォ! 1! 2!」



 いきなり抵抗を失った先鞭せんべんほとんどが戦闘車周囲の地面に食い込み怪物らは泡を食ったように緑に光るむちを引き振り上げ振り下ろそうとしてセミオートで細身のスプレー缶ほども径のある12.7x55ミリSTsー130VPS高貫通弾を喰らい粉砕し始めた。



 腕力のやたらあるアン・プリストリは肩付けせずとも楽な顔で撃てたが、レギーナは撃つ度に大口径バトル・ライフルに振り回されていた。だが元はロシア陸軍の佐官。暴れる大口径ライフルのコツをつかみ日頃のアン・プリストリの仕打ちに対する鬱憤を晴らすように撃ちまくたった。



 光るむちを振り回していた怪物らは、まるで言葉交わすように状況を理解し一斉に退しりぞき始めた。



 だがアン・プリストリは暗闇の中で微かに見える怪物目掛け容赦なく撃ち続け次々に撃ち砕いていた。



 前方の群れに集中したすきに装甲車後部から1匹の怪物が車輌に上がってくると砲塔の上に立つ長髪の金髪振り乱すアン・プリストリへ向けむちを振り上げた。



 その光る先鞭せんべんが唸り空を切った寸秒、NDC民間軍事企(PMC)業1巨漢な女が見もせずに後ろへ振り上げた左手でその緑に発光する先鞭せんべんをつかみ止めた。



 暗闇の中で半身振り向いた女の血走った瞳が赤紫に光った。



「寝込みィ襲うなんざァ────」







「10年、早ェェえ!」







 そう言い放ちむちを左手で引き上げ怪物が砲塔へ前のめりになると、アン・プリストリはその顔、胸、腹に親指ほども径のある銃弾(ブレット)を3連射で浴びせ怪物を黒い粒子に粉砕した。



 アンはむちつかんだ左手のひらがやたらと痛いことに気づきバトル・ライフルを撃ちながら顔に引き寄せた。



 皮膚が裂け割れた肉のあいから手のひらの骨が星明かりに微かに見えていて舌打ちすると最後に残った怪物をレギーナと競い合うように撃ち倒した。



「おいレギーナぁ、怪我ねェかァ?」



「私は大丈夫です。プリストリ様ァは?」



「なんともねェ!」



 そう言い放ち左腕を横へ一振した寸秒、アン・プリストリの裂けた手のひらの傷が痕もなく消え去った。



 物語の主役がそう簡単に手を切り落とされたりしねぇ、と思った女の瞳が暗闇の中で青いものに戻りキューポラの開口部から砲塔内に戻り始めた途中、動きを止めつぶやいた。







「くそゥ──猛烈にィ腹がァ────立ってきたァ」












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