Part 18-2 Impulse 衝動
1 Cavalry Regiment Camp 6th Squadron 1st Armored Division Ⅲ Corps Army Commands US.Army Company Training Ground East of Fort Bliss, July 14 00:38
7月14日00:38テキサス州フォート・ブリス東方アメリカ陸軍 陸軍コマンド第3軍団第1機甲師団第6戦隊第1騎兵連隊野営地
今度こそ余裕を持ってダイアナ・イラスコ・ロリンズを助けることができると球体関節装甲の脚を交差させ振り向かせたマリア・ガーランドは見た光景に愕然となった。
隆起した地面を割って飛び出してきた怪物が3体。
反射神経のように駆け出しもっとも近かった大型昆虫のような化け物の最上段の片腕を人型戦闘装甲のパワー・アーム両手でつかみ1回転振り回し怪物2体の方へ放り投げた。
ルナやセス、それに陸軍野営地の佐官から昆虫のような化け物らが後退さり咄嗟にマリア・ガーランドは間に割り込み右腰の後ろにある大型のクイックドロウ・ホルスターから40ミリ口径ソードオフを引き抜き最も近い怪物の胸にバレルを振り上げトリガーを引いた。
操縦席に聞こえるマイク類が拾いスピーカーに流れる発砲音は減衰され小さくなったが外殻と内装越しに50口径のマテリアル・ライフルを発砲したときよりも大きな音が聞こえ、マリーはトリガーを引き切ったまま素早く次に近い怪物へ照準しコントロール・アームを空で操作しより大きな両側のマスター・スレイヴで40ミリ口径ソードオフをポンプアクションさせリロードした瞬間ストライカーが雷管を打った。
2体目も胸に大穴を開け、マリーは刹那3体目の怪物が右から急激に回り込み背後のルナ達に襲いかかろうとしていた。その動きが360度全周囲モニタに映り移動予測の動線とベクトルに交差する人型戦闘装甲の手にする大型ソードオフの振り向けるラインが瞬時に表示されマリア・ガーランドは早口で叫んだ。
"Aim at the enemy on the right and fire!!!"
(:右側の敵へ照準、発砲!!!)
人が操るよりも素速くAIが人型戦闘装甲を操り怪物の移動予測動線へと大型ソードオフを正確に振り向けその2つのラインが交差する寸前に自動でトリガーを引き連続してポンプアクションに移行する目前で怪物の胸と腹が弾け千切れ飛んだ。
最初の経験で司令部テント傍の塹壕にダイアナ達セキュリティの多数の遺体を眼に死し、2回めの経験で制圧した直後1体の怪物が地面から現れまたルナを失った。3度目の今、1体を制圧し3体が押してきた。
だが今回はルナやセスを失わずに切り抜けた。
即応で対応し切った────ほんとにそうなのかとマリア・ガーランドは問い続けた。
嫌な感触が臓腑を締め上げていた。
外殻の右側を叩かれマリア・ガーランドは人型戦闘装甲を振り向かせた。直後ルナがエメラルドグリーンの瞳を煌めかせ見上げていて尋ねてきた。
『マリア、今の白兵戦ディフェンス、すべてあなたがこの装甲服を操ったのですか?』
さすがにこいつは鋭いとコクピットに座るマリーはすぐに気づいた。
「いや、一部はAIが対応したわ。それよりもルナ、敵の同じここでの攻撃を私はもう3度経験したわ」
モニタに見えるルナが僅かに眉根寄せすぐにマリーへ尋ねた。
『既知感ではなくて? 3度──だからまだコクピットを閉じて待機してるんですか?』
「そうよ。既知感でなく敵の第3波、4波の刺客が現れるような気がしてならないの。それを繰り返し倒して敵も手を変えてきてる────」
モニタに映るルナが眼を細めた。熟慮するときのいつもの表情だった。
『貴女の脳を解剖してみたいところですが、同じようで異なるループなら怪物らもそのことに気づいているから手を変えてくると思われます。私がそのことを知らないとなると真に貴女がループの外から戻って来ているのか、それとも毎回まったく異なる平行世界の微妙に違うタイミングを経験しているということも考えられます──』
そこでルナは短く言葉を切り背後の陸軍士官に聞こえぬようマリーへ小声で質問した。
『もしかしてタイムトラベルの魔法を使えるのですか?』
ガチの科学頭脳のくせにどうしてそう飛躍できるのだとマリーは驚いた。
