Part 18-1 Долина смерти 死の谷
Equinix Data Center Infomart Dubberley-Bld. 1900 N Stemmons Fwy suite 1034, Dallas, TX USA
1900 N Stemmons Fwy, Dallas, TX 23:36
23:36 テキサス州ダラス フリーウェイ・スイーツ 1034ノース・ステムモンズ・フリーウェイ1900ダバリー・ビル内エクイニクス・データ・センター
レイジョに取って意外という概念はなかった。
この原住民の情報集中する機構から得た膨大な知識から、今つかみ合う原住民が小柄な生育過程であり、手足の細さから力は非力な部類になるはずだった。
だがどうだ!? この黒い薄手の布というものを身に纏った小柄な原住民はつかみ合った上腕を押し返そうとしていた。
同じ情報集中する機構の洞にいる生育した雌種の戦闘能力はそこそこ素早いがさして高くない。
それに対してこの未熟な小柄の雌種の原住民は躍動の素速さ、パワーで想定以上の能力を示していた。
この小柄な原住民の戦闘データをもっと得るべきだと、それは異空間越しにレイジョらと共有化した。
押される力を利用し一気に引いて迫る原住民を鋭い牙乱立する顎を最大限に開いてその頭骨を噛み砕こうとした。
マリアは破壊の本質を正確に理解していると仮想する。
彼女の攻めは相手を冷徹に崩してゆく。それは美しいとM-8マレーナ・スコルディーアは仮想してやまない。
衝動の権化でありながら絶対零度のように雁字搦めに敵を捕らえ放さない。
あの芸術のような戦闘能力に魅了され多くのパターンを模倣するが綺麗に繋がったためしはなかった。
艶のない黒の怪物と両手のひらをぶつけ合い組み合った寸秒自動人形は力の押し合いに3Dニューロン・ネットワークで無様だと仮想した。
M・Gならこうややらない。直後、巧妙に相手の関節の活動範囲外へ体勢を変え致命傷を与える打撃にシフトする。
マースは怪物がいきなり腕を引き急激に前のめりになる体勢で目前に開いた粉砕機のような口の上顎に反らした上半身のバネを一気に解放し薄い色合いのブロンドのくるくるのツインヘアを踊らせ思いっきり額をバッディングさせた。
複数の金属の刃物が折れる音を重ね放った。
M-8の特殊素材の皮膚を貫きチタン合金の頭蓋骨にぶつかった化け物の上顎の前歯すべてが折れさらに残っている加速が額を上顎に額を食い込ませ、マースは怪物の左足の踵に己の左足のパンプスの後ろを引っ掛けつかみ合った両手のひらを突き放した。
床に怪物が仰向けに倒れる寸前にマースは両脚で高々と飛び上がると空中で反転し天井を両脚で蹴り両膝を揃えて化け物の胸の中央にダイヴした。
だが怪物は一瞬早く横へ転がり、自動人形は床に両膝を食い込ませそのまま前へ空転し、身体を捻って立ち上がりかけた怪物の方へ向かい床に降り立ったマースは前屈みに姿勢を落とし凄まじいダッシュを見せ怪物へと迫った。
戦闘とは静と動の目まぐるしい転換だとM-8は仮想する。
猛速で辿り着いた瞬時に自動人形は右腕の内に怪物の首に捕らえヘッドロックの体勢から壁を駆け上り一気にバク転すると追いかけて両足を浮かせた身の丈で倍はある化け物の頚椎をタッチダウンする如くスリーパーホールドで床に叩きつけた。
「ジェス! スペアのショットシェル!!」
一瞬、化け物の動きが鈍ったその間合いにマースが叫んだ寸秒ジェシカ・ミラーが3発のスラグ弾を投げよこしマースは自由になった左手のひらを開いて踊らせ細い人さし指から小指の間に1発ずつキャッチすると弾底を握りしめ逆さまになった怪物の腹へ凄まじい勢いでフックを打ち込んだ。
刹那、拳の中で爆轟を放ち激発した3発のショットシェルからスラグ弾が化け物の腹を引き裂き黒い霧のような粒子が噴出した。
その打撃を覆すように飛び散った黒い砂状の粒子が床を素早く怪物へと戻り一気に躰を再構築すると首にかけていた自動人形の右腕を化け物は6本の内の4本の腕で握りしめていた。
寸秒、大柄な怪物に軽々と振り回されマレーナ・スコルディーアは顔面からサーヴァー・ラックの支柱に激突し、さらに化け物に振り回され通路反対のサーヴァー・パネルに頭から突っ込んだ。
「マリアに可愛いと褒められた髪飾りを千切ったなぁ!」
耳にした寸秒、こ、こいつは頭のネジが2、3本イってると眼を点にして唖然と見つめるジェシカ・ミラーの眼の前で小柄なマレーナ・スコルディーアと大きな怪物が組み合った。怪物の6本の腕の内、2つの手とガッツリ組み合ったマースは頻繁に立ち位置を変えジェシカ・ミラーはサーベージ・スポーター411熊爪で照準できずにオープン・サイトを振り回されていた。
