Part 18-5 Possibility 可能性
1 Cavalry Regiment Camp 6th Squadron 1st Armored Division Ⅲ Corps Army Commands US.Army Company Training Ground East of Fort Bliss, July 14 00:44
7月14日00:44テキサス州フォート・ブリス東方アメリカ陸軍 陸軍コマンド第3軍団第1機甲師団第6戦隊第1騎兵連隊野営地
陸軍第6戦隊第1騎兵連隊が防衛ラインを維持するために増援させた精鋭兵が操るM1A2C/SEPV3エイブラムス23輌が加わった目と鼻の先──東へ600ヤード(:約548m)の荒れ地に30の雷球が固まって出現したのを数輌の戦車長が本部司令に報告してきた。
無線通信を受けたシェリル・プレスコット准尉はヘッドセットの受信内容に耳を傾けつつ声に出し背後に立つエヴァン・グレイディ中尉へ変調の見て取れるポイントを告げた。
「雷球が現れたグリッド──13RDR0002640757」
グレディ中尉が作戦卓へ振り向くとすでに防護将校のコンスタント・ギャヴィストン上級曹長が野営地を中心にしたマップの右側の一点に赤のフラッグの付いた小さなシンボルを置き終えたところだった。
「大佐、三次攻撃に移行しましょう!」
中尉の提案にパトリック・ネルソン大佐は眉間の皺をさらに深めた。
怪物らの機甲部隊による攻撃で連隊の保有主力戦車は40パーセント近くを失ってしまい防衛ラインに補充増援をした機甲部隊に多大な被害がでると実質、本野営地は戦闘不能になってしまう。
だが火力も有限であり闇雲に火砲を用いれば兵站が追いつかなくなりこれも実質戦闘不能に変わりない。
光球は脅威たるものなのか!?
「偵察隊は敵だと認知しているのか?」
ネルソン大佐がテント内にいる将校全員に問い即座にグレディ中尉は無線卓に座っている無線担当兵数名に命じ複数の偵察車輌に同時に問い合わさせた。
「こちら39アルファ、フォックス3応答願います。 オーヴァー」
シェリル・プレスコット准尉が問い合わせているのは防衛ライン北側で索敵にあたるM3A3BFISTブラッドレー騎兵戦闘車の1輌だった。
『39アルファ、フォックス3だ。 オーヴァー』
「600ヤード東に出現した光球を視認していますか? オーヴァー」
『視認している。 オーヴァー』
「敵だとの判定は? オーヴァー」
『現時点で不明ちょっと待て──雷球の耀きが薄れ始めた! オーヴァー』
プレスコット准尉が受信をスピーカーに切り替えその直前の偵察車輌からの報告を中尉に告げた。
「光球が薄れ始めたそうです!」
その兆候にグレディ中尉は作戦卓の周囲にいる将校らの方へ半身振り向くとネルソン大佐が指示を出した。
「防衛ライン全車輌に通達! 光球へ照準し射撃待機!」
一斉に4人の尉官がブームマイクに下命しその声がずれ重なった。寸秒、グレディ中尉の左隣りに座るゴールドバーグ上級准尉が声を高めた。
「フォックス1、各光球の中に大型の怪物を視認!」
その一声にネルソン大佐が命じた。
「攻撃開始!」
基地司令の声を無線担当者らが伝えた直後、重なる砲声がテント内に聞こえ始めた。
野営地司令が指揮所に戻り、マリア・ガーランドは着た人型戦闘装甲の傍らにいる2頭のベンガル虎を怖がり離れた場所にいるルナに尋ねた。
「怪物らは異世界から来たのかしら?」
15ヤードも離れた場所にいるルナが大声で返事をした。