「今夜、本社ビルで暗殺者に襲われたの。その1人の男がゲートを使って逃げようとしたときに巻き込まれて異なる平行世界の異なる時間帯に飛ばされてから時間や次元の感覚が覚束なくなっているわ。その世界ではメキシコ国境に現れた異空間からの怪物らが北へ広がりアルバカーキまで侵攻して合衆国全軍が34時間抗戦を続けているのよ」
マリーの説明にルナが眼に見えて驚いた表情になった。
「マリー、貴女はシルフィー・リッツアの魔法の影響を受け使えるようになったじゃないですか」
ルナの言わんとしていることがマリーにはわかった。暗殺者の転移能力を身に付けたと作戦士官は言っているのだ。
ただでさえ────とマリーは考え1年半前の大雪の夜に天使に言われたことをまた思いだした。
貴方はあらゆる能力を身に付けることができるのです。
欲しくもない力が膨れ上がってゆくとマリア・ガーランドはコクピットで下唇を噛んだ。その思いをスピーカーから流れるバーチャル・サラウンドが隔てた。
陸軍の兵士らが騒ぎ立て始め、マリーが全周囲モニタの斜め後ろに顔を振り向けると離れた別な兵舎テントの傍らに2頭のホワイトタイガーがいて司令部テントの方へ顔を向け様子を窺っていた。
「大丈夫よパトリック・ネルソン大佐! 私が連れてきたの! おいでお前たち!!」
大声で野営地司令にそう告げマリーが手招きすると2匹のホワイトタイガーが駆け寄ってきてルナは人型戦闘装甲の陰に隠れ、セシリー・ワイルドは苦笑い浮かべ振り向けたFN SCARーHの銃口を空中に上げ数歩後退さった。
『ま、マリア──べ、ベンガル虎じゃないですか!?』
ルナが引き攣った声でコクピットにいるマリーに訴えた。
「私が飛ばされた世界から連れてきたの。たぶんもう人は襲わないわ」
『たぶん!? 襲うんですよね!? いえ襲いますよ!』
ルナが悲痛な声を上げた瞬間、ホワイトタイガーらが顔を上げマリーの左右に分かれると司令テント前の広場にいきなり高空から6体の大型昆虫の怪物らが飛び降りてきて砂煙りを巻き上げた。
3体で失敗し6体で攻めてきた!
だが今回はまだ意識がブラックアウトしていないとマリーは一瞬思った。
しかし、しくじって犠牲者が出た時点でまた変な風にリセットするのだと眉根寄せた。
蟷螂のような逆三角形の醜悪な顔を睨みつけマリア・ガーランドはこの怪物らは昆虫のような形態でありながら決して単純じゃないと思った。
人間側の軍事力中枢部を意図的に叩きに来ている。
この6体を倒せても、その次12体に来られたら防ぎようがなく陸軍の野営地指揮系統のトップが崩壊する。それでもリセットし切り抜けろということなのかとマリーは怒りが爆発しそうになり高速詠唱を始めようとして咄嗟に中断し首に魔法抑制チョーカーを装着してないことに気づいた。
ニュージャージーのワワヤンダ州立公園でやらかした水蒸気爆発でもやらかしたら司令テントから半径200ヤードが崩壊し多数の死者がでる。
ましてやベルチャー諸島クゴング島3分2を吹き飛ばしたエクスアファリットみたいな爆裂魔法を発作的に発動させたら怪物らどころかこの野営地は完全に消えてしまう。
「魔法が使えないじゃない」
苦々しく呟いた寸秒、両太腿の間から立ち上がるセンター・コンソールの右脇に10インチほどの背丈のヘラルド・バスーンの3Dフォログラフがレーザーで投影された。
『マリア、魔法が使えないというのは、能力がなくなったということでなく、能力値が高すぎて現場に適応できないことを言ってるのだと判断した。そこでだ君が力を制御できる手法だ────』
そんなものがあるのかと一瞬考えマリーは全周囲モニタに映る怪物らすべての動きに眼を配りながら恐らくはAIにシーケンサーがあるヘラルドの言葉に耳を傾けた。
『君は力を使う前にそれを指輪や腕輪などの具体的な装身具に具現化させる』
「リン──グ? ブレスレット?」
『そう。力を解放できる上限がその装身具そのものだ。解放するエネルギーが意識した上限に達するのを崩壊して君自身に知らせるんだ』
「崩壊────?」
『そう──望むエネルギー値で宝具が砕ける。やってごらんマリア』
「わかった! やってみる!」
なんでこの人はそういうことを思いつけるのだとマリア・ガーランドは感じながら素直に人型戦闘装甲のコントロール・アームに差し込んだ両腕の10本の指を意識した。
両腕の人さし指から薬指に一瞬で異物感が現れそのリングを強く意識した。
命を蘇生させるのに比べ単純な物質を具現化させるのは意図も容易かった。
問題はそれが意識した通りに作用するかだった。
──If I die, everyone────.
