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衝動の天使達 3 ─殲滅戦線─  作者: 水色奈月
Chapter #17
85/164

Part 17-5 Struggle to The Death 死闘

NDC HQ.-Bld. Chelsea Manhattan NYC, NY 00:53 Jul 14

7月14日00:53 マンハッタン・チェルシー地区NDC本社ビル



 喰らった国家安全保(NSA)障局の女職員ヴェロニカ・ダーシーの記憶を見てマリア・ガーランドが見せた幾つもの奇跡を知ったクラーラ・ヴァルタリはもうパトリシア・クレウーザのことなどどうでもよくなった。



 その瞬間、能力を奪い取る第1目標がNDC社長(COO)にすり替わった。



 マリア・ガーランドを喰らえば、死の呪縛から永遠に解き放たれる。



 永久とわにこの世界に恐怖をまき散らせる!



 そう確信する化け物の背後で消え去った灼熱地獄に変わり黒い雲海のような渦が急激に口を開き始めていた。その異空通路ことわりのみちから脚を踏みだしてきたものの気配にクラーラ・ヴァルタリは殺気立ち赤い瞳を揺りおよがせた。



 直後、背後から名を呼ばれ女テロリストはゆっくりと振り向いた。





「クラーラ・ヴァルタリ! 相手は私だ!」





 こいつを知っているぞ! 大西洋で貨物船にウエットスーツの様な戦闘服の着込んだ特殊部隊を引き連れ乗り込んできた双子のプラチナブロンドの片割れ!





 こいつがマリア・ガーランドだったのだ!!!





 寸秒、姿勢を落とし急激に残像を引き連れクラーラへ駆けだしたマリア・ガーランドを目にしてクラーラ・ヴァルタリは近接戦闘(CQB)だと身構えた。



 だがマリア・ガーランドはステップを変え床を力強くジャンプすると横へ飛び上がり壁を2歩蹴り天井を1度駆け身体をひねりながら見上げる女テロリストを逆さまに飛び越えバク転し、クラーラ・ヴァルタリとパトリシアの中間に飛び下りて大きく両膝を折り込んだ。



 その大企業の女社長(COO)が立ち上がり始めてクラーラは気づいた。



 マリア・ガーランドは負い革(スリング)でマットブラックのFN SCARーHを首から背後に提げていながら人間離れした運動能力を見せたのだった。



 ますますこの女を喰らいたい欲求が湧き上がった。



 クラーラはパトリシアから受けたからだの幾つもの傷口からの流血を抑えることができた。だが体液を多く損耗し頭部を失ったヴェロニカの残りの身体を喰らい欲求にさいなまれた。



 だが今はそんな余裕はなかった。



 頭上を飛び越え床に降り立ったマリア・ガーランドがパトリシアとの短いやり取りをしたがクラーラには届いていなかった。直後、その女社長(COO)あごを引き上目遣うわめづかいの海原のごときラピスラズリの瞳で突き刺さる様ににらみつけ押し殺した声で宣言された。





「人喰い! 大西洋のケリをつけてやる!!」





 人喰い!? ああ、まさにわれは人を喰らい栄養やエネルギーにするだけでなくその記憶も能力すらも自在に取り込める。人を喰らわないお前らにとっての天敵。より上位の捕食者(プレデター)だとクラーラ・ヴァルタリは思った。



 怪物となった女テロリストは新たな捕食標的となったプラチナブロンドの女をにらみつけ両腕を持ち上げ胸の前で交差させ一気に左右へ振り下ろした。その瞬間、指の爪が12インチほども伸びてセラミックの鋭利な刃物と化した。



 その捕食対象者に向けられた意識が逸れクラーラは横へわずかに瞳を動かした。



 背後に別な数人の人の気配がし、直後その者らから銃口を向けられたことをクラーラ・ヴァルタリは悟った。





 愚か者らめが! 挟み撃ちで戦火を切れば同士討ちするとは考えないのか!











