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衝動の天使達 3 ─殲滅戦線─  作者: 水色奈月
Chapter #18
89/164

Part 18-4 God Technique 神技

Equinix Data Center Infomart Dubberley-Bld. 1900 N Stemmons Fwy suite 1034, Dallas, TX USA

1900 N Stemmons Fwy, Dallas, TX 23:39

23:39 テキサス州ダラス フリーウェイ・スイーツ 1034ノース・ステムモンズ・フリーウェイ1900ダバリー・ビル内エクイニクス・データ・センター



 リニア・マッスルとチタン合金骨格剛体システムの標準運用能力限界値は370キロワットだが、緊急運用能力限界領域のスーパー・チャージド・ブースト回路を全開で使うと瞬時だが500キロワットを超える700馬力を凌駕する緊急駆動能力を発揮できる。



 ただし内外合金骨格が急激なストレスを受けメンテナンス・スパンが12分の1に激減する。



 そのことをM-8マレーナ・スコルディーアは十分に承知していた。



 だがデータ・センターから国防総省(DOD)へ多量の分散型サービス妨害攻撃を行っていた怪物は何度スラグ弾で撃ち抜いても10数秒で再生し、しかもマースは壁や床、スチール・ラックやPCに数回ぶつけられ戦闘時間が長引くにつれ敵殲滅てきせんめつ確率が急激に右肩下がりで分が割るくなっていることを高い比重値で仮想していた。



 フォート・ブリス東方の原野で接敵した怪物らとの戦闘データ解析で、この異界からの化け物らはコアを破壊するとそのボディを維持できなくなっていたはずだった。



 振り回されラックに並んだ下から9段目のPCのパネルに刺した鋼鉄製のアングルから手を放し床に飛び下りたマレーナ・スコルディーアは、顔にかかった右のツインテールを肩後ろに跳ね上げ舌打ちすると細いあごを引き上目遣うわめづかいのダイヤモンドのような瞳をギラつかせ怪物をにらみながらロシア語で言い捨てた。





"Я──злюсь!!!"

(:──腹が立って────きた!)





 胸部に埋め込まれた1万キロワット級超小型原子炉の制御棒を一気に引き抜き沸騰した金属ナトリウムが2連のタービンを11万回転まで跳ね上げジュネレーターが膨大な電気エナジーを生みだす。



 点や線での攻撃で弱点(コア)を捉えられないのなら、最大出力を持って面で撃破するのが最もだとマースは仮想した。



 悪態を言い捨てた直後マレーナ・スコルディーアは片腕を上げサーヴァー・ラックに深々と刺さっているスチール・アングルに手を伸ばし一気に引き抜くとそれを両手を使い身体の前で素早く3回転させ逆手にした左手で一端をつかみ右腋みぎわきに挟んで右腕で支え押し殺した日本語で怪物を脅した。



「ワレ、イチビッとたらほんまイテまうぞおらぁああ!!!」



 駆動系回路800ヴォルトの標準印加値をインバーターの設計限界の1000に増幅印加(ブースト・アプライ)し630アンペアの電流を常温超伝導磁石製(RTSM2)筋肉へと送り込んだ。



 その寸秒、いったん退しりぞいていた怪物が自動人形(オートマタ)へと向かい突進して来た。



 斜めに身体開き両膝りょうひざを深く曲げ腰を落とした黒のゴシック・ロリータ・ドレスに包まれたM-8マレーナ・スコルディーアの超伝導筋肉が膨れ上がり右脇に抱き込んだスチール・ラックのL字アングルに添えた右腕の手で端を握りしめ左手をその上に乗せつかみ鉄材を背に回し込んだ。





 膨れ上がったすべての人工筋肉のバネを4千分の1秒で解き放った。





 極超音速のソニック・ウエーブが広げる衝撃層の波が周囲のあらゆるものを一瞬圧し退しりぞけた。





 豪速────それを超えたしなやかで恐ろしく素速い動きでマースは身体をひねり握った腕を、スチール・アングルを、一瞬で毎秒2万7千フィート────合成爆薬の爆速にまで加速させ残像をき大きく湾曲した鋼材を音速の23倍で怪物が突進してくる直前の床に叩きつけた。



 お前はわれを本気で怒らせた。



 お前はわれの大事なファッションを損なった。



 お前は────。



 流星のように流れるダイヤモンドの虹彩が見つめた先で鋼材が床のPタイルを砕きコンクリートを大きくえぐり粉砕し怪物へと弾き飛ばし万に達する数に砕けた鋭利なコンクリートの破片の瀑布が不死身の化け物を一瞬で呑み込んだ。



 一閃いっせんよりも短い時間ので粉々に切り刻まれた怪物は瞬間黒いきりと化しサーヴァーの列端通路逆側の壁に叩きつけられその構成素材をロールシャッハテストの絵柄のように撒き散らした。



 衝撃層が拡散しコンクリートの膨大なほこりが舞い飛ぶ先の壁に怪物の残滓ざんしを確認したM-8マレーナ・スコルディーアは大きく変形し長さも短くなったスチール・アングルを床に投げ捨てジェシカ・ミラーへと振り向いた。