「そうとは限りません。国外という点では宇宙から来たとも。地球上のどこかの生物兵器かもしれませんし、国内から自然発生したかもしれません────ああ、マリア仰りたい事がわかりました。対処方法がわかるのではと?」
マリーが人型戦闘装甲の操縦席で頭振ると大きなその外骨格強化スーツも微かな音を立て首を振った。
「そうかもしれないけど──奴らの元を断ちに行かないと切りがないからよ」
全周囲モニタの右エリアに映るルナが微かに眉根を寄せ間を開き唇を開いた。
「貴女もすでにご存知のように怪物らは空間転移的手法でこの地にやって来ています。その方法すら見当がつかない現状で敵の基地────巣穴に潜り込めはしません。我々はあれらが現れるのはつかんでいますが、立ち去るのをまだ1度も確認してないので追うのは現状難しいと思います」
明晰な副官が言うのだから実際難しいのだろうが、1体でも再起不能なほど負傷させ逃げ帰る前にマーカーなりタグなりをつければ追跡もそう難しくはないだろうとマリーは簡単に考え、否定した。
マーカーの電波圏外から怪物らが来ていたらお手上げだった。
なら自分がついて行けばいい。
そこで有りっ丈の思念を使い破壊的術式を具現化するまでだ。怪物らの巣がどれほどの規模でも屠り去れる自身があった。
ふと、本当にそうだろうかとマリーは疑念に不安が膨れ上がった。
怪物らの巣が星規模のものだったらどうするの?
いくらなんでも自分にそれほどのパワーがあるなんて思えなかった。
マリーはパトリシア・クレウーザが見せた遥か未来のビジョンを急に思いだした。
アストラル・マークⅢ。
僅か1体で銀河系を攻略できると言っていたスペース・クルーザー。その破壊力を使えば怪物らの星どころか星系を灰塵にすることも容易いのかもしれない。
だが自分と瓜二つの異次元の自分がいるように、怪物らにも同様な破壊力があっても不思議ではないのだ。
即座にそれはないとマリーは思った。それほどの力があれば怪物らはとうに人類を壊滅させているだろう。奴らの力がずっと劣りかなり限定されているから小出しに攻撃してくるのだ。
「ルナ、怪物らが威力偵察のように仕掛けて来るのはこの地に大量に押し寄せ一気に片をつけない理由があると思うの。でも再三に渡り増強してくるからには、怪物らは決して少数の集まりではないだろうし、何かしら執着みたいなものを感じるわ」
「ドラキュラが一気に村人を殺さないのは城からの移住に苦慮するからだと言う」
セシリー・ワイルドが会話に割って入り恐ろしいことを告げた。
だとすれば怪物らはじわじわと攻め生き残った人間をいずれ贄とするつもりということになる。
ますます根城を叩く必要があるとマリア・ガーランドが思った矢先、ルナがぼそぼそと小声で話し始めマリーは気になった。それが終わると作戦担当官は視線をマリーの着た人型戦闘装甲に振り向けた。
「マリア、東へ1745ヤードに30の雷球が現れたとマースが報せてきました」
「30騎!? これまで攻めてきた残存がいるとすれば40を越えるかも。いずれにせよ手段を変えぬ彼奴らは防衛線に脇目もふらずにここを落としに来るでしょう。ルナ、セキュリティを呼び戻しなさい」
「戻せるのは15名とハミングバード2です」
「15人? 負傷者がでたの?」
「いいえ、2人はもう1人のマリアに付けて本社に現れたベルセキア対応に。4人のスナイパーはレイカが率いて東へ怪物らを狙撃しに出向いています。ハミングバードは周囲警戒に当たらせていますが、火砲が強力過ぎて司令部テント周囲だけを限定には攻撃できません」
ベルセキアが本社に!? マリア・ガーランドは困惑した。今、昨年末に取り込んだベスは確かに胸の中にいる。なら本社ビルに出現したベルセキアは一体何ものだ!?