 マリア・ガーランドの声が聞こえた直後、ヴェロニカを喰らった第2のベルセキアが背後のエレベーター・ホールの前に広がった異空間通路の暗闇へ振り向き、その怪物を飛び越え身体をひねり空気をうならせ急激にバク転したマリアが眼の前に飛び下りて立ち上がった。



 凄い! 天井を蹴って人喰いの化け物を楽々と飛び越えてきた!



 この人は自分のよく知っているマリア・ガーランドじゃない。異なる世界から自分の知るマリアが連れてきた別なマリア・ガーランド────それなのにその人の背姿を見つめパトリシア・クレウーザは胸が高鳴るのを抑えられなかった。



「パティ、私に予備のマグを!」



 背を向けたままマリーが左腕を後ろに差し出し手のひらを開いてそう告げた。



 パティは即座に2個の30発弾倉をマリーへ投げ渡すと見もせずにマリーはそれを後手で次々につかんでパティに問うた。



「ベルセキアのかたわらに倒れているのはヴェロニカなのか?」



 パティは驚いた。異なる世界には自分やヴェロニカもいるのだ。同じようにベルセキアと戦っているのだろうか!?



「そうよマリア。あいつがヴェロニカを食ったの!」



 直後、マリア・ガーランドはベルセキアへ言い放った。





「人喰い! 大西洋のケリをつけてやる!!」





 そう眼の前のマリーがベルセキアへ押し殺した声で宣言した直後、異空通路ことわりのみちからさらに2人が通路に現界したのをパトリシアはブレイン・スキャンで気がついた。



 ポーラ! クリス!



 マリーがバトル・ライフルで火線を開くわ! 避けて!! 


 そう超空間精神接続(ブレイン・リンク)でパトリシアが警告した寸秒2人から同じ意識が返ってきた。



────リーダーが1発も撃ち損じるわけがない!



 寸秒、眼の前のマリーがFN SCARーHを肩付けし小走りに前へ出ながら射撃をし始めパトリシアも自分が首に負い革(スリング)で提げたバトル・ライフルのバーチカルグリップとピストルグリップをつかみバットプレートを右肩に押し当てながら右へ数歩移動しマリーの背姿から見えてきたベルセキアをトリジコンRMRタイプ2の光学照準器(FOV)視野のダットで捉えた。



 見える光景にパトリシア・クレウーザは思わず息を呑んでつぶやいた。



「なんて──人なの!?」



 前進移動しながらの揺れる状態でマリア・ガーランドはフィンガー・タップでバースト射撃する全弾をベルセキアの顔中央に命中させ身動きを封じていた。



 アン・プリストリやジェシカ・ミラーよりも射撃技術で上に立つのはこの世界のマリアだけだと思った。だが異世界のマリア・ガーランドも劣ってはいない。



 精神状態が乱れたのか制服警官(ブルースチール)の姿をしていたベルセキアが足元から全身細かい無光沢のうろこに変化するのを眼にしてパトリシアは驚いた。ベルセキアはキメラの様な怪物から人の姿に変容できるだけなくその表面の細やかな造形さえ自在に操ることができるのだ。



 去年末のベルセキアもあの特殊な皮膚でスターズや警官の猛火を生き延びていた。だがマリア・ガーランドは唯一強化できない目のある顔だけを狙い続けていた。



 だけども銃弾(ブレット)はベルセキアに決定的な打撃を与えられない。もしかして異世界のマリア・ガーランドはそのことを知らないのかとパトリシアは一瞬危虞(きぐ)した。



 射撃音の重なりの変化にエレベーター・ホール側にいるポーラとクリスもバトル・ライフルを撃ってることにパトリシアは気づいた。



 激しい銃撃を受けるたびにベルセキアは頭を前後に激しく揺すっていた。



 それでも足止めにしか────パトリシアは生唾を呑んだ。



 急激にベルセキアの姿が横にぶれて右側の壁際かべぎわを低い姿勢でマリア・ガーランドへと駆け詰め寄った。



「マリア、かわして!!!」



 そうパトリシアが大声で警告したのと同時にマリア・ガーランドに変化が起きた。こうなる腹積もりが彼女にはできていたのだと遅れてパトリシアは気づいた。





 マリア・ガーランドの前に廊下幅一杯の3重の魔法陣(マジックサークル)が生まれ急激に迫るベルセキアの顔を撃ち続けるFN SCARーHのピストルグリップを左手に握り替え右手で太腿ふとももから引き抜いたコンバット・ナイフの(ブレード)が一瞬で彼女の瞳の色合いよりも冷ややかな長ものの(ソード)変貌へんぼうし、バトル・ライフルを左手で振り回し負い革(スリング)で背後にまわしその長剣(ロングソード)を片腕で振り上げた。





