Part 19-1 Occulta Potentia 秘めたる力
Equinix Data Center Infomart Dubberley-Bld. 1900 N Stemmons Fwy suite 1034, Dallas, TX USA
1900 N Stemmons Fwy, Dallas, TX 23:45
23:45 テキサス州ダラス フリーウェイ・スイーツ 1034ノース・ステムモンズ・フリーウェイ1900ダバリー・ビル内エクイニクス・データ・センター
その艶消しの黒いゴシックドレスを真似た怪物を睨みつけた。
気高さを踏みにじられたようだ────と自動人形M-8マレーナ・スコルディーアは1536コア、6144スレッドのメインMPUにおいて自意識の中核である仮想環境上に組んだコンシャンス・モデリング4D構造の記憶比較カオス・ニューラルネット──モデリングマルチコアで仮想した。
この人生の使い方は超大容量のRAID5+0+0で組まれたSDD群に保管できないほどの組み合わせできようとも、今、この瞬間────自分がやるべき最高ランクの行動目標はもう1人増えた自動人形を殲滅することだ。
自動人形は相手に向かってゆっくりと歩きながら擬きとなった怪物の意表突くために左手に握ったスチール・アングルを回転させ手首と指で逆手に握り直し腕を背後に下げ身体で相手から隠し見えないようにした直後、細い顎を引きダイヤモンドの煌めき溢れる瞳を三白眼にすると急激にフェラガモのブラックVaraのステップを踏み換えくるんくるんのツインテールを跳ね上げ前屈みに凄まじく加速した。
擬きが同じように右腕を背後に隠し前屈みなると急激に足を踏みだして加速し向かって来るのがダイヤモンドのような虹彩奥の7万8797スクウェアのピエゾアクチュエーターで視認していた。
もしもこの怪物が我と同じ自動人形であるならスペックは勝るのか劣るのか。
フォート・ブリス荒れ地で8体を倒したので仮想の余地なく我が優位のはずだった。
だがここエクニクス・データセンターのサーヴァー室で眼の前の化け物は我をつかみ振り回し破壊を目的として壁や床、サーヴァー・ラックに激突させた。
明らかに荒れ地にいた怪物らよりもここにいる醜悪な異形の方が戦闘力で勝っている。
しかし我の方が近接戦闘において長けているのでこいつは真似をし始めた。
真似ることは卑下できないとMー8は仮想する。
あらゆる分野において真似る行為から新たな創造の芽吹きが現れる。
今、我の容姿と行動を模倣し始めたこいつは、そのパターンの中で何かを見いだし意表を突いて我を窮地に立たせる想定もありえた。
秒20回を越え激しく躯を揺すりながら加速し上半身を捻りつつ向かってくるマットブラックのマース擬きが目鼻先に達した直前にマースはステップを急激に踏み換え相手が上半身の捻れたエネルギーの蓄積を解放し振り出してくる右腕に用意した得物にタイミングを合わせた。
横殴りで振り回してきた艶消しの黒い────長剣!?
あまりもの速さで振り回してくる刃が毎秒5万フレームの分割能力を持つ虹彩奥のピエゾアクチュエーターですら残像を曳いて電気シグナルに変換され補正された。
マースはその怪物の攻撃に合わせ背後から振り出したスチール支柱で正面切って迎えるのでなく叩き上げ、相手のベクトルの方向を上方へ逸らしその肘を右手でつかみ一瞬で身体を捻り背を向け腰を落とし怪物の腕を左肩に乗せ前に上半身を倒した。
右腕をつかまれ前へ投げ飛ばされた艶消しの黒いゴシック娘擬きは背中から床に落ちPタイルを打ち砕いた。
その倒れた怪物の握った腕を捻りあげ横倒しにしながら背後を取ってマースはうつ伏せになった相手の頚椎を片膝で押さえ込んでスチール支柱持つ左手で怪物の長剣握る右手を背に押さえつけた。
直後マースは自由になった左手で腰のリボンに差し込んでいたソードオフの短銃身散弾銃を左手で引き抜き自分擬きの背中のど真ん中に銃口を押し当て引き金を引いた。
爆轟が広がりマース擬きの背に拳入りそうな穴が穿たれた。だが怪物は砂の城が波にさらわれ崩れるようにはならなかった。その刹那とんでもないことが起きた。
うつ伏せに押さえ込まれたマース擬きの背面が波打ち表に変化した。
捻り上げ押さえ込んでいた右腕が左腕になりマースが膝で押さえ込んでいた頚椎が喉になった瞬間、怪物は胸の前で押さえ込まれた左腕を振り上げマースは跳ばされ空中でバク転し床に飛び降りると目前で怪物が追うように跳ね起きた。
"Bring it on!"