いいや、それは後回しだ。
マリア・ガーランドが逡巡している間にルナは野営地の防衛ライン後方で防御にあたるセキュリティ達を呼び集めていた。
「怪物らの目標はこ野営地司令部です。司令部テントを死守します。防衛ライン後方の全員至急戻りなさい」
ルナが通信し終わるとマリーはあえてベルセキアの事案を避けて口を閉じていた。だが逆にルナの方から切りだした。
「マリア、去年の11月にベルセキアは確かに死んだのですよね」
動揺を人型戦闘装甲の装甲が隠してくれると思いながらマリーが応えずにいるとルナが続けた。
「貴女と瓜二つの貴女がいる以上、ベルセキアが何体いてもおかしくなく、さらに次元ごとにその存在に揺らぎがある以上、今、本社に現れたベルセキアが去年貴女に倒されたものより強靱である可能性も捨てきれません」
────それは糞面白くもないことだ。
マリア・ガーランドの意識に身体共生体であるベスが言い切った。
「それでもまた私が倒せばいい」
マリーがルナに告げると副官は指摘した。
「いいえ、倒したのはシルフィー・リッツア。貴女はベルセキア共々1度死んだのですよね」
この女は何が言いたいのだと誘導尋問を受けている状況にマリーは腹が立ってきて言い返した。
「言ったでしょ。私はグレードアップしたと」
「ベルセキアも喰らってグレードアップできるんですよ」
そうきたかとマリーは冷や汗が吹き出した。
本社ビルに向かったもう1人の自分が喰われたら始末に負えなくなる。
────その心配はないさご主人様。あんたが連れてきたもう1人は明らかにあんたよりも劣るからな。
内なるベスに言われてもマリア・ガーランドは不安を払拭できなかった。自分と同じ道を歩んでないもう1人の自分がいつ全能として覚醒するか予測できない。むしろ覚醒しないまま死んでくれればと考えそれを否定した。
私はそこまで無慈悲にはなれない。
もう1人のマリア・ガーランドが簡単に死ぬ状況を看過できるはずがなかった。
その直後、コクピットに警報音が鳴り響き全周囲モニタ前面の上向きの赤い二等辺三角マークに顔を振り上げたマリア・ガーランドが眼にしたのは上空に赤のコーションマークが乱立しすべてに未確認と注釈が重なり付いて攻撃優先順位が読み取れなくなった。
30が原住民の世界に現界すると周囲には地形に擬態していた12のレイジョが素材を限界までかき集め戦闘体となった。
合わせ42はこれまでの大きく標的になりやすい構成体を捨て最終的に原住民の強勢仕掛けの集落に出現した原住民より一回り大きな強勢仕掛けをサイズと形態で模倣した。
オチデンタリスには集落との間に複数の金属製兵器が布陣しているのが延伸した索敵能力で見て取れた。
それらはすでに破壊した記憶を共有させていたので取るに足らなかった。
原住民兵器集落中枢部を護る主要な兵器は大小の腕を持つ二足歩行の金属製兵器1体だった。
これまでの長く記録されてきた共有では、強固な兵器でも飽和的攻撃の前には為す術もなく破壊されてきた。
だが集落中心部で最後にコアを破壊された6の最後の状況は不明瞭であり、原住民の二足歩行兵器がどのような強勢仕掛けを用いたのか古の共有庫には適合する回答が見いだせない。
42で一斉に仕掛ければ万が一失敗すれども原因を共有でき次には原住民の金属製二足歩行の兵器を破壊できるとそれらは共有した。
素材を再構成した直後、原住民の攻撃が始まった。
そのすべては投射体の運動エネルギーによるもので直撃しなければ問題ない。
唯一、他の投射体よりも遥かにエネルギー量の高い投射体が上空を飛んでくるが、それは延伸した五感により事前に対処できるようにそれらは共有した。
そのどれもが声を上げるでもなく42のレイジョは一斉に集落へ向けて地表を駆け始めようとした。