 その一振りの(ブレード)でベルセキアの突き出した5枚のダガーナイフを弾き上げた瞬間、マリア・ガーランドは腰の後ろのホルスターからFiveーseveNを逆手で引き抜き逆さまのハンドガンを相手との間に振り戻し薬指でトリガーを引き至近距離からベルセキアの顔面に5.7ミリSS190弾を5連射し重なる甲高い爆轟が廊下に広がった刹那せつな、マリア・ガーランドは長剣(ロングソード)を凄まじい勢いで正面に右腕1つで振り下ろした。



 マリア・ガーランドの前の床にあお長剣(ロングソード)切っ先(ポイント)が食い込みベルセキアが跳びす去ったのが同時だった。





 拡散するハンドガンの発砲音(ガンショット)の後に鈍い音が聞こえマリア・ガーランドが床に食い込ませた(ブレード)かたわらに黒いうろこに被われた怪物のひじから先の左腕が落ち転がった。





 パトリシア・クレウーザは唇を薄く開いて眼を丸くした。



 凄いわ! この異界のマリアは自分がよく知っているマリアよりも身体能力で勝っているかもしれない。あんな短時間に恐ろしく素早いベルセキアの動きを見切って目潰しの銃弾(ブレット)を浴びせ怪物の腕をたたった。



「今のは瞬間芸だ。クラーラ・ヴァルタリ! 次は本腰で貴様を切り刻んでやる!!」



 退しりぞいたベルセキアにそう言い捨てながらマリア・ガーランドは片手で身体の前に(ブレード)踊らせ優美なメビウス・リンクを描くとハンドルを逆手にスイッチし身体の後方に向けた腕に長い(ブレード)を隠した。



 そのマリア・ガーランドの様に胸高鳴ったパトリシア・クレウーザは顔を引きらせた。



 マリアの下げた右腕のバトルスーツに切れ目が2つあり血があふれだし手首の方へ流れ落ち始めた。



 やはりベルセキアの動きはとんでもなく速いのだ。



 それだけではなかった。退しりぞいたベルセキアの左腕がもう手首近くまで再生していた。



 この廊下で負わせた対装甲車地雷の深傷ふかでもいとも容易たやすく治してしまった。



 去年末のベルセキアも銃弾(ブレット)に傷ついたからだを恐ろしい速さで再構築させていた。



 対決時間が長引けば人が不利になるのは眼に見えていた。



 パトリシアがそう考えている刹那せつな、奥のエレベーターが開き武装したセキュリティが5人出てきた。



 それと同時にテレパシストの背後折れ曲がった廊下の方からも自動ドアが開く音が聞こえパトリシアは超空間精神接続(ブレイン・リンク)でトレイシー・サムソンら5人がフロアに到着したのを知った。



 この狭い廊下にベルセキアの敵が一気に3倍以上になったのだ。



 この狭い(・・)廊下に!





