Part 19-2 Mitä Sain 手にしたもの
NDC HQ.-Bld. Chelsea Manhattan NYC, NY 01:01 Jul 14
7月14日01:01 マンハッタン・チェルシー地区NDC本社ビル
広報のチェスター・ウィンターソン──チェット引き連れたエリザベス・スローン──リズはまずエントランス出入り口でビルに入る人の身分を確認するセキュリティに問いただした。
「総務部部長のエリザベス・スローンです。何事ですか?」
止めに入った若いセキュリティが愕き顔になり返答に一瞬詰まると歳嵩のセキュリティが割って入った。
「ご苦労様ですスローン部長。社長室がミサイル攻撃を受けました。消防が消火に当たり、市警とFBIがこれから実況検分します」
連絡通りやはりミサイル攻撃は事実で間違いなさそうだった。まずは被害者が気になった。やもやマリア・ガーランドが怪我や死亡してなければとリズは思ってその歳嵩のセキュリティに尋ねた。
「被害者は出たのですか?」
「今のところ正確な状況は入っていないのですが、爆発直前に4人の男性らと1人の女性が社長室に招かれています──部長、実はその男性らとは別の1人がその女性に廊下で発砲したのが監視室のモニタに映っていたらしく、その男性が火だるまになり、女性が社長室に入った直後ミサイル攻撃で社長室が吹き飛びました」
前社長のフローラ・サンドランの時も暗殺や誘拐未遂があったがニューヨークの本社がミサイル攻撃をされるなど想定外だった。
だがマリア・ガーランドが就任演説で行った対テロリスト宣言でここは中東並みに危険だとリズは認識していた。まさか本当にミサイル攻撃されるなんて。
だが廊下で人が火だるまになったのがミサイル攻撃とは別な件だとリズは気づいた。
社長室に入った女性はその焼け死んだ男性の直後でそこでミサイルによる爆発が起きたのなら、順番としてミサイル攻撃と火だるまは別件だわ。
「招かれて男らが入ったのなら社長が室内にいたの?」
「いえ、どうも男らは勝手に入ったようです。これまでに救急搬送されたものは誰もここを通ってないので男性ら4人は即死。女性1人は爆発後社長室に入ったクレウーザさんが肩を貸して助け出したのが録画されていたようです」
パトリシアが助け出したのならその女性はセキュリティの1人か一般社員の可能性もあった。
とりあえずはマリア・ガーランドは無事の線ですべてを進めるとリズは自分に念押しし、歳嵩のセキュリティと話しを止めてブロンズガラスの回転ドアを押してエントランスに入った。
可能なら社長室と同階フロアの状況確認がまず1つ。
次にパトリシアが助け出したというその女性を探し出しミサイル攻撃前後の状況を問い質すのが1つ。
それに被害がその1発のミサイル攻撃によるものだけだったのだと確認するのが1つとリズは頭にリスト化した。
エントランスは時間帯が時間帯でもあるので受け付けもおらず閑散としていた。もっと消防士や制服警官の姿をビル前の関係車輌の多さからリズは想像していたが予想外れだった。
チェスター・ウィンターソンを引き連れ社員用エレベーターへと向かったエリザベス・スローンはこの時82階で戦闘が起きているなど知る由もなかった。
今夜ビルのセキュリティに当たっている第2中隊のメンバー5人がエレベーターから下りて女制服警官の姿したベルセキアへ向け銃口を振り上げた直後、エレベーター奥に残っていたトレンチコート姿の北欧系の顔立ちをした若い男女がハンドガン引き抜きエレベーターからいきなり別世界から来たもう1人のマリア・ガーランドの背後に現れたのをパトリシア・クレウーザは目の当たりにして困惑した。
何ものなの!?