(:──死なば諸共────)
自分は結局こうやっていつも一線を踏み越えてしまうんだと心の片隅で思いながらマリア・ガーランドはコントロール・アームに入れた両手のひらを強く握りしめた。
直後、攻撃に入った6体の怪物らに異変が起きた。
空間が波打ちまるでそれぞれの1点に吸い込まれるように大型昆虫のような形態の怪物らが自身の中心に爆縮し反作用の空間の揺らぎが司令テントの前にいる者達に押し寄せ皆は腕を上げ顔を庇った寸秒マリア・ガーランドの指すべてで指輪が砕け消えた。
それだけだった。
爆轟も爆炎もない。
『マリア────貴女が今のを────?』
人型戦闘装甲の陰から顔を出したダイアナがマリーに問うた。
「6つのマイクロ・ブラックホールを使ったの」
前へ回り込んで来たルナが震える声でさらにマリー尋ねた。
『使ったって────マジック詠唱をしなかったじゃないですか────魔法陣も──ブラックホールを!?』
ルナの言わんとしていることにマリーは気づいた。彼女の前で実演してみせた多くの魔法はシルフィー譲りで必ず詠唱を利用していた。でないと精度もエネルギーも私がコントロールできないとルナはシルフィーから聞かされていた。
だがヘラルドから授けられた秘策がとても正確で高速詠唱以上だとマリーは思った。
これなら衝動に圧されずに飼い慣らすことができる。
半年前にハイエルフが秘宝剣──ディスタント・テスティモニィ──隔絶されし証を向けてきた時に触れれば何ものでも引き裂く刃を数個のマイクロ・ブラックホールで躱したことより完全に操り切ってるとマリア・ガーランドは感じた。
「ヴァージョン・アップしたのよ」
マリーの言い分にルナが顔を引き攣らせ絶句した。それを眼にしてこれは説明と説得に時間と手間がかかるとマリーは思った。
スピーカーから聞こえるバーチャル・サラウンドの野砲の響きにマリア・ガーランドは顔を東へと振り向け外から押し寄せている怪物らの状況を知りたいと思った。
だがこの司令テント防御をルナとセスや数人の陸軍兵士には押し付けられなかった。
一瞬の爆音と同時にマリア・ガーランドが顔を振り上げると野営地上空600フィートほどを猛速で飛翔体が東へと飛び抜けて行った。
全周囲モニタに一瞬ズームされ停止された画像から一目でミサイルの類ではないとマリーは判断した。
何だろう? 後方支援の砲弾にしては飛翔速度が速すぎるとルナに尋ねた。
「ルナ、何なのあの攻撃兵器は? 陸軍の新兵器?」
『大佐は陸軍のものでないと否定されています。あれは恐らくはレイルガンです』
超電磁砲をバカスカと撃ってるどこかの軍事企業が近くにいるのだとマリーは一瞬思いそれを否定した。
違う!
アン・プリストリだわ!
去年、あれはハワイの展示戦艦ミズーリから主砲を盗み出しそれをニューヨークでベルセキアに向けてぶっ放したのだ。あれは信じられないほどの潤沢な資金を持ち私費で国内外の軍事企業に兵器を造らせる。小はハンドガンから去年使った戦艦主砲マーク7の自動装填機や砲弾まで。
凄まじい量のエネルギーを感じ臓腑ざわめきマリア・ガーランドは不安に西へと顔を振り向けた。
なぜ原住民の強勢仕掛けを放つ集落の中枢部を落とせない!?
それは送り込んだ1がしくじり、3を送り込んだが同じ原住民の兵器と思われる外甲殻2足歩行に倒され6のレイジョを差し向けた。
瞬殺だった。
6のコアが断末魔を共有することだけしかできなかった。
一瞬でしかも同時に崩壊したことになる。
原住民は集落内で大規模な破壊力を行使するのか!?
1や2ならあったが、6ものレイジョが同時崩壊するのは、郊外で他の原住民から大規模破壊力を行使された時だけであり、これまでこんな現象は記録されてこなかった。
本能が導くままに原住民すべてを屠り去るにはもっと圧倒的な力が必要だった。
この世界に現界させる数は絡み合う複雑な自然界の法則をかいくぐり莫大なエネルギーを使う必要がある。
だが6で瞬殺されるなら、集落中枢部攻略に5倍の数以上を必要とするとそれは共有した。
レイジョは戦場前線に残存する12以外に30を要求値とした。
42全投入で原住民兵器集落中枢部を壊滅させる。
共有同意した直後、集落から600アールマのオリエンテムの地に30の光球が紫の雷光を放ち始めた。