刹那、4のコアが極小規模なエネルギー量の投射体により粉砕された。
標的にされないサイズの構成体のはずが意図も容易く破壊されたことを残り38はすぐに共有した。
しかもその微量エネルギー投射体は原住民の集落とは逆の方角から飛来してきた。
広げた五感がそれを読み取れなかったのは、金属製強勢仕掛けから飛来する高エネルギーの投射体よりも遥かに脅威度が低かったからに他ならない。
それはレイジョの想定を阻む事態なのかとそれらは共有し結論を出した。
38の内2をオリエンテムから襲う原住民へと振り分けることで共有すると、2がオリエンテムへ36が集落のあるオチデンタリスへと駆け始める。
投射体の標的とならぬようレイジョはバラバラのジグザグ行動に移った。
その直後、オリエンテムへ向かった2のコアがほぼ同時に粉砕されたことが共有された。
弱小エネルギー量の投射体が脅威となるのは見過ごせない事態だとそれらは共有する。放置すれば残り36も同じ手段で破壊される事態が想定されることが共有となった。
オチデンタリスへと駆けていた36の内6が立ち止まりオリエンテムへと向きを変えいきなり空高くに跳躍した。
6は弱小エネルギーの投射体を放つ原住民を捕捉しその思考体系を分析し対処方法を見いだすことに共有していた。
500アールマを一気に飛び越えたそれらはさらに跳ぼうとした瞬間にまた4のコアが微量なエネルギーの投射体で粉砕された。
原住民が『センシャ』と呼ぶ強勢仕掛けから放たれる投射体よりも遥かに小さい少エネルギーの投射体。
由々しき事態だった。
地上を駆けても、跳躍しても確実にコアを粉砕してくる。
残った2は駆ける能力と腕の素材を削りコアの防御に当て構成体の前部胸囲を厚く防御した。
その内1のコア前面同じ部分に3度の微少エネルギー投射体が連続して命中し、4回目の投射体が防御素材を打ち破りコアを粉砕したのが共有された。
残った1は脚部に素材を最大限多く割り振るとオリエンテムへの進行が遅くなるのを度外視して南北に大きくランダムに駆け始めた。
短い爆轟直後に肩にずしりと来る反動を抑えるとM107狙撃ライフルが跳ねて暴れる。
マズルブレーキ下に敷いたマットのために50口径Mk263Mod2弾(:長距離狙撃徹甲弾)を発砲しても砂塵に暗視装備の光学照準器視野を隔てられるのは僅か一瞬。
マテリアル・ライフルが大人しくなる前に東 麗香はトリガー・ガードの外に逃がした人さし指を中指の背で擦り合わせ血行を取り戻すのが習性だった。
セミオートの利点は即座にリロードが行えること。だがボルト・アクションでも人さし指を踊らせてボルト・レバーを操作するので同じことだった。
標高差のない狙撃に比べ注意するのは山の中腹から平地を狙撃するため、跳ね上がる弾道補正に留意すること。撃ち上げでも同じことだと教え込むのに苦労する。
それは連れてきた3人にもたたき込んである1つなので問題ない。
3撃目は予想した通り怪物が防御に振ったのを自分と2人による1点連続狙撃で撃ち砕いた。勿論、残る1人は誰かのミスのフォローに付いていた。
標的が人よりも大きいので2キロの距離でも外す気はしないし好都合なことに怪物は距離を縮めていたのでリードも取りやすくなる。
「デヴィッド、ジャック、コーリン──隠れ場所チェンジ」
そう無線で告げレイカはバイポッドにライフルを任せ立ち上がりマットを丸めアリスパックに固定しそれを肩に背負いマテリアル・ライフルを両手にかかえ上げ胸に抱いた。
1000ヤード近くも離れた3人の動きが肌でわかるとその瞬間闇を祓う女スナイパーは感じて頭の前号運動でフェイスガードを下ろすと斜面を急ぎ足で登り始めた。