(:上等だわ)
そう言い捨てM-8自動人形は肩から前へ垂れた左のスクリュウ・ツインテールを背へ跳ね下ろしふたたび怪物と対峙し仮想した。
まるで液体と戦っているようだわ。こいつは何度も部分再生した時点で流動性のある構成だと想定はしたが躯の構成体が欠損しなくても自在に作り替えることができる────なら微細なナノ・マシンの集合体なのかとマースは想定すると得物待たぬ相手の右側へと回り込むように横に足をくり出し背後に回した左手から右手へとスチール・アングルをスイッチさせた。怪物はマースのスチール支柱持つ左手側へと同じように回り込み始めた。
いきなりマースは後ろに大きく右腕を振りかぶり右足を踏みだして上半身を凄まじい勢いで左に捻り右手に握ったスチール・アングルを残像曳いて怪物の左わき腹の上へ打ち込んだ。
艶消しの黒いゴスは瞬時に左手に握っていた長剣をスイッチもせずに右手に出現させ手首回し斜め下に向けるとそれを爆速で迫るスチール支柱にぶつけ受けた。
凄まじい衝撃音と空気の波動が広がりマースのツインテールが浮かび上がり後ろにたなびいた。
スチール・アングルはぶつかった場所から折れ飛び、怪物の長剣も握り手の部分から黒い粒子となって床に飛び散った。
その床に広がった黒い粒子は曲がり流れる川のように集まりマース擬きの足元に吸収されてしまった。
マレーナ・スコルディーアは短くなったスチール・アングルを投げ捨て両手の人さし指から小指までを数回折り曲げると指を硬く閉じて両手に拳を握りしめそれを胸の前に交互に構え上げ右足を引いて半身開いた。
その動作をマース擬きも遅れて真似ると拳上げ躯を斜めに向けファイトポーズを取った。
スチール・アングルをぶつけた程度で怪物が手にしていた得物は砕け散ったしスラグ弾で簡単に胸板に大穴が開く。
怪物がナノ・マシンの構成体なら強度はさして強くないだろうとマースは想定した。
殴り合いならチタン合金製の骨格を持つ我に分がある。そう想定した刹那、自動人形は顎を引いて三白眼で相手を睨み据えながら左右の脚を素早く交互にくり出して一気に間合いを詰めると外観を真似た怪物もステップを踏みだして先に引いていた右手の拳を猛烈な勢いで打ち込んできた。
マリア・ガーランドとの白兵戦ディフェンス・トレーニングで教わったことの1つ。
近接戦闘は意表を突くこと。
マレーナ・スコルディーアは怪物と同時に打ち込むと見せかけ振り出した拳の甲で打ち込んでくる相手の拳を外へと弾き直後右手の指を開いて怪物の右手首をつかみ後ろへと引き相手の左側面を擦るように怪物の背後へと回り込み首に左腕を回して締め上げた。
頸動脈など持たぬナノ・マシンのボディに締め技など効果はなかったが一時的に主導権をマースはつかんだ。
さあ、どう逃げ切るとマースが仮想した寸秒、怪物はあろうことかサーヴァー・ラックの並ぶ端の側面を駆け上がりマースの頭上でバク転すると自動人形の背後に飛び降り黒いリボンの付いたフリルのチョーカーの首を片腕で締め上げた。
だからこいつには腹が立つんだとマースはダイヤモンドの輝き溢れさせる瞳を半眼にするなり片唇を吊り上げた直後右手を肩の上から背後に回しマース擬きの口に強引に差し込むなり両脚を開いて膝を折り背を丸め怪物の上顎に引っ掛けた右腕で前へ凄まじい勢いで投げ飛ばした。
轟音を放ち床のPタイルに罅が広がるとマースは仰向けに倒れた怪物の上顎に引っ掛けた腕をもう一度振り上げ身体を捻り今度は反対側の床に叩きつけた。