 同じセキュリティの女は5列先のサーヴァーの列角まで飛ばされ床に倒れうめき声を漏らし眼を回していた。



 後先考えずに攻撃に出るなとマリア・ガーランドが教えた戦闘教訓が3Dニューラル・ネットワークの意識に浮かび上がった。



 反省────一様、謙虚に仮想する。



 ロール・ツインテールの髪を左右に大きく揺すり肩のほこりを手で払いながらマースはジェシカ・ミラーの方へ歩いてゆき彼女のそばひざを折りしゃがみこみ朦朧もうろうとする戦闘員のフェイスガードを開きほおに三つ指を添えて謝った。



「ごめんなさいジェス。やり過ぎたわ」



「爆発物──使うなら────言えよ────」



 言い返せるなら心配はいらないとM-8マレーナ・スコルディーアが仮想している16ヤード背後で、壁の床際きわに落ちて溜まった多量の黒い粒子が急激に流れだし1カ所に集まり蟻塚のように盛り上がり始めた。











 サーヴァー・ラックのPCからマースがL字アングルを引き抜き身体の前で3回転させ右脇に抱え込んだ直後、蟷螂(カマキリ)顔の怪物がゴシック娘に向かって突進した。



 そんな鉄の棒切れで太刀打ちできないとジェシカ・ミラーが思ってソードオフを振り向けた矢先にマースが右脚を後ろに退き腰を落とし右脇に抱え込んだアングルの棒を背後に回した直後、甲高いハム音を耳にしたジェスはそれが日本製のハイブリッド車が低速走行をしている時のコンバーターのようだと一瞬思い、何の音だと困惑しながらどう考えても小娘の方から聞こえると確信した寸秒ゴシック娘が急激に動いたさまを眼で追い切れず少女が振り出した鋼材が残像をいて湾曲したように見えるのが眼の錯覚だとジェシカ・ミラーは思った。



 刹那せつな、マースと突進する怪物の間の床が爆発し衝撃にジェスは両足が床から離れ一気に後ろに飛ばされた。



 ヘッドギア被った後頭部を何かの角にしたたかにぶつけ意識がブラックアウトした瞬間、スターズ・ナンバー3のアタッカーは一面に広がったお花畑が見え意識が混乱した。



 何かの角に頭だけをかけ大の字で朦朧もうろうとした頭で薄目で見る目前が闇に包まれ、死んだのか、それとも意識あれど失明したのかと、走馬灯のように考えたジェスはフェイスガードの液晶パネル下に赤色のLDEライトが明滅していることに気づきヘッドギアの全周囲モニタ・システムが故障したのだと意識の隅に浮かんだ。



 そうだ。爆発に飛ばされたのだ。



 爆発という単語にジェスは対人地雷を思い出しM18クレイモアよりも酷かったとMk.82無誘導爆弾が至近距離で爆発したのだと一瞬意識に浮かびながら特殊繊維の戦闘服に護られていても生きてるわけがないとそれらが意識から流れ消えた。



 ならやっぱり死んでしまったのだと思い始めた矢先に突然、視界が明るくなり誰かにのぞき込まれかけられた声に聞き覚えがあった。





「ごめんなさいジェス。やり過ぎたわ」





 そうだ。やり過ぎだ。こんな室内でMk.82を起爆させやがって────とジェスは悪態混じりにのぞき込んでる相手が誰か思いつきつぶやいた。



「爆発物──使うなら────言えよ────」



 マレーナ・スコルディーアがゴシック・ドレスのどこにあれほどの爆薬を隠し持っていたのだとジェスは痛む頭で考えているとぼやけている視野がシャープに見えてきた。



 ゴシック娘のくるんくるんの巻き毛や黒いドレスが灰色になっていることに気がついたジェスは何がどうなっているのかわからなくなった。それどころかマースの顔まで灰色のほこりまみれだった。



「マース──いつから────趣味を変えたんだ?」



「趣味? 変えてない。なんで?」



 だってお前、廃墟をさ迷ってきたみたいに汚れまくっているとジェスは思った。ゴシックやめてダンジョン・マスターに嗜好替えしたのかと笑えてきてジェスは小娘に尋ねた。



「お前、迷宮から出てきたみたいにほこりまみれだぞ」



 マースは小首傾げ自分の右のツインテールに手をやり顔の前に回し眼を寄せた。



「うっ!」



 うめいたとたんにゴシック娘はブンブンと派手に顔を振り回しほこりを跳ね飛ばしジェスはそのほこりをかぶり顔を引きらせ座ったまま後退あとずさった。



 マースと離れ小娘の背後が見えて来るとジェスは顔を強ばらせた。





 15ヤードほど離れた床が大きく穿うがたれたそばにどうしてゴシック娘の影があるのだと困惑した。





 影に見えるものが実際は立体であり、それが忠実にマレーナ・スコルディーアのシルエットを模倣した何かだった。



 だがおぞましいものを感じて相手が敵だと本能で悟った。



 ジェスは負い革(スリング)で首に提げたFN SCARーHを手繰り寄せようとして手が何もつかめないことに焦り腰後ろのホルスターからファイヴセヴンを引き抜いて立ち上がった。