MGやシルフィー・リッツアが魔法で作り出す異空通路以外の何らかの方法で50ヤード余りを跳躍したことになる。
そんな連中がどうしてセキュリティに混じりこの82階フロアに来たのかとパティがその男女の意識をサイコ・ダイヴで探ろうとした刹那、マリアの右手側の壁を駆け抜けベルセキアがトレンチコート姿の男女の傍に飛び下りた。
寸秒、トレンチコートの若い男の喉頸をベルセキアは片腕のシザーハンズの指先のナイフで突き抜きその片腕で男を振り上げマリア・ガーランドから離れ駆けパトリシアの方へと一気に跳躍した。
パティはバトル・ライフルで照準しながら土嚢を積み上げたバリケードから後退さってしまった。抜く手も見せずにベルセキアはいきなり蛇のように信じられないほど大顎を開きその喉を突き刺しまだ息のある男の上顎から頭部のあらかたを一気に喰らってしまった。
男の頭部の残りの下顎奥から吹き出した血を浴びベルセキアはぐるんと白目を剥いて顎を突き出し天井を見つめたまま動かなくなった。
そのあまりもの光景に怖じ気づいたパティはFN SCARーHを撃つのも忘れてしまっていた。
その喉を突き刺した男を支えたままベルセキアが動かなくなったのと同時に長剣を両手に握りしめ振りかぶりマリア・ガーランドが怒鳴りつけながら駆け戻って来るのが見えていたがパトリシアは言われていることを意識していなかった。
「パティ! 逃げろ!!!」
ベルセキアの背後数ヤードに迫ったマリア・ガーランドが青い刃をベルセキアの背に稲妻の如く一気に振り切ったその一閃、パトリシアとMGの間にいるベルセキアが空中に吸い込まれるように姿消し同時に男と並び立っていた若い女の傍に突如現界した。
異空通路ではない────あれはテレポーテーションだわ!
空をきったマリア・ガーランドの長剣の切っ先が床に突き刺さったのと同時にパトリシアはブレイン・リンクでMGとさらにベルセキアが再出現した場所とエレベーター・ホールの中間にいるバトル・ライフルを向けたまま理解できずにいるポーラ・ケース、クリスチーナ・ロスネス──クリス、それから82階フロア前後の2基のエレベーターから出たばかりのセキュリティらに警告した。
────皆気をつけて!!! ベルセキアはテレポーテーション能力を身につけたわ!!!
兄と同時にマリア・ガーランドの背後に現界したリカルダ・バルヒェットは状況を把握できない寸秒の間に事が進み過ぎた。
マリア・ガーランドの片側の壁を信じられないような脚力で駆け込んできた怪物のような女制服警官がザームエル・バルヒェットの傍に跳び下りるといきなり兄の首を片手指から伸びる数振りの15インチはある黒いナイフで突き刺した。その切っ先が首後ろからすべて突き抜けると女制服警官は片腕で兄を吊し上げ土嚢積まれた方へ凄まじい勢いで数歩駆け一気に土嚢前に跳躍した。
リカルダ・バルヒェットは兄が殺されたと愕然となって土嚢前に着地した怪物女の背姿へ蒼白の顔を振り向けとんでもない光景を目にした。
制服警官の怪物女の顎がバスケットボールでも咥えられそうに開くと吊し上げた兄の頭部を蛇の丸呑みにしてしまった。
リカルダ・バルヒェットは傍らを駆け抜けてゆく暗殺対象のマリア・ガーランドが長剣振り上げ駆けて行くのが理解できていなかった。
上顎からすべて失い吹き出す鮮血を浴びる女制服警官がほんのつかの間動かなくなったのを妹は息をするのも忘れ唖然と見つめていた。
ザームエル・バルヒェットが殺された!
兄が喰われてしまった!!!
それだけが意識に木霊するリカルダ・バルヒェットはもう暗殺の仕事などまったく意識になかった。
あの土砂降りの夜、父の運転する車がタンクローリーに激突し火焔に呑み込まれた瞬間、助け出してくれた兄がまさか怪物に喰われて死んでしまうなんて────。
マリア・ガーランドが振り下ろした長剣の刃の下から忽然と消えてしまった兄を吊し上げた女制服警官がいきなり妹の傍に出現した瞬間、リカルダ・バルヒェットは精神憑依全能力を持ってフロアにいる全員に強制した。
「動くな!!!」
事を整理する必要があった。だからこの場の全員の動きを制した。完璧な強制力のはずだった。だがそれを裏切り動き続けるものがいるなどとリカルダ・バルヒェットは思いもしなかった。
声高に命じた寸秒、傍にいる怪物の女制服警官が兄の骸を壁へ投げ捨て妹に振り向き、土嚢前から駆け戻ってくるマリア・ガーランドが視野の片隅に見えておりさらに土嚢の後ろにいる少女が怪物女制服警官へバトル・ライフルをフルオートで撃ち始めた。
どうして!? どうして私の精神憑依が効かないの!?