いきなりゴシック娘が怪物に引き寄せられ化け物は蛇のように大口を開きマースの頭部に噛みつこうとした。
や、やべぇ! そうジェシカ・ミラーが青ざめた瞬間、一転し小娘は跳び上がり怪物の上顎に凄まじい勢いでバッディングしサメのように乱立した上顎の前歯すべてを叩き折った。
唖然と見つめるスターズ・ナンバー3のガンファイターの目前でマレーナ・スコルディーアがとんでもない動きを見せた。
仰け反った怪物の片足にマースは己の片足を絡ませ相手を突き倒すと一気に跳び上がり空中で反転し天井の石膏ボードをパンプスで砕いて猛速で両膝揃え怪物へとダイヴした。
両膝の凶器が激突する寸前、怪物は一瞬早く横へ転がり、ゴシック娘は床に両膝を食い込ませまるで大ハンマーを叩きつけたように爆轟を放ちPタイルが割れ捲れ地肌のコンクリートが抉れ破片が割れ飛んだ。
「あいつ────ど、どうなって──るんだ!? 」
呆然と見つめるジェスの先でマースはそのまま前へ空転し身体を捻って床に足が着くなり立ち上がりかけた怪物の方へ向かい前屈みに姿勢を落とし凄まじいダッシュを見せ化け物へと迫った。
その眼にも止まらぬ動きの直後、怪物の太い首へラリアットをかけたゴシック娘は腕を相手の首にかけたまま壁を黒のパンプスで駆け上がりバク転し追いかけるように後転した怪物の後頭部を床に叩きつけ見つめているジェスへ怒鳴った。
「ジェス! スペアのショットシェル!!」
命じられたのと同時にジェスはマースが使っていたソードオフが怪物との格闘で手放し離れた床に転がっていることに気づきながら、どうするのだと思いながら反射的に腰のパウチから12ゲージ・ショットシェルを3本引き抜きゴシック娘へと投げ渡した。
化け物の動きが鈍ったその短時間にジェシカ・ミラーが投げよこした3発のスラグ弾を小娘は自由になった左手のひらを開いて踊らせ人さし指から小指の間にほぼ同時に1発ずつキャッチすると弾底を握りしめ逆さまになった怪物の腹へ凄まじい勢いでフックを打ち込んだ。
刹那、爆轟が聞こえジェシカ・ミラーは何が起きたのか一瞬理解できなかった。まさか手の中でショットシェルを激発させたのかと気づいたジェスが眼にしたのはスラグ弾が化け物の背を突き抜け黒い霧のような粒子が噴出しジェシカ・ミラーの傍らの彼女よりも高い位置のサーヴァー・パネルが火花散らし落ちてきて慌ててジェスは跳び退いた。
その1撃に怪物の背から飛び散った黒い砂状の粒子が床を素早く怪物へと流れるように戻り一気に躰を再構築するとマースが首にかけていた右腕を化け物は6本の内の4本の腕で握りしめていた。
寸秒、大柄な怪物に軽々と振り回されマレーナ・スコルディーアは顔面からサーヴァー・ラックの支柱に激突し、さらに化け物に振り回され通路反対のサーヴァー・パネルに頭から突っ込んだ。
今夜、マレーナ・スコルディーアの死んで当たり前の光景を眼にするのは何度目だとジェスが自問自答する寸秒、黒のゴシック・ドレスとくるんくるんのツインテールを靡かせサーヴァー・パネルを顔で突き破ったマースがそのパネルのハンドガードを左手でつかみ床に近いサーヴァーのパネルを蹴り逆さまになりパネルから顔を引き抜いた瞬間、サーヴァー・パネルを両脚で蹴り怪物の首に左膝をかけ飛びつき一気に上半身を化け物の背に落とした。
プロレスラーよりも容体の大きな怪物が両足を振り上げ頚椎から床に激突し轟音を放ち床のPタイルが捲れ剥がれた。
撃つ、そのチャンスは幾らでもあった。
ジェシカ・ミラーはマレーナ・スコルディーアの闘いぶりに眼を奪われていた。
容体が倍もあり、戦いに蟷螂のような顔からカミキリ虫のような凶悪な顔に変貌しあまつさえ腕が4本から6本になった化け物にたった1人で全身を使い切り挑む少女にジェスは胸が高鳴って仕方なかった。
同じ思いをお師匠にも抱いたことがある。
アン・プリストリはテロリスト相手に立ち回る時、スマートな技巧でなく圧倒的に力で押しまくる。その底の見えないパワーに酔いしれ彼女を信望するようになった。
「やべぇ────お前グルービーじゃん!」
呟くジェシカ・ミラーの眼の前で怪物の腹に蹴りを入れた片足首をつかまれゴシック娘が振り回され顔を曲げた両腕で庇った刹那、マースが激突したサーヴァー・スチールラックの柱が金切り声の悲鳴を上げ千切れPCが崩れ落ちた。
本当に殺されちまう!