さらにもう一度、腕を振り上げ怪物を頭上からもっと速く投げ落とした。
やりながらマレーナ・スコルディーアはMGにこれと同じやり方で4連続も投げつけられたのだと眉根寄せていた。
ジェシカ・ミラーはソードオフ散弾銃をマレーナ・スコルディーアの影のような真っ黒な相似体になった怪物へ振り向けた直後、対峙するマースが左手に握ったスチール・アングルを小柄な身体の背後に隠し、細い顎を引き相手を睨みつけながら急激に黒のパンプスのステップを踏み換えカーリングヘアのツインテールを跳ね上げ前屈みに凄まじく加速したのを眼にした。
まるで鏡に映った姿のようにゴス娘擬きが同じように右腕を背後に隠し前屈みなると急激に足を踏みだしてマースへと加速した。
2人は急激に間合い詰めとても射撃できる状況ではなかった。
ジェスは小娘の方が優位だと信じていた。
怪物自身が優位だと考えているなら闘う相手を模倣するわけがないと思った。
化け物はマースをつかみ振り回しあちこちにぶつけ殺そうとしたがゴス娘の方が身体の頑丈さで勝っていた。いいや、あれだけやられりゃ普通死ぬだろう。
だがマースは異様なタフネスさでコンピューター棚の支柱片手にドローに持ち込んだ。
怪物を打ちのめすんだとジェスが思った矢先にゴス娘擬きが後ろに回した手から艶消しの黒い長剣が伸びるのがジェスには見えた。
マースに警告しようとした矢先に双方が相手へ突進してしまった。
激しく躯を揺すりながら加速し上半身を捻りつつ向かってくるマットブラックのマース擬きが本物の目鼻先に達した直前にゴス娘はステップを急激に踏み換え相手が上半身を解放し振り出してくる右腕に振り向けるスチール・アングルのタイミングを合わせた。
怪物が横殴りで振り回してきた艶消しの黒い────長剣────あまりもの速さで振り回してくる刃がぶれ歪んで見えジェスは顎を落とした。
マースがそれにも劣らず凄まじい勢いで背後から振り出したスチール支柱も歪で見えた寸秒甲高い衝撃音が聞こえ怪物の黒剣が叩き上げられその肘をマースは右手でつかみ一瞬で身体を捻り背を怪物へ向け腰を落としそのつかんだ腕を左肩に乗せ前に上半身を倒した。
右腕をつかまれ前へ投げ飛ばされた艶消しの黒いゴシック娘擬きは背中から床に落ち大きな激突音を放ちPタイルを打ち砕いた。
その倒れた怪物の握った腕を捻りあげ横倒しにしながら背後を取ってマースはうつ伏せになった相手の頚椎を片膝で押さえ込んでスチール支柱持つ左手で怪物の長剣握る右手を背に押さえ込んだ。
上手い、とジェシカ・ミラーは思った。
銀髪頭みたく瞬間芸のようなことを小娘が楽々とこなしたことにブルネットの女セキュリティは眼を見張った。
直後マースは自由になった左手で腰のリボンに差し込んでいたソードオフの短銃身散弾銃を左手で引き抜き擬きの背中のど真ん中に銃口を押し当て躊躇なく引き金を引いた。
爆轟が広がりマース擬きの背から硝煙が吹き広がり背に穴が穿たれた。だが怪物はまたしても砂の城が波にさらわれ崩れるようにはならなかった。その刹那とんでもないことが起きた。
うつ伏せに押さえ込まれたマース擬きの背面が波打ち表に変化した。
捻り上げ押さえ込んでいた右腕が左腕になりマースが膝で押さえ込んでいた頚椎が喉になった瞬間、怪物は胸の前で押さえ込まれた左腕を振り上げマースは跳ばされ空中でバク転し床に飛び降りると追うように怪物が跳ね起きた。
"Bring it on!"