女制服警官が撃たれるのも意に介せず凄まじい勢いで伸ばした片腕でリカルダ・バルヒェットの喉をつかみドイツ語で告げた。
"Deine Fähigkeit ist die Fähigkeit, Menschen zu manipulieren. Aber es funktioniert nicht für mich. Ich habe diese Macht auch."
(:お前の能力は憑依力か──だが我には意味はない。その能力をもう手にしているんだ)
直後、喉を鷲掴みにする怪物の如き女制服警官が一瞬歪んだ笑みを浮かべ声を張り上げ英語で命じた。
「フロアにいるセキュリティ! MGとパトリシア・クレウーザを撃て!!!」
その寸秒、ベルセキアへと駆け戻っていたマリア・ガーランドが足を滑らせ立ち止まり振り返りパトリシア・クレウーザの方へ剣から放した右腕を振り上げ手のひらを向けた。
82階フロアにいる12人のセキュリティらの銃弾がMGと少女に襲いかかったのと精霊加護の蒼い障壁が広がったのが同時だった。
廊下に銃声の轟音が溢れあがり毎秒百発以上の7.56x51ミリM118LRと5.7x28ミリSS192が車のフロントガラスに吹きつける暴雨のようにMGと少女を護る淡いブルースクリーンに阻まれバラバラと周囲に落ち始めた。
それを目にした怪物のような女制服警官は舌打ちすると首をつかみ吊し上げたリカルダ・バルヒェットを壁に投げつけた。
壁から床に弾かれ落ちたリカルダ・バルヒェットは激しく咳き込みながらも膨大な数の銃弾が阻まれ無効化される光景を見つめながら思った。
何なのあのマリア・ガーランドを護るバリアは!? あれのせいで今日何度も暗殺に失敗していた。
テキサス・フォートブリスの大型昆虫のような怪物といい、兄を喰い殺したこの警官の服装をした私と兄と同じ空間転移能力と憑依能力持つ女といい、バリアを自在に操るクレイモア振り回す女社長といい──化け物だらけだった。
いつから世界はこんな魑魅魍魎が跋扈跳梁するものになったのだと息を呑んだ。
だが右手に握る現実があった。
喉元締め上げ吊し上げられ壁に投げつけられても武器を手放さないのは暗殺者ゆえの本能だった。
リカルダ・バルヒェットは床に座り込んで壁に背を預けスミス&ウエッソンのミリタリー&ポリスを振り上げるとマリア・ガーランドへ気を取られている怪物のような女制服警官の横顔に照準し次々に引き金を絞り込んだ。
憑依強制力はポーランドで喰らったルイゾン・バゼーヌという少女テレパス譲りの能力だった。たった今、ザームエル・バルヒェットという暗殺者から時空間転移能力を身につけた。
そして喰らった国家安全保障局ニューヨーク支局のヴェロニカ・ダーシーから発火能力を手に入れた。
だが手にした真新しい道具を思うように使いこなせないのと同じように次々に得た力を自在には使いこなせないでいるとクラーラ・ヴァルタリは激しい銃撃を受けるマリア・ガーランドとパトリシア・クレウーザを見つめながら思った。
アメリカへ渡り何度も使うことによりテレパスの力をやっと思うように操れるようになってきた。
人の考えを自由に盗み見ることのできる力も素晴らしいが精神憑依は秀逸だった。
ほぼ世界中の人間を自在にできる。
これは一国の女王に即位し国民を自在にできるよりも爽快だった。
だが数々の力を手にしても死には抗えない現実が意識に大きく居座っていた。
まだ他にも様々な特殊能力が世界にあれどもそれらを手にするよりも不死の必要性をひしひしと感じる。
目の前で銃弾を紙礫を防ぐよりも容易に躱すこの女を喰らわないといけないとクラーラはマリア・ガーランドを睨み続けた。
炭にしない程度に焼いてやるかと考えた寸秒、いきなり横っ面を強烈に叩かれだしクラーラはよろめいた。
廊下に溢れあがるフルオートの銃声に混ざり気づくのが遅れた。
激しく顔を捻るクラーラ・ヴァルタリが横目で見たのはハンドガンで撃ってくる投げ飛ばしたリカルダ・バルヒェットだった。
鬱陶しい!