 人が多くても銃器だけでは悪魔の様な怪物を倒せないとパトリシアは知っていた。





 パトリシアが新たにフロアに来たセキュリティ全員にテレパスでそのことを警告した寸秒、ベルセキアはヴェロニカ・ダーシーの遺体の足首をつかみ上げその脚に喰らいついた。











 リスク対応チームの夜勤者から緊急連絡を受けソーホーの自宅からイエローキャブで駆けつけたリズ──エリザベス・スローンは車がNDC本社ビルの通りへ入れないことを目の当たりにして21番ストリートと10番アヴェニューの交差点手前でイエローキャブを下りた。



「はぁ、自分の車で来なくて正解だったわ」



 そうつぶやき本社ビル前の通りから溢れ出した消防車輌や警察車輌の大群を交差点を挟み見つめたリズは蒸した夜風に苛つきながら、交差点外からでもわかる夜空に煙り噴くグラスシャトーのことを社長(COO)のマリア・ガーランドは知っているのだろうかと考え、気を回した夜勤者の誰かがM・GやD・Rに一報を入れただろうと思いそれでもと彼女は信号を待つ間にセリーをスーツから取り出しマリア・ガーランドへ繋いだ。



 10回呼び出し音を数え出ないことに起こすのも気が引けるとリズは通話を切った。



 本社ビルにミサイルが撃ち込まれたのだ。



 すでに社長(COO)は本社ビルに来ていて陣頭指揮に当たっているかもしれないと考えた。



 NDC本社があからさまな攻撃を受けたことで明日の株価は急激に下がることが見込まれた。すでに傘下の企業からは多数の問い合わせの電話が総務に入っているだろう。それだけではない。警察やFBI、国家安全保(NSA)障局にも対応しなければならない。



 こんな時のためにリスク対応チームを所内に作っていて正解だとリズは思った。



 横断歩道の信号が変わりリズは横断歩道を渡りながら本社ビル前の21番ストリートに封鎖線を敷いている制服警官(ブルースチール)の数を数え眉根をしかめた。



 7人もいる。



 こんな調子だと市警の者だけで通りには100人はいそうだった。



 横断歩道を渡り終え歩道沿いに本社ビル前の通りに入ろうとしてリズは封鎖線の交通誘導につく制服警官(ブルースチール)の1人に声をかけIDを見せた。その警官は彼女のIDをマグライトの明かりで照らされゲートを通るように警官から許可を受けた。



 その寸秒名を呼ばれ振り向いたリズは知った顔を眼にした。



「こんばんわスローン部長」



「あぁ、あなたは確か広報部のチェスター・ウィンターソン。呼び出されたの?」



「いえ、深夜ニュースを見て駆けつけました。緊急コメントの作成でスタッフを集める必要がと判断しました」



 警官が規制している間はニュース関係者が近づくことはないとリズは思ったが、遅かれ早かれNDCはコメントを出す必要がある。



 これは国を支える大企業への重大な挑戦だと荒げればまた炎上するだろうしとリズは一瞬考え、弱腰な対応は株価の下落げらくを招くと判断に困った。



 民間軍事企(PMC)業の部門を設けてから色々と焦臭きなくさいことが起きている。



 あの社長(COO)市井しせいの評価が高くNDCの対テロ政策もマスメディアに好評なので役員会も強気の姿勢は最近控えていた。



 チェットを引き連れ規制線から通りに入ったリズはグラスシャトー正面出入り口のランプを出入りしているのが消防士ではなく大半が制服警官や緊急出動部隊(ESU)だと気づいた。



 なんであれほどの武装警官がとリズは眼を細めた。



 家で受けた一報は社長室があるフロアにミサイルが撃ち込まれただけだった。



「チェット、犯罪者がビル内に入り込んだなど耳にしましたか?」



「ええ、社長室フロアにセキュリティ不明者が5名。それと消防士の防火服が一式紛失したと市警に届けが出ていますので、ビル内にもう1名はセキュリティ不明者がいると私はみています」



 不審者が6人も!? 広報の一社員がどうしてそこまで詳しいのかとリズは眉根寄せた。



 その寸秒、爆轟がかすかに聞こえ2人はグラスシャトーを見上げた。



「爆発したわよね」



 確認するようにリズは広報部のチェットに尋ねた。



「ええ、スローン部長。かなり上階の方からでした」



 新たな火の手は見えなかったが、エリザベス・スローンは胸騒ぎがして、今夜本社ビルに来たことが最悪な選択ではないのかと首筋に寒気を感じた。





 汗ばむような夜更けにグラスシャトーの正面玄関が死の谷の入口に思えた。












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