(:上等だわ)
そうマースが吐き捨てたのがジェスに聞こえゴス娘が開き直ったと思った。少女は肩から前へ垂れた左のコークスクリュウ・ツインテールを背へ跳ね飛ばしふたたび怪物と睨みあった。
まるで映画に出てくる未来から来た液体金属の暗殺マシーンのようだとジェスは鳥肌立った。怪物は何度も部分再生し躯が流動性を持っているとジェスは理解していたが、躯をやられなくとも自在に作り替えることができるのはフォート・ブリスの荒れ地で対峙した怪物らを目の当たりにしていたから今更に驚くことではなかったが鳥肌ものだった。
マースは得物待たぬ相手の右側へと回り込むように横に足をくり出し背後に回した左手から右手へとスチール・アングルを握り替えた。同じように怪物はマースのスチール支柱持つ右手側へと回り込み始めた。
いきなりマースは後ろに大きく右腕を振りかぶり右足を踏みだして上半身を凄まじい勢いで左に捻り右手に握ったスチール・アングルを残像曳いて怪物の左わき腹の上へ殴りつけた。
艶消しの黒いゴスは瞬時に左手に握っていた長剣をスイッチもさせずに右手に出現させ手首回し斜め下に向けるとそれを爆速で迫るスチール支柱にぶつけ受けた。
凄まじい衝撃音と空気の波が広がりマースのツインテールが浮かび後ろに跳ね上がった。
スチール・アングルはぶつかった場所から折れ飛び、怪物の長剣も握り手の部分から黒い霧状のものとなって床に飛び散った。
その床に広がった黒い粒子は曲がり流れる川のように集まりマース擬きの足元に吸い込まれた。
マレーナ・スコルディーアは短くなったスチール・アングルを投げ捨て両手の人さし指から小指までを数回折り曲げると指を硬く閉じて両手に拳を握りしめそれを胸の前に構え上げ右足を引いて半身開いた。
その動作をマース擬きも遅れて真似ると拳上げ躯を斜めに向けファイトポーズを取った。
スチール・アングルをぶつけた程度で怪物が手にしていた得物は砕け散ったしスラグ弾で簡単に躯には大穴が開く。
怪物の強度はさして強くないだろうとジェスは思った。
だが殴り合いで華奢な少女が堪えられるか微妙だとジェスは思った。刹那、ゴス娘は顎を引いて相手を睨み据えながら左右の脚を素早く交互にくり出してフリルの派手に付いたスカートを引き連れて一気に間合いを詰めると外観を真似た怪物もステップを踏みだして先に引いていた右手の拳を猛烈な勢いで打ち込んだ。
まるで銀髪頭が見せる近接戦闘のデモンストレーションだとジェスは感じた。
マレーナ・スコルディーアは怪物と同時に打ち込むと見せかけブラフをかませ振り出した拳の甲で打ち込んでくる相手の拳を外へと弾き直後右手の指を開いて怪物の右手首をつかみ後ろへと引き左側面を擦るように相手の背後へと回り込み首に左腕を回して締め上げた。
怪物に締め技など効果があるのかとジェスが思った。
次はどう攻めるのだとマースが見せる近接戦闘に魅了されるジェスが眼にしたのは、あろうことか怪物がサーヴァー・ラックの並ぶ端の側面を駆け上がりゴス娘の頭上でバク転すると少女の背後に飛び降り細い黒い首を片腕で締め上げた。
マースは輝く瞳を半眼にするなり片唇を吊り上げたのがジェスにはわかった。打ってでろゴス娘! そうジェスがエールを送った直後、マレーナ・スコルディーアは右手を肩の上から背後に回しマース擬きの口に強引に差し込むなり両脚を開いて膝を折り背を丸め怪物の上顎に引っ掛けた右腕で前へ凄まじい勢いで投げ飛ばした。
ジェシカ・ミラーは唖然となった。
なんていう投げ方だ!?
怪物が投げつけられ轟音を放ち床のPタイルに罅が広がるとマースはその怪物の口に引っ掛けた手をもう一度怪物ごと振り上げ身体を捻り今度は反対側の床に叩きつけた。
あんな荒技はお師匠でもやらねェ!
さらにまたもう一度、腕を振り上げ怪物を頭上からもっと速くとゴス娘は加速つけ投げ落とした。
こんな原住民の未発達の個体にいいようにあしらわれている。
その現状をそれは遠く離れた場所にいるそれらと共有しながら、この世界の攻略が一筋縄ではゆかないと想定した。
身体を真似、戦闘力を真似たにも関わらず、次々に手を返す未発達の個体は信じられないスピードとパワー、それに技巧を見せ続けている。
電子ネットワークから得たこの世界の格闘戦力にはここまでのデータは見られなかった。
投げつけられコアが衝撃を感じるほどにダメージが大きくなり始めていることにそれは緊急出力と奥義を使うべきだとそれらと共有した。
意見の合意はコア寿命を極度に縮め危険に曝す反撃の最終手段の行使を容認していた。
ネットワークからこの世界の武装集団への混乱を目的とする攻撃はもはや目の前の未発達な原住民の1個体を倒さなくてはなし得ないと一線を踏み越えた。
コア・ブースト。
モード────ビースト。
その瞬間、溢れかえるエナジーに今まで勝っていた未発達の個体のスピードが酷く遅いものに見え始めた。