興醒めだと怒りが爆発した刹那、クラーラは左手を壁際の床に座り込む強制力だけが能力の暗殺者へ勢いを持って振り向けた。
眉間を刺し貫かれハンドガン振り向けている女が痙攣しながら腕を落とした。
手首から先がスピアのように伸びてその鋭利な切っ先がリカルダ・バルヒェットの後頭部を突き抜け壁に食い込んでいた。
我にはマリア・ガーランドのようにバリアなど必要ではないんだ。
皮膚を9ミリ・パラベラムで撃ち抜けるなど思ったのが間違いの元なんだと蔑んだライトブラウンの虹彩で痙攣に間が開き始めた遺体を見おろした。
顔を銃撃に堪えている不死の女へ振り戻し顎を引いて三白眼で睨み据えクラーラ・ヴァルタリはフロアの空気の分子運動を意識し力をかけ始めた。
急激に跳ね上がる気温にマリア・ガーランドを護る淡い蒼のスクリーンが赤紫へと変異し始めた。
クラーラ・ヴァルタリがこんなに厄介なテロリストだとは思わなかった。これはこの世界固有の事象なのか。それともわたしの世界のクラーラもこうなのかと異世界から連れて来られたマリア・ガーランドは眉根しかめた。
ハンドガン握っているコート姿の若い女を壁へ投げつけその床に落ちた女から顔を十数発撃たれるとクラーラはその女を刺し殺した。
そいしてまさかフロア全員のセキュリティらの意識を乗っ取るとは思いもしなかった。
膨大な数の銃弾はそう問題ではない。
精霊加護の力は素晴らしく野戦砲弾でも防ぐ力がある。
だがこの混乱にクラーラが攻撃を仕掛けてくると状況は完全に悪くなるのが眼に見えていた。
パティ! 操られている全員の呪縛を解けないの!?
ブレイン・リンクでそう少女に命じた直後、いきなりすべての射撃が止んで銃撃の残響が減衰しながら耳に不快なノイズを残した。
だが精霊加護を解かなかった。
パトリシアと自分を護る淡い蒼のスクリーンが急激に赤紫へシフトする変化に何の攻撃なのとマリーはクラーラ・ヴァルタリへと振り向いた。
眼に見えて変化はない────そう思った矢先に空気越しの女テロリストの姿やエレベーター・ホールまでの光景が揺れ歪み出した。
クラーラが何か仕掛けてきている!?
そう感じた刹那マリア・ガーランドはフロア全員のセキュリティ達の周囲にも加護の障壁を張り巡らした。
自分に今、できる護りはそれだけだった。
眼にしているものに不安が膨れ上がってゆく。スクリーンはかかるエネルギーによって淡い色合いが赤いものに変わってゆく。血のように赤くなればそれは加護の力が崩壊する寸前を意味していた。
赤紫に変色したスクリーンは何かしらの力を受けていた。
崩壊していない間はそれを感じ取ることはできない。
敵の攻めに護りで応じるのは間違いではない。だが敵の攻めが護りよりも長く継続すればそれは破綻を招く。状況を転じるのは多くの場合護りではなかった。
打って出れば攻守が転じる可能性を引き寄せる。
ここまま女テロリストにいいようにさせておくべきではないとマリア・ガーランドは両手に握りしめた長剣を右斜め後ろに引き構えクラーラ・ヴァルタリへと駆けだした。
走るに合わせてマリー護る淡いスクリーンも前へ出て行く。その赤紫の色合いが急激に赤みを増しているのは力の発生源がクラーラ・ヴァルタリに間違いないことを意味していた。
床の合成樹脂のタイル角が捲り上がり始めマリア・ガーランドは起きている事態をやっと理解した。
廊下の気温が急激に上昇していた。
温度を上げているのは魔法の力か!? だが女テロリストは魔法陣を展開してはいない。
どこからエネルギーを引き出している!?
精霊の力か!?
数ヤードに迫り完全に間合いに入った瞬間、身体捻り溜め込んでいたエナジーを踏み込んで一気に解放し長剣を唸らせ振り抜いた。
刹那、それまで指先を伸ばし数振りの細身のナイフを武器にしていた女が両腕の肘から先を長剣の刃に変化させ左腕でマリア・ガーランドの長剣を跳ね上げ右腕の1条を暴力的な速さで振り抜いた。
一閃、マリア・ガーランドの肘から先の右腕が斬れ跳ね上がった。