そう感じた寸秒、ジェスは振り回されるゴシック娘が通り過ぎた瞬間、怪物のわき腹にソードオフを2連射し片腕を2本吹き飛ばしバレルを折って排莢し予備弾をリロードし銃身を跳ね上げ1秒で銃口を怪物へと振り向けた。もうその時には怪物は失った腕が肘関節まで再構築していた。
3度スチールラックに激突したマースはあろうことかその折れた6フィートのスチールのアングルを両手につかんでいた。その鉄柱を持ったまま振り回されるマースはスチールラックのアングルをアンカーのようにサーヴァー・パネルに打ち込んで反動で大きく身体を捻り仰け反らせつかまれている足首を化け物の手から振り切った。
PCのパネルに刺さったアングルから飛び下りたマレーナ・スコルディーアは、顔にかかった右のツインテールを肩後ろに跳ね上げ舌打ちすると細い顎を引き上目遣いのダイヤモンドのような瞳をギラつかせ言い捨てた。
"Я──злюсь!!!"
(:──腹が立って────きた!)
ロシア語で言い捨てた直後、マレーナ・スコルディーアは片腕でサーヴァー・ラックに深々と刺さっているスチール・アングルを一気に引き抜きそれを両手を使い身体の前で素早く3回転させると逆手にした左手で一端をつかみ右腋に挟んで右腕で支え押し殺した声で脅した。
「ワレ、イチビッとたらほんまイテまうぞおらぁああ!!!」
(:あなた、お調子に乗っているのなら本当に殺してさしあげますよ)
その吠えを耳にしてジェシカ・ミラーは顎を落とした。日本語はレイカ・アズマに教わった『フジ』、『オチムシャ』、『ゲイシャ』ぐらいしか知らなかったが、眼の前の背を向けスチールアングルを握りしめるフリフリの黒ドレスを着た仁王立ちの小娘は、たぶん──絶対に、日本語のスラングでまくし立てたのだ。
こ、こいつAPより────口が悪い!!
刹那、突進して急激に間合い詰める怪物にマレーナ・スコルディーアの腋から引き抜いた残像曳くスチールアングルがあまりにも速すぎてジェシカ・ミラーには曲がって見えたのが信じられなかった。
この黒い布を纏った小柄な原住民はどうしてこんなにタフなのだとそれは混乱していた。
オリエンテムの地で鋼鉄の移動仕掛けに乗っていた成熟した戦闘原住民は肉体的に脆く簡単に屈したとそれは共有していた。
こんなに手こずるとは、原住民の情報ネットワークから知り得たどの情報からも矛盾していた。
もしかしたらこの小柄な原住民が原住民の中でも真の戦闘原住民で他にも同様なものがいるとすれば大義が果たせないことになる。
その寸秒、オリエンテムの地で金属の外殻を持つ腕4本、1組の脚をした原住民を護るものが現れた。レイジョは瞬殺されそのありのままが共有された。
これがこの世界の食物連鎖の頂点に立つ種族の真の力なら問題だ。
繰り出すレイジョの先兵は幾ら数を増やしても対効果を望めないどころか、資源と時間の大いなる無駄になる。
硬い壁や床、鉄とアルミの構造物にぶつけても小柄なこの原住民は生命を失わない。
どうして生命を手放さない!? それは小柄な原住民を3度構造物に激突させた直後、片足首をつかんでいる原住民は折れた構造物の金属の柱を使い構造物に打ち込みつかんでいる脚に急激に勢いをつけ逃げ延びた。
その小柄な原住民が金属の柱から下りると小声で言い捨てた。
────Я──злюсь!!!
──腹が立って────きただと!?
原住民がヨーロッパと名付ける地域の一国の言語だった。
それでは今まで本気でなかったというのか!?
思考アルゴリズムに問題があるのか!?
これまで共有した原住民の認識に誤りがあるのか!?
原住民がロシア語という1種族の言語で言い捨てた直後、小柄な原住民は片腕で構造物に深々と刺さっている金属柱を一気に引き抜きそれを両手を使い身体の前で素早く3回転させると逆手にした左手で一端をつかみ右腋に挟んで右腕で支え押し殺した声を発した。
「ワレ、イチビッとたらほんまイテまうぞおらぁああ!!!」
わからない!!? 原住民の多くの種族の言語をすでに共有していながら、まったく意味不明だった。
原住民の情報ネットワークから得た知識では理解できないとそれは共有させたが1つ気づいた。
脅されたのだ!!!
レイジョの間では侮辱は死を意味していた。その黒い布を纏った小柄な原住民から完全に生命を奪うためにそれは突進し目にする原住民が腋に隠した金属柱を引き抜いた。
その振り回される金属柱が歪んで見えた瞬間、それは引き返せぬ一線を踏み越えていた。