「おい、マース────あれ(・・)、お前を真似たぞ」



 ジェシカ・ミラーに言われ振り向いたゴシック娘がつぶやいた。







「パクリ!」











 炭素系原住民(アルケティトス)風情が見せたエネルギー量にそれ(・・)は驚きと困惑を抱いた。



 細胞の生成するエナジーは知れており、これほど膨大なものを貯め込めもしない。



 その瞬間にそれ(・・)は引き返せない一線を越えてしまったことに気づいた。



 目の前の半身引いて身体をひねった未成熟な小柄の原住民(アルケティトス)は凄まじい勢いでその膨大なエナジーを解放してゆく。



 手に握る金属の棒をうならせ振り回しぶつけてくるものだとばかりそれ(・・)は想定していた。



 弧を描き観測不能なほどに加速する原住民(アルケティトス)の棒が急激に下がるベクトルを描いているのだとそれ(・・)原住民(アルケティトス)は何が目的なのだと予測した。8千分の1秒後、床が爆発し多量の破片が散弾となりそれ(・・)の構成体を引き裂き切り刻んだ。





 コアが単体なら完全ハングアップになるはずだった。





 瀑布のように押し寄せた砂と砂利とセメントに押し切られ粉砕され壁に張りついたそれ(・・)は敗因を分散コアで分析し原住民(アルケティトス)の力量を計り損ねたことにあると想定した。



 数億にバラバラになった構成体を操ろうとした瞬間、それは60パーセントのものが衝撃に使い物にならなくなったことを理解し方針を転換した。



 形作るは小柄な原住民(アルケティトス)



 その身につける裾が大きく円形に広がった布という構成まで余さず真似る。



 それを模倣するのだとレイジョ(レギオン)は判断し構成体を集め始めた。



 個体としてのアイデンティティを持たぬそれ(・・)は自由行動体としての役割を受けて102億秒余り────そのレイジョ(レギオン)は初めて共有化を失念しこの小柄な原住民(アルケティトス)との戦闘にのめり込んでいることをおのれに認めた。





 それ(・・)が見つめる小柄な原住民(アルケティトス)は情報操作体が規則正しく並んだ列角の機械に片腕を突き立てその柱である金属の棒を引き千切った。





 原住民(アルケティトス)が木と名付け分類する植物の枝を折るようにその90度に角度つけられ補強されているはずの縦に細長い板を、鉄を素材として強度あるその板を意図も容易く片腕で引き千切った。



 その細腕でなぜそこまでパワーが出せる!?



 その細い身体でなぜそこまであれほどの爆発を引き起こせる!?







 そのレイジョ(レギオン)は小柄な原住民(アルケティトス)に異様な執着心を抱き始めていた。











「おい、マース────あれ(・・)、お前を真似たぞ」



 ハンドガン引き抜いたジェシカ・ミラーに言われてマースは振り向いた。



 15ヤード余り先の床が大きくえぐれたきわにそれは立ってマースをじっと見つめていた。



 まるで影のように正確にシルエットを真似たその光沢のない黒いそれが実際になんであるかとマースは仮想しながら、相手が真似たのは自分であり外観から測定した結果はゴシック・ドレスを含めて極めて精確だとマースは仮想した。



 卑下ひげするために言葉をデータ・ベースから選び口にしたのはジェスに聞かせるためだった。



「パクリ!」



 腹の立つことにそれはマースの引き千切られたボンネットまで再現していた。



 マースは数本進み出て左手をサーヴァー・ラックの支柱に細い指すべてをかけ力を込め一気にスチール・アングルを引き床近い場所に左足のパンプスを当て強引に引き千切った。



 近接戦闘(CQB)において格闘を行う時、多くの場合同じ攻撃、同じ防御を繰り出してしまう。



 それを対戦する敵に気づかれると攻撃や防御を逆手にとられ致命的な攻め手に苦境におちいることになる。



 マースはつかんだスチール・アングルで同じ様に床を破壊し相手に打撃を与えられることを仮想リストの数千のパターンから省いた。



 そんなに実戦は甘くないとマリア・ガーランドは教える。



 絶えず相手の意表を突けと命の恩人がこれまで手段を導いてくれてきた。



 私にもできるだろうか。



 あの戦闘に美しいばかりにアートしている恩師に近づくことができるだろうか。



 自動人形(オートマタ)は相手に向かってゆっくりと歩きながらもどきとなった怪物の意表突くために左手に握ったスチール・アングルを回転させ手首と指で逆手に握り直し腕を背後に下げ身体で相手から隠し見えないようにした。





 マリア・ガーランドがナイフ格闘戦でよく使う基本スタイルだった。





 M-8マレーナ・スコルディーアは細いあごを引きダイヤモンドのきらめき溢れる瞳を三白眼にすると急激にパンプスのステップを踏み換えくるんくるんのツインテールを跳ね上げ前屈みに凄まじく加速した。












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